イージス艦「あたご」衝突事件の深層

イージス艦ネットワークで守られる日 本列島の危うさ


佐藤弘弥
 

あの忌まわしいイージス艦と民間漁船の衝突事故(07年2月19日午前4時7分発生)から、早くも6日が過ぎた。大変な悲劇でご家族の 心痛はいかばかりかと思う。本当に胸が痛む。一日も早い救出が待たれる。

ただひとつ、私はこのニュースに対し、少し不思議に思う点がある。それは、この事故では、決定的に触れられていない、あるいは意図的に 報道されていない、ブラックボックスがあるのではないかということだ。

周知のようにイージス艦の心臓部は、文字通りブラックボックスになっていてアメリカ軍の最高機密になる。昨年の4月に、海上自衛官が、 イージス艦の内部情報を外に漏らし、大きな問題となったことがあった。

私が不思議に思う切っ掛けは、どこかで、確か東京新聞の、2月21日付け(?)の夕刊の記事の割り付け見た瞬間に「あれ」と感じた。

 ◆イージス艦「あたご」の衝突事故とアメリカのイージス艦「偵察衛星撃墜」

まず右にイージス艦「あたご」と漁船の事故のニュースが大きくあり、その左にやや控えめにアメリカが太平洋上で、落下の危険のある偵察 衛星だか人工 衛星を打ち落としたという記事があった。何でも衛星は故障して、徐々に軌道を外れ、ヒドラジンという劇薬が空中に撒かれる事故を防ぐための処置だというこ とだ。

東京新聞のニュースソースは「共同通信」だった。ニュースの正確を期すために、共同の記事を引用する。

「米政府は20日、有毒な燃料を満載したまま軌道上で制御不能になった偵察衛星を大気圏外で破壊するため、北太平洋上のイージス艦から 迎撃ミサイル(SM3)を発射、命中させ、破壊に成功した。(中略)

 高度な軍事技術であるミサイル防衛システムを応用した衛星破壊の試みは初めて。システムの信頼性、汎用性を内外に示す狙いもあるとの 指摘もある。 失敗すれば米国の威信が大きく揺らぎかねなかった。ロシアや中国は事前に警戒感を表明しており、宇宙軍事技術の開発をめぐり、新たな国際的緊張を招く恐れ もある。

 国防総省の事前説明などによると、北太平洋のハワイ沖約1キロ付近の海上に停泊したイージス艦レイクエリーが、搭載したSM3を発 射。上空約 240キロを、徐々に高度を下げつつ周回していた偵察衛星「L21」を狙った。米海軍は失敗した場合に直ちに後続のミサイルを発射できるよう別のイージス 艦も待機させていた。」(USFL.COMより転載)

この人工衛星は、アメリカ海軍のイージス艦が、ハワイ沖からミサイルを発射して、日本時間で2月21日午後0時26分に発射された。見 事命中させた というもので、アメリカ軍は、統合参謀本部副議長が直々にブリーフィング(注※)を行って、命中を誇示したという「スター・ウオーズ」を地でいくような ニュースである。

(注※)
ペ ンタゴンのブリーフィング映像

 ◆「あたご」は日米イージス艦ネットワークの一翼を担っている?!

考えてみるとアメリカは現在イージス艦を70数隻保有しているが、その中でミサイルを打ち落とす能力の高い最精鋭のイージス艦はわずか 10数隻だと いう。その内の5隻が、現在日本海に展開していると見られている。全世界に展開する70数隻のイージス艦は、それぞれが、超高性能レーダーというハイテク の目を持って監視の目を光らせている。しかもそれぞれのイージス艦には迎撃用ミサイルが登載されている。こうして全世界の空と海をカバーしているのであ る。このそれぞれのイージスと宇宙にある人工衛星は、有機的に結びついており、日本が保有している5隻のイージス艦もまた、そのイージスシステムのポイン トのひとつとして、アメリカの世界戦略に組み込まれているということになる。他の国でイージス艦を保有しているのはスペインの4隻、ノルウェーの2隻、韓 国が一隻を建造中とのことだ。(ウィキペディア「イージス艦」の項を参考)

さて、JanJan紙上で、ひらのゆきこ記者が、2月24日付け記事『「9条世界会議」記者会見 ダクラス・スミスさんら訴え』の中 で、小森洋一東大教授談として注目すべき情報を記している。

小森氏の情報によれば、今回事故を起こした「あたご」は、1月21日から1月25日まで、アメリカのハワイ沖で、対空ミサイルの発射実 験を行っていたというのである。つまり「あたご」は、その対空ミサイル発射訓練を終えて帰って来たばかりなのだ。

ここから私は次のことを類推できるのではないかと考える。「あたご」の事故の背後には、アメリカの最高機密とも言える「偵察衛星撃墜作 戦」で、何ら かの任務を担っていたのではないか。そのために、周辺海域に存在した漁船などについての注意が散漫になっていた可能性はないかということである。簡単に 言ってしまえば、「あたご」は、重大な情報収集任務を担っていて、搭乗員全体にかなりのプレッシャーがかかっていたのではないかとという推測である。もち ろんこの推測は、間違っている可能性もある。ただ、事故の情報が、防衛大臣に、知らされたのは、1時間半後だったこと。また首相には、2時間後だったとい う。この遅れはどのように解釈しても気の緩みだけとは思えない。また防衛省の事故情報の二転三転もどのように考えても合点がいかない。

 ◆イージス艦(イージス・システム)は憲法9条のワクを越えているという疑い

さて、ここで視点を変えて考察してみる。私は、そもそも、イージス艦を日本が配備するという時点で、アメリカの極東軍事戦略の中に組み 込まれること を意味していたのではないかと思う。一隻のイージス艦というものは、考えてみれば、コンピューターの中のひとつのチップと想定できる。チップの数が多けれ ば多いほど、そのシステムは、どんな海上においても柔軟にしかも素早く対応できる。こうなると、イージス艦を導入した地点で、日本という国家は、日本国憲 法の平和理念の根幹に当たる憲法九条を踏み越えてしまった可能性が高いのではないだろうか。

今回の事故で、事故を起こした当事者の自衛隊側の事故情報についての歯切れの悪さは、この点に由来しているのではないかと思うのであ る。

 

 ◆結論 イージス艦に守られている日本?!

もっと問題なのは、今回の事故を単なる自衛隊が起こした海難事故一点張りの報道しかでき得ない日本のマスコミの視野の狭さではないだろ うか。この偵 察衛星の撃墜のニュースについて、朝日、読売、毎日、日経、産経などの大新聞社は、ほとんど豆粒ほどの扱いしかしていない。私は大手新聞社のそのあまりの 徹底振りに、「報道管制」が敷かれているのではないか、とさえ疑うほどだ。まさか大本営の悪夢の時代とは違うとは思うが、イージス艦事件の背後にある大き な問題について指摘をするマスコミがあっても良いのではあるまいか。

ともかく、今回の民間人を巻き込んだ海難事故は、大きな悲劇であり、二度とあってはならないものだが、私たち日本の納税者は、年々厳し くなる緊縮財 政の中でも、ほとんどその財政規模が減少しない防衛費が、どのようなことで使われ、真に国民の幸福と安全のために役立っているかという認識を持たなければ ならないと思う。

もうひとつ、日本国民は、アメリカとの間で「イージス艦ネットワーク」(イージスシステム)に取り込まれることによって、日本列島がア メリカのMD (ミサイル防衛)の傘にすっぽりと入ってしまったことを自覚すべきではなかろうか。現在日本列島周辺には、日米合わせて10隻のイージス艦が展開している ことになる。これは見方によっては、日本は、イージス艦によって守られているという構図にもなる。本当は、ここが今回のニュースの核心ではないかと思う。 もちろんそれは日本国憲法の平和主義との精神と矛盾するものであることは言うまでもない。



2008.2.25 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ