スケッチ(画の基本)の大事さ

平山郁夫画伯のこと


平山郁夫という日本画家がいる。この人物は、広島に生まれ、昭和20年8月、15歳の時に被爆体験をした。その後、東京芸大に進み、、芸大の学長まで上り詰めた現代最高の画家の一人である。その平山さんが「生かされて生きる」という本を出版されている。この本は、平山さんの飾らない人柄がにじみ出た、簡素で分かりやすい本だ。
 
平山さんの描いたシルクロード

この本の中で、画の基本であるスケッチの大切さを書いた個所がある。少し長いが、ここに引用する。

表現力や描写力をつけるためには、なによりも自分の考えを持つことが大切だ。自分の意見を持たないと、どうしてもスケッチが遅くなる。実はスケッチが遅いか早いかはそれほど重要な問題ではないが、与えられた時間内にどのように対象を掴めているかは重要だ。集中力の問題である。(略)私はシルクロードの旅先でスケッチをする場合、与えられた時間に応じて描き込んでいく。十分しかない場合に、対象を時間内にただ描き写すことはせず、対象の要点を捉えて描くようにしている。(略)そのためには、対象物を見た瞬間にぱっと発想が浮かび、どう描いていくかを決めておかなければ無理だ。(またスケッチには)速写性(スピード)に加えて、省略と強調(デフォルメ)もあわせて学ぶ必要がある。(しかしここでも)自分の意見がなければ、どこを省略し強調するか皆目検討がつかない。省略と強調が有機的につながってこそ、その人独自の世界が生まれてくるのである。(略)スケッチとは、表現力を高める基礎訓練であると同時に、画家としての自分の世界を持つための補給源の役割もある

スケッチは、簡単に言えば、ただの線画である。しかしこのスケッチこそが画の基本なのである。あのピカソだって、死ぬまでスケッチを大事にした。スケッチの価値が分かっていたからだ。訓練を積んだ画家の、引く線は、ただの線ではない。ある時、ピカソがレストランで、おばさんにハンカチを頼まれ、ほんの数秒で、わずかな線を引き“ピカソ”とサインをした。そのおばさんは、うれしくて思わず聞いてしまった。

「このハンカチ、オークションになれば、どのくらいの値打ちがしますか」

ピカソは、あの怖い眼をさらにむいて、低い声で言った。

「50万か60万はするだろう」

「エッッ、そんなに、」

価値とはそんなものである。平山さんも、ピカソ同様、スケッチをとても大事にしている。スケッチを煎じ詰めて言えば、自分の考えをしっかり持って、この世の森羅万象を切り抜くことである。するとそこに自分しか描けない世界が果てしなく広がっていく…。自分の意志のない人間に、優れた画を生み出す力はない。

どんな世界にも基本というものがある。基本をしっかりとマスターして努力していけば、我々も平山さんやピカソのような、ビジネス世界の芸術家になれるかもしれない。佐藤
 


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1998.11.17