ジョン・レノンの口説き
文句

Grow Old Along With Me



口説くといえば、昔は「男から女へ」というのが、通り相場だった。それが今は女から、はっきりしない 若い 男を口説くケースが増加しているという。男女平等社会が進み、女もうっすらとヒゲをたくわえ、男が肌の手入れにエステに通う時代だから、そんなことを驚い ているようでは、心臓の弱い人間は生きていけない。

ところで、あなたは大好きな人からどのような言葉で口説かれたら、脳天にガンとくるだろう。心 を揺り動かされるだろう?

グロー・オールド・アロング・ウィズ・ ミー(Grow Old Along With Me」というのは、どうか。直訳す れば、「私と一緒に歳をとっていってくれませんか?」となる。「一生二人でいい歳を重ねていきましょう」でもいい。

しかしどうも日本語にせずに、英語のそのままの方が響きがいい。「グロー・オールド」という言 葉は、とても深い意味をもつ言葉だ。英語のGROWには、成長するという意味があり、それにOLDをつなげると、「歳を重ねて、ともに成長しよう」という ような意味合いになる。

実はこのフレーズは、あのビートルズのジョン・レノンが、1974、5年当時恋人のヨーコに振 られ そうになった時に使った口説き文句である。年上だったヨーコは、強気にもニューヨークのアパートからジョンを叩き出してしまった。ジョンはふてくされて、 フロリダに移り住み、酒と女に溺れた。元々ジョンは、リバプールという港町の不良である。その地が出て生活が荒れに荒れた。喧嘩をして、酒場を叩き出され たこともある。

ジョンは、次第にヨーコのいない生活が耐えられなくなった。ひとりの孤独に押しつぶされそうに なった。そして度々、「お前のところに戻りたい、俺にはお前が必要だ」と電話をするようになった。しかしヨーコは決まって、

「まだ、その時は、来ていないわ。残念だけど、私たちには離れている時間が必要なのよ」と繰り 返した。

終いにジョンは、どうしたらいいか分からなくなった。ジョンは、ビートルズという巨大な成功を へて、世の中が分からなくなっていた。ヨーコはそんな「ビートルズ漬け」のジョンを、一人の人間としてのジョンに戻したかったのである。

そんな時、ジョンの耳に「Grow Old Along」というテレビのアナウンサーの声が聞 こえてきた。ジョンは、その響きに何かを感じとった。すぐにピアノの前に座ると、ひとつの歌が出来上がった。それが「グロー・オールド・アロング・ウィ ズ・ミー(Grow Old Along With Me)」という歌だったのである。

すぐにジョンは、ニューヨークにいるヨーコにフロリダから電話をかけて、「この歌を聞いてく れ、ヨーコ」と言って、歌い始めたのであった。

Grow Old Along With Me(一緒に歳を重ねていこう)

The Best is Yet To Be(最高の時は、まだ

When Our Time Has Come(その時が、来たならば

We Will Be As One(我々は、ひとつになる

God Bless Our Love(この恋に祝福あれ) 

God Bless Our Love(この恋に祝福あれ

Spending our lives together(ふたりの命を一緒に生きよう)

Man and wife together(夫として、妻として

World without end(終わりなき世界で

World without end(終わりなき世界で)・・・

ジョンが歌い終わるか終わらないうちに、電話口の向こうで、ヨーコが叫ぶ。

「すばらしいわ。ジョン、あなたは最高よ。その時が来たのね、私をすぐ迎えにきて」

* * * * * * *

どんなことにも、時節(タイミング)とい うものがある。どんなりっぱな口説き文句もまた時節を考えなければ、ただのキザなセリフになってしまう。ジョンは、見事に時節をとらえて、ヨーコを口説き 落とした。しかも見事な、歌の才能によって。

この歌は、ジョンの歌の中でも傑作中の傑作だが、何故か、「イマジン」や「ラブ」ほど有名では な い。それはもちろんジョンがこの歌を正式に録音しなかったせいである。今聞けるのは、ジョンがプライベートに録音したもので、音が非常に悪いのだが、その ことで逆にこの歌に込めたジョンの思い伝わってくる気がしてくる。

今回、「ジョン・レノン・アンソロジー」 という四枚組のレコードが発売されたが、そのなかにこの曲が納められている。ジョン気持ちになって、「グロー・オールド…」を改めて聞いてみた。そこには 言葉を超えたジョンの魂のようなものが聞こえてくるようだ。こんな殺し文句で、ジョン・レノンに口説かれて、理性的でいられる女性はいるだろうか?佐藤
 


義経伝説ホームへ

1998.11.18