永訣の月

「永訣の月」の解説

この「永訣の月」は、芸術家村山直儀が、2002年春、執念で完成させた渾身の一作である。

題材は、「源義経」が奥州平泉の衣川の館(高館)で自刃して果てる前夜という設定だ。煌々と月光が、奥州の大河北上川に映っている。義経は、迫り来る運命の時を感じながら、悠然として月明かりに照らされた奥州の山河を眺めている。己の生涯において、為すべきことは為したという強い充足感が、その超然とした表情の中に滲み出ている。実に美しく威厳に満ちた義経像である。義経はもはや傍らの鎧を身に着ける気はない。だがその背後にいる武蔵坊弁慶には、やるべきことが残されている。それは押し寄せてくる敵兵を一歩たりとも義経が立て籠もる館に踏み込みさせず、花の散る如くに主君義経を極楽往生させるという大仕事だ。弁慶には、死して尚、敵を食い止めるべく立ち尽くしていたという「弁慶立ち往生伝説」がある。二人の表情の違いに見える心理的コントラストが実に見事だ。

ここに、源義経と武蔵坊弁慶という稀代の勇者たちは、村山直儀の芸術的才により、813年という時空を越えて、現代に蘇ったのである。(佐藤弘弥)


我ら見るこの月光の高館を誰か名残りと後に偲びむ

吾ひとり高館に居てふり雪ぐ宙の気受くる我孤に在らず


「永訣の月」村山直儀インタビュー

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2002.4.11
2002.5.22