湿度とウィルスについて

(2000220)

●暖房と加湿
●湿度不足の問題点
●風邪の伝搬率に関するマウス実験
●相対湿度とインフルエンザ
●相対湿度と各種ウイルス
●相対湿度と快適さ
●水分の蒸発・蒸散に伴う障害

リクガメ飼育で注意しなくてはいけないポイントに湿度の問題があります。特に屋内での飼育がメインとなる冬期の室内環境は、注意しないと極度の乾燥状態を引き起こします。リクガメに与える影響を考えて、飼育環境の湿度を見直してみましょう。

暖房と加湿


空気中の水蒸気量が一定の条件では、空気温度を上げると湿度は(単に湿度というときは相対湿度を表すこととします)低下します。もちろん屋内の暖房でも同じことが言えるため、外気をあまり室内に入れずに室温を上げれば、湿度は低下するわけです。冬場の関東地方や、太平洋側の地域においては、外気自体が湿度が低くなっているため、換気をおこなっても、外気を積極的に室内に入れても、湿度は上がりません。例えば、室内温湿度10℃・50%、外気温湿度0℃・30%の空気条件で、単純に全風量の20%の外気を取り入れて温度を20℃まで上げるとすれば、室内の湿度は20%にまで低下してしまいます。

湿度不足の問題点


 湿度不足によって空気が乾燥すると、人の住環境もそこに同居するリクガメの飼育環境にも、悪影響が出てきます。健康面、快適性、物品の品質劣化などで、基本的には3つに分けられるでしょう。
1)健康と快適性を損なう
2)水分の蒸発・蒸散に伴う障害
3)静電気発生による機器故障など


1)健康と快適性


・健康面での問題は、空気の乾燥により呼吸器系の粘膜を傷め、風邪などのウィルスが体内に入りやすくなります。
・快適性の面では空気の乾燥により体からの水分蒸散量が増すため、暖房をしても体感温度は低くなります。適度な湿度があれば、室温が20℃でも25℃の暖かさを感じるといわれています。

[データと事例1]
冬場にリクガメが鼻水をたらしているのに気付き、慌てることもあります。複数のリクガメを飼育している場合などは、他の個体への感染なども大変心配な問題になります。湿度の違いによる風邪の伝搬率について、マウスでの動物実験の資料があります。
この表から考えられることは、湿度が高い程風邪の伝搬率は低くなるということでしょう。人の風邪は、寒気暴露など自律調節の短期失調などに、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどの上気道感染が加わったものをいいますが、リクガメの場合にも、細菌以外に呼吸器感染症の原因となるウイルスは、幾つか考えられます。ヒトのケースをすべてあてはめるのは無理がありますが、さらにインフルエンザウィルスで、湿度の影響を考えてみます。
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[データと事例2]
このグラフは、相対湿度とインフルエンザウイルスの生存率を時間の変化によって実験したデーターですが、湿度が50%以上の場合には、12時間程度の間にインフルエンザウイルスは、生存率が0.1%以下になることが分かります。湿度を50%程度に保つことに、健康的な意味のある1つの根拠でしょう。

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さらに、次のグラフを考えます。

インフルエンザウイルスとポリオウイルスの相対湿度と死滅率のグラフです。ポリオウイルスは、湿度が低い程死滅率が高くなりますが、インフルエンザウイルスは、湿度が40%を越えると死滅率が急に大きくなることが分かります。一般的な風邪の症状が見られた場合に、湿度を高くすると効果がある理由の1つです。リクガメのRNSの症状が見られた場合に湿度を高くするのは、ウイルスが原因の場合には、効果的であることの理由ともなるでしょう。

しかし、ポリオウイルスのように例外的なものもありますので、さらに他の種類のウイルスと湿度の関係を見てみます。


[データと事例3]
VEEは、Venezuelan equine encephalomyelitisの略で、脳脊髄炎ウイルス
Vacciniaは、種痘ウイルスのことです。
この3種類のウイルスを見ても、一般的な傾向として、湿度が高い程、ウイルスの生存率は低くなり、湿度50%を目安として、急激に低くなると言えます。また、温度との関係にも注目が必要で、温度が高い方がウイルスの生存率は低くなります。つまり、リクガメのウイルスが原因となる感染症は、低温、低湿度の場合に見られることが多いこと、また鼻水などの症状が見られた場合には飼育環境の温度を上げて、湿度を高めることが有効であるといったことが理解できます。
一方、日常の飼育環境において、リクガメは(特に地中海リクガメなど)乾燥させた飼育環境にしないといけないといった考え方で、カラカラの状態で飼育しているケースが見られます。しかし、これは誤ったことで、ある程度乾燥しても生きられるということと、乾燥を好むとを混同してはいけないでしょう。湿度が20%〜30%といった環境での飼育は、リクガメにとっては過酷な環境といえます。
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相対湿度と快適さ


快適さも湿度に大きく影響されます。リクガメの頭部は、乾燥の判断基準にもなります。乾燥してくると、カサついた感じがします。また、首の皮膚なども人と同様にドライスキンといった状態に見えます。保湿された皮膚は、しっとりとした感じに見えます。カサついたように見える場合には、湿度をチェックして下さい。 室温を一定の状態にして、湿度を変えるとリクガメの行動に変化が出ます。室温が24℃程度、湿度が40%程度の状態で、シェルターの奥で寝ているギリシャやホルスに対して、湿度だけを60%に上げるとゴソゴソとシェルターから起きだしてきます。湿度の変化が行動を誘発する例でしょう。体感温度が上がるために、気温が高くなったように感じるのかもしれません。


2)水分の蒸発・蒸散に伴う障害


いそがしい場合などに、リクガメのエサを置きっぱなしにして外出してしまう場合や朝に野菜をエサ場に置いて出かけるといった飼育者も多いかもしれません。
しかし、青果物などの食品類は、空気が乾燥すると水分が奪われて品質の低下をきたします。
野菜などは、一度水分を失うと元の品質に戻すことはできません。
野菜は90%前後の水分を含んでいて、その5%が減少すると、商品価値がなくなるといわれています。鮮度を保つには、低温と高湿度が必要ですが、リクガメの飼育環境において低温は適切ではありません。せめて湿度には気を使って、水分がすっかり抜けきった野菜ばかり与えることになる環境は避けたいところです。
置き餌が主の場合には、湿度に注意して下さい。新鮮野菜を毎朝準備して家を出るとしても、リクガメが食事を摂るまでに水分がかなり抜けてしまっている場合には、当然水分不足で脱水症状になってしまう危険性があるわけです。
リクガメの食事のページも参照して下さい。
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3)静電気発生による機器故障など


リクガメの飼育には直接関係してくる項目ではありませんが、静電気は摩擦で生じ、空気が乾燥すると帯電しやすくなります。
あのバチッという不快な電撃はコンピューターなどの誤動作の原因にもなります。湿度を約60%に保つと帯電体の比抵抗が減少し、静電荷は放出されて静電気の発生を抑えることができます。



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