リクガメは、一見して分かるように、背中に大きな甲羅をしょっています。この甲羅の形成にカルシウムが必要不可欠であることは言うまでもありません。
自然の草花を主食とするリクガメが自然界において、どのようにしてその膨大な量のカルシウムを補給しているのか、地中海リクガメの例を見てみたいと思います。
地中海リクガメが棲息する地中海沿岸の地域は、紀元前3億4千万年から4千万年までの間は、テチス海と呼ばれる珊瑚礁が広がる熱帯の海でした。このテチス海は水深が浅く、そのため急速に水分が蒸発し、塩分濃度が上がっていきました。その塩分と珊瑚などのカルシウム分が海水に溶け出したものが3億年の年月をかけて海底に沈積し、この地域一帯を覆う広大なライムストーン(石灰石)の岩床を形成したのです。
やがて海岸線が後退し、このエリアは現在のモロッコ、アルジェリアなどの地域、つまり地中海リクガメが棲息する地中海沿岸域になったわけです。この他にも地中海リクガメの棲息する地域、例えば、シリア、イスラエル、トルコなどでは、ライムストーンの台地から流れてくる河川が豊富なカルシウム分を運んで来ます。
地中海リクガメがが棲息する地域は、いずれもこの何千メートルもあるライムストーンの層の恩恵に預かっているため、そこに芽生えている植物もまた非常にカルシウム分が豊富なのです。自然界のリクガメは、このような非常にカルシウムに富んだ草花を食することによって体内で必要なカルシウム分を賄っていると考えることができます。
飼育下において通常与えている市販野菜は、彼らが野生で食べているものと比べカルシウム分が少ないと考えらますから、何らかの形でカルシウムを補う必要があるでしょう。
このカルシウムの摂取を考えるとき、もう一つ重要なのはカルシウムとリンのバランスです。
骨の主成分はリン酸カルシウムです。つまりカルシウムとリンの化合物になっているわけです。健全な骨や甲羅を形成するには、このカルシウムとリンの比率(Ca:P)が適正に保たれていることが大切です。
この適正なCa:Pの比率は、以前は2:1(成体では1.25:1)が良いとされていましたが、その後、野生のリクガメの食性を研究した結果、4〜6:1が理想的ではないかと言われています。また、カルシウムの比率が1.2以下になると非常に危険であるとも言われています。他の爬虫類のCa:P比率が、おおむね1〜2:1であることから考えると、いかにリクガメにカルシウムが必要であるかが分かります。
日常の餌には、リンを必要以上に多く含むものは極力避けるか、与えるとしても、その頻度には十分注意したいです。Ca:Pのバランスが崩れ、リン比率がカルシウムに対して高くなると、骨の正常な成長が妨げられ、骨・甲羅の変形、甲羅の軟化などが起こります。リクガメの場合は、カルシウムが不足し、リンが過剰になるケースが圧倒的に多いですが、逆にカルシウムを与え過ぎると尿が詰まりやすくなることもありますので、気を付けたいです。
このカルシウムによる骨、甲羅の形成にもう一つ欠かすことの出来ないのがビタミンD3の働きです。ビタミンD3は、簡単に言ってしまうと、カルシウムとリンを吸収する働きをします。ですから、どんなに適正なCa:P比率の餌を与えていても、ビタミンD3が不足しているとやはり骨や甲羅の成長異常が起こります。(ビタミンD3については、ビタミンの項参照)
カルシウムを多く含む植物としては、小松菜、ちんげん菜、モロヘイア、かぶや大根の葉、タンポポ、チコリ、パセリ、アプリコット、無花果、無花果の葉などがあります。
ほうれん草、フダンソウなどは、一見良いカルシウム源となりそうですが、これらのカルシウムはシュウ酸と結合し、不溶性のシュウ酸カルシウムを形成してしまうため、リクガメにとっては利用できず、栄養上の価値はあまりありません。
以下に、主な野菜・果物のCa:P比率を一覧表にまとめました。
食品100g中のCaとPの含有量(mg)およびカルシウムーリン比率
Ca P Ca:P Ca P Ca:P チンゲン菜 130 33 3.9:1 ブロッコリー 38 80 0.5:1 小松菜 290 55 5.3:1 トマト 9 18 0.5:1 かぶの葉 230 39 5.9:1 かぼちゃ 17 35 0.5:1 大根の葉 140 65 2.1:1 そら豆 23 240 0.1:1 サラダ菜 50 44 1.1:1 グリンピース 28 70 0.4:1 なずな 300 95 3.2:1 いんげんまめ 60 50 1.2:1 パセリ 190 55 3.5:1 りんご 3 8 0.4:1 キャベツ 43 27 1.6:1 バナナ 4 22 0.2:1
最後にカルシウム補給源についてですが、下に挙げたのが主なものです。
1)市販のカルシウム剤:国内のペットショップでよく見かける、レプチカル、レプトビット、BPD’sなどは、いずれも主成分はリン酸カルシウムです。動物の骨などを原料とするものは全てリンを含んでいますから、ラベルの成分表示を確認して、リンの割合の少ないものを選ぶといいでしょう。海外では、リンを含まない製品も出ていますので、そういったものを購入する方法もあります。
2)卵の殻:一番身近なカルシウムでしょうか。粉末にして食事に振りかけたり、砕いたものを、置いておくと、ついばみます。
3)イカの甲:そのままでは食べないときは、粉末にして与える方法もあります。
4)煮干し、干しエビなど:タンパク質、塩分なども含まれるので、与える頻度に注意が必要です。
リクガメにとって理想的なカルシウム補給源とは、カルシウムの割合が多く、反対にリンの割合が少ないものです。一番理想的なカルシウム化合物は、炭酸カルシウムだと言われています。以下に、手に入りやすい主なカルシウム化合物のCa:Pの割合を示しておきます。カルシウム剤を選ぶときの参考になればと思います。
カルシウム化合物中のCaとPの割合
Ca(%) P(%) Ca:P 炭酸カルシウム 40.0 0.0 − 乳酸カルシウム 18.0 0.0 − グルコン酸カルシウム 9.3 0.0 − リン酸カルシウム(一塩基) 17.0 26.0 0.65:1 リン酸カルシウム(二塩基) 30.0 23.0 1.30:1 リン酸カルシウム(三塩基) 39.0 20.0 1.95:1 一般的な骨類 30.0 15.0 2.00:1●このページのトップへもどる。