日本の住環境


リクガメの飼育環境を整えるということは、単に飼育ケージの環境を整えればよいという訳ではありません。その設置された部屋の環境を整え、さらにその部屋の環境に影響する家の環境を整え、さらに家の建つ敷地の環境を整え、それを包む町、そして都市の環境を整え、地方や国さらに地球の環境をも考慮するのが本当の飼育環境を語ることになるのだと思います。現に、公園でリクガメを散歩させていて、除草剤のかかった野草をたまたま食べてしまって死亡するリクガメもいるのです。
あまり話しを広げすぎても中途半端ですので、まずここでは、家ぐらいまでの話しを考えてみようと思います。
 日本は独特の気候風土であるのに加えて、南北に長く、北海道で飼育されておいでの方と沖縄で飼育されておいでの方では、かなり異なった環境での飼育となります。
しかし、とてもすべてのケースのお話はできませんので、一般的なことを知るところから始めてみたいと思います。
メニュー




日本の風土



リクガメ達のもともとの棲息地との違いを理解するために、まず日本の風土を知っておきましょう。日本の風土を形成してきた大きな要素として3つあげるとしたら、次の3つになると思われます。
1)地球の中緯度に位置すること
2)1年の中で、2つの大きな大気循環系の支配を受けること
3)大陸の東岸に日本海を挟んで位置すること


1)地球の中緯度に位置すること
地球は少し傾いた地軸を保って公転しています。そのため、地球の中緯度あたりの地域では、昼と夜の長さの周期的な変化が生じます。また、だんだん暖かくなり、まただんだん寒くなるといった、季節の周期的な変化が生じます。これらが、日本の人を含めた生物の生活にリズムを作り出してきました。


2)1年の中で、2つの大きな大気循環系の支配を受けること

日本は、中緯度の内でも、かなり南に位置しています。そのため、熱帯循環系のハドレー循環系と寒帯循環系のロスビー循環系の両方の影響を受けます。

ハドレー循環系:熱帯地方の大気が太陽によって加熱されて上昇気流となり、上空を極に向かって流れていきます。しかし、地球の自転などの影響もあり、大気は緯度30度近辺で下降気流となり、地上に下りてきて、赤道の方へふたたび向かいます(貿易風)。この中では、気候の変化も季節の変化も乏しいという特徴があります。

ロスビー循環系:緯度30度付近から、両極地の間の大気は、常に西から東へと流れていて(偏西風)、北側に振れたり南に振れたりと蛇行しながら地球のまわりをまわっています。この中では、気圧や気温の差が大きく、天候がかわりやすいのが特徴です。


3)大陸の東岸に日本海を挟んで位置すること

大陸東岸の特性といえば、夏期の多雨と冬期の乾燥です。これに対して、西岸は、冬期の雨と夏期の乾燥という逆の特性を示します。さらに、日本はモンスーン・アジア地域に属していますので、梅雨が毎年あり、春から夏にかけての降水量が著しく増えるという特徴もあります。
さらに日本の気候風土を特徴的にしている要素は、大陸との間の日本海です。日本は、南北に長い国土に加え、中央部に山脈が走っているので、多様な四季の現象が現れることになります。


これらの要素によって、たとえば世界の都市と比較してみると、北緯35度の東京ですが、夏は、なんと北緯14度のフィリピンのマニラと同レベルの高温多湿です。夏にはハドレー循環系の気候に覆われるため、亜熱帯の気候にほど近い状態になるのです。
また冬は、北緯48度にあるパリと同様の寒さとなりますので、夏冬の温度の格差は、はなはだ大きいのが、特徴でしょう。また、北緯40度のニューヨークなどは、気温の格差では、似ているのですが、湿度は1年中60〜70%で安定していて、東京とはずいぶん違う気候です。
つまり日本で生活するリクガメ達は、世界でも屈指の大きな幅の気温や湿度の変化に対応しなければならないのです。
本来の棲息地でさえ、各種のリクガメ達は微妙な気候風土の違いに適応するために膨大な年月を要しました。リクガメのそれぞれの種に決まった棲息範囲のあること自体が、本来そこから離れた気候風土では、自然には棲息できなくて当然だということを、よく頭に入れておきたいところです。
自分で体温を保つことが可能で、さらに衣服や住居などで環境を調整できる人間でさえも、人種によっていろいろな違いがあります。
寒暑への対応に関して、興味深い1つのデーターを見ながら、考えて見ましょう。
人間の場合暑さへの適応には、汗が大きな役割を果たします。人間は、人種によってその能動汗腺数の違いがありますが、おもしろいのは、汗腺の能動化が、生後2年の間に行われるため、同じ日本人でも赤ん坊のうちに暑熱環境を経験した人は、能動汗腺数が増加し、耐暑能力が高まるという事実です。人間の体表に分布する能動汗腺数の平均値の違いを見てみます。

能動汗腺数の違い
人種 能動汗腺数
アイヌ 143.3万
ロシア人 188.6万
日本人 228.2万
  成長後タイへ移住 229.3万
  成長後フィリピンへ移住 216.6万
  台湾で出生 271.5万
  タイで出生 273.9万
  フィリピンで出生 277.8万
タイ人 242.2万
フィリピン人 280.0万

久野 寧「汗の話」光生館


人間は、このように気候の変化への対応能力がかなり高いのですが、人種によってもこのような差があるわけです。人工的に環境調整が可能な生き物であるにもかかわらずです。一方リクガメは、発汗による体温調節はできませんので、棲息地の太陽光に当たったり、隠れたりすることによって、体温調節を行っているわけですが、それだけに、その棲息地の気候風土に適応した体に進化してきているはずです。
もし、リクガメの気候の変化への対応能力が、とても高かったならば、棲息地は、もっと広範囲であったでしょう。しかし現在のリクガメの棲息地が、限定されている状況を考えると、人間程対応能力はない生物なのです。もし、何代にも渡って、日本の風土の中で交配が重ねられて、とても長い時間が経過するならば、日本の風土に適応したリクガメが誕生する日がくるかもしれません。もちろん遺伝子操作などは別問題としてですが。


日本の住環境へ戻ります。