★ギリシャリクガメの温室内産卵・孵化
先日、わが家のギリシャの卵が、温室内で孵化いたしました。
これまでとは異なり、産み落とされた卵を人工孵化器に移さず、産卵場所でそのまま孵化させる結果となりました。これはその孵化時の記録です。
●00年03月18日(土)
休日の朝。いつもより遅く起き、ギリシャ部屋へカメ達のようすを見に行く。
みんなホットスポットで身体を温め、ごはんを待ちかねているようだ。見ると、すみれ♀が衣装ケース(常設産卵床)の土の上にウンピを落としていた。ティッシュを片手にうんぴを拾い上げようと腰をかがめたところ、、何やら小さな物体が視野の隅をかすめた。!!!仔ガメだ!
「君は、、誰だ?」
目をこする。確かに仔ガメだ。仔ガメは衣装ケースの隅っこで、じっと固まっている。すみれ♀しかいないはずの囲いに、なぜ仔ガメがいるのだ?
はじめに思い浮かんだこと。それは囲いの中に設置してある温室の3階から、1月に孵化したばかりの仔ガメのうち一人が落下したのでは?ということだった。おそるおそる温室の3階を覗き込む。仔ガメを数えてみる。1。。2。。3。。。4!
よかった!全員そろっている。
となると、、残る可能性はひとつ。。。。産まれたのだ。
なんと。飼い主が気付かぬうちに、ここで産卵し、この冬の最中、3ケ月ほどかけてゆっくりと卵の中で発生が進み、、そして、、今日、めでたく孵化したのだ。
にわかには信じられない気分だった。しかし、それ以外考えられない。
冬場で、飼育場の夜間最低気温も17、8度になっていたはずであるが、常設産卵床には150Wのホットスポット電球がほぼ24時間つけっぱなしになっていたし、衣装ケースの土の中ならば、、少しは保温がよいだろうし、多少の湿り気もあるだろう。現地だって夜間は冷え込むはず。。などと頭の中で一生懸命、自分自身を納得させよいとしていた。
産まれた仔ガメは、体重15.7g、甲長3.8cmで、比較的大きな個体だった。
目頭にウッドサンドの粉のようなモノがついていたので、そっと取り除いてやった。
晴れて風もなく穏やかな日だったので、お昼に1時間ほど外で日光浴をさせてあげたが、さっそく小松菜やモロヘイアにも食いつき、元気よく動き回っていた。
低温孵化だと虚弱体質の個体が生まれやすい、、という記事を読んだことがある。が、、心配はいらないようだ。
●00年03月19日(日)
いつも複数個の卵を産むすみれ♀のことだから、後続隊があるかもしれないと、、飼育場の近くを通るたびに、衣装ケースの土の上をチェックするようになった。
しかし、一匹目が出てきたときも、衣装ケースの土の表面にはそれらしき痕跡が何もなかったのが気になる。仔ガメが土の中から這い出てくるときには、穴が開いたりしないのだろうか?小さいから、すぐ分からなくなるのだろうか?実際に出てくる場面を観察したことがないので、考えても答えは出ないが、どうもしっくり来ない。
そんなことを考えながら、また衣装ケースへ足が向いてしまう。
翌日に来客を控え、部屋の掃除をしなくちゃいけないし、目を通しておかないといけない原稿もあるというのに、「衣装ケース」が気になって仕事が手につかない。困ったものだ。夫婦で相談した結果、少し早いが産卵場所のチェックをしようということになった。
夕方。寝静まったすみれ♀を別部屋へ移し、衣装ケースの土を取り除く作業に入った。表面はスポット電球の熱のためカラカラに渇き、ちょっとかき寄せるだけでも土埃が舞い上がる。表面の方からそっと土を集め、スーパーの袋に移していく。特に変わった点も見当たらない。数センチほど掘っていくと、少しずつ土が湿ってきた。極乾状態だったのは表面近くだけだったようだ。ひたすら掘る。土を出す。
掘り進むにつれて、ミミズをはじめ色々な生物の棲息が確認できる。これなら孵化できる環境かもしれない。。しかし、卵の脱殻は、、どこまで掘っても依然出て来ない。段々、衣装ケースの底が近づいている。はじめ手掘りで慎重にやっていた作業も、スコップを使って大胆に土をかき出すようになる。
産卵場所はここではないかもしれない。という思いが強まってくる。
しかし、ここでないとすると、どこだ?
30分経過し、とうとう衣装ケースは空になった。
お目当ての抜け殻は出て来ず。
やはり、ここではなかった。
この飼育場で他に産卵できる場所。考えられるのは温室の床材の中しかない。
温室のウッドサンドの中。この考えは何度か浮かんできては、打ち消してしまっていた。衣装ケースと比べて条件が悪すぎるように思われたからだ。
衣装ケースのホットスポットは冬の間中、ほぼ24時間点灯していたのに対し、温室内のスポットは「11時間ON、13時間OFF 」の設定になっており、夜間は相当、冷え込んでいたはずである。それにウッドサンドは厚さ5センチ程しか敷いていない。土と比べて湿り気も全くない。サラサラの粉状態になっているのである。だいたい、このウッドサンドの上は、毎日すみれ♀がのっしのし歩き回っているような場所。
こんな場所で孵化するのか?
キツネにでもつままれた気分になる。
しかし、もはや、ここ以外考えられない。
そう言えば、発見された孵化幼体の目頭にウッドサンドの粉が付いていたのを思い出す。昨日、這い出た場所を見つけようと観察したとき、衣装ケースの方には何も痕跡がなかったが、ウッドサンドには小さな凹みが出来ていたのもはっきり覚えている。そのときは、すみれ♀の足跡かな、、と片付けていた。
思い込みとは恐いものだ。
前の産卵のときに、散々ウッドサンドを掘っておきながら、何がお気に召さなかったのか、ここでの産卵を断念し衣装ケースを選んだという経緯もあったので、温室では産卵はしないだろうと決め付けていたのかもしれない。産卵前、すみれ♀はここの場所を執拗に掘っていたのに。
さて。とにかく確認するのが一番。
ということでウッドサンドを少しずつ、取り除いてみることにした。
厚さ5センチと書いたが、平均すればの話で、すみれ♀に掘られて浅くなっている場所、反対に盛り上げられて厚くなっている場所などがある。怪しいのは、ホットスポット電球の直下、昨日、小さな凹みを確認した付近である。砂が盛り上げられて10センチくらいになっている。早速、調べてみる。
使用経験のある方なら理解していただけると思うが、粉状態になったウッドサンドをすくうのはシンドイ作業である。粉が舞い上がって、部屋中、埃だらけになる。花粉症の身には尚更辛い。窓を開け、マクス着用での仕事となる。
案の定。1、2センチ掘るか掘らないかで、卵の抜け殻が顔を出した。
おおぉ。不思議な感動だ。
ここで産まれたのだなぁ。
季節外れとは言え、一個だけの産卵とは考えにくいので、辺りもそっとチェックしてみる。すると、すぐ隣に、ちょうど殻が破れ、頭を覗かせた状態の卵があった。
他にもまだありそうである。孵化途中の卵をタオルを敷いたダンボール箱に移し、更に掘ってみると、下にあと4つ卵が確認できた。
全部で6個、産卵していたことになる。こんな浅い場所によくぞ産んだものだと、つくづく思う。偶然かもしれないが、産卵したままの状態にしておくと、上の卵から孵化しているのも興味深い。
下の4つの処置に少し悩んだが、ウッドサンドの交換をしたいという人間側の都合もあり孵化器へ移動してもらった。(そもそもこのウッドサンドの交換、本当は2、3週間前から計画していたのだが、無精が幸いして今日まで延び延びになっていたのだ。虫の知らせというヤツだろうか。)
ダンボール箱へ移した孵化途中の個体は、その後、まもなく孵化完了。
途中でひっぱり出されて予定より早くなってしまってせいか、わが家では初の「出臍状態」での孵化となった。申し訳ない。おへそがつっかえて歩き難そうだが、元気ではある。おへその回りのウッドサンドを取り除いてあげた。
●00年03月20日(月)〜
下の方ほど温度が低いと予想できるから、残りの孵化は難しいかもしれない。
ただ移動したとき、中がオレンジ色のままだった1つを覗き、残り3つは比較的重く、期待が持てる感じもあった。
その期待どおり、20日のお昼すぎから、1つが孵化を始めた。
結局、24時間くらいかけ、翌21日のお昼過ぎくらいに孵化が完了した。
今までより、色が薄い個体。元気そうである。
その後、残念ながら孵化はない。
あの環境ならば致し方ないだろう。
●考察
あの場所の温度を記録したいと思い、ここ2、3日、温度チェックを行なってきた。その結果が下記のとおりである。
・昼間(スポット点灯時):ウッドサンドの表面が約45℃、そこから1センチ深くなるに連れて、約3℃ずつ低くなる。
深さ5センチで、約30℃。
・夜間最低(明け方5時頃):測定時で23℃。
ただ真冬は、もう少し下がっていたと予想される。
夜間の温度変化は、かなり整形のサインカーブを描く。
場所と時間により、20℃前後の振れ幅があったことが予想される。
むしろ人工孵化器より自然状態に近かったのかもしれない。下段の卵が孵化しなかったのは、やはり低温が一番の原因と思われるが、昼間の温度がしっかり確保できていれば、孵化温度はかなり上下しても構わないのかもしれない。
湿度に関して言えば、部屋自体の湿度は40〜50%。ウッドサンドは全くの乾燥状態であった。(一二度すみれ♀が排尿をしたことがあったかもしれないにせよ。)
スポットライトの直下で、普通ならば相当の蒸発があったと考えられるが、砂に埋もれていたことで護られていたのかもしれない。また、卵の中で死亡してしまった例で分かったことであるが、有精卵の「膜」というのは非常によくできていて、長い時間水分を保つことができる。リクガメの孵化には、湿度はそれほど必要ないのかもしれない。
もうひとつ気になるのは孵化日数である。
知らぬうちに産卵してしまったので、産卵日の特定に苦労した。おぼろげな記憶を辿ってみる。
昨年12月5日。カメ仲間の忘年会があった。このとき、すみれ♀が産卵前行動をとっている話を確かにした。年が明けて、1月10日。急に穴掘りをやめたことが気掛かりで獣医さんにレントゲンを撮っていただく。このとき、何も写らず。
カメメモをひもとき記録を探す。12月12日。体重測定を行なっている。このとき体重が100g程減っている。あやしい。12月23日。楽しみにしていたライヴの日。大潮。産卵と重なることをずっと懸念していたが、この時期にはもうすっかり落ち着いていた。この一つ前の大潮は12月10日前後である。
すみれ♀が急に穴掘りを止めた日のことはよく覚えている。休日であった。12月にしては少しは暖かい日であったので、庭の方が産卵しやすいのかも、、と午前中、外に出した。しかし、一二階、庭を往復したものの穴を掘るでもなく、植込みで寝てしまったのである。飼育場に戻してからも、すっかり落ち着いてしまったのだ。
これが推定12月11日(土)の出来事だったと思われる。
よって産卵は、前日の12月10日、飼い主が仕事へでかけた夕方以降から、12月11日の早朝にかけて、、だろうと推定。ちょうど大潮。
ここから孵化日数を計算する。最初に産まれた個体から約98日、99日、101日という計算になる。人工孵化器で孵化させた場合(たいだい70日前後。わが家の最短64日。
最長73日。)と比べて30日ほど長くかかったということになる。
たった一度、それも偶然、孵化しただけですので、これから何か結論じみたことを言うことは出来ませんが、何かの参考にでもなれば幸いです。