中小企業における戦略的パソコン活用のすすめ

在庫管理にパソコンを使う―データベースと表計算ソフトの活用―

在庫管理は適切か

 今回はパソコンを在庫管理に活用する場合について考えてみる。
 在庫管理と一言でいってもその内容は企業ごとにまちまちであり、表計算ソフトを使って適正在庫数量をシミュレーションするだけの場合もあれば、商品の入と出を把握して在庫切れを防止し自動発注を行うものまである。

 在庫切れを起こすことは営業機会の消失を意味し、過剰な在庫は商品の売れ残りをもたらす。
 特に卸売業はその本来の役割から、在庫戦略が経営の大きなウエートを占める。
 顧客が望む商品の量と品揃えを満たすために、常に顧客のニーズに合った商品の仕入を行わなければならないからだ。

 適正在庫数量の計算は表計算ソフトでも十分可能だが、流動的な商品の動向をおさえるためにはやはり入出荷の動きをリアルタイムにデータ化する在庫管理の必要だ。
一般的な在庫管理では以下のようなしくみが考えられるだろう。
1 受入登録
受入れた商品について受入登録の入力を行う。
2 払出登録
出荷した商品について払出登録の入力を行う。
3 その他異動登録
預け品、委託品など在庫商品の状態変化についての登録を行う。
4 実地棚卸差異登録
パソコン上の在庫状況と実地棚卸結果との差異を登録する。
5 在庫状況の分析
在庫品のABC分析や回転率評価から仕入数を調整したり、売価変更などによる販売促進を行う。
6 在庫切れの警告、自動発注
在庫状況の分析の結果から在庫切れが予測される場合に警告する。自動発注が可能な商品についてはパソコンが自動で発注書を作成する。(発注書の送付はパソコンの電子メールやFAX送信機能を使えば自動化できる。)
7 棚卸資産としての資産評価
在庫商品の棚卸資産としての資産評価を行う。
 さて、ABC分析は在庫管理の経済性を高めるために有効であるが、商品ニーズの変化の波が著しい今日においてはこれだけでは不十分だ。
 顧客ニーズの多様化や、インターネットを利用した生産者による直接販売の出現を考えれば、売れ筋や死に筋をあらかじめ予測して品揃えする戦略的な在庫管理の考え方が必要になってきている。
 そのためには、先に示したような在庫状況をリアルタイムに収集できる在庫管理のしくみが必要であり、在庫商品の動きをより細かく分析できるデータベースシステムの導入が不可欠になってくるのだ。

パソコンが在庫管理を可能にした

 商品は一般的に何層化に分類された体系を持っている。
  メーカー別、用途別、形状別、色別、サイズ別、重量別、等々…。

 本当の意味で在庫管理を行うためには単品レベルで在庫数量が把握できなければならない。
 そして商品の様々な属性、メーカーや、用途、形状、色、サイズ、重量などに着目して在庫状況を分析するのである。
 経済性を目的とする在庫管理においては在庫金額が重要視されるが、戦略的な在庫管理の立場からは在庫商品の数量、回転率、回転率と利益率を掛け合わせた交差比率などが重ペースを減らす必要があるからだ。
 小売業であれば当然、売場面積や棚割が問題になってくる。

 しかし、何千も何万種類もある商品を単品管理し、さらには回転率の分析のためには入出荷時点の情報を時系列に蓄積していかねばならない。
 そのためにはコンピュータが何十万、百万件というデータを管理できなければならないのだ。
 取り扱いアイテム数が膨大なために在庫管理をあきらめていた企業は意外と多い。
 データの登録が大変という理由もあるが(現在ではバーコードリーダーやOCRなどの自動読取装置を利用する方法がある。)、実現のためには高価格な大型コンピュータが必要だということが大きな理由だっただろう。

 しかし、現在入手できるパソコンは数年前の大型コンピュータの能力をはるかに凌ぎ、大量に発生する在庫データを蓄積するだけでなく、様々なデータ分析が可能なのだ。

 定価30万円前後程度のデスクトップパソコンの場合、メモリは32メガ(最大128メガ)、ハードディスクは3ギガ(SCSI外付けで増設可能。2ギガが5万円程度)、CPUはペンティアム200MHzあたりが標準だろう。
 サーバと呼ばれる上位機種のパソコンではCPUを複数持つなどさらに高性能を誇っている。

在庫管理に必須のデータベース

 パソコンが大量の在庫データを管理できるようになったのはハードウェア性能の向上のためだけではない。
 パソコン上で本格的なデータベースシステムが利用できるようになったことが大きい。

 現在、パソコン上で利用できるデータベースシステムには小規模向けのAccess95(マイクロソフト社)やApproach95(ロータス社)、大規模向けのSQLServer6.5(マイクロソフト社)やOracle7.3(オラクル社)などがある。
 どの程度のシステムが必要なのかについてはハードウェアの選択も含めて個別に業務分析する必要がある。
 データベース上に蓄積させた在庫データは様々な商品の属性に着目した在庫状況の分析が可能だ。

 たとえば11月当初のノートパソコンの在庫予定数を決定するためには、過去の商品回転率の変化をもとにしたシミュレーション(最小二乗法、指数平滑法等)を行う。
 精度の高い計算のためには季節変数や地域変数などによる補正を行えばよい。
 ノートパソコン全体の売上が伸びていてもメーカー別や、価格帯別、色別、サイズ別などの様々な属性別にみてみると差があるはずだ。
 パソコンの場合、同じメーカーの同じタイプの機種でも事前インストールされているアプリケーションソフトの種類によっても在庫状況が変わってくる。
 ABC分析でA商品にあたるような商品では単品レベルで分析してみる必要もあるだろう。

 データベース上の在庫データは任意の商品属性で任意の期間について集計が可能である。
 以下、その事例について見てみよう。

データベースによる在庫分析

 ここでは在庫予測のために毎週の売上データと在庫データが蓄積されているものとする。
売上データは、
 年月日、店舗コード、商品コード、売上数量
在庫データは、
 年月日、店舗コード、商品コード、在庫数量
となっている。

また、店舗マスタは、
  店舗コード、店舗名、地域コード、従業員数、…
商品マスタは、
  商品コード、商品名、商品分類コード、売価、原価、メーカーコード、色コード、サイズコード、…
となっている。

 先にあげたデータベースシステムはRDBMSと呼ばれ、データとデータとを連結して様々な切り口から集計することが可能だ。
たとえば、週単位で在庫計画を策定する場合であれば、以下のような集計結果を活用することができる。

1 売上データから
○週別店舗別商品単品別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品コード、Σ(売上数量)、Σ売上金額(売上数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、Σ(売上数量)、Σ売上金額(売上数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別メーカー別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、メーカーコード、Σ(売上数量)、Σ売上金額(売上数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別色別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、色コード、Σ(売上数量)、Σ売上金額(売上数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別サイズ別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、サイズコード、Σ(売上数量)、Σ売上金額(売上数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別価格帯別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、地域コード、商品分類、メーカーコード、価格帯、Σ(売上数量)、Σ売上金額(売上数量×売価または原価)
 他にも店舗コードではなく地域コードを使えば地域単位での集計が可能である。
 集計データを長期保管しておけば年間売上推移や対前年当月当週比較などが可能になってくる。

2 在庫データから
○週別店舗別商品単品別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品コード、週末在庫数量、週末在庫金額(週末在庫数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、Σ週末在庫数量、週末在庫金額(週末在庫数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別メーカー別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、メーカーコード、Σ週末在庫数量、週末在庫金額(週末在庫数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別色別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、色コード、Σ週末在庫数量、週末在庫金額(週末在庫数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別サイズ別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、店舗コード、商品分類コード、サイズコード、Σ週末在庫数量、週末在庫金額(週末在庫数量×売価または原価)
○週別店舗別商品分類別価格帯別集計
年月、週番号(1月1日の週を1とする)、地域コード、店舗コード、商品分類コード、価格帯、Σ週末在庫数量、週末在庫金額(週末在庫数量×売価または原価)
 上記の集計では店舗マスタを活用していないが、店舗マスタと連携させれば地域別の売上、在庫集計も可能である。
 チラシ広告や売価変更、セット販売などを行った商品の情報を登録すれば、チラシ広告や売価変更、セット販売によって売上や在庫がどう変わったか効果測定することもできるだろう。

 以上のような集計はデータベースシステムを導入すればいとも簡単に実現することができる。
 問題は在庫戦略として商品属性や店舗属性をいかに設計するかにあるといってよい。
 以下はAccessで作成した在庫データベースの例である。

 

データベースと表計算ソフトを組み合わせる

 表計算ソフトは先にあげたようなデータベースシステムと連動させることができる。
 たとえばマイクロソフト社のExcelを使えばいとも簡単に在庫分析のための集計や演算が実現できる。
 計算結果はグラフ化することも可能であり、統計ツールを使って将来予測を行うことも可能だ。
 シナリオマネージャという機能を使えば、季節変数や売上予測数を何パターンか用意しておいて在庫計画の計算結果を瞬時に切り替えることもできる。

 また、ソルバーを使えば最も有利な条件での在庫計画を算出させることも可能だ。
 データベースシステムに在庫分析のための基礎集計作業を行わせて、表計算ソフトを使って試行錯誤しながら在庫計画を策定していくのである。
 またExcelでは直接AccessやOracleなどのデータベース上のデータを呼び出すことができる。

分散データベース機能を利用する

 さて、ここまで議論してきた在庫管理は在庫計画であるが、在庫管理には現在の商品在庫の状況をリアルタイムに更新して、受注時あるいは定期的に商品の在庫があるかどうかをチェックする機能が必要だ。

 自店舗に在庫がない場合でも別の店舗に在庫があれば新規に発注しなくても店舗間で在庫を移動すればよいはずである。
 そのためには自店舗の在庫状況だけでなく、他店舗の在庫状況もわかるしくみが必要となる。

 大型コンピュータによる在庫管理システムでは本社で一元的に全店舗の在庫状況を管理していた。
 これに対してパソコンの場合、データベースシステムの分散データベースという機能を使うことによって、個々の店舗ごとにデータベースを設置してそれぞれ在庫状況を管理させることができる。
 しかも店舗ごとのデータベースは集まってあたかも一つの全社データベースのようにふるまわせることもできる。

 一元管理がよいのか分散管理がよいのかについては一概にはいえない。
 店舗側に管理能力がなければ本社集中方式になるだろう。
 パソコンのデータベースシステムであれば一元管理、分散管理のどちらでも可能だ。  
 重要なことは自社にとっての在庫戦略をまず策定することなのだ。

 きめ細かい在庫管理は無理だと考えていた企業はパソコンデータベースによるシステム化を考えてほしい。
 以前とは技術的にもコスト的にも状況は変わっているのだ。変わらないのは戦略の必要性だけである。


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