中小企業における戦略的パソコン活用のすすめ
経営戦略へのパソコン活用−SISとリエンジニアリングの再考―
なぜSISとリエンジニアリングはかけ声だけに終わったのか?
SISやリエンジニアリングなどコンピュータの戦略的な活用が叫ばれては消え、最近ではイントラネットというキーワードがよく耳にする。
しかし、これらのキーワードの正体はいったい何なのだろうか?具体的には何を意味するのだろうか?
SISは企業間競争の優位性を獲得するための戦略的な情報システムであるとされ、リエンジニアリングはコスト、品質、サービス、スピードのような重大で現代的な業務達成の方法を抜本的に考え直し、デザインし直すこととされる。
両者に共通するのはIT(情報技術)、つまりコンピュータを活用しようという点だ。
しかし、コンピュータは単なる道具にすぎない。
パソコンを導入すればすべてが解決でないことは過去のSISとリエンジニアリングを振り返ればわかる。
SISにもリエンジニアリングにもタネが必要なのである。
手品の道具を買ってきても手品はできない。
手品のタネを知り、それをこなせるだけの能力を努力して身につけなければならない。
コンピュータも同じことが言えるのではないか。
財務会計がシステム化しやすいわけ
情報システムのうち、財務会計の業務は比較的開発しやすくパッケージソフトの質も高い。
これに対して販売管理や購買管理、在庫管理、生産管理などの業務ではなかなか満足のできるシステムやパッケージソフトはない。
なぜだろうか。
これは財務会計という業務自体が複式簿記という安定したシステムに裏付けられているからだ。
財務会計では様々な取引情報が伝票に整理記載された後、仕訳帳に総括記入される。
そして、総勘定元帳に転記され、決算時に試算表、精算表の作成を経て財務諸表(貸借対照表及び損益計算書など)が作成される。
複式簿記というしくみに忠実にしたがっていけば決算時に財産状況、損益状況が正確に計算されるのだ。
財務会計システムは手作業で必要な計算業務や転記業務を自動化してくれるが、情報システムの最終成果物である財務諸表はもともと資本の調達と運用の成果を計数的に表現するという偉大な効果を有しているのである。
では販売管理や購買管理、在庫管理、生産管理などその他業務ではどうだろう。
売れ筋、死に筋を見きわめたり、原価圧縮のポイントを抑えたり、不良品の発生や納期の遅れを未然に防ぐためにコンピュータはしっかりと働いてくれているだろうか。
財務会計システムには複式簿記というタネがあり、財務のタネを知り、それを使いこなす専門家がいたのだ。
複式簿記は金額というモノサシで価値計算するしくみである。
金額で計ることのできない経営活動分析のためのタネにはなってくれない。
販売管理や購買管理、在庫管理、生産管理などその他業務システムでトラブルが多いのはここに理由がある。
もっとも、正確な製造原価報告書を作成できている企業もまた少ないのだが。
SISとリエンジニアリングの正体
ならば、SISやリエンジニアリングこそが金額で計ることのできない経営活動を分析するためのタネとなるべきものでないだろうか。
過去のSISブームでもリエンジニアリングブームでもタネ明かしはされなかった。
タネも知らずに手品をしようとした企業がいかに多かったことか。
実は私はSISやリエンジニアリングの正体は「管理会計」ではないかと常々考えていた。
私が管理会計がSISやリエンジニアリングの正体であると考える理由をいくつかあげてみよう。
@ 管理会計は経営管理に役立つことを基本目的としている。
A 管理会計は実績だけでなく、計画・予測の情報も対象にする。
B 管理会計では統計や線形計画など様々な科学的管理技法を駆使する。
C 管理会計では部門や製品単位での財産計算、損益計算を行う。
D 管理会計では実際原価だけでなく機会原価、付加原価なども分析する。
財務管理パッケージの中には経営分析のための管理会計機能を有しているものがあるが、基本的には財務会計で金額計算された経済価値について分析するものである。
金額計算可能な分野だけでも十分な経営分析が実現できていない場合が多いことを考えれば財務管理パッケージの管理会計機能を駆使することはブームだけのISやリエンジニアリングよりもはるかに実があることも確かだ。
しかし、管理会計の本質からいえば金額計算できない経済価値も対象になるはずである。
その中にはグループウェアが対象とするような定性情報も入るのである。
管理会計とパソコン
管理会計が実績だけでなく、A計画・予測の情報も対象し、B統計や線形計画など様々な科学的管理技法を駆使することを考えれば、パソコン上のExcelやロータス123など表計算ソフトが不可欠な道具であることは間違いない。
C管理会計では部門や製品単位での財産計算、損益計算を行い、D管理会計では実際原価だけでなく機会原価、付加原価なども分析するためには綿密で大量の情報を収集して分類・集計できるAccessやSQLServer、Oracleなどのリレーショナルデータベースソフトも不可欠だ。
金額や数値であらわせない情報を収集し、その意味を分析するためにはロータスノーツやマイクロソフトエクスチェンジのようなグループウェアソフトも必要である。
@管理会計は経営管理に役立つことを基本目的としていることを考えれば、パソコン通信やインターネットを使った外部の情報収集も必要だろう。
表計算ソフトで分析した結果をグラフ化してグループウェアソフトで経営者向けに発信することも考えられる。
どうだろう。
これこそがSISやリエンジニアリングではないだろうか。
道具はある、問題は自己分析だ
現在のコンピュータは道具として十分すぎるほど能力がある。
最新のパソコンはSISやリエンジニアリング、いや管理会計のための道具として非常に発達してきた。
では何が問題なのか?
手品のタネ、企業ごとに確立すべき管理会計のしくみがないことにつきるのだ。
SISでもリエンジニアリングでも行うことは業務改革だ。
現行のやり方を変革してより効率的により戦略的な仕事の方法を新たに作り出すことである。
子供が遊ぶ積み木を考えて見てほしい。
積み上げた積み木が気に入らなければ子供はまた壊すだろう。
SISでもリエンジニアリングの本質はここにある。
スクラップアンドビルドなのだ。
SISでもリエンジニアリングが難しいのはビルドの部分ではない。
スクラップの部分である。
SISやリエンジニアリングを管理会計に置き換えてもよい。
管理会計を実現すためには、あらゆる業務において複式簿記のような標準化された情報収集のしくみが必要となる。
これこそ全社的な計画及び実績情報のデータベース化である。
複式簿記は偉大な手作業時代のデータベースだと考えられないだろうか。
現代の伝票はデータベースシステムやグループウェアソフトが提供するエントリー画面だ。
伝票は必要もないのに作成しても意味がない。
伝票によって収集した情報から業務版の財務諸表を導き出すことが目的なのだ。
企業ごとに確立すべき管理会計のしくみとは、この自社の経営にとって必要な業務版の財務諸表を導き出すことといってよい。
そのために何をすべきか?
それがスクラップの部分、言い換えれば自社の自己分析なのだ。
スクラップが実施できるかどうかがカギ
たくさん売るだけが販売管理で安くつくるだけが生産管理ならば何も企業ごとの業務分析など必要ないかもしれない。
しかし、現実はそうではない。
人の顔がそれぞれ違うように企業の経営課題も千差万別なのだ。
企業ごとの経営理念からスタートし、理想と現状の差の認知、その差を埋めるための課題の発見を経てはじめて、企業ごとの経営課題の達成のための組織化、計画化、ワークフローの編成が実現できる。
管理会計のしくみは努力なしには手に入れられない。
現代における管理会計のしくみがコンピュータの活用抜きには考えられないからといって、コンピュータのプログラマやシステムエンジニア(本来は業務分析のプロなのだが。)が経営課題を発見するわけではない。
この連載を通じてなんども述べてきたことであるが、コンピュータは道具にすぎないのだ。
道具に命を吹きかけなければピノキオは動き出さない。
自社にとっての経営課題の発見及び達成が他人まかせでよいわけがない。
エンドユーザコンピューティングの盲点
ならば社員自らが業務の見直しをすればよいではないかというのがエンドユーザコンピューティングである。
しかし、エンドユーザコンピューティングもまたSISやリエンジニアリングと同じく企業がキーワードに振り回されている感がある。業務の見直しは言い換えればスクラップだ。
自分が行っている仕事を否定できる勇気のある人がどれだけいるだろうか。
業務の見直しには客観性が不可欠なのだ。
業務の見直しにエンドユーザの参画は必須である。
しかし、ラインとスタッフは兼務できないのだ。
エンドユーザコンピューティングと称している情報システムの多くが現行業務の効率化にとどまっている理由がここにある。
患者が自ら自分の体にメスは入れられない。
スタッフは企業にとっての医者なのだ。
コンサルタントは社外スタッフといえるだろう。
病気を直すには医者と患者の双方の能力と努力が必要なのだ。
スタッフ機能を充実させよ
社内における最大のスタッフは経営者だろう。
中小企業の弱点はスタッフ体制の弱さにある。
経営者による意思決定の迅速さは中小企業の長所だが、反面、経営者だけでは綿密な分析や計画の策定は難しい。
しかし、スタッフ機能を社外コンサルタントに求めるのは中小企業こそ不可欠なはずなのに現実はそうではないように思われる。
今後、長年取引先や売上高が安定していた企業においても産業の流動化の影響を多かれ少なかれ受けるだろう。環境変化のきざしはインタ−ネットをしっかり勉強している人には見えているはずだ。
コンサルタントは何も社外だけに求める必要はない。
社内につくればよいのだ。
経理部や情報システム部がスタッフ機能を果たしてきたかといえば疑問である。
彼らの多くはライン業務とスタッフ業務を兼務している。
経理部からは予算や統制機能を資金調達・運用機能から独立させなばならない。
情報システム部からはシステム化計画、評価機能を開発。運用機能から独立させねばならない。
人材が足らないならばスタッフだけを集めて経営推進室のようなコント−ラ部門を一つつくればよい。
スタッフのための人材がいないという会社は社員教育から再スタートだ。
優秀な人材を入社させてこなかった会社は後でじわじわとボクシングのボディブローのように後になってきいてくる。
ルーティンワークを作り出せ
優秀な人ほど現場でライン業務とスタッフ業務を兼務しているのが現状だろう。
自分しか仕事がわからないのだという人も多いだろう。
しかし、走り続けていては今どこにいるのかわからない。振り返る勇気が必要なのである。
あらゆる仕事には計画段階と実行段階と評価段階がある。
Plan、Do、Seeだ。
このうちDo実行段階はルーティンワーク化できるはずだ。
FAやOAなどオートメーションはDo実行段階のルーティンワーク化なのだ。
ではなぜ、ルーティンワーク化ができないのか。
Plan、Do、Seeが分離できていないからである。
一人の人の中で分離できていなければその人は休むことさえゆるされない。
そのような属人的な仕事は悪である。
Plan、Do、Seeが分離できていない場合、 PlanとSeeが機能しているとはいいがたい。
考えられるのは過去に行われたPlanにしたがってDoのみを実施している場合である。
しかし、現実にはこうした属人的な仕事を少数の優秀な社員が切り抜けているのが実状だろう。
中小企業がまず取り組まなければならない課題はこうした属人的な仕事を一つずつ整理していくことなのかもしれない。
共同研究会をはじめよ
自社の業務見直しを実施するのあたってぜひ検討してほしいのが同業種企業による共同研究会の開催である。
社外コンサルタントや中小企業情報センターの活用も何も一社だけで考える必要はない。
自社の業務見直しのためには他社の研究も不可欠である。
類似している点については共同で経営課題を考えることも、解決策の作成も可能なのだ。
これからのインターネット時代においてパートナーを持つ企業は強いであろう。
パッケージソフトはこう導入する
パッケージソフトのメリットは何だろうか。
安価で手軽に短期間で導入できることだろうか。
そう考えて失敗しているケースがいかに多いことか。
パッケージソフトを導入するのはオーダメードのシステム開発よりもむしろ難しいのである。
服を買うときを考えてほしい。
オーダメードならば店員が体にあった服をつくってくれるだろう。
しかし、既製服では自分の体型などをしっかりわかっていないといけない。
安いからといって買ったのに着れなくなった服はないだろうか。
コンピュータのパッケージソフトの場合はもっと大変である。
一目見ただけではわからない。
使い初めてから合わないことがわかることが多いのだ。
パッケージソフトのメリットは安価で手軽に短期間で導入できることに求めては失敗する。
むしろパッケージソフトのメリットはあらかじめ提供されている機能が明確であり、自社に合うソフトを選択できる点にある。
パッケージソフトを選択する場合、Accesなどのデータベース上のものやR3やBaanのようなパラメータでカスタマイズが可能なものがよいだろう。
社内の業務をしっかりと分析して自社にとって必要な管理会計のあり方を明確すれば、パッケージソフトを利用することが可能になるのである。
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