中小企業における戦略的パソコン活用のすすめ
生産管理にパソコンを使う―情報と作業の標準化が必要―
製造業でパソコンを何に使うか
製造業といえばまず思い浮かぶのは生産管理だろう。
しかし、生産管理は非常にあいまいで人によって業務の範囲も中身もかなり異なる。
企業によっては生産計画や生産統制が重要であったり、品質管理や資材管理が重要であったりと、生産管理のカラーが違ってくるからだ。
生産管理の業務はざっとあげてみても、品質管理、原価管理、生産計画、工程管理、生産統制、設計管理、資材管理、作業管理、作業者管理、工具管理、設備管理、現品管理と、広範囲にわたってしまう。
しかし、紙面の関係上、これら生産管理の全てについて論じていく余地はない。
今回は生産管理の中でも特に一般的な業務として品質管理と工程管理について考察していくことにする。
生産管理は製造業だけのものか
ところで、生産管理といえば製造業のものという認識を待たれている人が多いが、実は大きな間違いである。
商品の販売、サービスの提供を業とする企業においても生産管理は行うべきものである。
仕事があるところに生産性の管理は不可欠だからである。
品質管理を作業管理、工程管理はプロジェクト管理、生産計画・生産統制は業務計画・業務統制と置き換えてみれば、どんな業態にもあてはまるはずである。
パソコン活用のヒントはむしろ過去の歴史にある
生産管理へのパソコン活用に話を進める前に、パソコン活用のために基本となる考えを示しておく。
実はその考え方とはパソコンとは無縁だった過去の歴史の中にある。
パソコンとは結局、いかに必要な情報を正しく迅速に大量に収集し、それを分析して我々が今後進むべき方向について指し示す情報を導き出すという情報処理にすぎない。
スーパーマーケットのマーチャンダイザーであればPOSデータを見て売れ筋、死に筋の商品を把握して仕入商品を決めるだろうし、製粉機械のサンプリングが許容範囲外の誤差を生じたら作業担当者は機械をチェックするだろう。
これらは全て情報処理であり、パソコンを始めとするコンピュータはこの情報処理をより高速、高質なものにするために生まれてきたものである。
そう考えるとパソコンの活用における基本的な考え方はパソコンそのものにはないことがわかるはずだ。
「コンピュータを導入すればよくなる。」、「業者にまかせておけばいいだろう。」などと考えているならば、考えを改めた方がよい。
では、情報処理のための基本的な考え方はどこにあるのだろうか。
それは、戦時中の司令本部にみることができる。
江戸時代の商人も見事である。
船頭に風呂を提供し、各地域の生産や需要の状況を船頭たちのは話から察知していた。
戦時中の司令本部では前線からの報告を受けて武器や食料、医薬品を補給する一方、戦闘の状態を判断して部隊をまわしていた。
このとき司令本部に要求される能力は現場の状況を正確に把握して的確なアクションを起こすことにある。
決して劣勢な状況を隠したり、兵士を叱咤することにあるのではない。司令本部を工場長や店長、兵士を営業マン、工員と置き換えてあなたの会社はどうか。
パソコン活用のための基本的な考え方はここに存在する。
パソコンが使えるかどうかは重要な問題ではない。
覚えれば済むことは根本的な問題ではないのだ。
しかし、状況を正確に報告し、的確に判断するという文化が社内にないのであれば問題である。
会社が好調なときに芳しくない状況を報告するのは難しい。
悪い情報を集められなければ負け戦を知ることはできない。
情報は測定できなければ意味がない
情報処理を考える場合、情報は測定できる必要がある。
言い換えればその意味を判断できる価値がなければならない。
最近、インターネットによる情報の氾濫が目に余る。
たとえ情報が山ほど海ほどあっても私にとっては価値を見出せないものは深海の石ころにすぎない。
インターネット上の情報が私にとって価値あるものになるのはYahoo(ヤフー)と呼ばれる検索エンジンを使ってキーワードを指定して検索されるホームページである。
このとき、ホームページはキーワードによって測定可能な情報になったといえる。
しかし、キーワードを登録してくれていないホームページに私が必要とする情報があるかもしれない。
その情報はたとえ存在したとしても、見つけられないかぎりは価値はないのである。
一方、キーワードがついているにもかかわらず、必要とする内容の情報でないものもある。
このように、情報は正しく測定されなければ利用できない。
場合によっては戦時中のように行動を誤ってしまうかもしれない。
生産管理のスタートは情報の測定可能化から
たとえ最新のパソコンを導入しても失敗するときは失敗する。
腕のいいコックも食材が悪くてはだめなのと同じ理屈だ。
生産管理においてもまず着手すべきは情報を測定可能にすることである。
必要な情報を選び出し、その情報がどれだけ価値を持っているかを測定できる単位を与えなければならない。
「よくできた。」、「はやくできた。」、「もうすぐ終わる」では何もわからない。
これらの表現は人によって量的な価値が異なるからだ。
情報には時間や数、金額、回数など絶対的な単位で測定できる情報(定量情報)と、「おいしかった」とか「たのしかった」といった相対的な単位でしか測定できない情報(定性情報)とがある。
しかし、定性情報であっても、価値をランク化や得点化することで定量化することが可能でなる。
ただし、人によって評価が変わらないようにランクや得点基準を設けておく必要がある。
工程管理では作業時間や製造個数は定量情報として活用できるが、品質管理では定性情報を定量情報化する工夫が必要だろう。
生産管理にパソコンを活用する
情報処理の重要性を認識している人ならば黙っていてもパソコンの活用を考える。
オフコンでもない、大型コンピュータでもない。パソコンである。
それほど今のパソコン、Windows95やWindowsNTを始めとするコンピュータの持つ情報処理能力は魅力的だ。
オフコンを使い続けている企業は一度自社の情報処理戦略について見直して欲しい。
オフコンで長年やっている帳票中心の情報処理で十分であるならばパソコンは不要だが、たいていは情報処理の程度が不十分だからオフコンで事足りているだけだろう。
オフコンとパソコンの違いは情報処理能力、もう少し詳しくいえばデータ分析能力である。
最近のオフコンにはオフコンとは名ばかりで中身はパソコンと同じものもある。
ただし、価格の桁は違うかもしれない。
パソコンの持つ情報処理能力をもっと具体的にいうと、表計算ソフトとデータベースソフトの能力である。
表計算ソフトは複雑で大量の計算処理を瞬時にこなすだけでなく、計算結果をグラフ化したり、統計解析して傾向分析や将来予測までやってのける。
データベースソフトは数百万件、数千万件のデータから必要なデータだけを抽出したり、条件に合ったデータの件数や金額などを計算してしまう。
表計算ソフトもデータベースソフトも非常に高性能なコンピュータ能力を必要とする。
一般のオフコンには表計算ソフトやデータベースソフトを搭載するだけのコンピュータパワーはない。
現在の表計算ソフトEXCELやデータベースソフトAccessやSQLServerはCPUがペンティアム、メモリが16メガ以上という数年前の大型コンピュータよりも高性能なパソコン上で動作する。
従来、オフコンでは大量のデータを取り扱うことができないため、日次や週次、月次でデータを最終的に出力する帳票形式に集約していて、元の取引データは利用できないことが多かった。
そのため、開発当初に指定された固定帳票の形でしか情報処理ができなかったのである。
品質管理はここがポイント
品質管理には、検査と統計的品質管理(SQC)と総合的品質管理(TQC)の三つがある。
検査は不良品を発見してそれを取り除くことを目的とし、統計的品質管理は不良品の発生を未然に防ぐことを目的とする。
総合的品質管理は、販売や製品開発、設計、資材、製造、経理など生産に関連する全ての社員の協力によって品質の維持向上を図ろうとするものであり、生産管理の業務の全てにおいて品質管理の機能を持たせることになる。
製造業以外でも総合的品質管理は必要だろう。
統計的品質管理において、収集された品質情報を分析するためにパソコンの導入は大いに役立つ。
収集された情報は多角的な統計解析が行われることになる。
従来、統計解析を行うためには点推定や区間推定といった非常に高度な技術知識が必要だったが、パソコンを使えばそのような技術知識は不要である。
パソコンには専門的な統計解析作業を代行してくれる表計算ソフトや数値解析ソフトがある。
これらを活用すれば専門家なしで品質管理を実施することができるのだ。
次に総合的品質管理について考察してみる。
総合的品質管理は生産管理における全ての業務において品質管理の目的を持たせるものだ。
しかし、全ての業務に品質管理を適用するためには、全社的な観点から品質管理の目標を明確化し、その目標をもとに個々の業務において機能実現されることが必要である。
自社にとっての達成すべき品質管理の目標を明確化するためには、取り扱っている商品やサービスの品質を決める要素は何かを、あらかじめ分析しておかねばならない。
自社の商品やサービスの特性もわからないようでは顧客に対するアンケート調査も実施できないはずだ。
総合的品質管理で特に重要となるのが顧客からのクレーム(苦情)の分析である。
クレームは製造業をはじめとして商品やサービスを提供するあらゆる業種で発生する。
クレームは商品やサービスに対する顧客からの積極的なアピールなのだから、逆に言えば品質管理における重要な情報となるはずである。
クレーム情報の収集と同時に、先のアンケートによる商品やサービスに対する利用感想や改善意見なども収集すれば、より中身の濃い品質情報として利用できるだろう。
クレームや要望などを分析する場合も、統計的品質管理と同じように収集される情報の質が問題となる。
クレーム報告書や顧客アンケートを無目的に集めてもそこからなんの結論も導き出せない。
クレーム報告であればクレームの種類、時期、重要度、対処方法など、クレーム情報を後で体系的に分析できるような項目を設けておく必要がある。
収集したクレームデータの分析にもパソコンが大いに役立つ。
データベースソフトやアンケート分析ソフトを使ってニーズやクレームの発生状況を集計したり、表計算ソフトを使ってクレームの発生状況などを統計的に分析することが可能だ。
表計算ソフト上で利用できる統計解析機能としては相関や回帰分析、Z検定、t検定、χ検定、サンプリング、フーリエ解析、指数平滑などがある。
ところで、クレーム情報や顧客の要望などの情報は品質管理の担当者だけが知っていても意味がない。
社員全員が知っておく必要がある。
品質情報を迅速に伝達し共有できることも重要なのだ。
クレーム情報やその対応方法、原因と改善策などを情報共有するには、ロータスノーツのような文書データベースや電子会議室のしくみを使えばよい。

ロータスノーツでは表計算ソフトで統計解析した結果や分析グラフも掲載することができる。
また、過去に行なった分析結果を蓄積しておき、類似の品質情報を参照することも可能だ。
生産計画はここがポイント
一定の定められた条件から最適な生産計画を割り出すしくみは、線形計画法や微積分などの高度な数学計算が必要なため、従来は大型コンピュータですら困難であった。
しかし、最近のパソコンの表計算ソフトでは線形計画法や微積分の機能をも装備しており、生産計画のシミュレーションも可能だ。
表計算ソフトは単なる電卓ではない。使い方次第で電卓にもなれば高性能ロボットにもなるのだ。
表計算ソフトのEXCELにはシミュレーションのためのソルバーという機能がある。 ソルバーを使えば線形、非線形モデルなど様々な最適化計画計算ができる。
生産計画の策定には作業区単位から工場単位、あるいは全社単位と階層があるが、それぞれの階層における複数の生産計画を統合することも実は表計算ソフトだけで可能だ。
何も難しくはない。
串指し計算や計算式のリンクなどの基本的な機能を使えばよいのだ。生産管理の担当者にパソコンを配備しLANで接続しておけば、それぞれの生産計画の情報を共有し連動させることができる。

工程管理はここがポイント
工程管理は製造業の必須の業務と思われるが、納得できている企業は少ないのではないか。
各工程の作業内容や管理事項は企業ごとに異なり、進捗管理から完了予測、工程組みシミュレーションなど実現したい機能も多い。業者に委託してもなかなか企業のニーズを満足できないのが現実だ。
しかし、工程管理という業務もまた製造業だけに限るものではない。
どんな仕事でもプロジェクト管理として必要な作業の内容と量、完了すべき時期を明確にして、作業担当者や道具、材料、資金をアサインしなければならない。
納期までに仕事が完了し、コストも最小に抑える必要もある。問題は企業や業種によって仕事が千差万別なことにある。
ここでも最新のパソコンを使えば良質で安価な工程管理用のソフトを利用できる。
マイクロソフトプロジェクトなどのプロジェクト管理ソフトがそれだ。

これらのソフトではユーザが自由に仕事の内容や管理項目を設定できる。
進捗管理、コスト分析、シミュレーションが行えるのはもちろん、プロジェクト内の仕事順の入替による必要期間や要員などの自動調整も行う。
プロジェクト内の各仕事は達成度や遅延、発生コストが管理され、次のプロジェクト計画の基礎とすることもできる。
生産統制はここがポイント
作業実績の集計はパソコンLANを導入すれば、リアルタイムに行うことができる。
ただし、ネットワーク接続は必須ではない。
リアルタイム性が低ければ連絡会議や電話でも済むだろう。
業者の中には何をするのかもよく聞かずにネットワークを必須にした提案をするところがあるが、これはおかしい。
ネットワークによる効果が少ない場合は過剰投資になるだろうし、逆に導入したネットワークが不十分で、再投資が必要になることもある。
パソコンLANの構築では業務見積とネットワーク技術の両方について高い能力が要求されるので業者の選定には注意してほしい。
パソコンLANによる作業実績の収集では、会議や電話ではできない発生時点でのリアルタイムな実績の収集が可能になる。
作業手順として標準作業時間や標準生産量が管理されていれば、生産計画と実績結果との差異までリアルタイムに把握することが可能だ。
さらには自分の工程の生産状況だけでなく、前後の工程の生産状況や全社的な生産状況もリアルタイムに把握できる。表計算ソフトとパソコンLANだけで構築したしくみであっても、生産計画と生産実績を計算式連携や串刺し計算によって連携させればよい。
AccessやSQLServerなどのデータベースソフトがあればさらに過去の実績との比較や、実績データをより多角的に分析したりすることができる。
データベースソフトについては「データベースソフトを活用する―オフコンのデータも生き返る―」の章を参照してほしい。
最も重要なことは情報と作業の標準化にあるのだ。
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