情報化相談室

中小企業でもできるデータウェアハウス−データは現場の目を越えるものではない−


 オフコンシステムの新規入れ替えにおいて業者からデータウェアハウスの導入提案を受けているが、データウェアハウスがどのようなものか教えて欲しい。
A.
<データウェアハウスとは何か>
 データウェアハウスとは、受注や出荷、販売や仕入、製造などの日々発生する伝票情報や顧客の個人記録などの生データをコンピュータに記憶させて、業務分析や将来予測に活用して経営上の意思決定に活用することを目的としたしくみである。
 オフコンでは通常、週間・地区別売上高のようにあらかじめ目的別に集計済みのデータを蓄積・出力するのに対して、データウェアハウスでは生データを加工せず、そのまま時系列的にコンピュータに蓄積しておき利用時に自由に条件を指定して多角的な集計やグラフ作成ができるところにデータウェアハウスの持つ最大の特徴がある。
 従来的なオフコンシステムでは、昨今における変化が激しい複雑な現実の持つトレンドをデータから読み取ることは不可能であり、戦略立案を誤る恐れがある。最近では百貨店やスーパーマーケットなどが、商品実績情報に加えて顧客属性及び購買履歴データを使って、顧客一人一人ごとの購買ニーズを割り出して営業アプローチをかけるワン・ツー・ワン・マーケティングを実践し始めている。

<表計算ソフトと何が違うのか>
 従来のオフコンシステムでも売上成績順のランキング表や前年対比などの集計表の出力が可能であり、表計算ソフトにデータを渡せば様々な集計やグラフ作成が可能である。
 しかし、データウェアハウスを使えば表計算ソフトよりも簡単に多角的な集計やグラフ作成を行うことができ、かつオフコンの定型出力帳票のようにメニュー化することも可能となる。
 特に集計やグラフ作成の作業はほとんどマウスだけを使った直感的な操作で済むため、表計算ソフトのように作成するまでが大変ということがない。
 データウェアハウスを使えば試行錯誤を繰り返しながら最も有効な分析結果を見出すことができる。
 表計算ソフトは複雑な集計や統計解析を行ったり、営業報告や生産計画の積上や配賦計算あるいは串刺し計算といったワークシート(集計シート)単位での計算には威力を発揮するが、日々の営業実績の合計をとったり大きいものの順に並べ替えたりする作業を行うには面倒すぎ、また、行数にも制限があり大量データの集計では非常に時間がかかってしまう。
 データウェアハウスではデータベースソフトで格納されている大量データを直接読み取ることができ、しかも操作は直感的である。
 次の画面は廉価版データウェアハウスソフトDataNature2(NJK社)の画面例である。



(データ項目名が自動的にボタンになり、ボタンを押すと関連するデータ項目のみ表示される。車名にはワンボックスカーのみ表示されていることに注目して欲しい。)



(上記の画面で見出し部分の「営業所」と「分類」を選択して「実行」ボタンを押すとクロス集計が自動作成される。「グラフ」ボタンでグラフも自動作成できる。)

<作り込まないコンピュータ活用スタイル>
 私がExcelなど表計算ソフトを活用している人に対して昔から憂慮していることがある。
 それは作り込みすぎて計算結果が本当に正しいのか怪しくなっていることが多いことだ。
 仮に正しいとしても、本当にそれだけの複雑な計算式が必要なのか疑問が生じる。作り込みはどのようなコンピュータシステムにも言えることだが、外部状況が変わっても容易に変更できず、あるいは作ったものを守ろうとしてしまう。
 データ分析者に必要なことは初めにたてた仮定が現実と合わなくなったら、さっさと作った分析装置を見きりをつけてさっさと作り変える切り替えの速さである。
 自社で使っている商品分類や生産基準をよく見てほしい。
 「その他」の分類商品の売上が当初より伸びていないだろうか?中分類項目を大分類項目に昇格すべきほど売上が伸びていないだろうか?
 その反対もないだろうか?
 商品ライフサイクルが短縮化している中、発注・価格変更を決める回転率基準は見直す必要はないだろうか?
 受注実績の変動幅の大きさにかんばんロット生産数は適宜是正されているだろうか?
 顧客ニーズ変化の激しい現代において、ゆっくり意思決定をしている場合ではない。 
 Excelワークシートの見栄えや出力帳票の罫線にこだわっている時代ではないのである。
 百貨店などの顧客データベース担当者は日夜顧客データに対する仮定を立てては検証し、顧客行動の答えを出すために奮闘している。
 やっと見つけた答えも顧客のライフスタイルの多角化、流動化を受けてすぐに陳腐化してしまう。
 今、コンピュータに求められているのは人間の感を高速に検証し、思考を支援する手の速いアシスタントとしての役割なのである。
 (コンピュータは仮定の立案と検証を支援することはできるが、仮定を立てるのも検証できるのも実践経験と鋭い感を持つ人間だけである。)
 データウェアハウスはまさに作り込みすぎをなくし、仮定検証のためのスクラップアンドビルドを実現するツールなのである。

<データウェアハウスは信用できるのか>
 データを使って分析を行う者が絶対に忘れてはいけない鉄則がある。統計解析の結果は投入した入力要素の種類と数によって変わってしまうのである。
 たとえば、データウェアハウスの活用によって顧客購買履歴データから30代女性のあるブランドのハンドバッグが最近非常に好調であるという結果が出たとしよう。
 しかし、これはまだ仮定にすぎないのである。
 まず、30代女性が正規分布の形をとっでをターゲットにすべきかもしれないのである。
 また、好調なハンドバッグについても慎重になるべきである。
 ある特定のカラー、形状、価格帯に集中しているかもしれない。
 平均だけでなく、分散(バラツキ)を見ないと判断できないのである。
 さらに顧客ニーズの流動化の観点からはこの好調が持続的なものなのかどうかについても判断する必要がある。
 短期的な流行かもしれないし、他社類似製品の品不足による代替購買であった可能性もある。
 また、別のスーツとの製品相関が影響しているかもしれない。
 だとすればスーツの在庫数(自社だけでなく市場全体での出まわり数)を無視してハンドバッグの発注数を増やしても売れないかもしれない。
 さらにやっかいなことに発注した頃にはスーツとハンドバッグの組み合わせは流行が沈静化しているかもしれないのである。
 データウェアハウスはこうした一見しただけではその姿が複雑なため、本質を見つけにくい対象について試行錯誤を繰り返しながら答えを見つけ出す作業を強力に支援してくれる。
 操作も簡単であり、計算結果もすぐにグラフ化される。

 しかし、答えはすぐに出てくるとは限らないのである!

>  データウェアハウスを使っている人の中には統計の知識を持たず、さらに現場を見ずにデータだけで判断してしまう人達がいる。
 これは非常に危険である。データを見るには統計のセンス(計算技術ではない)が不可欠であり、むしろ現場をよく観察している人の直感の方が正しい場合が多い。
 コンピュータ業者がたとえデータウェアハウスの優れた点を強調しても、それを使いこウェアハウスは現場感を持つプロを支援するツールとしてはすばらしいものである。
 分析担当者から仮定検証の繰り返しの激務を少しは和らげてくれるのだから。

<誰がデータウェアハウスを使うのか>
 データウェアハウスソフトはパソコンのソフトの中では非常に分かりやすい操作性を提供している。まさにエンドユーザコンピューティングとしての完成品に近いものである。
 社内のパソコンのできる人に任せるのではなく、経営者や役職者など一番データの意味を理解できる人達が使いこなすべきツールである。
 ワープロソフトや表計算ソフトは高機能だが一般のユーザには不親切である。
 コンピュータから出力された帳票や部下が作ったExcelワークシートを見て意思決定を行っている人こそ、データウェアハウスを自ら操って最適な答えを見出すべきなのである。

 データウェアハウスを活用して答えを見つけ出すためには、現場感から仮定を立てて、現場感によって出てきた分析結果を検証することが不可欠なのだから。


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