情報化相談室

2次元QRバーコードはアイデア次第で経営を大きく変える−小面積で大量情報を記録−


 最近、2次元バーコードという新しいバーコードが注目されていると聞いたのだが、どのようなものか教えて欲しい。また、具体的な活用事例があれば紹介していただきたい。
A.
<バーコードより100倍データが入る>
 最近、従来から利用されている縦じま模様のバーコードに代って、2次元QRバーコード(キーエンス社) と呼ばれる幾何学模様のバーコードが使われることが増えてきている。
 2次元QRバーコードの最大の特徴は小さな面積で大量の情報を記録できる点にある。通常のバーコードと同じようにスキャナにかざすだけで(密着させる必要がない)1秒足らずで情報の中身をパソコンなどに取り込むことができる。  その情報量は通常のバーコードと同じ面積ならば100倍近いものであり、英数字で4300文字、漢字で1800文字程度の情報を模様であらわすことができる。

 また、汚れや破損に強く、模様の一部が欠落しても情報を復旧できるという特徴も持っている。
大阪府堺市にあるくら寿司が皿の鮮度管理に2次元QRバーコードを利用しているものもこの汚れや傷に強い理由によるものである。

<2次元QRバーコードとはどのようなものか>
 2次元バーコードとは文字や画像情報をまずバイナリー(0と1)に変換した後、パターン表示したものであり、表示パターンは黒と白のマス目で構成されており、これらのパターンの角度とサイズで情報が表現されている。
 2次元バーコードにはいくつかの方式が存在するが、国内ではデンソーが開発しキーエンスが販売しているQRコードが一般化している。
 QRコードでは表示パターン内に切り出しシンボルと呼ばれる特殊なパターンを設けることによって、360度全方向からの読み取りと高速読み取りを可能としている。

<2次元QRバーコード活用の事例紹介>
 従来バーコードはPOSで利用されるJANコードのようにものの背番号(識別コード)として使われており、さらに詳細な情報はオンラインでホストコンピュータから取り出す方法がとられていた。
 しかし、2次元QRバーコードの場合ではあらかじめバーコード内にものに関する必要な情報を全て記録しておくことができるのでオンラインなどでホストコンピュータを呼出すことができない場所でもいつでも誰でもスキャナがあれば読み出せることになる。
 以下、こうした2次元QRバーコードを活用した先進企業の事例についていくつか紹介する。

■くら寿司社の鮮度管理
 大阪府堺市に本社を置くくらコーポレーションは回転寿司「くら寿司」を大阪府南部にチェーン展開している。
 回転寿司業界では寿司の鮮度が売り物であり、また55分以上放置した寿司にはO157の心配が出てくる。
 くらコーポレーションでは「くら寿司」が鮮度管理を完全に行っていることを顧客に保証するために、2次元QRバーコードを導入している。
 くら寿司では板前が握ったすしをコンベアーにのせる前にその寿司皿に2次元QRバーコードを貼付する。コンベアーの横には固定型スキャナが設置されており、皿が店内を1週して戻ってくるたびに、寿司皿が何分経過しているか計測されるしくみになっている。
 40分経過すると赤ランプとブザーが鳴り、店員に廃棄を促すことによって、1週10分強かかる寿司皿を55分経過以内に廃棄してしまうことを確実している。
 くら寿司が2次元QRバーコードを導入した理由は皿に水滴や傷が付いても読み取れることだという。

■コカコーラボトラー社の賞味期限管理、製品ロット管理
 全国のコカコーラボトラー社では99年中に商品の賞味期限や生産工場やライン、ロット情報を識別できる全社共通の2次元QRバーコードを導入する。
 商品情報には、商品名、賞味期限の他に生産工場、ライン、製造年月日、時間、使用パレットの型番が記録される。
 2次元QRバーコードの導入によって、従来、物流拠点での出荷作業では作業員が伝票をみて賞味期限を確認し、手作業で物流機器に出庫順を入力指示していたのが、物流機器がバーコードを読み取ることによって自動並べ替えが可能となる。
 スーパーなど小売店では賞味期限に敏感な消費者要望にこたえるため、メーカーに対して製造年月日順の出荷を要求している。
 手作業による賞味期限管理を2次元QRバーコードによる自動化することによって、作業効率は劇的にの向上し、精度も高まることが期待されている。
 また、不良品が発生した場合、その発生原因となった工場やライン、パレットを特定することができ、同一パレット、同一ライン同一製造日時の製品を追跡回収することが可能となる。
 この2次元QRバーコードを使った製品追跡のしくみはあらゆる製造業において模倣できるであろう。

■文具卸ユーキ、機械部品商社ミスミのカタログ発注
 大阪市の文具卸ユーキでは、製品カタログに2次元QRバーコードを利用している。
 2万5千点製品を収録したカタログの写真の横に2次元QRバーコードが印刷されており、文具店から注文を受けた営業マンはペン型スキャナで読み取るだけで製品名や色、サイズなど発注に必要な製品情報をパソコンに入力することができる。
 これによって、1品目あたりの入力時間は15秒から1秒にまで短縮したという。
 同じようなカタログ発注のしくみを機械部品商社ミスミも行っている。ミスミでは顧客に発注用の製品カタログをCD-ROMで提供している。
 顧客側はパソコン上で発注商品を選択すして発注数などを入力すると、発注伝票が印刷されるしくみになっている。
 印刷された発注伝票には2次元QRバーコードが印刷されており、ミスミでは顧客からFAX送信されてきた発注伝票を読み取ることによって、受注処理を行っている。
 同様の方法でカタログ発注を行っている企業で2次元QRバーコードが印刷された発注伝票をFAXモデムを使ってパソコンから直接データ受信する方法をとっている企業もある。
 2次元QRバーコードをFAXデータとして自社側コンピュータに受信すれば、そのまま記録された情報を復元することができる。

<2次元QRバーコードの導入コスト>
 最後に2次元QRバーコードの導入コストについて紹介しておく。まず、印刷にはバーコード作成ソフトとプリンターあるいはラベルプリンターが必要となる。
 バーコード作成ソフトはアイニックス社から4万円のほどの低価格製品が出ている。プリンターはグラフィック印刷されるため通常のページプリンタやジェットプリンタでよい。専用のラベルプリンターは日本ブレイディ社から専用ソフト付きで18万9千万で出ている。
 次に入力(読取)には専用のバーコードスキャナーとキーボード入力ソフトが必要となる。バーコードスキャナーはハンディタイプのものでキーエンス社の製品が15万円程度で出ている。
 キーボード入力ソフトはスキャナから読み取ったデータをキーボード入力データとして取り込むソフトで2万円程度で製品がある。

<2次元QRバーコードの活用はアイデア次第>
 2次元QRバーコードをカタログへ情報登録する場合、紙に印刷するだけでよいので1枚あたりの磁気カードやICカードと比べて劇的に安い。
 中小企業では導入コストの高さから顧客カードの作成を行っていないところが多いが、顧客属性情報(氏名、住所、性別、職業、年齢等)を2次元QRバーコード印刷した顧客カードを作成して販売時点で読み取ればいつ誰が何を買ったかという顧客関係情報を入手することが可能となり、商品化計画に利用することが可能となる。
 また、チラシに地域や店舗名、配布日時などを2次元QRバーコードにして印刷しておき、チラシ持ち込み顧客に粗品提供する販促を行えば、チラシ効果を綿密に分析することができるだろう。
 同じようなねらいは製造業やサービス業でも可能なはずである。展示会やセミナーへの案内状に2次元QRバーコードを印刷しておけば来訪社の分析は容易となる。
 2次元QRバーコードの活用はアイデア次第である。従来不可能であった分析も可能になってしまう可能性がある。
 製造業におけるかんばんを利用した工程管理、物流業におけるロケーション情報の管理、小売業における陳列管理などは大きく変わる可能性がある。
 トヨタではすでに2次元QRバーコードを来年度の新かんばん方式に利用することを表明している。
 検査など工程情報や倉庫ロケーション情報の記録による自動化機械の導入が検討されている。
 また、トヨタでは部品メーカーからの納品書を従来OCR(光学式読み取り装置)を使ってコンピュータのデータに変換していたが、これを2次元QRバーコード化することによって、読み取りミスがなくなるとともにOCR専用用紙から一般紙への移行だけで年間数億円の節約になるという。
 物流物流業におけるロケーション情報の管理では、従来入庫保管場所のデータ管理は一般的に行われていたが、2次元QRバーコードによってピッキングのためのロケーション位置情報なども管理でき、ピッキング効率の分析も可能となる。
 小売業における陳列管理でも2次元QRバーコードによって、商品の配置位置(棚など)ごとの回転率を分析することが可能となるだろう。
 2次元QRバーコードの活用はくら寿司のようにアイデア次第で大きな事業戦略になる可能性がある。
 新しい2次元QRバーコード活用事例を増やす企業が多く出てくることを望みたい。



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