情報化相談室

2000年問題対応は万全か−危機管理計画がなければ2000年対応済みとは言えない−


 我が社では、現在、コンピュータの西暦2000年問題に対応するために業者にソフトウェア修正を依頼している。今後2000年問題に対する万全な対応を確保するために実施しなければならない事項について助言願いたい。


<後何回、運用テストが実施できるか−>
 西暦2000年問題についてようやくソフトウェア修正などの対策を講じる企業が増えてきた。しかし、残念ながら西暦2000年問題への対応は現行システムの修正だけで済むような単純な問題ではない。
 まず、順を追って西暦2000年問題に対する万全な対応方法について説明していこう。
 現在、業者に依頼しているソフトウェア修正については、十分な運用テストを実施しておくことが大切である。
 具体的にはコンピュータの内部時計を2000年に設定した上で2000年日付の様々なパターンの入力をテストすることが考えられる。
 しかし、実際にはこのような運用テストを実施するのはそう簡単ではない。
 実運用中のコンピュータと全く同一の機種が用意でき、その上で修正済みソフトウェアをテストできれば問題ないが、実際には実運用中のコンピュータ上で修正済みソフトウェアをテストしなければならない場合が多いだろう。
 この場合、コンピュータの内部時計を2000年に設定変更してテストデータを入力するためには、まず休日等の実運用の必要がない日程を探した上で、実運用データと現行ソフトウェアをバックアップして、修正済みソフトウェアをインストールし、運用テストを実施しなければならない。
 テスト実施後、バックアップしておいた実運用データを戻してテスト前の環境に戻すことになるが、万が一、修正済みソフトウェアに問題があれば、バックアップしておいた修正前のソフトウェアも戻さなくてはならない。
 2000年問題が本当にやっかいなのは、こうした運用テスト実施の困難性にある。2000年元日からさかのぼって運用テストが可能な休日がはたして何日あるか、また業者の都合がつく日程はどれだけあるか把握しておくことが重要であることは理解していただけるであろう。

<今、考えなければならないこと−セカンドソースの準備−>
 運用テストを実施し、修正プログラムに切り替えることができたとしても、まだ西暦2000年問題の対応は十分ではない。
 西暦2000年問題が本当にやっかいな理由は2000年になってみないと本当に大丈夫だったのかわからないという点にある。
 テストはテストにすぎず、本番ではない。本番と全く同じ環境を構築することはできない。また、自社のシステムは修正できていても、取引先のシステムが万全とは限らない。
 そこで、必要となってくるのが危機管理計画の策定である。
 危機管理計画とは発生する可能性のあるトラブルを洗い出し、それぞれに対する対応策を準備しておくものである。地震など災害発生時における避難訓練と同じと考えればよい。

 重要なことは、社会全体における西暦2000年問題の完全な対応は期待できないという事実から逃げずに直視することである。

 自社のシステムも、修正していたにもかかわらず使用不能に陥るかもしれない。「我が社はソフトウェア修正したから問題ない。」と考えている企業が本当は一番危ないのだ。
 障害対策では代替策を用意しておくことが非常に重要である。
 非常口と同じで、一つの出口がふさがれたらおしまいでは危険きわまりない。

 現在、大手企業を中心に、西暦2000年問題の完全な対応のために、昔ながらの手作業による業務処理方法を訓練する企業が増えている。

 コンピュータの処理は本来、社員が手作業で行っていた業務を効率化したものである。

 コンピュータがなければ業務ができない状態になっているとすれば、それ自体、本来問題ある状況と言えるのではないだろうか。
 もし、伝票の起票や集計といった作業が膨大で手作業が困難である場合でも、現行システムを使用せずに業務継続可能な環境を用意することは可能なはずである。
 受発注に関する基本的な伝票処理であれば、市販の販売管理パッケージソフトを利用すればよい。
 「我が社はパッケージソフトで処理できるほど業務は簡単ではない。」などと言っている場合ではないのである。
 緊急避難方法として、今からでも市販の販売管理パッケージソフトを利用した場合の業務方法について準備しておくことを提言する。

 請求書・納品書の発行など一部の事務部分だけパッケージソフトを適用できないか社内で検討すべきであろう

 西暦2000年問題に対する万全な対応は、現行システムが万が一使用不能になった場合でも、業務継続可能なセカンドソース(代替方法)を準備してはじめて実現できるものなのである。
セカンドソースとは現在使用中の情報システム上でトラブルが発生した場合に、代替方法として業務処理するためのピンチヒッター的情報システムである。
 完全な西暦2000年問題対応というものはありえない。本当に対応が万全であったかどうかは西暦2000年になってみなければわからないのである。
 西暦2000年問題に対するセカンドソースの準備は、

 起こることが100パーセント事前にわかっている人災のための避難訓練をしておくこと

と言えるであろう。

<危機管理計画の立案−発生するかもしれない危機的状況を予測せよ>
 現行システムの代替方法を準備しても、まだ万全ではない。
 先に述べたように、取引先側でトラブルが発生するかもしれない。
 VANやEDIを利用している企業であれば、電話回線やネットワークが停止することも考えておくべきである。
 委託先の物流会社の情報システムが停止するかもしれないだろう。
このように考えられうる様々な危機的状況をあらかじめあらかじめ洗い出しておき、対処方法を準備しておくのが危機管理計画である。
 代替不能な危機的状況に対する対処方法は損害保険などへの加入しかないかもしれない。
 場合によっては、受注、出荷のストップも必要となる場合もあるだろう。
アメリカでは年末が近づくにつれて、安全在庫を増加させるために、前倒し発注を実施する企業が増える可能性があることが指摘されている。
 トラブルの発生可能性が高い年末から年始にかけてできる限り業務処理をしないで済むようにしておこうという危機管理計画の存在がそこに見え隠れしている。
 請求処理や棚卸などの業務処理はできるだけ年を越さずに、緊急避難的に年末で締めてしまうことも検討すべきであろう。
西暦2000年問題において、事前に検討しておくべき危機事項には以下のような項目があるだろう。
 なお、パッケージソフトの活用方法は重複するため省略している。

○注文入力ができない、注文データが受信できない
 <考えられる対応策>電話、FAXによる注文受け、手書き伝票による受注
○在庫照会ができない
 <考えられる対応策>商品有高リストの事前プリントアウト、パソコンデータ出力
○納品書、請求書が発行できない。
 <考えられる対応策>納品書、請求書の手書き、表計算ソフトなどによる印刷
○売上集など実績が正常に集計できていない
 <考えられる対応策>注文書、納品書、請求書などの手集計、表計算ソフトなどによる集計
○手作業のため、当日中に事務処理が終わらない
 <考えられる対応策>取引先への連絡報告、他部署からの応援依頼(事務方法の事前教育)
○物流センターの情報システムがストップして入出荷業務ができない
 <考えられる対応策>本社あるいは倉庫業者に予備在庫を準備しておく

<危機管理計画は日常における必須科目>
 スーパーマケットでもしPOSレジが停止したら、閉店するだろうか。
 清算待ちの顧客の行列にどのように対応しなければならないだろうか。
 POSレジには通常、回線やホストコンピュータが停止した場合でもローカルに実績データを蓄積しておき、障害復旧後に一括データ送信する機能を有している。
 機械自体が故障した場合は、最悪POSデータの取得が収集できなくても、電卓さえあれば清算は可能である。
 コンピュータが機械である以上、故障は付き物である。
 実は危機管理計画は西暦2000年問題がなくても本来立案されていなければならないものなのである。
 コンピュータ上の業務データをしっかりバックアップできている企業は少ない。
 バックアップを実施している企業でも磁気テープなどの記憶媒体が不良発生しており、復旧できない状況にある場合も多い。
 バックアップは少なくとも正副2本必要であり、万全な対策のためには3世代管理しなければならない。
 コンピュータへの依存度が高い企業になればなるほどこうした危機管理計画の立案、実施が不可欠なのである。
「コンピュータが止まったら仕事ができない。」「止まったら大変だ。」「なぜ止まったんだ。」「今度止まったらどうしよう。」
何か根本的な問題がそこにはないだろうか。
「会社の中で仕事のできる誰かが急に病気で休んだらどうしたらよいだろう。」「交通ストで会社に行けない。」
これらはみんなリスクと呼ばれるものであり、リスクは事前に避けられるものから避けようがないものまで様々なものがある。
 コンピュータが故障したり誤動作したりするのもリスクの一種である。
大切なのは起こるであろうリスクを把握し、それぞれに対する対策を考えることである。
リスクに対する対応策には二種類ある。
 リスクの発生を完全に防ぐ、あるいは完全に代替できる方策をフェイルセーフ、リスクの発生による被害を最小限に抑えるフェイルソフトと呼ばれる方策である。
 フェイルソフトとは一台のパソコンで行っていた業務に対してデータをバックアップして後で復旧できるようにしておくこと、フェイルセーフとは常時もう一台のパソコンを用意しておき、障害発生時に業務ソフトをインストールして使用する場合などが例としてあげられる。
 専用回線で接続したパソコンで専用回線に異常があった場合には、通常の公衆電話回線に切り替えたり、場合によっては車でデータを取りにいくことという代替手段もあるだろう。

 危機管理計画はあらゆる企業において不可欠なもののはずである。
 西暦2000年問題への対応を好機として考えて緊急時における業務マニュアルの整備など適切な危機管理計画の策定を図っていただきたい。



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