情報化相談室

21世紀はサプライチェーンマネジメントの時代−グローバルスタンダードにはわけがある−

 最近、多品種小口生産(販売)の時代を切り抜けるための戦略として「サプライチェーンマネジメント」ということばをよく耳にするが、その意義について教えていただきたい。
A.
1.サプライチェーンマネジメントとは何か
 サプライチェーンマネジメントとはメーカーと流通とが販売情報や需要予測といったデータを互いに共有し、原材料の調達から生産、物流、販売を一体化することでモノの流れを合理化・効率化しようというものである。
 この流れを変えることによって、在庫を減らし、欠品をなくし、タイムリーにモノを届けることが可能となる。
 具体的には、これまで部門ごと、あるいは企業ごとの最適化(部分最適)にとどまっていた情報や物流、キャッシュに関わる業務の流れをサプライチェーン全体の観点から見直し、情報の共有化とビジネス・プロセスの抜本的な変革を行うことにより、サプライチェーン全体の商流、物流、金流の効率を向上(全体最適)させようとする経営戦略である。

2.従来の在庫管理や生産計画との違い
 サプライチェーンマネジメントが従来の在庫管理や生産計画と大きく異なる点は、生産設備の能力や資材供給会社の供給能力、販売会社の販売能力といった制約条件を考慮した最適化を行うところにある。
 販売から物流、生産、資材調達まで製品に関する全ての活動についての情報を収集し、ボトルネックの発見、ボトルネックのスピードに合わせた全体最適のための計画の発見を行う。(制約理論)
 その結果、売れるものはすぐに増産し、売れなくなったものはすぐに減産するというアジル(俊敏)な経営を実現することができる。
 また、ボトルネックに対する迅速で集中的な対応を実施することによって、常に外部環境に対して最適な体制を保つことができる。

3.サプライチェーンマネジメントの動向(事例)
(1)デルコンピュータ
 顧客と部品供給会社にそれぞれ専用のホームページを用意し、顧客に対しては商品情報や納期・配送情報の提供、注文受付けを、部品供給会社とはデル社から顧客や販売の動向、生産計画、需要予測、生産進捗状況、部品在庫などの情報発信、部品供給会社から部品の納期や価格、供給能力、生産進捗状況、生産計画などの情報発信を行っている。
 また物流情報はフェデラル・エクスプレス社と共有することによって、受注から生産、物流、資材手配まで一貫した管理体制を実現した。
 効果として受注後5日で顧客に納品できるスピードを実現し、仕掛品や部品の在庫日数は7日、在庫回転率は年間52回を達成した。(業界の一般値は在庫日数50〜90日、在庫回転率は年間5〜7回)
(2)平和堂
 日清食品や味の素社など10社の食品メーカーとCRP(連続自動補充方式)を採用し、在庫・配送コストの削減と品切れ防止の同時実現を果たした。
 平和堂では店頭での売れ筋や消費者動向、実在庫状況、商品プロモーション情報などをメーカーに提供し、メーカー側がこれらの情報をもとに需要予測を行い、出荷量、配送日時などを自動計算する。
 効果として、配送コストの20%減、在庫日数20%減を実現している。
(3)アサヒビール
 スーパーやコンビニなど数千件の店舗からのPOS情報、卸の在庫情報、営業担当者(マーケット・レディ)が収集した鮮度情報などを元に需要予測を行い、3ケ月単位の生産計画・資材計画を立案(週1回見直し)、各工場への生産内容振り替えが行われる。
 資材メーカーとはエクストラネットを通じて資材調達計画を発信し、資材メーカーからは最新の資材在庫情報が送られてくる。
 効果として、生産から卸(特約店)までの配送日数を平均10日から4日まで削減した。

4.サプライチェーンマネジメントの構成要素
(1)情報共有のためのCDB(共通データベース)構築
 サプライチェーンマネジメントでは部門間や企業間で連結した意思決定を実現するために共通の判断材料が必要となる。
 具体的には流通側との共通製品コードを採用した共通実績データベースの構築、資材調達側との共通資材コードを採用した共通実績データベースの構築が必要である。
 従来、多くの企業において構築されてきたデータベースやグループウェアでは企業活動において必要となる意思決定のための支援情報を必ずしも業務全体(企業内、企業間)の整合性を確保して提供してきたわけではないことに留意すべきである。
 (2)業務標準化のためのERP化、ISO9000対応
 サプライチェーンマネジメントを実現する場合、部門間、企業間で共通のビジネス・ルールを適用する必要がある。
 意思決定における判断基準(定量的基準、定性的基準)の相違や、業務遂行における仕事の出来映え評価基準(品質、生産性)が異なっていては意思決定の連鎖は不可能である。
 ビジネス・ルールの共通化の実現や適用基準に対する信頼性の確保のためには、ERPによる業務システムの最適化(必ずしもERPが不可欠ではないが)、ISO9000の認証取得が必要となる。
 サプライチェーンマネジメントの実現の観点からは、品質管理システムもまた全社的なPlanDoSeeを実現するために情報システム化されていることが要求される。(認証取得だけを目的とした品質管理システムは全体を考えない部分最適にとどまるものである。)
(3)業務連携のためのイントラネット、エクストラネット構築
 サプライチェーンマネジメントでは部門間、企業間で電子メールやワークフローによる意思決定の連鎖(エクストラネット)が行われることとなる。
 そのためには、各組織における責任と権限の明確化が不可欠となる。
 グループウェアによる社内における意思決定の連鎖をインターネット技術を利用して企業間にまで広げていくことが必要である。
 また、社内においても部門間で独立している意思決定を部門間で共有するためには、まず部門間で共通化できる営業や物流、購買などの業務部分を発見し相互に認知することが先決である。
 そのためには、グループウェアの適用も部門の壁を超えたイントラネット(情報共有)を実現することが必要となる。
 業務の標準化と必要情報の提供が実現された企業間におけるエクストラネットでは、もはや通常の受発注業務はホームページや電子メールによって処理されるため、御用聞きの営業マンは不要となる。
 営業マンには機械が太刀打ちできない商品コンサルタントとしての能力が要求されるようになるだろう。(ファームバンキングのスタイルがあらゆる業種で登場するはずである。)
(4)需要予測、供給計画のためのSCP導入
  サプライチェーンマネジメント構築の主役となるのがSCP(サプライチェーンプラニングソフト)である。
 代表的なSCPにはi2テクノロジーズ社もRHYTHM(リズム)やマニュジスティクス社のManugisticsなどがある。SCPは大別して三つの機能を持っている。
 @需要予測、A生産や物流計画、B納期回答の三つである。
 @需要予測機能では過去の販売データを基本にプロモーションなど販促効果の考慮、季節変動を織り込んだ統計解析といった様々な機能を駆使したデータ予測を行うことができる。
 A生産や物流計画機能では工場の生産能力や部品や資材供給状況など制約条件を考慮した計画立案が可能となっている。従来のMRPと比べて高速、同時処理も特徴として持っている。
 B納期回答の機能では単なる製品在庫の出荷予定ではなく、仕掛品や未着手分についても資材調達スケジュールや生産工程能力の空きなどをチェックして納期を求めることが可能となっている。
 (5)業務スピードアップ、コストダウンのためのBPR実践
 サプライチェーンマネジメントの構築では、最新の情報技術の活用が不可欠であると同時に、情報技術の活用によって意思決定や業務フローのスピードアップや機能強化が必要となる。
 場合によっては、従来存在した意思決定フェーズを省き、ビジネスサイクルを短絡化することもありうる。
 以上のように、サプライチェーンマネジメントの構築ではBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の実践抜きには不可能であるといえる。

 5.グローバルスタンダードにはわけがある
 前述したように、ISO9000の認証取得も品質保証部門だけの部分的な問題ではなく、業務全体あるいは企業間取引におけるサプライチェーン全体の最適化のために必要となるものである。
 認証取得自体に目的を置いてはおかしなことになる。
 また、国際会計基準もサプライチェーンマネジメントの実現のために必要となる考え方である。
 営業部門における販促活動も、物流部門における安全在庫の保持も、製造部門における原価低減も皆、自部門だけの最適化を考えているにすぎない。
 現在の財務諸表では、不利な入金条件の売上も、陳腐化した製品在庫も、在庫化されるだけの大ロット生産も皆、良好な指標として見えてしまう。
 国際会計基準では企業活動全体のスループットとして生み出されたキャシュフローだけをプラス対象とし、企業のキャシュフローに悪影響を与えるだけの活動は全てマイナスとしてみる。
 国際会計基準はサプライチェーンマネジメントを実施していく上で不可欠となる最適化計画・統制のためのしくみなのである。

6.全ての情報化の基礎戦略としてのサプライチェーンマネジメント
 現在、あるいは今後推進される情報化においては、その実施意義を自社における全体的な最適化に貢献するものであるかという観点から評価すべきである。
 決して、情報化を理解することが困難なものとして考えてはいけない。
 道具としてのコンピュータは最新技術を駆使した複雑な機械であるが、コンピュータにさせる仕事は経営者も含めた社員が行う業務の代行あるいは支援であることを理解して欲しい。
 裏返せば、現在手付かずの業務の中にコンピュータを活用することによって、大きくサプライチェーンを改善するかもしれない。


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