情報化相談室

提案要求書の作り方
−ユーザニーズは明確か−

 現在わが社では2000問題の解決に向けて、オフコン上で動いている業務システムの再構築を検討している。
 新システムでは単なる2000問題の解決だけでなく、現行のシステムにない新しい機能の追加も考えている。
 また、新システムはパソコンシステムで構築したいと考えており、委託業者については既存システムの構築業者に限らず広く募りたいと考えている。
 この場合、複数の業者に我が社の意向を伝え、その中から最適な業者を選択するためにどのように進めていけばよいのかご教授願いたい。

 従来、情報システムは箱売りと呼ばれ、ソフトウェアはハードウェアに付属する形で売られることが多かった。
 しかし、本来、情報システムの主役はソフトウェアであり、パソコンシステムが主流となってきた現在ではソフトウェアの重要性はますます高まってきている。
 ソフトウェア中心の情報システムでは、まずユーザニーズを解決するためのソフトウェアが設計され、設計されたソフトウェアを最適に動作させるためのハードウェアが選定される。

 はじめにありきはユーザニーズであり、ソフトウェアでもましてやハードウェアではない。

 今回の相談ではオフコンシステムを再構築し、従来実現されていたシステム機能はもちろん、ユーザが必要と考えている新機能についても実現しなければならない。

 業者選定においてまず、第一に評価しなければならないのがこのユーザニーズの実現性である。
 第二に評価すべき事項は資源配分の最適化である。同じユーザニーズの実現であっても、コストや開発期間など必要となる社内資源の少ない方が有利となる。
 しかし、多くの事例においては業者の選定において第一のユーザニーズの実現性の評価が甘く、安易に第二の価格の安さや開発期間の短さだけで判断して、失敗しているケースが非常に多い。

 製造業者が生産設備を購入する場合、価格の前に生産処理能力や、操作の容易性、取り扱い上の安全性など十分にチェックしているはずである。
 情報システムの場合、情報システムの内部構成がよくわからないため、十分にチェックされないことが多いが、情報システムも生産設備の選定時チェックと同様に、ユーザ側が情報システムの外側から見た製品としての特性についてチェックすることが必要なのである。

 入力画面や提供される出力帳票の種類など、情報システムの外側から見た製品としての特性を設計する作業は外部設計と呼ばれ、情報システムの形を決める最も重要な開発作業である。
 業者を選定する場合、情報システムの外部設計を明確に提示できない業者は論外である。
 ハードウェア構成やソフトウェア開発の工数見積もりは情報システムを実現するために必要となる資源配分上の検討項目であり、情報システムの姿を決定する外部設計抜きで決定できるものではない。

 業者が外部設計を適格に行うためにはユーザ自身がまずユーザニーズについて整理しておくことが不可欠である。
 複数の業者から開発業者を選定する場合、業者ごとに説明する内容が異なっていては正当に業者を評価することはできない。
 業者を選定するために必要となる外部設計は比較的ラフなもので十分である。
 画面や帳票などの細かい内容については開発が始まってからプロトタイピングなどの手法を使って詰めていくのが普通である。重要なことは、新たに構築する情報システムが実現すべきユーザニーズを業者とユーザ間で確認することであり、またその実現のために必要となるコストなどの正確な算出を行うことにある。

 電化製品を購入する場合、POPやパンフレット、あるいは店員の説明やデモから自分の欲しい機種を選定するだろう。
 その場合、自分が買いたい製品のイメージをはっきりと持っていれば不必要な機能を持った高価な機種や、機能が不足している低価格商品の説明を聞く必要はなく、自分が欲しいと思っている製品の候補についてだけ十分な情報を得ることができるだろう。
 高くても困るし、安くても必要な機能を持っていなければ候補にもならないはずである。

 情報システムの構築の失敗のほとんどはユーザニーズの不明確さに原因がある。

 価格交渉する場合においても、どの機能を優先してどの機能を削除するかなどの折衝もユーザニーズが明確でないとできない。
 不必要な機能のためにコスト高になったり、事前分析が不充分なために必要な機能を見落としてしまうことなどが多くの情報システム構築の際に起きる問題である。

 では、業者に対してユーザニーズをどのように提示するのがよいのであろうか。
 ユーザニーズは文書化して提示することが必要である。システム構築の業者選定のために作成されるユーザニーズの定義書は提案要求書あるいは要件定義書と呼ばれ、情報システム部を持つ大企業では策定されることが一般的である。
 提案要求書を提示された業者側はユーザニーズを把握し、最も効果的なユーザニーズの実現方法をパッケージソフトの利用やシステム開発などの形で検討し、最適と思われるソフトウェアやハードウェアの構成を決定する。
 その結果として必要コストの割り出しが行われる。

 情報システムの構築において業者選定に失敗する例としてよく耳にするのが、安価な見積書を提示した業者を選定したところ、運用後にプログラムミスが多発し、バックアップやディスクの二重化対策もなく、マニュアルすら提供されないという話しである。
 特にパソコンシステムを構築する場合、データベースシステムやネットワーク環境の設計及びチューニングといった直接ユーザニーズに関係しない部分においても情報システムの信頼性、安全性という観点から留意しておく必要がある。

 ユーザニーズの取りまとめにおいては、直接的なユーザニーズである実現機能の有効性だけでなく、効率性や信頼性、安全性、将来的な戦略性などについてもユーザニーズの項目として明記しておかねばならない。
 以下、提案要求書として記述すべき内容について列記する。基本的に提案要求書において記述すべき内容は情報システム構築に関する5W1Hである。

1.企業概要
 事業所数や従業員数、事業の内容など情報システム構築において前提条件として知っておくべき内容について記述する。

2.情報システム化の業務範囲
 全社業務をサブ業務に分割し、情報システム化を図る業務範囲を明確にするとともに、システム化対象外のサブ業務との関係(データの受け渡しなど)について記述する。情報システムが受注や請求、納品などのサブシステムで直接他社とデータの受け渡しを行う場合にはこれも明記する。(例 FAXによる受発注)

3.情報システム化の事業所範囲
 データ入力やデータ出力を行う事業所の範囲を記述する。

4.情報システム化の業務概要
(1)業務内容
 情報システム化対象のサブ業務について、その難易度がわかる程度の概要を提示する。たとえば、業務フロー、伝票や帳票の種類及び内容など。

(2)業務処理量
 注文や製造指図など取引発生件数(伝票数や、顧客及び取引先の種類などシステム化対象業務の量的サイズを事業所別に明確化する。

5.実現すべきシステム機能
(1)有効性、効率性に関する事項
 情報システム化対象業務について効率化や迅速化など改善を図りたい機能について記述する。たとえば受注時における伝票処理の迅速化及び正確化や、実績情報の対前年比較や時系列比較や相対比較、指標比較による実績把握の有効性向上など。
 作成を希望する画面や帳票のイメージがあればこれも記述する。(情報は提供すればするほど業者から提出される提案書や見積書の内容は正確となる。)

(2)信頼性、安全性に関する事項
 多くの場合、検討されないのが情報システムの信頼性、安全性に関する事項である。情報システムの運用後、安全かつ円滑に業務が遂行されなければ無意味である。情報システムの信頼性、安全性を実現するためには、コンピュータの二重化やデータのバックアップなどの対処方法が必要となるが、保険と同じでどこまで必要か検討しておく必要がある。また、障害発生時における復旧方法など運用後における業者のサポート体制も問題となる。

6.情報システム構築の時期
 2000年問題がからむ場合、伝票など取り扱う日付が2000に達する前にシステムが完成しなければならない。手形や納期など先付け日付が発生する場合、システム構築の時期を早める必要がある。

7.情報システム構築のための原資額
 パソコンショップで「ご予算はいくらですか?」とまず聞かれるように、情報システム構築においてもある程度実現可能な予算額について提示しておいた方がよい。あまり具体的に提示してしまう必要はなく、××××万円から××××万円と範囲指定でよいだろう。

8.提出すべき成果物
 構築すべきシステムそのものは当然として、運用マニュアルなどを提示しておかないと提供してくれない業者がある。

9.提案書に記述すべき内容
 業者から提出を受ける提案書の内容について定義しておく。具体的な項目は以下のとおり。

(1)システム機能の実現方法
(2)ハードウェア及びソフトウェア構成
(3)システム開発期間
(4)システム開発価格と算定基礎
(5)サポート体制

10.選定基準
 業者から提出を受けた提案書についてどのように選定するのか提示しておく。単に価格だけではなく、提案されたシステム案の善し悪しなど総合的に評価するとしておくべきであろう。

11.提案書提出の期限と回答時期
 数度のヒアリング調査の後、2、3週間後を提案書提出の期限とし、その後2、3週間後を回答時期とすればよいだろう。



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