久慈地下水族館「もぐらんぴあ」

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※入館.



岩手県は久慈市の海沿いから100mほど離れた里山麓にあるこの水族館、入館前はその名前から
なんとなく丸っこくて可愛らしいイメージをもっていたのだが、それは入館してものの5分で裏切られた。

真名こそ「もぐらんぴあ」なれど、その副名においては「久慈国家地下石油備蓄基地トンネル利用施設」、
またの名を「久慈地下水族科学館石油文化ホール」と大層にも程があるネーミングを誇るだけあり、中の趣きは
他の環境系水族館とは一線を画す圧倒的「工業」系。もともと石油備蓄基地だった地下トンネルの未使用空間を
強引に水族館へ仕立てあげただけあって、その空気にはかなり異質なものを感じた。



てゆーか怖い。ファーストインパンクトとして最も重要視される入り口付近の展示物にいきなり首長竜、
でもって傍らの通路には無造作に積み上げられたドラム缶の山て、怖いわ。その意図を見てみたら、
ドラム缶はともかく恐竜の方は「地球史展」のイメージ・キャラとして展示されたものだった。

その地球史とやらの説明によると「
地球の歴史を1年に置き換えてみると生命の誕生は3月29日、
そして人類が誕生したのは12月31日になります。私たち人類の文明の歴史は長い地球の歴史の中では
僅か35秒にすぎません
」だそうで。冒頭からいきなり「火の鳥」ワールドへと半強制的に誘われてしまい、
「生きる死ぬ?それがなんだというんだ、宇宙の中に人生などいっさい無だ、ちっぽけなゴミなのだ…!」と
我王ばりに呟かざるをえなくなる。出だしから宇宙規模の哲学論を問いかけてこようとは…
「もぐらんぴあ」畏るべし、である。


※哀愁のどきどき☆アニマルぱにっく.



哲学する水族館、これは気を引き締めねばならぬと神妙な心持ちで進んだその先にあったのは
「ハム・モル・ふれあいランド」なる、小動物お触り放題の変則「磯コーナー」だった。
そして「ハムスター」「モルモット」の愛くるしさを前に、子供そっちのけで狂喜乱舞するマダム達。
だがその気持ちは分かる、こいつらときたら、まったくもってけしからぬと呟かざるをえないほど、
筆舌に尽くしがたいほど可愛いすぎるのである。

ふと気付けばメインたる魚類のことなど忘れて、10分ほどハムを弄り倒してしまっていた。
特にそれを両手にすっぽり納めての甘軽い圧縮プレイ、その肌さわりから伝わってくる心地よさはまさに格別である。



更にけしからぬことには「ミニブタ」「プレーリードッグ」などのちょい亜種な小動物系も展示されており、
特に後者の丸っこいフォルムから放たれる哀願オーラは脅威的ときたもんで、またもや甘酸っぱいタイムという
名の徹底観賞に時間を食われてしまうことに。


※憂愁のカブトムシ達.



ハム・モルらの攻勢により本来の目的を見失う寸前まで追い詰められ、これは褌の緒を締め直さねばと
気分も新たに向かったその先にあったのは、「カブト・クワガタ大集合」コーナーだった。

小動物の次は昆虫ときたか。ここにきて流石に不安になり、もう一度パンフレット上の文字を確認してみる。
うん確かに「水族科学館」とある、大丈夫… の筈だ。頭の中の不安を追いやり、かつては小学生男児のロマン、
今や甲虫マニアのドリームたるそのムシキングな姿をしばし眺め、そしてまだ見ぬ魚類を追い求めて先へと進む。


※強襲のトカゲ王国.

追い求めた結果、何故かトカゲ軍団に強襲される羽目となった。
哺乳類、昆虫ときて、とうとう爬虫類の登場と相成るとは。そろそろいい加減にしろといいたくなるが、
まあこの手の混合展示は動物園併設の水族館にはありがちな手法であり、まだ目くじらをたてる程ではないと
思いなおす。



左はアラビア居住の「エボシカメレオン」、特徴的なヘッド形状から「ヘルメット・カメレオン」とも呼ばれるそう。
その流通数の多さからペットとして飼育されることもよくあるそうだが、元来爬虫類、その中でも特にカメレオン飼育には
かなりの準備と注意、そして気遣いが必要となるらしく、簡単に手を出してはいけないものらしい。

で、右側のは中米出身、驚くと水面上を走ることでも有名な「グリーンバシリスク」。
エメラルドブルーの体色が極めて美しく、その姿形の見映えが利いているわりにかなり安価ということで、
カメレオンの中では特に人気が高い種だそう。ただガラス越しにこちらをシャーシャーと威嚇するその姿を見ている限り、
見る分にはともかく飼おうとは絶対思わない。


※魚類…魚類はいずこ… そして、そこにない憩い.

更に奥へと進んだその結果、遂には3面マルチスクリーンを備えた立派なシアターコーナーが目の前に現れた。
水族館関係ねー。もはや気分はすっかり「よかろう、ならば戦争だ」である。ただその内容が魚類に関連することなら
水族館としてのニッチをまだ損なうものではないと思いなおし、そのミニ映画を少しばかり鑑賞してみることに。



「アンドロメダより愛をこめて」という、魚類と絡めるには若干壮大すぎる題名を見た時から
なんとなく不安には思っていた。そしてまさかの戦隊系もどきが登場した瞬間、全てを諦めた。
案の定、興味ない石油備蓄用タンクの説明を延々15分聞かされた。魚類、全然関係ねーわ。



「びっくりするほどユートピア!」な気分を癒すため、憩いを求めて近くを彷徨う。
と、通路の片隅にそれ用途ストライクなソファーを発見、しかして休憩コーナーに付き物のアート・インテリアに
石油備蓄用タンクの特大フォトを採用したそのセンスには驚嘆せざるをえない。
何故かエネルギー問題に想いを馳せなければいけない様な気分になり、どこかもじもじしながら幾ばくかの時を過ごす。
うん、憩いというより怖い。結論としてこの場所はあまり憩いに向いていないことが判明したので、
一旦入り口まで戻って本来のそれと思わしきスペースにてネジの巻き直しを計るも、一等地は既に占領されていた。

もはやここに憩いはないのだ、ならば先へ進むしか。なにか魚類観賞らしからぬ探検気分になってきた。
つまりここの「ようこそ地底ワールドへ!」のアドベンチャーなキャッチ文句に嘘偽りなしかと思われる。


※館内散策.

ちなみに水族館本館はこれまでのトンネル通路と平行に走る、もう一つ別のトンネル空間にあった。
ぶっちゃけ入り口から普通に観賞していったら魚の姿を見るまで少なくとも20分はかかると思われるが、
壮大な前座を楽しめると解釈すればそう悪いアイデアでもない。
但しあくまでメインが前座を上回る魅力を持っていれば、の話であるが。



さて、ここからが本番。パッと目についた魚を4点ほど紹介してみる。
左のは南オーストラリアの浅い海に棲むタツノオトシゴの仲間「リーフィシードラゴン」、
外敵から身を隠すための葉っぱ上の突起が個性的で面白いので、最近ではこれを展示している水族館も
かなり増えてきたと聞く。そういう意味ではこれの亜種の「ウィディーシードラゴン」の方がレアかもしれない。

で、右のが「サギフエ」。体調の約1/4 を占めるクチバシのような長い吻が最大の特徴。
これを使ってエサを突っつく様は大層ラブリーらしい。ただ、ピンクな体色も含めてパット見、
イチジク浣腸にしか見えないそのフォルムは、もう少しなんとかならないものだろうか。



続けていこう。左の愛嬌満点なツラ構えしてるのは「イザリウオ」。
尾びれを餌のように見せて獲物をおびき寄せたり、環境によってその体色を変えたりする、なかなか芸達者なお魚さん。
ちなみにここ近年、足が不自由になった様をさす「イザリ」と言う言葉が差別用語に当たるということで、
名前が「カエルアンコウ」に変わったらしい。実際こいつが水底を不器用に歩く様はまんま「イザリ」なので、
その辺りも問題になったのだろう。

さて右いってみよう。バイカル湖に次ぐ古代湖とされ、その広さは世界5位、深さは世界2位を誇るアフリカは
タンガニイカ湖に棲息する「キフォティラピア・フロントーサ・ブルーザンビア」。
白と紫の美しいストライプにツンと張り出したオデコが際立って目立っていた。この湖の固有種ということで
かつてはかなり高価だったようだが、養殖物が出回るようになってから著しく値段が下がったとも。


※妙計の磯コーナー.

魚に餌をやるというコンセプト的には磯コーナーとしての範疇をはずれていないと思うのだが、
特殊な水槽を使用することでその手段に新機軸を取り入れているコーナーを発見。



この「ふれあい水槽」、サイドに空いている穴から魚に直接餌をやることが出来るのだが、
密閉型水槽の筈なのに横穴から水が溢れてこないというのはよくよく考えると不思議であり、
実に違和感のある光景であることがお分かり頂けると思う。



説明文によると水漏れしないその理由は、密閉した水槽上部の空気を真空ポンプで抜いて空気圧を減らし、
大気圧と水槽上部圧力の差により、水槽内の水を上に向かって吸い上げているからだそう。

まあ難しいことはどうでもいいが、その横穴にスッポリ入った魚が外を伺う様は実に妙景であり、
それを見たいがため、しばらくこの水槽に釘付けとなった。地味ながらなかなかに面白い工夫だと思う。
これを製作した「荏原製作所」という社名、覚えておいて損はないかもしれない。


※骨抜きハードテイスト、再び.

「加茂水族館」が起こした、水族館展示におけるクラゲ革命のムーブメントは、ここ「もぐらんぴあ」にも
しっかり波及していた。



傘の下にある8本の口腕が特徴の左の奴は「カラージェリー」、クラゲ展示においては最もポピュラーな存在であり、
おそらくメトロイドの原型。本来なら色とりどりの複数が水槽内をゆっくりと跳ね回る様が面白いのだが、
光源の関係で引きがうまく撮れなかったので、ここは接写による肉感をお楽しみいただきたい。

で、右のが「ミズクラゲ」。これまた汎用型、クラゲ界隈におけるザクのような存在。
一般的にクラゲと言えば浮くものと相場が決まっている筈だが、こいつは水より比重が大きい為、
パルセーションと呼ばれる傘の収縮運動をやめると、自然沈下していくクラゲ界の粗忽もの。
まあクラゲも人間も浮き沈みが激しいよりはマシか。ちなみに刺された場合のイター指数は「今なにかしたか?」
レベルのC級。



大型でカラフルな装いと傘の周りについている無数の触手が人目を引く、こちらの左のは「ハナガサクラゲ」。
刺された場合のイター指数はB級であり、しかも昼間は水底に沈んでいるためうっかり踏んでしまうことも多いので、
一部ではクラゲ地雷の異名をとるとも。

で、ピンクがかった体色とマモー最終形態の脳幹ばりな触手がグロ美しい、右のは「アマクサクラゲ」。
ただ綺麗な奴ほどヤバいの自然界ルール通り、イター指数は上位のAなので、かなり注意が必要とのこと。

参考までにこれ以上の危険度を誇るS級を挙げておくと、加茂水族館にいた「アンドンクラゲ」、
皮膚が壊死する程の毒性を持つ「ハブクラゲ」、電気ビリビリな「カツオノエボシ」辺りが該当するらしい。
正直クラゲという名前からは強いイメージはあまり浮かばない、だが実は普段浮かれてる奴ほど怒らすと
ヤバいのかもしれない。


※強くなくては…ましてや優しくとも….

生き残らせることを重視した管理がなされている為、自然界の食物連鎖ルールよりはかなり緩いと思われる
水槽内においても、依然として「弱肉強食」の世界は存在した。



自分の体長の3倍はありそうな「ルックダウン」を襲っているのは右の「ウマヅラハギ」。
普通こういった水槽内のいざこざはほぼファーストアタックのみであっさり終了するものだが、
今回見た闘争においては異常といっていいほど執拗に攻撃が加えられていた。
10分後再び訪れたら、そこには水槽の底にノックダウンしているルックダウンの姿が…
ウェイト的にも体格的にも負ける要素はほとんどないのにこの結果とは、どう考えても名前が悪かったとしか言いようが…

と思いきや、ハギ系は極めてケンカっ速く、混泳にはかなりの注意を必要とするそう。
強くなくては生きていけない。そこまではヒューマンと同じだが、ましてや優しくあってはもっと
生きていけないであろうことが、我々の世界とは明らかに異なる魚類の世界…
知れば知るほど、魚っとするほどハードボイルドだ。…こ、こっち見んな。


※ストッパーの貫禄.



一番奥のドン詰まり部分にて、この水族館最大の売りと思われる「トンネル水槽」がお目見えした。
スペースか、もしくはレイアウトの都合か、なんにせよ通常なら一番始めに投入すべき展示を最後の最後に
もってくるとは、まったくもっていちいち「お約束」というものを裏切ってくれる水族館である。

だが、そこがいい。そう、それがいいのだ。9回裏に登場して、最後をピシリと締め、さりげなく去っていく…
野球における守護神のような頼もしさをそのブ厚いアクリルに投影しつつ、また群れをなして力強く泳ぐ魚影から
感じつつ、ミーはこの水族館を後にした。



※総合.

地下施設から「もぐら」、立派という意から「グランド」、理想級になればという夢をこめて「ゆーとぴあ」、
この3つからそれぞれ文字を取って「もぐらんぴあ」と名付けられたそうだが、このエピソードにおける
ユニークな理念は、施設のそこら中にアイデアという形で散見していると思われる。
正直それが的を得ているかと問われれば、おや?と首を捻らざるをえなくなるような場面も少々あるが、
だが、とりあえずやっちまおう的な勢い重視のノリ、フフフ、嫌いじゃないぜ、なのであり、この水族館における
評価の全てはそれでいいんじゃないかと思う。

ファミリー ★★☆☆☆ 平均のそれより若干少なめ
カップル度 ★★☆☆☆ そこらにパラ…パラ…レベル。好ましい
わびさび ★★★☆☆ 侘び寂びというより、奇天烈
学術度 ★★★☆☆ ポイントはちゃんと抑えてる
お得感 ★★★★☆ 700円はかなりお得
建物装飾 ★★★★☆ 外よりも中身を見てくれと言わんばかりの
水槽装飾 ★★☆☆☆ ほぼ平均的
総合調和 ★★★★☆ 地下トンネルというアングラ調和
憩い場所 ★★★☆☆ 入り口付近にかなり広大なスペースが
磯コーナー ★★★★☆ 設備・見せ方的にかなりの工夫
ペンギン度
レア度 ★★☆☆☆ リーフィシーとウィディーシーのWドラゴン・コンプ
総合 ★★★★☆ 水族館というより秘宝感テイスト


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