※入館、そしてそこにある憩い.
ノシャップ寒流水族館は、その名の通りノシャップ岬の先端に位置、「最北端水族館」の称号を持つ
由緒正しき水族館であり、当然ここには来館前から他の水族館とは違う何かを期待していた。
そしてその期待は入館前の駐車場の造りからして裏切られなかった。
ごらんの通り、この駐車場には安全冊と思われるものがまったく存在しない、目の前は容赦なく海だ。
つまりこれは車庫入れに失敗するような愚か者は速やかに海へ沈んでしまえという勧告になぞらえて、
最北の地で生きるための厳しいルールをわれわれ異邦者達に啓示しているものと思われる。
うむ、なんたる潔さ。そしてふと海に目をやれば、そこにはウミネコがたんたんと佇み…
まだ水族館に入る前だと言うのに早々と心が癒されかかってしまった。
そして後ろをかえりみれば、そこには「ザ・廃虚」が。
流石は最北の地である。水族館見物に来ただけというのに不思議な角度からのプチ驚きが次から次へと起こる。
本館そのものの風情も、オホーツクからの厳しい北風にさらされ続けただけあり、なかなかにいい寂びれ具合だった。
※募金リビドー
いざ館内に入ったところで、出迎えてくれたのはペンギンの模型。
外の寒さにより強張っていた顔面の神経が急速に弛緩していくのを感じつつ、ふと胸のあたりを見たら、
そこには何故かコイン投入口が?
ペンギンという愛くるしいギミックを使って、人間の心の最も弱いところを刺激した末、
小金をひきだそうとするその浅ましさには断固「否」を叩きつけざるをえない。
…の筈が、そもそも募金行為というものをあまり好まないミーをして、なおコインを投入させしめるほどの
圧倒的吸引力は一体… そしてわりとあっさり膝を屈する羽目になった。
足元の小ペンギンもまたその募金力を乗数的に増しているものと思われる。
※自分らしさの探究
最初にに遭遇したのは、入り口付近の浴槽型水槽内にて、その単調色の壁に向かい、
ただひたすら体当たりを繰りかえすこの「海ガメ」君だった。
「知らぬ間に築いていた自分らしさの檻の中でもがいているなら、僕だってそうなんだ」
というミスチルの詩の一節が何となく思い出されるような光景だと思う。
ところで海ガメらしさってなんだろう?
※館内散策.
館内をざっと回ったところで目についた生き物達を何点か紹介してみる試みシリーズ@ノシャップ編。
まずこちらの左は、いわゆるアマゾン系古代魚の一つ「ポリプテルス」。
自然界におけるその生態系は未だ謎のヴェールに包まれているそうで、
何かこう眺めているだけで男のロマンをかき立たたせてくれるような気がする希有な魚だと思う。
ただその外見の方はいまいち迫力不足であり、同アマゾン系の代名詞たる「ピラルク」や「ガー」には
一歩劣るものと思われ。
右は「フラミンゴ・シクリッド」。
明らかに見た目やりすぎなので、デコが広い分オレは頭いいんだぜウヘヘヘ的な彼の主張は完全黙殺して、
何事もなかったがごとく鑑賞を続行することに。
左は熱帯魚の王様とも呼ばれている「ディスカス」。
水槽そのものの装飾とバックライトの色相のマッチングが上手にとれていることもあり、
非常に見栄えが利いていた。
で、右側は北を代表する魚類かつ「神の魚」とも呼ばれ、ギンポ系の仲間の中じゃダントツで
目を惹く存在と思われる「オオカミウオ」。その外見に相応しく、堅い貝殻も噛み砕く強力な歯と顎を
持っているので、対応には慎重さが求められるとのこと。
1階の一番奥の円形型ホールにはかなりの規模の寒流系回遊水槽が設置されていた。
主戦力は「イトウ」「キタノホッケ」「カレイ」など。加えてところどころに「ギンポ」が貼りついていた。
ここはその広さのわりに人口密度が少ないので、実にのんびりゆったりと鑑賞を楽しめるところがまことによい。
中央のベンチに座って、目の前を悠々と泳ぐ魚を見つめつつ、しばしの憩いを味わうはかなりの贅沢かと思われる。
※最北端の住宅事情.
最北端という土地柄もあるのだろうか、所々に空き部屋の目立つ「フサギンポ」の住宅供給率はかなり
良好な模様だった。ちなみに最上階から順に埋まっていく辺りは人間のそれとほぼ同様であると思われる。
ところでその毛虫チックな外見ゆえ怪魚に間違われてしまう事もあるというこの魚、居酒屋のメニューに
上がることもしばしばあり、実際に食べてみるとこれが案外美味しかったりする。
見かけだけで本質を見極めてはいけない、ということへの一つのサンプル事例だと思う。
※哀愁の磯コーナー
「だんだん水槽」と名付けられていたこの磯コーナーの特徴は、入っている生き物達が通常では
考えられないほど豪華な点にあった。
明らかにカレイ系と思われる魚がチラホラと泳ぎ回っている中、ふと横を見れば、ふだん磯コーナーにいる
それよりも5割増しでデカいんじゃないかと思われるカニが、ところ狭しと水槽内を闊歩なさっておられた。
むしろハイグレードすぎて、このコーナーの魚やカニ達と戯れることを誰もが躊躇している様子が伺えた。
特にそのカニに関しては、思う存分戯れることへのリスクが天文学的に高すぎると思われる。
近くの壁際に妙に赤黒いシミがある辺りも、かなり明確な何かを暗示しているようで少々どころか確実に怖い。
つまり、弱者を弄ぶことにより命の大切さを学ぶのがノーマルな磯コーナーの主旨であると定義するならば、
ここのそれは、強者に挑戦する事により命のなんたるかを感じ取る、という部分にあると解釈するのが正しい
見方のようだ。一番のポイントは命のなんたるかを感じ取る為の手段が「マイ・ペイン」にあるということだろう、
それだけは如実に嫌すぎる。
※電気ウナギの憂鬱
水族館の定番「電気ウナギ」コーナー、この館におけるそれの最大の特徴は、
その電撃強度を示す電光掲示板のLEDがZ型に配置されていることだろうか。
いかにもイナズマちっくなその形状、電撃を連想させる形状として、これ以上適している形は
他におそらく存在しないと思われる。
そしてもう一つ、水槽内循環機器のオブジェとして、ドラエモンを採用しているのには正直驚いた。
おそらく勢いだけで配置されたと思われるこのオブジェ、こちらの意表をつきつつ、それでいて
心をほのぼのとさせる辺りはなかなかに絶妙なセンスだと思う。
※次世代の覇者
屋外の海獣プールにて、「フンボルト・ペンギン」と「ゴマフ・アザラシ」、
ともに戯れるの図に遭遇し、しばしその場に釘付けとなる。
いつも通り棒立ち状態で虚空を見つめるペンギンに比べて、ここのアザラシの無邪気なことときたら。
プール掃除をしている職員さんにじゃれつき、水をバシバシとかけられて狂喜乱舞するその姿の愛らしさったらなかった。
今、アザラシがきている…そう確信するに足る図柄だ。
そして時代はいよいよアザラシを選ぶのか。それに対するペンギンのニッチは?来春公開、乞う御期待。
※まだだ、まだ終わらんよ.
無事に鑑賞を終え、この水族館に対する様々な感想を頭の中で整理しつつ、駐車場まで戻る。
さて、車に乗り… と、おや?来た時は気づかなかったが、この倉庫のようなものは一体なんだろう?
よく見ると上部に「南極越冬隊資料展示コーナー」と書かれている。
ちなみにこの駐車場は本館裏手に位置しており、ほとんどの人は表のノシャップ岬の方に面した
駐車場に車を停めるので、この資料館の存在に気付く者はほとんどいない筈である。
気付いた者だけが鑑賞する事を許されるというこのコーナーの選民性コンセプトはあまりに奥ゆかしすぎると思う。
そして入った途端、いきなり「トド」の剥製がお出迎え。ぶっちゃけすごく怖い。
倉庫内に灯りがまったくないことも手伝って、いわゆる陽の当たる世界においてある鑑賞用のそれとは
一線を画す迫力に、思わず後ずさる。
更に奥には、極限地スキーにはたまらないであろうレアアイテム「雪上車」がドンと控えておられた。
使いこまれた按配の運転席に座り、「遊星からの物体X」ごっこにしばし興じてみたが、
妙に寂しくなってきたのですぐ降りる。ちなみにこの時点で周囲に人の気配はまったくなし、
近付いてくる様子も完全皆無であり、ここまで見る者を選ぶこの展示館の孤高性に対して、
マニアの筈のミーも少々引き気味になってきた。
館内(倉庫?)右手には、「南極昭和基地第10次居住棟」と書かれてある実物コンテナが設置されており、
内部にて南極昭和基地の隊員個室の様子がかなりの詳細レベルで再現されていた。ロッカー・戸棚・机・椅子
などの装飾品もまたその使い込み度合からして、実物をそのまま使用しているものと思われる。
その特殊な個室内のベッドにてしばしの睡眠による憩いも可能なようだったが、寂しさに負けてミーは
チャレンジすることを挫折した。とりあえず我こそは南極マニアと自負する方以外には、いまいちお勧め
しにくい施設であることだけは確かなようだ。
ファミリー | ★★★☆☆ | 平均的密度 |
カップル度 | ★★★☆☆ | ヤンキー系、多し |
わびさび | ★★★☆☆ | 岬の風情が哀愁をそそる |
学術度 | ★★★☆☆ | 南極昭和基地コーナーは激レア |
お得感 | ★★★☆☆ | ¥400は安い |
建物装飾 | ★★★☆☆ | 寂れ具合に若干の味あり |
水槽装飾 | ★★☆☆☆ | 特に際立っている点なし |
総合調和 | ★★★★☆ | 海と岬とウミネコの三拍子調和 |
憩い場所 | ★★☆☆☆ | あえて言うなら回遊水槽前のベンチ |
磯コーナー | ★★★★☆ | 狩る側から狩られる側へ |
ペンギン度 | ★★★☆☆ | アザラシとの調和 |
レア度 | ★★☆☆☆ | なにかパンチが欲しいところ |
総合 | ★★★☆☆ | あくまで私的観点と個人的意見から |