エプソン品川アクアスタジアム

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※入館



品川はプリンスホテルの敷地内にあるこの水族館、近くには同ホテルが経営するモール型映画館あり、
お笑いやオペラに特化した各種劇場あり、はたまたボーリング場やちょっとしたテーマパークまで各種完備済みと
全国レベルで見ても屈指のハイソ環境に建っているだけあり、入館口の趣き一つをとってみても他の水族館の
それとは如実に一線を画す何かがあった。

なにせ入り口近くにいきなりメリーゴーランドである。これほど「どんだけ〜」という感嘆符がマッチする
状況下もそうはあるまい。その各種ライド群がサメやタツノオトシゴなどの海洋生物系で完全統一されている
辺りにも尋常ならざるこだわりをビンビン感じる。なればこそ、それに興じるお客様の数が完膚なきまでに
ゼロであるというこの現実には確実に心胆寒からしめられざるをえない。そういうところも含めて二重の意味で
「どんだけ〜」と呟かざるをえなかったこともまた目を逸らしえぬ事実であり…




そしてクラゲさんを模す幻想的な間接照明に彩られたエスカレータへと足を乗せれば、
さあ、そこは魅惑の「ウォーターワールド」というわけである。正直カッケー。

これまで随分と見てきたつもりだがここまで「モテ」な方向性にこだわった水族館の存在をミーは知らない。
と同時に、ここまでその目論見がものの見事に空回ってる水族館の存在もミーは知らない、
というかたぶん今後も知りえないだろう、これほどデート専用のシチュエーションにこだわっておきながら、
よもやカップル率がまるで皆無とは。まあ裏を返せば、だからこそ最高との見方もできるわけだが。


※魔王と覇王

ずは今風の水族館といえばこれが基本であり、と同時に一番の見どころであるともいえる要のコーナー、
トンネル型の回遊水槽から鑑賞してみることに。




こういった回遊型水槽においては、イコール魚の流れともなる水流コースの見通し及び
それをいかにダイナミックに客側へと提示できているかが最重要課題となることが多々だが、
そういう意味では(回遊面積の小ささもあり)いまいち視認性がクリアではないような感じが見受けられた。




が、それを補ってあまりあるどころか悠々と飛び越えて最上級ヴィジュアルへと昇華させている要因が
ここにはあった。それがこの「グリーン・ソーフィッシュ」、ノコギリエイとしての別名にてその名を
亜熱帯海域に轟かすエイの魔王である。



その風貌におけるインパクトも絶大だが、なによりも卵型アクリル面にのっぺりと張り付いて
シエスタきめこんでいるそのリラックス度合がマジぱない。これを見るだけでも料金の元は十分取れる、
そう断言しきってしまえるほどの大スペクタクル・ポイントゆえ、絶対お見逃しなきよう。



そんな魔王に負けじとその巨躯から個性という名のパトスを迸らせる猛者がここにもう一匹。
そう、マンタの愛称で親しまれるエイの覇王「オニイトマキエイ」さんの登場である。
その様たるや豪壮にして雄大、先鋭にして鮮烈なり。古谷徹の声による「あ…圧倒的じゃないか」
との表現がここまで似合う魚影もそうはないと思う。上述のノコギリと合わせて確実にチェキるべし。


※ペンギン面における柔と剛.



本能に訴えかけてくるという他ないほどの海洋生物における根源的オーパを満喫したあとは、
理論的ゆえ説得性に溢れているペンギンの素晴らしさを存分に堪能あれ。
そのポイントは地上面下の可動水域を水路状にして、その有視界を可能な限りオープンにした
「旭山動物園」方式にあると思われる。



地上面においてはペチペチという擬音が聞こえてきそうなその独特の歩行法にて平和ボケ混じりの
愛らしさをふりまくペンギンさんの裏の顔、「水面下における常軌を逸したその俊敏性」をも垣間見ることの
出来るこのコーナーは、先ほどのトンネル型水槽と並んで品川アクア屈指の見どころといえるだろう。


※館内散策.

ここ品川アクアの欠点をあえて挙げるなら、それは館全体の面積が水族館を名乗るにしてはかなり
小さいということであり、これは時として「ボリュームの欠如」という形で我々ギャラリー側に露呈する
危険性をはらんでいる。その不安要素をインプレッションという名の飛び道具でさりげなくフォロー
している何点かのお魚さんをご紹介。



まず左のは「ハナイカ」、相模湾より南の南西日本からマレーシア湾岸部に生息。
腕を使って海底を歩くように移動する習性を持ち、また興奮すると体表に突起を立てて体色を様々に
変化させることから世界一美しいイカとも言われているらしい。エクスタると体のどこかしらが突起
するのは何もホモサピエンスだけではないようだ。

で、右側のは「ヒメツバメウオ」。
汽水域や内湾奧の砂泥底に生息。単品ではどうということのない魚だが群れるとこうまで美しく映える。
個としての単調さを集団で全力フォローするその様やまさに「全は一、一は全」なり。
遠目から見るとトランプのダイヤがクルクルと回っているようにも見えて、その姿もまた実に艶やかだった。




で、こちらは「崖の上のポニョ」さん。流行ものオブジェをすかさず水槽内の装飾品に取り入れ、
「崖の上のポニョ・コーナー」という横看板まで掲げてそのテーマをマキシマムに盛り上げている辺り、
この水族館はなかなかにマーケットリサーチが出来ている。

せっかくなので6年ほど前「ファインディング・ニモ」にてその名を世界中に轟かせた
カクレクマノミ」さんにもご登場願ってみた。
が、サンゴ礁の奥にひっそり佇むその姿からかつてのオーラは微塵も感じとれず…
マコーレ・カルキンのように驕ったわけでは決してなかろうが、「強者必衰の理」は結局のところ
何処の世界でも同じようだ。


※仄暗い海の底から

こ近年、時折見かけるようになってきた深海魚専門水槽がここにもあった。
宇宙空間よりも行くのが困難とされる「深海」という特殊環境下における水圧や生餌などの各種課題を
クリアするにはとんでもないお金や労力がかかるといわれているが、この水族館ではまだ浅瀬に生息している
幼少期の頃のそれやウキブクロを持たない系統のものを選んで採取することにより、水圧維持の為の
各種設備投資を省略しているそうだ。つまり深海水槽の省エネ版といったところか。



まず左のが「キンメダイ」、100〜800級の中深域に生息。採光がほとんど期待できない
環境下での光源利用効率を最大限高めるべく網膜がそれに特化した構造になっているため、
その眼は金色に光ってみえるらしい。それによる安易なネーミングセンスはともかく、進化の
過程におけるその逞しさは存分に見習いたいものである。

で、右のは「オキトラギス」、水深100前後の大陸棚砂泥底に生息。あっさりしすぎて旨味に
かける肉質を持つゆえ、カマボコの材料としてよく利用されるらしい。つまりキワモノ揃いの深海系に
おいてはとびっきりの駄魚ということか。省エネ版なだけあり展示魚のグレードもそれなりのようだ。



だが「価値」なる動的要素は工夫次第でいかようにも補填可能である。
それを実践していたのがこの「タカアシガニ」とその頭上に佇む「ユメカサゴ」の両魚。
すかさずシモン(上)&カミナ(下)と命名。
ただ漫然とその場に佇む芸無しの一般展示魚を尻目に、その見事なまでのフォメーション技にて
我々の眼を存分に楽しませてくれていた。良く見られる光景ではあるそうだが何故このような
行動習性を取るかのメカニズム自体はまだ解明されていないらしい。

まあ傍目から見れば実に仲が良さげなので、ラブ&ピース&ヒーリングを旨とする水族館的にも、
それを全身でもって享受する観客側の我々的にも、ちょっと801な皆様的にもまことに結構な
ことだと思う。あ、受け攻めの是非については専門外なのでここでの言及はさけておく。


※レッツ・ミー・エンターテイン・ユー

館の展示スペースと比較してアシカやイルカのショースペースの占める比重がかなり大きめと
いうことから察するに、この水族館のショーパフォーマンスに対する力の入れようも自然と伺いしれる
というものであり、そして実際の内容もまたその期待を大きく裏切るものではなかった。

そもそもがアシカショーなるもの自体、アシカにおける知能指数の関係上、どんなに創意工夫しようが
児戯のレベルを超えるものではないと相場が決まっているが故、その出来はパフォーマーそのものよりも
むしろそれの舵取り役・牽引役の方に依存してくるものである。



その点、このお姉さんの解説のうまさや、アシカの動き自体を活かす身振り手振りの大きさはなかなかのものだった。
何よりもアシカのちょっとした失敗を全てチャラにするほどの破壊力を秘めていた「力押しの笑顔」が良い。
今後ともその技によりいっそうの磨きをかけてもらいたいものである。



アニマルとヒューマンの心温まる交流を前面に押し出したほのぼのテイスト全開のアシカショーとはうって変わり、
こちらのイルカーショーは「魅せる」ことにこだわった最先端技術全開のエンターテイメント特化型。
会場となる専用プール及び客席の造りからしてそんじょそこらのそれとは一線を画する全方位カバーの360度方式
ときたもんでハナっから気合みなぎりまくりな雰囲気である。



それに加えて前説は凝っているわ、演出を盛り上げる音響品質はホールばりだわ、主役となるイルカ達は
当たり前のように芸達者だわ、本来ならそれのサポート役にとどまる筈の飼育員さんまでパフォーマーとして
参加してきちゃうわで、まさに人馬一体… じゃないなこの場合だと「人海豚一体」な完成度の演舞を我々に
見せつけてくれていた。



その最たるものがこちら、イルカ自体をボードに見立ててのサーフ・ショー。
更にはイルカの怪力を利用してのロケットマン・ショーまで飛び出した。
どちらもイルカと人間との呼吸がぴったり合わなければ不可能な演出であり、
久々に斜めからではなく真正面からショーの楽しさというものをフル満喫できた時間帯だったと思う。

しかしショーとはかくも難しいもの、そこまでの完成度を誇りながら、むしろその如才なさが僅かな欠点と
なってしまっている部分も見受けられた。つまり曲技のみならず会場も演出もその他もろもろも全てが立派
すぎるが故、ショーに観客側が入りこむ隙があまり見受けられないのである。
もちろん演出側もマイクをフル活用して「次にやってほしい芸、なにかありますかー」
「みんなー、もっと拍手をー!」などと客側を必死に煽り立てるもその反応はいまいち希薄であり、
そこにはショーをする側とされる側との「距離感」や「擦れちがい」な空気を感じさせる何かが介在
していたように思う。

ま、欠点というよりも粗探しに近い指摘でもあるのでこのままでも特に問題ないと思うが、
もし出来ることなら今の水準を下げずして客との距離をもっと近く出来るような妙策を考え出してほしい
ものである。それが出来たとき、品川アクアのイルカショーは名実ともに日本一の栄冠を得ることだろう。


※そこにある憩い



最後に憩いスペースとして、この水族館に隣接しているレストランを紹介しておこう。
店内をグルっと囲むように設置された水槽群は、その立地条件をうまく活かしたバイオ・インテリアとしての
役割を見事に担っており、その舌に感じる食の旨味と同じくらい我々の眼を楽しませてくれていた。

まあその価値に応じた等価交換の大原則に従い、お値段の方もそれなりではあったが…
つまりそのテーマは「ゴージャス&デンジャラス」。その空間が演出するゴージャスな食事を十分に楽しんだ後は、
会計時にヒッと唸って、今月末の生計のデンジャラスさを存分に憂うがよろしかろう。



総合.

最大の売りであるイルカショーの素晴らしさは言うに及ばず、「立地面積が狭い」という
この挽回するのがかなり難しそうな大ネックを、「絶大インパクトかつしかもありふれていない展示魚」と
「ペンギンの生態をあますことなく見せ、そして魅せるディスプレイ方式」でもってものの見事にカバー
している工夫度合いは賞賛に値するレベルだと思う。土地の有効密度をよりいっそうあげていく必要がある
今後の都市型水族館の方向を指し示している一例といえるだろう。

ファミリー ★★☆☆ ホテル隣接という環境上か、外国人のそれがちらほら
カップル度 ★☆☆☆☆ 意外なことにかなり少なめ
わびさび ★☆☆☆☆ ほぼ皆無だがアシカショーからは一部感じ取れなくも
学術度 ★★☆☆☆ 若干物足りないところも
お得感 ★★☆☆☆ 面積を考えればやはり高め
建物装飾 ★★★ カップル狙い撃ちのテイスト
水槽装飾 ★★★★☆ 各所に工夫あり
総合調和 ★★★★☆ テーマに沿った統一度、高し
憩い場所 ★★★☆☆ ゴージャス&デンジャラス
磯コーナー
ペンギン度 ★★★★☆ 燃え尽きるほどキュート
レア度 ★★★☆☆ 数よりも質で勝負
総合 ★★★☆☆ あくまで私的視点より


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