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すべてはきみからはじまった

全ては君から始まった。僕はずっとそう想っている。僕はずっとそう想ってきた。全てはあの時。僕が君を知った時から。全ては君から始まって、僕は未だに君に囚われ続けているんだ。僕の後ろにはいつでも君の影が纏わりついて。僕は君に僕の想いを打ち明ける事が無い侭、此処まで来てしまったけれど。僕は君に伝えるべきだったのだろうか?今でも解からない侭でいる。あの時、最後に君の笑顔を見れた時、僕が此の想いを打ち明けてさえいれば。今僕は此処でこうしては居ないのだろうか?あれから、君と別れてから。君を見る事すら叶わなくなってから。僕は幾人かのひととそういう関係を結んで来たけれど。其れでも僕の中に君は居続けて。君の居ない此の土地で僕は君を想いながら君の代わりを探し続けていたとでも言うのだろうか?じゃなかったら一体何故、僕の中から君は居なくならないんだろう?そんな簡単な問いにすら僕は答えを出せない振りをしてただただ時間を過ごして来た。君を忘れる為に。君が僕の中から居なくなるように。僕は時間を重ね日々を重ね、時には君じゃない誰かと躰を重ね君の面影を遣り過ごそうと。今だって昔だって僕の傍には誰かが居た。君じゃないけど、暖かな躰と優しい言葉を持った誰かがいた。僕は其の人ひとが好きだったし、好きでいる。今だって、昔だって。僕はちゃんと好きでいる。だけどだけどだけど。僕は君しか愛せない。其れならばと僕は考える。僕が今、そして過去。形成してきた関係は何だったのだろうかと。僕は愛されなかった。君に。僕は愛せなかった。僕に好意を寄せてくれたひとを。好きと愛しているの違いが解からなくて。僕は其処で立ち止まる。僕の中で「愛」と認識されるものが君へのものだけで。其れ以外は愛じゃない。だとしたら。僕が口にする、口にしてきた君じゃない誰かへの「好き」は兎も角「愛している」という言葉は嘘でしかなく。そう想って僕はずっときた。そう想って僕はずっと其れを口にしないで来た。けれど。ひとは「愛してる」という言葉を求める。求めずには居られないんだ。だって僕がそうだから。愛されなかった僕は愛してるという言葉が欲しくて欲しくて。其の為に僕は僕を貶め、相手を騙す事を覚えてしまった。愛されない僕だから過去も今も誰も「愛してる」の言葉をくれず。痺れを切らした僕は口にしてしまったんだ。愛してると。僕が口にすれば、まるで条件反射のように相手からも同じ言葉が帰って来る事を知ってしまったから。君の為だけにとって置きたかった言葉を僕は今じゃ安易に口にする様になってしまった。愛してる。躰を合わせた後にそっと呟くだけで抱擁と共に同じ言葉が耳許で繰り返される。其れだけの為に僕は君の為の言葉を汚していく。僕が愛されている訳がない事を知った上で告げる「愛してる」は一体僕に何をもたらしてくれているのだろう?何ももたらさず、其れはひと時の戯言。誰も本気なんかじゃない。況してや僕が本気じゃない。だったら使わなければいいと君は言うかもしれないけれど。僕は愛されれば救われると想ってしまったんだよ。誰からも愛されていないと知った時に。愛される為に僕がしてきた事は全て無駄で。僕は愛されていないという現実を突きつけられただけだった。僕は君からの愛が欲しかったのに、君は僕を愛してはくれなくて。僕が愛して欲しいと望んだひとは僕を愛してはくれなくて。誰も愛せないから誰からも愛せないんだと想っていた頃もあったけれど。其れは違うと君を愛して知って。誰かを愛しても誰からも愛されないというより痛い言葉となって僕に帰ってきた。「愛してる」上辺だけの言葉を求めて。僕は「愛してる」と口に出す。君の為に在った筈の言葉は今では薄っぺらい紙切れのように僕と誰かの間を舞っている。愛してる。騙しているのではなくて騙されたくて口にする言葉。僕を愛してくれるなら。其れが嘘でも構いはしないんだ。僕が嘘だと気付かないように巧く騙して。と祈りながら僕は誰かと交わる。でも誰も騙してはくれなくて。僕は嘘だと知ってしまう。嘘だと知っても愚かな僕は「愛してる」を繰り返し、「愛してる」を繰り返して貰い続ける。君に言って欲しかった言葉。君に言いたかった言葉。愛してると繰り返せば繰り返すほど、それは意味を失い。僕は虚空に漂う。ねえ、全ては君から始まったんだ。だから君の手で終わらせてよ。(39分)


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