ERIC CLAPTON.


<2006年12月9日: 日本武道館>

「ブルース」。

アメリカ大陸に連れてこられた黒人たちが歌っていたワーク・ソングやカントリー・ダンス、
そして黒人霊歌などの影響を受けた歌が、ピアノやギターといった西洋の楽器で演奏される
ようになり、20世紀初頭に成立した音楽スタイル。12小節のコード進行の繰り返しで成立し、
4小節単位でハーモニーがトニック、サブ・ドミナント、ドミナントで変化する。ブルーノート
と呼ばれる独特の音階が、三度と五度が半音低く歌われるため、伴奏との音程のズレが生じ、
それが「ブルージー」と言われる独特の泥臭くメランコリックな響きを生んでいる。
                      
METALGATEさん:音楽ジャンル辞典より〜


白人の身でありながらブルースに傾倒、本来ならその哀しみを体験した黒人にしか出せないと
言われていた悲哀や憂鬱などの「ブルー」テイストを自分なりに解釈して、それをこれまでの
「ロック」という素材と融合、よりキャッチーによりユニバーサルに練りなおし、黒人以外の
一般層にまで深く浸透させた功績を持つブルース界の巨人、通称「ギターの神様」こと
エリック・クラプトンが、お馴染みの風説「これが最後?」な来日を果たすと聞き及んだので、
大好きなジェフ・ベックと比較する意味でもこれはひとまず抑えておかねばと、雨がしとしと
降りしきる極寒の中を、九段下は日本武道館まで行ってまいりました。

それにしても武道館10デイ興行とは凄いですね、最終日だったんで多少は空きがあるかと
思いきや、2階席の上の方はもちろん、その思いっきり端の方まで全て満員、日本における
クラプトン人気の凄まじさを入場と同時にいきなり思い知らされることとなりました。

でもってほぼ定刻通りに出てきてくれた御大、「ギター神」の名にたがわぬテンションで、
序盤から飛ばし気味にもう弾く弾く。いや、もちろんピロピロ系の速度至上的なそれじゃなくて、
あくまでもブルース調のツボを抑えた弾き方なんだけど、そこから発散されるスリル感が抜群。
例えるなら一音はずしたら全てが台無しになってしまうような音という名のドミノが次から次へと
華麗に連鎖していく様、またそれが次にどのような模様を描くのか、息が詰るような緊張感の中、
ドキドキしながら見守っているような感覚、とでもいうか。

その最たるものが、ドミノ&デレクス時代の名曲"Why Does Love Got To Be So Sad?"。
見ていてあまりの優美さに思わず顔がニヤけちゃうほどの弾きっぷり。でも左手は紡ぎだされる
音ほどフレット上を忙しそうに動いていない?みたいな。いや、手首そのものは激しく動いている
んだけど、むしろ肝心の指先は芋虫がのたくってるがごときゆっくりとした動きに見えるような… 
これがかの神業「スローハンド」の真骨頂かと。(実際の語源は、プレイ中切ってしまった弦
を張り代えていたところへ観客がし始めた催促の手拍子「slow handclap」。これを「Clapton」と
掛けたことから出来た造語らしい)
その前の"Little Wing"で見せたゲイリームーアばりの叙情フレーズ、いわゆる「泣き」にも
かなり「おおっ」と思わされるものがありました。一番のキメであるチョーキングの引っ張りに
至るまでの流麗極まりないフレーズ連鎖が実に特徴的だなと。

いや、60オーバーというその年に見合う、もっとこう落ち着いた感じのアンプラグドな方向
で進めるのかなと思っていたんですが、それをいい意味で裏切ってくれました。ペイジ、ベック
と並ぶ三大ギタリストの中じゃ一番弾かないイメージがあったんだけど、よもやこんなにバリバリ
弾いてくれるとは。おかげで双眼鏡から片時も目を離すことなく、ひたすら彼の手元をガン見ですよ。
まあ、その代わりと言っちゃなんですが、中盤、椅子に座ってのアコスセットに切り替わって以降、
しばしの間、優雅なレム睡眠を楽しまさせていただくことに。

"Motherless Children"における大気を斬るようなエリック・ジョンソンばりのクリーントーンで
その眠りから叩き起こされて以降の後半は見どころ更にめじろおし。特にその叙情フレーズ一発で
世界中をノックアウトした名バラード"Wonderful Tonight"に心ゆくまで癒された直後の"Layla"
がこれまた月並みではあるけれども格別に最高。誰もが耳にしたことがあるであろうあの名フレーズ
に多少の食傷感を覚え始めた曲後半で登場するピアノとギターのかけあいコラボ、それにより前半の
張り詰めたようなテンションがどこまでも解き放たれていくかのようなこの清涼感たるや…!
前半とはうってかわって表情を変えるこの後半の展開あってこそ、ここまでの名曲たりえたという
ことを今更ながらに再実感。でもってクライマックスは、本編ラストの"Cocaine"終了間際における
観客全員の大合唱「コカイン!」と、それに即レスポンスされたクラプトンの「ドウモ!」という挨拶。
パズル最後のピースがピタっと埋まったかのようなこのカタルシス、実に小ざっぱりとしていて気持ち
のいい終わり方だったと思います。

デュアンオールマンの再来ことデレクと、左利きのジミヘンことドイルという、二人のサポート
ギタリストを付けてジャムセッション形式を多めにやってくれたことも、シンガーソングライター
としてのクラプトンより「ギタリスト」クラプトンを見に行った自分としては、プラスに繋がったかなと。
あえて難をあげるならアンコールがクリーム時代の"Crossroads"のみだったということくらいですかね。
願わくば今は亡きジョージハリスンとの共作"Badge"も聞きたかった…


<今日の一枚>

 Layla and Other Assorted Love Songs / DEREK & DOMINOS

上手い、速い(当時としては)、安い(中古なら\500くらい)と三拍子揃った名盤中の名盤。
メインシーンからあえて距離をとり、アメリカ南部の「肩に力の入っていない」ミュージシャンたちと
組んで自由気ままに作ったと言われるこの一枚は、どこか陽気でなんとなくユルくて、だけどそこはか
となくもの悲しいというクラプトン流ブルースの妙味を感じる上で最良の選択肢だと思われ。
「レイドバック」という音楽俗語のルーツを知る意味でもオススメ


<今日の駄目T>



#んー、特に不もなく可もなく、といった感じの無難なデザイン。
 まあ、このくらいなら普段着に出来ないこともないかな?



<セット・リスト>

01:Tell The Truth
02:Key To The Highway
03:Got to Get Better in A Little While
04:Little Wing
05:Why Does Love Got To Be So Sad?

06:Rambling On My Mind
07:Outside Woman Blues
08:Nobody Knows You When You're Down and Out
09:Running On Faith

10:Motherless Children
11:Little Queen of Spades
12:Anyday
13:Wonderful Tonight
14:Layla
15:Cocaine

16:Crossroads


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