PORCUPINE TREE.


<2006年11月29日: 昭和女子大・人見記念講堂

日本デビューは最近なものの、欧米では既に15年のキャリアを誇り、今やピンクフロイドとドリーム
シアターの間の10年の空白を埋めるバンドとまで言われるようになった、英プログレッシブ・シーン
の中堅、「ポーキュパイン・ツリー」。ウドーフェスで見たその演奏力の素晴らしさに触手を動かし
かけてたところへ、どうやら前座ゲストがキング・クリムゾンのロバート・フリップらしいという
サプライズ情報までをも耳にし、こりゃ四の五言わずに行くしかなかろと、三軒茶屋は昭和女子大・
人見記念講堂まで足を向けてまいったわけですが。

何気に本編のポーキュパインよりも期待していたフリップ大先生のステージが、単なる環境音楽以外
の何者でもないという様相を呈してしまっていたので、僕はさっそく演奏者の意向に沿うべく30分程
のレム睡眠をお楽しんだのでありましたおわり。ってか、もっと派手にやれとは言わないまでも、もう
少しけれん味のあるステージを見せてほしかったかも。

で、メインのポーキュパイン・ツリー。
オープニングの"Blackest Eyes"から持ち味であるタイトな演奏力をフル発揮、彼等もう一つの武器
である「ハードとソフトの対極面を合わせ持った美しいメロディ」で、まずは場の空気をゆっくりと
暖気したところで、3曲目"Hate Song"から一気にトップギアへとシフトチェンジ。狂気と混沌が入り
混じったかのような感情むき出しのギターソロで存分に畳み掛けといて、そこから一転、優しさと脱力
感を伴った癒し曲"Lazarus"へ繋げるという非常にメリハリの利いたステージ構成でもって、この序盤
から僕らの耳を存分に楽しませてくれてましたね。

中盤以降もそのステージ巧者っぷりは常に光ってました。
スティーヴ・ウィルソン(SW)が「次は新曲やるけど長い曲だから忍耐が必要だよ」と自ら突っ込み
を入れた10分以上の長尺曲"The Beast"でトゥールっぽいアートロック臭を漂わせ、その引き出しの
多さを存分に見せつけた後で、ハードな硬質リフが小気味良い"Open Car"で場の空気を一旦引き締め、
そのままさざ波の満ち引きを感じさせるような癒しナンバー"Buying New Soul"へと繋げてホール全体
に何とも優しげなまったり感を充満させた流れは見事の一言。曲間毎の割れんばかりの拍手がそれを
表していたと思います。

その後、「僕らは昔からずっと音楽と映像との融合を重視してきたんだ」というSWの事前インタビュー
の言葉を証明するかのごとく、曲の強調パートとそれにシンクロして背面プロジェクターに映しだされる
様々なヴィジュアル動画でもって場の高揚感を見事に煽ったところで、満を持してのキラーチューン
"Arriving Somewhere But Not Here"を投入するという万全の流れ。包容感溢れる前半の静パート
と中盤における激情ソロのコントラスト美、そこから再びはじめに戻っての静寂フィールを引っ張りつつ
のフェードアウトというドラマチック溢れる曲構成に、高速道路を走る車の流れを速回しにしたような
VJ効果が相まって、万華鏡のごとき相乗美をその空間に作り出していました。

この曲もそうだけど、ここまで優しげな包容感をきっちり演出しておきながら、でも決してユルく
ならず、ちゃんとトンガってるってとこが、こいつ等の特にナイスなところかなと再実感。
アンコールで演った"Train"終盤の、リズム隊ミュート&SWのアカペラ熱唱と、その後に再び
バンド演奏へと戻るところで感じたスケール感のデカさも半端じゃないなって。プログレ人気の
高いこの日本で、なんでこのバンドが認知度低いのか本気で不思議です(ルックスとステージングが
地味だからかな?)。クラブやホール級の小さな会場よりもアリーナ級の大会場で味わってみたいと
思わせてくれる数少ないバンドだけに、微力ながら今後も周囲に強烈プッシュしていきたいですね。


<今日の一枚>

 DEAD WING / Pocupine Tree

ポーキュパイン・ツリー、通算13枚目にして、日本デビュー作かつ、総キャリア20年
を誇る彼等の集大作。卓越した演奏力が紡ぎ出す重厚かつ硬質なグルーヴ、と同時に感じる
優し気かつ柔軟なテイスト。剛と柔という相反する二つの対極パラメータを自由自在に操る
スティーブ・ウィルソン、その音の魔術師っぷりが存分に味わえる一枚。
更に特筆すべきは、長尺に加え複雑な転調ありとプログレ要素を色濃く持つ曲が多数ある
にもかかわらず難解さをまるで感じさせないその聞きやすさ。故にプログレ入門編としても
最適かと思われ。



<セット・リスト>

01:Blackest Eyes
02:Sound Of Muzak
03:Hate Song
04:Lazarus
05:The Beast
06:Open Car
07:Buying New Soul
08:Mother And Child Devided
09:Arriving Somewhere But Not Here
10:Start Of Something Beautiful
11:Halo

12:Train


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