BILLY JOEL.


<2006年11月30日: 東京ドーム

ベストヒットUSAの影響でいくら厨房時代に大好きだったとはいえ、今やHR・HMを主戦場に
しているミーにとってあまりにも畑違いなのは誰の目から見ても明らかだし、気になるライブを
逐一抑えていたらいくら金があっても足りないし、という理性的判断が一旦はノーを導き出すも、
単独公演としてはおおよそ11年ぶり、もしかしたらこれが最後になるかもというフレディの警鐘
(1984年の来日をスルー以降、いずれは再来日するだろうと思っていた自分の楽観的予測を軽々と
裏切ってそのまま帰らぬ人となってしまったフレディの件をきっかけに得た教訓。人間いつ何が
起こるか分からない故、後悔しない為にもやれることはやっておくが吉、つまりは少しでも見たい
と思ったなら多少無理をしてでも行っとくが良しという意味)が頭の中でガンガン鳴り響いてしまった
その結果として、当日、嬉々としながら水道橋は東京ドームに足を向けている自分がそこにいた、
という次第でありまして。

でもって2、3曲目"My Life"と"Honesty"で何気なく涙腺辺りにジワっときてしまっている
自分を冷静なもう1人の自分が省みて我ながらキモいわーと早くも自己批判させられる羽目に。
それにしても"Honesty"ならともかく軽快なアップビートが特徴のバカ陽気曲"My Life"でどうして?
とビリーに造詣が深い皆様方におかれましてはそう思われるかも知れませんが、転調後のBメロ辺り
の哀愁…じゃないな、叙情、でもないや、えと、そう「ほろ苦さ」か、その辺りのフィールが30過ぎ
の駄目人間にゃたまらないものがある、とでもいうか。
ここから続いた"Zanzibar"がこれまた素晴らしかった、艶やかかつ華やかな曲調の中にこめられた
もの哀しさ、切なさ… その空気に拍車をかけるがごとく鳴り響く終盤のトランペット独奏の味わい
深さったらもう…! というわけで僕自身はこの序盤にして早くも仕上り気味に。

更には、一転してスロージャズ調で静かに切々と歌い上げる"New York State Of Mind"終盤
間際の演奏止めにおける静寂と、その後に続くサビ熱唱の静動コントラストが作り出すカタルシス
に今度は体の芯から震えさせられたところで、その次に演られたのがビリー持ち曲の中でも1,2
を争うほど大好きな"Allentown"ときたもんだから、その郷愁マインドに身も心もすっかりアテら
れた末、我が体内の涙腺エマージェンシーもレベル3の「ジワっ」からレベル2の「ホロっ」へと
引き上げられることに。
そこから繋いだ軽快ポップナンバーの"Don't Ask Me Why"により場内の空気が一気に軽くなった
ところで、"Stranger"、"Just The Way You Are"と、ビリーが誇るハード・ソフト両極の激情
バラード連続コンボをいれられた末、"Movin Out"サビ前、通称アシュラマンの高笑いこと「カカカカカ」
のハモりを生で聞かされた時点で完殺ノックアウト。本ッ当に全てが聴きどころ、抜き場一切なしの
渾身ステージを見せられて、このライブ、やっぱスルーしなくてよかったわと心の底から思いましたね。

中盤後半辺りで改めて感じたのは曲そのものの良さですね。特に指パッチンでリズムを取りつつ
どこまでも優しげに歌い上げた"An Innocent Man"と、まさに「染み入ってくる」という他ない
"She,s Always Woman"のメロの美しさには相当やられました。いや、元から名曲揃いってこと
は重々分かっていた筈なんだけど、でもこうして聞いてみて改めて「わ、こんなに良かったんだー」
って再認識するとともに、感嘆のため息を漏らしちゃう、みたいな。

横にした卵のような楕円形デザインの中心に、ビリー操るピアノを置いて、その周囲をグルっと取り
囲むような形にリズム隊を配した、一見簡素だけど全体の統一性が感じられるステージ構成もまた、
この高パフォーマンスの演出に一役買っていたように思います。特にライティングね、楕円形の外枠
にライトを配し、通常なら外からステージへ向けてスポットで照らすところを、逆に内から観客側へ
放射状に投射することによって、より華やかさを演出したそのアイデアは秀逸だと感じました。
ステージ構成がシンプルだっただけに、よりその工夫が際立ってましたね。

で、後半に入った辺りで、センターにあったピアノが引っ込んだので、次はなにやんのかなーと
思ってワクテカしながら見てたら、舞台袖からピザデブが出てきてAC/DCの"Highway To Hel"
をいきなりがなりたてだしたので思いっきり唖然とさせられました、事前のMCで「20年間テック
を勤めてくれた彼にワンチャンスをあげよう」だのなんだの言ってたらしいですが、これまでのほぼ
完璧とも言える至高のショー展開に陶酔させられきっていたところでいきなりコレやられたらそりゃ
あっけにとられもしますわな。しかもAC/DCとは。このチョイス、客層的にもかなり難あったんじゃ
ないかと。僕は元々AC/DCの大ファンなのと、ビリーがギターを弾くという珍しいシーンが見れたので、
これはこれでありなんじゃないかとも思ったけど、でも周囲は相当不満なようでした、この演出。

その多少強引極まる演出が「ピアノ・セット」から「ロック・セット」への移行の合図を示す丁度
よい合図となったところで"We Didn't Start The Fire"。1949〜1989までのアメリカの歴史
をその時代時代の核となるキーワードの羅列のみで綴っていく壮大な導入部と「俺たちは火を点け
ちゃいない、でも、なんとかここまでやってきた」という、運命に流されつつもしぶとく生き抜いて
きた人間の図太さみたいなものを表現したサビ部がフィナーレへ向けての加速剤となったところで、
そこから続いた2曲の間に、江戸時代の魚屋よろしく両肩にひっかけてステージの端から端までを
歌いながらよろよろ歩き回ったり、ポールロジャースばりに頭上で振り回した末 中空へ放り投げたりと、
58という年齢を感じさせないマイクスタンド・アクションが飛び出し、いよいよ場内のボルテージも
最高潮に。そこでCDと同じくガラスの割れる音とともに"You May Be Right"へ突入とくるわけ
ですよ。ここね、最高。"It's Still Rock & Roll To Me"出だしの帽子投げシーンと並んで最高に
ビリーっ(ビリーと掛けてみた)(ご、ごめん…)とさせられた瞬間でした。本来なら只の小太った
ハゲのおっさんな筈がよもやここまでカッコよくなろうとは。いや、ロックってな本当に偉大ですわー

"Piano Man"演奏前に、拍手の大きさによって中央のピアノとステージの袖とを行ったり来たりする、
もっと拍手しないと帰っちゃうぞー的な茶目っ気たっぷり愛嬌満載の仕草が、エンディングへ向けての
期待感を更に煽ったところで、最後はドーム全体に響き渡る「Sing us a song, you're the piano man〜♪」
のシングアロングが、場内の空気を感動の共有感で一杯に埋めつくすというフィナーレ。
ロックとかまったく聞きそうにない中年のおばさん二人組みが帰り際に漏らしていた一言、
「こんなにいいとは思わなかったわー」という言葉が、今日の全てを表していたと思います。


<今日の一枚>

 THE NYLON CURTAIN / Billy Joel

ビリー信者の間に賛否両論を巻き起こした82年発表の異色作。
卓越したポップセンスを武器に、これまで軽快なハッピーナンバーをいくつも生んできた
ビリーがその路線を一転、「病めるアメリカ」をテーマにその当時の現状をどこまでも重く、
そして暗く、切々と歌い上げた作品。頭から4曲目までの起承転結的な「ほろ苦さ」は、
少しアンニュイな気分に浸りたいときの空気を、らしく演出してくれること間違いなし。


<今日の駄目T>



#特に不もなく可もなくといった感じの無難なデザインだったので、コンビニへお出かけする時の
 普段着として正式採用することにしました。



<セット・リスト>

01:Angry Young Man
02:My Life
03:Honesty
04:The Entertainer
05:Zanzibar
06:New York State Of Mind
07:Allentown
08:Don't Ask Me Why
09:The Stranger
10:Just The Way You Are
11:Movin' Out
12:Miami2017
13:An Innocent Man
14:She's Always A Woman
15:I Got To Extremes
16:The River Of Dreams
17:Highway To Hell
18:We Didn't Start The Fire
19:Big Shot
20:It's Still Rock & Roll To Me
21:You May Be Right

22:Scenes From An Italian Restaurant
23:Piano Man


[ MenuNext ]