ERIC JOHNSON.


<2005年10月12日: 渋谷O−EAST>

70年代を代表する「孤高のギタリスト」は誰だと思う?と聞かれたなら、僕はおそらく
「ジェフ・ベック」と答えると思います。そしてもし80年〜90年代を代表するそれは?
と問われる機会があったなら、僕はたぶんこう答えるでしょう。

「エリック・ジョンソン」

あのアラン・ホールズワースも一目置いていたという、界隈を代表する超絶テクの持ち主で
ありながら、それを前面に押し出すようなことはせず、また聴く側にそれを意識させるような
こともさせず、常に全体の調和の中でのプレイというものに重きをおいてそれを実践し続けている、
今どき珍しいタイプのナチュラリストなギタリスト。
髪を振り乱しながら自意識丸出しで、俺だー俺を見ろー俺だけを見ろー!と前に出まくる
インギとはまるで逆属性。ま、それはそれでアリだと思うしそういうのも結構好きなんだけど、
このEJのような「さりげないカッコよさ」ってのも、わりとアリなんじゃね?などと思う今日
この頃なのです。まあ、はっきり言って「地味」なんだけども。

というわけで、ここんとこスラッシュ大会にチルボドと、かなりキツめなハードものが
続いていたし、たまにはヘドバンなしのフィストバングなしで、腕組んで棒立ちしつつ、
あの流麗なる至高のソロプレイにじっくり耳を傾けるも悪くないと思い立ち、渋谷クワトロ
までEJのライブを見に行ってまいりました。
…の筈が、入場しようとチケ渡した途端、けげんな顔で引き止められ、黙って壁のポスター
を指差される始末。え?アナログフィッシュ?だ誰それ?というわけでいきなり会場を
間違えるという大失態を犯してしまった僕が、汗だくになりつつ本来のライブ会場である
渋谷O-EASTに辿り着いた頃にゃ、そこはもう既にギュウギュウ詰めの超満員になっていました。
正直そんなにゃ混まないだろうと思ってたらとんでもなかった、ちょっとEJの人気を甘く見た、
だってドア開けた途端、そこにいきなり人壁だもの。は?って感じ。もうどうやっても入りよう
がない。それでも無理やり体おしこめたら今度はドアが閉まらない。ついでに後から入ってくる
奴がドア開ける度に僕の後頭部にドアの背がドーンドーン!ってなにこれ? 落ち着いて鑑賞
できないどころの話じゃない、よっぽど帰ろうと思いました。

とは言うものの、EJのプレイなんてそうそう生で聴く機会ないしなー、と帰りあぐねながら、
黙々とドアの背に後頭部を打ちつけられること約10分。この劣悪な鑑賞環境に耐えつつ、
何とかこの膠着状態を抜け出す方法はないものかと懸命に思案していたところへ、唐突に外人
集団が入ってきて、その強靭かつ屈強な肉体から繰り出されるフィジカル面の強さと奥ゆかしさ
を美徳とする我々日本人とは一味も二味も違うその自己主張パワーでもって前方の肉壁をドコドコ
破壊し始めたので、これはしたり!とばかり、そのパワーショベルな背中にぴったし貼りつきつつ、
小判鮫根性全開でコソコソと前進、まんまと左側奥の空きスペースの方へ抜け出すことに成功し、
僕はここにてようやく、まともにライブを聴ける環境をゲットすることが出来たのでありました。

とりあえず一息ついたところで、周囲の客層を見渡して見たら、これが昨日のチルボドとは
ドえらい差。黒T着てモッシュってればいいと思っているキモスパー揃いの厨房集団が皆無
な代わりに、30台近くと思われる会社帰りのリーマンかOLか、はたまたそのカプールが
主な構成層で、あの悪名高い「オイ!オイ!」がないのはもちろんのこと、拳を振り上げる、
足を踏み鳴らす等の行為もまばら、拍手と掛け声中心の若干大人しめなリアクションでもって
ライブを楽しんでいるその姿は、ここ最近モッシュ地獄の中で翻弄されまくっていた僕にとって
なかなかに新鮮な光景でした。たまにゃこういう大人な感じのライブもいいもんだよね。

さて、ステージ上のEJの印象ですが、まず一目みて思ったことは「若い!」ということ。
本当にこれで50歳なの?っていうくらいルックスが若い、加えて、甘く切なく響くその透き通る
ようなトーンがまた若い。難易度高いコード部分とかをのけぞりながら弾いちゃうそのアクション
がこれまた若い。でも、その若さは粗忽な若者が目立ちたがってやるようなそれでは決してなくて、
あくまでチョイワル親父がちょっとした茶目っ気で見せるような若さ、とでも言うか。

でもって、そのプレイも、やっぱしジェフ・ベックばりのマエストロ級でした。
ジョーサト系のどこまでも澄み通るようなクリーントーン、そして響き渡るロングトーン、
曲調に沿った正確なタッチと流麗な音さばき、ここぞというところで炸裂するキーボードと
聞き間違わんばかりの音速ソロ。曲自体の地味さ加減を補って余りあるその表現力の豊かさ。
エフェクターに使用する電池の種類にまでこだわる、というその逸話はやっぱ伊達じゃなかった。
曲自体は悪かないんだけど、これは!というものがないと言うか、もの凄いことをやっていながら
そこはかとなく地味〜に聴こえちゃうのが、EJの難点っちゃ難点だと思っていたんだけれど、
(いや、その自然さが魅力でもあるんだけど)、実際生で聴いてみたら、こりゃやっぱすごいかなと。
特に"Columbia"・"Cliffs Of Dover"辺りのインストナンバーにおける、メロパートの素晴らしさ
とソロ部分の凄まじさはまさに圧巻。迸るような音の洪水の前に体の芯からビリビリきちゃいました。

多少、音をひっかけちゃう場面も何箇所かあったみたいだけど、元々のコード進行が超絶なだけに、
そこら辺はご愛嬌ってとこでしょうか。ネット上の感想をざっと見る限り、エリックの本来の演奏
はあんなもんじゃない、不調だったのかな、といった意見が多く見受けられましたが、僕的には
アンコールを3回もやってくれたことも含めて至極満足。ショーアップというものがほとんどない
通好みの地味な内容ではあったけど、それもまたEJらしくて逆に良し。落ち着いた雰囲気の中で、
至福の時を楽しむことができた時間だったと思います。


<今日の一枚>

 Ah Via Musicom / Eric Johnson

EJがその名前を世界中に轟かすきっかけとなった90年発表の代表作。
イントロとして挿入されている1曲目を除く前半3曲のソロ・パートが全て神レベルの
超絶技巧ハードプレイであるにもかかわらず、アクの薄いメロとスムーズな転調、そして
独特の甘い声がそれをそうと感じさせません。
ギタリストが作るアルバムってな、わりと「聴くぞー」って感じで身構えて当たらないと
なかなか体の芯に入ってこないようなイメージがあるのですが、この人に限って言うなら
その辺は全然皆無。極上の美しい音色をナチュラル感じに楽しめる、そよ風のような一枚。
ギタリスト好きなら聴いて損なしの一枚だと思います。


<今日の無駄T>



#本人のキャラやライブの内容と同様に、これまた地味極まるデザイン。
 ここまで地味で通すなら、前面のロゴをもう少し小さくしてくれても…(そこだけベタ)



<セット・リスト>

01:Halright
02:My Back Pages
03:Trademark
04:Forty Mile Town
05:High Landrons
06:Good To Me
07:Summer Jam
08:Down On The Floor
09:Tribute To Jerry Reed
10:Columbia
11:Tomorrow
12:Your Sweet Eyes
13:S.R.V.
14:Desert Rose
15:Intro
16:Cliffs Of Dover

17:Anthem For Today
18:Righteous

19:Drive My Car (Beatles cover)
20:12 To 12 Vibe

21:Friends


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