銀杏BOYZ & サンボマスター.


<2004年10月3日: 川崎クラブチッタ>

プロローグ

普段はほとんど洋楽オンリーという日本人にあるまじき偏屈ぶりに加え、邦楽ものと言えば
ブランキーとミッシェルにアースシェイカーくらいしか聴かないというその偏食ぶりを見るに
みかねた友人が、日本人としての基本である大和魂を音楽という媒介を通して骨身に染みるまで
叩き込んでやるとばかり、僕を清き正しきジャパ・ロックのライブに連れて行ってくれることに
なりました、のでザアザアと雨が降りしきるこのクソ寒々しい灰色の空の下をテクテクと、川崎
はクラブ・チッタまで行ってまいりました。


パート1:銀杏

で、オドオドしながら(音楽ジャンル的にアウェイなのでキョドってます)会場内に入ったら、
まあいるわいるわ未成年っぽいガキ共が。そンでもって会場内の地べたに直座りしてとんでもなく
通行の邪魔になってるわ、さらに円陣まで組んでその中で食ったり飲んだりしてるわ、とどめにゃ
ロッカーがあるにもかかわらず大量の荷物を持ち込んでしかもそれに見張り番まで立ててるわで
それ見てライブが始まる前からすっかり鬱になってしまった僕が、どーせお目当ては最後の二つだし
それまで会場の外で酒でも呑んでようかなときびす返しかけた途端、いきなりターゲットの一つで
あるところの銀杏BOYZの演奏が始まってしまったというわけでありまして、その不意を突いた
ような登場ぶりを見た途端たったの3秒で暴徒と化してステージに向かって突進していった厨房共の
おかげで混乱のるつぼとなってしまった会場内は、あっというまに阿鼻叫喚の極みへと達していくの
でありました。ホント一瞬にしてそこら中に花が咲いた、足の。なにごとだこりゃ?
成層圏から地上へフリーフォールしたあげく頭からドスーン、足だけ残して地面に完全埋没しちまった
アメコミのキャラ並にそこら中で足という足がもうニョキニョキ出るわのびるわで、クラウドサーフに
失敗して頭からフロアへと垂直落下していく大馬鹿者共の断末魔を聴きながら、僕はこれは一体全体
なんの冗談かと真剣に悩みはじめました。そんな僕の苦悩を他所にあろうことか人を踏み台にして
次々と空へ舞いあがっていく狂人という名の若人達。正直ジェットストリームアタックもびっくりです。
「俺を踏み台に(ムギュっ)」とかそんな感じ、決めセリフの一つも言わさせないその比類なき自由っ
ぷりに唖然呆然。これぞモラルという枠からの逸脱…まさにフライング・フリーマン!ついでに人生と
いう枠からも自由になっちゃえー!(足元に落下したバカ共に次々と悪魔将軍直伝、地獄の断頭台を
叩きこみつつ)

で、ステージ下のその冗談のような光景に負けず劣らず、ステージ上でもダウンタウン:ガキの使い
のハイテンション選手権ばり狂乱パフォーマンスがやりたい放題繰りひろげられていたというわけで
ありまして、ボーカルの人の何処の精神病院から逃げてきたんだお前はと言わんばかりのメンヘル調
MCを筆頭に(メーテル!とか叫んでました)、ロジャーダルトリー伝来マイク振り回しパフォーマンス
に軽々と失敗したあげく自らの頭頂部にそのマイクをゴツンと当ててる辺りのピテカントロプスもどうか
という類人猿っぷりにゃ正直度肝を抜かれました。とどめはギターの人の空中に向かっていきなり脈絡
なくドロップキック。これには本当にびっくりしました。まったくもって意味不明な上に無駄なことこの
うえない。思わず学生時代の先輩を思い出しちゃいました。酔っ払うと誰彼かまわずドロップキック100
連発をブチかまさずにはいられないというとんでもない性癖を持っていたその先輩の性別及び上下関係を
完全無視しきった妥協なきカマドウマっぷりは我がサークルの名物として今でも後世に語り継がれてなけ
ればいいなあ…(遠い目)おっと、いかんいかん、本当に意識を失いかけました。これに比べたらメタルの
ライブなんて行儀よすぎて笑っちゃうくらいです。それにしても曲調がダウナーだろうがアッパーだろうが
全然おかまいなし、場の雰囲気を完全無視しきった上にオイオイコールをも併せてのフライング・コンボ
決められて、僕はその明日なき暴走の前に完全降伏させられてしまいました。
(口の中でアイサレンダー♪アイサレンダー♪ってずっと呟いてました)

ンじゃ実際の銀杏の演奏はどうだったかといいますと、飾りッ気のないシンプルコードの組み合わせに
テンポという名のアクセントをつけてのガレージサウンドは、HR界隈で言うところのAC/DCみたい
だなと感じました。単純なれどアクセルのオンオフが非常にうまい。だけどシンプル故にどの曲もわりと
同じに聞こえてしまうところが弱点と見ました。
あと、ライブ終了間際における女性客の「えー終わっちゃうのー?」「はやいよー」コールを受けての
「女の子が男に向かって「はやい」とか言っちゃ駄目です!」ってな返しには強烈に感動いたしました。
この時点で抜群に好感度アップ。とりあえず僕の邦楽レパートリーは一つ増えたようです。

<銀杏BOYZ:セットリスト>
 ・銀河鉄道の夜
 ・惑星基地ベオウルフ
 ・YOU & I
 ・日本発狂
 ・人間


インターミッション

少し休もうと思い休憩所に行きましたら、そこで僕の連れがコナゴナになった眼鏡をじっと凝視しつつ
全身を小刻みにプルプルゆわせておりました。

「どーしたの?」
「あ、サカイさん、ちょっと聞いてくださいよ!
 踊ってたらいきなり人が上からふってきて俺の眼鏡わしづかみにしやがって!
 すげえアッタマきて空飛んでるヤツら誰彼かまわず全員ブン殴ってたら手がすげえ痛えンスよ!
 もうマジたまんないッスよ!」

たまんないのはこっちのほうだと思いました。カナブンだってもう少し頭いいぜ?
しかも見た目からしてあからさまにヒビくらい入ってるぽい、それも眼鏡じゃなくて指の方。
つまり要約するとアレか?人が飛んできて眼鏡壊れたので頭きて殴ったら指の骨が折れたと?
自分の脳の容量がオサムシに満たないことをコイツはたったの30秒で証明してしまいました。
銀杏ファンがこういうのばかりでないことを僕は祈らずにはいられません。合掌…(その頭の悪さに)


パート2:サンボ

さて、残されたお目当てはサンボマスターのみです。
だけどさすがにコイツらはトリだろうと思って、そのまま休憩所でゆっくり休んでたら会場内からやけに
クドクドしい説教じみたMCが聞こえてきたので、まさか!と思い、中に飛び込んでみましたら案の定
サンボの演奏前のアジりが始まってました。早い!早いよ!

それにしてもこのサンボマスターなるバンド、その名前からして力技だと思ってましたが、よもやその
ルックスまでもが力技だとは夢にも思いませんでした。何せボーカル兼ギターがどこにでもいそうな単なる
小太りデブ。しかも顔が童貞っぽい。その上やたらと説教じみてるときたもんだ、この時点でとんでもなく
好感度アップです、曲を聴く前からすっかりファンになってしまいました。いいぞー非モテの星ー!
…ってあれ?周囲を見渡せばみな女の子ばかり?しかも黄色い声援?冗談ではない!すっかりその容姿に
だまされてしまいました。いるんだよなあ最近はさ?こういう似非非モテ野郎がさ?とか何とか僕がブチ
文句言ってるのを尻目にほどなくMCは終了し、本編の演奏がはじまりました。

その途端、一斉にジャンプしはじめる周囲の女の子達。
顔にバサバサあたるロングヘアー、そこからふわっと香るシャンプーの匂い。
腕をふりあげる度にぶつかる二の腕と二の腕、飛び跳ねる度にからまる君の足と僕の足。
ジャンプ中に背中に感じるほのかなふくらみ、前をみればそこにはスケスケブラが。
この共有感!この一体感!ここは天国?それとも桃源郷?どうでもいいや、今はただただ感謝の
言葉をサンボに贈りたい、素晴らしいぞサンボ!ありがとうサンボ!とか思ってたのもつかの間、
ハッと気づけばいつのまにかお空を舞っている僕自身がそこにいたというわけでありまして、
本当に世の中いいことばかりは続かないなあということを強制的に体感させられました。さらには
落下予想地点と見られるその周囲にまごうことなきモヒカン頭が大量群生しているのを発見してしまい
本当にこの世の中はクソなんだなあということを心の底から実感してしまいました。それにしても
嫌がる人間を無理やりかつぎあげてロケット花火よろしく前方に投げっぱなすという荒技プレイを
まさか己自身が体験することになるとは夢にも思いませんでしたね、やー、マジいい経験したわー、
これだけでも今日来た価値があったってもんだよね☆、っとまもなく到着です、皆さん今までありがと〜
モギャぐげ*#☆※&%★!!!ザザー(砂嵐)

遠ざかっていく意識の中でこだまするサンボの歌声。
「分かちあってくれないか〜♪ 美しき人間の日々〜♪」

むしろこの悲しみを分かちあってやりたいよ。

憤怒の表情で周囲のゴミ共にポカポカパンチを浴びせまくる、その美しくなさすぎる男の涙は、
はてしなく清らか かつ どこまでも美しかったといいます。

<サンボマスター:セットリスト>
 ・美しき人間の日々
 ・夜汽車でやってきたアイツ
 ・さよならベイビー
 ・そのぬくもりに用がある
 ・月に咲く花のようになるの


エピローグ

帰り道、全身をワナワナさせながら必死に痛みに耐えている連れに向かって僕は優しく問いかけました。
なあ、どうしてそこまで頭にきちまったんだ?

「空を飛んでる奴等が許せなかったンだ…」

そうポツリと呟いて、彼はそのまま夜の雑踏へと消えていきました。

そうだな、僕等もう飛べないもんな。飛べない豚はただの豚だもんな。
今はただその自由が… その逸脱がにくすぎる…!


#翌日、彼は会社を休んだといいます。


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