Bob Dylan.


2010年3月24日: ZEPP・TOKYO>

えと、ここまで「御大」と呼ばれてる人のライブに行くのは「ストーンズ」以来かも。
正直言うとわざわざライブに足を運ぶ程、この人のファンというわけではありません。
実際ざっとしたプロフィールくらいしか分からないし、そのレパートリーも初期の頃の
いわゆる「名曲」しか知らないし。ただ彼の半生を描いたドキュメンタリー映画を観て、
ある種の感銘を受けたことは確かだし、その年齢を考えれば今回がラストチャンスかも
しれないし、… ということでフォークロックの生きる伝説「ボブ・ディラン」を観に、
お台場はゼップまでしとしと雨が降りしきる中を行ってきました。

で、そのライブ。冒頭のディランの歌いだし聴いていきなり「うわ」思いました。
いやここ20年で往年の透き通るようなトーンは失われて、かわりにメッチャしゃがれた
っていうのは知ってたけどその想像をはるかに超えて思った以上にダミ声なんですもん。
しかもただでさえ原曲からアレンジ加えまくりな上に、メチャメチャ即興性の高そうな
お約束皆無プレイをガンガンにやらかすもんだから、正直これなんて曲?状態。
ここ最近のセトリをかなり予習してきた筈なのに、まるで元ネタ分からないという有様。
後日調べたところによると、ディランのライブは昔からこんな感じだそうでアレンジは
毎夜変えるし、歌い方も気分次第で全然変わるし、相当聴きこんでるファンですら
なにやってんのか分からなくて曲当てクイズになっちゃうことが少なくないんだとか。
まあミュージシャンシップがすこぶる高くなきゃ絶対出来ないことだし、本来の「生」
って意味を考えりゃこういうのがホンモノの「ライブ」であることは確かなんですが。

でもって皆が期待してる筈のギターはほとんど触らず、基本的にオルガンをメインで
弄ってるもんだから横顔しか見えないんですよね。しかも微妙に音が外れてるような?
ということもあって前半は御大よりも「チャーリー・セクストン」を見てました。
確かに地味ではあるんですけどそのフレーズ一つ一つに職人気質の味を感じるというか。
あ、曲間でいちいちしゃがんで御大の合図を確認してるところなんかもわりと萌えな
感じでした。

そんなこんなで主役の御大を眺めるようになったのは"Mr.Tambourine Man"から。
曲調に合わせたライティング効果も見事にハマって、この歌いだしの時の歓声はマジ
半端なかったですね。今ライブ最初のビッグウェーブだったんじゃないでしょうか。
ちなみに個人的ハイライトは中盤でプレイした"Desolation Row"。
この吐きすてるような、それでいて丁寧な歌い方はCDで聞いたことある!みたいな。
いや完全に同じではないけど、でも確かに若かりし頃のフィールを感じさせる何がが
歌い方にこもっていて思わず鳥肌が立ちました。
だけど本当に身震いさせられたのはこの後の"Blind Willie McTell"。
映画「I,M NOT THERE」の中にまだ十代のディランが病床のウディ・ガスリーを眺める
シーンがあるんですが、その時バックに流れていた曲ですね。あの哀しい情感に満ちた
切ない空気をアレンジこそ違えどほぼ再現されたとあっちゃね。
しかもこの曲はメロのみならずその詞がまさにザ・ディランの世界って感じでメッチャ
素敵なんですよね。その一部を下記に抜粋。

 戸口の柱に刺さる矢には
 「この地は有罪を宣告されている。ニューオリンズからエルサレムまでずっと」
 と書いてあった。
 僕はたくさんの犠牲者が傷ついて倒れた東テキサスをずっと旅してきた。
 そして僕にはわかる。
 ブラインド・ウィリー・マクテルのようには、もう誰もブルーズを歌えない。


実際、このサビの下りにゃ、かなり涙腺ウルウルきちゃいました。
この後の"Highway 61 Revisited"でみせたバンドとしての協奏美も相当凄かったです。
キャパ2000くらいのスタンディング形式で15デイズという今企画、68歳という
年齢を考えたらかなり無茶な内容だと思うんですが、むしろこれを希望したのは御大の
方だそうで、その老いてますますな充実っぷりを存分に見せつける説得力に満ち溢れた
はっちゃけ演奏っぷりでしたね。何よりも既に国宝レベルの人が未だに少年のような
笑顔しながら楽しそうに演奏してるってところが見てるこっち側的にも最高でした。

あ、このライブに足を運んだ8割以上の人がお目当てにしていたであろう、間違いなく
史上最高のベスト10内にゃ必ずランクインすると思われる"Like a Rolling Stone"に
関しては、アレンジの域を超えすぎてほぼ別曲になってたもんで周囲みんなポカーン。
予定調和的なシンガロングなんか絶対させてやらないもんね!的な御大の偏屈っぷりが
そこに透けて見えるようで、だけどそんな部分も逆にディランらしいなあと思ったり。
「Radiohead」の"Creep"・「BECK」の"Loser"と並んでミーの中じゃ落ちこんでる時、
無性に聴きたくなる曲だけに、せめてサビの「How Does It Feel?」だけでもちゃんと
歌ってほしかったけど、原曲の思い入れの強さを考えなければ、この「肩の力を抜いた」
バージョンも妙に陽気テイストなところとか面白みあって結構アリだったじゃないかと。
原曲バージョンを熱望しすぎたが故の個人的な肩透かし感に関しては、せめてその歌詞を
ここに挙げることで、少しでもその溜飲を下げてみる試み。

 昔は、ずいぶん綺麗に着飾っていて、
 得意げで、放浪者には小銭を投げてやった そうだろ?
 皆が「お嬢さん、いまに痛い目に会うよ」って
 それを聞いて君は思った、冗談でしょ?
 ぶら下がって生きてる人達を見てよく笑ってたけど
 もう声高にも話せないし、誇らしくも出来ない
 自分でメシを探し回らなくちゃならなくなってるから

 ねえ?いまどんな気持ち?
 ねえ?いまどんな気持ち?
 家も無くしてしまって 全く知る人も無く
 転がる石ころみたいになって

 一番良い学校に行ったんだって?ミス・ロンリー
 でもそこで君がなったものは、搾りカスだ
 誰も道端で生活する事なんて教えてくれなかった
 でもそうしなくてはならない、慣れる事だね
 妥協したくなんかない、っていったね、
 放浪者となんかって でも身に沁みるだろう
 彼は言い訳なんか与えない
 いくら彼の真空の目を見つめて
 一仕事やろうよって持ち掛けても

 ねえ?いまどんな気持ち?
 ねえ?いまどんな気持ち?
 家も無くしてしまって 全く知る人も無く
 転がる石ころみたいになって



<今日の一枚>

 「Highway 61 Revisited」 / Bob Dylan

1968年リリースの6th。あくまでディランの全カタログを1、2回くらしいか聞いた
ことのないミーのようなディラン初心者がディラン未聴者に何か一枚薦めるとしたら、
そのアルバムは、代表曲オンパレードな上に名曲を超えた歴史的神曲が詰まりまくった
究極のマスターピースであるコレになるんじゃないかと。
あ、ディランの音世界は実際のメロのみならずその背景も素晴らしく魅力的なので、
彼のドキュメンタリー映画である「ノーディレクション・ホーム」も一緒にお勧め。
(その中の音楽シーンにおける歴史的映像がコレ


<今日の無駄T>



#生地がありえないくらいペラッペラすぎて、実用性はほぼゼロ。
 壁に飾ってタペストリー代わりにする以外の用途がまるで思いつかない。



<セット・リスト>

01:Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again
02:It Ain't Me, Babe
03:Rollin' And Tumblin'
04:Mr.Tambourine Man
05:Cold Irons Bound
06:Sugar Baby
07:Desolation Row
08:Blind Willie McTell
09:Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)
10:Can't Wait
11:Highway 61 Revisited
12:If You Ever Go To Houston
13:Thunder On The Mountain
14:Ballad Of A Thin Man

15:Like A Rolling Stone
16:Jolene
17:All Along the Watchtower


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