ALICE COOPER.


2008年3月25日: 新木場コースト>

アリスはロックの歴史に名を残した。あんなカッコよくキメられる奴はいない。
思いつきの連中なんてどうでもいい。あの方向性を本当に追求したのは彼が初めてさ。 〜スラッシュ〜


分かりやすくてノリのいいAOR的な音作りに、ホラー的要素を色濃く含んだシアトリカルなショー進行、
そしてそれらショーアップ要素をより盛り上げる数々の大仕掛け… ヴィジュアル系の原点ともいわれる
アメリカンロックの代表格「キッス」がブレイクする以前、エンターテイメントロックの基盤は既にこの男が
完成させていたー! そんなバキ的前振りとともにこんにちわ、今回はそんなショックロックの大御所である
「アリス・クーパー」、約20年ぶりの来日公演を見に、新木場はコーストまで出向いてまいりました。
まあね、ここ日本じゃ知名度低くてもなにせ米国じゃオジーやエアロ、ガンズなどにも多大な影響を与えた
といわれるクラシックロックの大御所の1人ですからね。こういった「今回見逃したら次はないかも」的な
公演はなにはさておき抑えておくってのが、正しきメタラー道ってヤツなんじゃないかなと思って。

さて、ライブの方はというと、まず幕が上がった状態のままシルエット越しに二人の男が登場し、
いざ幕が落とされた瞬間に1人が1人をナイフで突き刺すという小芝居全開のオープニングにてアリスが
華々しく登場するという抜群の掴みから、代表曲の一つである"No More Mr Nice Guy"を歌いつつ
演出用のステッキを気前よく客席に放り投げるなどの豪快サービスを経て、あのハノイロックスもカバーした
"Under My Wheel"や松葉杖を小道具に使いつつの"I'm Eighteen"、そして冒頭の死体(人形)をさんざ
振り回しながら熱唱した"Is It My Body?"へと繋がっていった辺りで、フロアの熱気は早々と飽和状態に。
いや、曲そのものの良さも勿論なんですけど、やっぱし小芝居含みのステージ展開とそれを盛り上げる小道具の
数々によるお遊び的演出は楽しすぎますわ。

そのエンタ精神とサービス心が対になっての大盤振る舞い展開は、中盤に入って衰えるどころか、むしろ
ますますパワーアップ。ざっと挙げただけでも、
 ・Lost In America
  → ムチを持ち出してギターの人を引っ叩いた後、フロアへ投入。
 ・Dirty Diamonds
  → 歌いながら大量のネックレスをチェーン状にして振り回した末、次から次へとフロアへ投入。
 ・Desperado
  → 裾短めのチャイナ服を着たエロいお姉ちゃん(アリスの娘らしい)登場。
    アリスはカウボーイハットに拳銃のウエスタンスタイルで熱唱。
 ・Halo Of Flies
  → 指揮棒を持ち出して背後のリズム隊をオーケストラばりに指揮。
と、これだけやってくれていました。
演奏面においては、うねりあるサウンドがすごくVR的(解散寸前らしい)だった"Lost In America"、
バンドをステージ中央に集めてメイデンばりのフォーメーション組んでた"Woman Of Mass Distraction"
辺りが特に見映え利いていましたね。

が、アリスの本気はまだまだこんなもんじゃありませんでした、
よもや"Welcome To My Nightmare"から始まったストーリー仕立ての連続演出にて、ここまでの
展開をなお上回る驚きと楽しさを与えてくれるとは。
クリーチャーっぽいモブキャラとアリスの娘演じるゾンビな花嫁がアリスをよってたかって襲い始めたのを
皮切りに始まったそのミュージカルさながらのショーは、次曲"Cold Ethyl"にてアリスがその花嫁を殴ったり
ともにダンスを踊ったりなどの逆襲プレイをし始めたことにより、更におどろおどろしく展開。
そして秀逸バラード"Only Women Bleed"の中にてその曲名が示すとおり、アリスの腕の中で花嫁が血を
吐き出したかと思えば、次曲"Dead Babies"ではいよいよお待ちかねのマイク付き乳母車が登場。
以降、アリスが花嫁の喉笛を掻っ切るとともに中のゾンビな赤ん坊(人形)を掴みだして杭を打ちこんだり、
そこから黒頭巾の男達が出てきてアリスを拘束、と同時に血まみれの花嫁がアリスの顔に唾を吐きかけたり
するたびドッと沸く場内とその好パフォーマンスに対し、これまでにも増して盛大な拍手と奇声で応える
オーディエンス達。
その熱気をいよいよ臨界点まで引っ張ったのが"Killer"の演奏中に出てきたドでかい絞首台とそれによる
アリス自身の処刑、そして中空にブラブラと揺れるアリスもろとも絞首台が袖へハケたと同時に切々と
流れはじめる"I Love The Dead"でした。ここでの演出及び演奏とそれに引きこまれた観客達から全力で
放たれた「I Love The Dead〜♪」のシンガロング、そこから数刻間をおいてアリスがステッキをクルクル回し
ながら再登場してくるとともに叫んだ「It's Party Time!」の一言と、その後に続いた"School's Out"の
イントロ出だしは、ただでさえハイライト尽くしだった本日ショーの中でも最高のクライマックスだったん
じゃないかなと。

その後においても曲中、頭上から飛び出してきた巨大風船を手にしたサーベルで突き割り、中の紙吹雪を
客の頭上でバラまくなどの過剰演出や、ステージ上段にかけあがってこちらをいきなり指差すなどの芝居
がかったポーズ決めなど、これ本当に今年60のお爺ちゃん?と首を捻りたくなるほどの懇親パフォーマンス
でもって場を更に更に熱狂の渦へと巻き込んでいくアリス、
その見事なまでの「ザ・エンターテイナー」っぷりをこの上なく綺麗に飾ったのが曲終わり際の最終演出、
アリスが被っていたシルクハットを無造作に頭上へ放り投げたかと思いきや、それをドラムのエリックが
片手スティックで華麗にキャッチし、と同時に全員が深々と一礼してその場を足早に去っていくというクール
きわまりない幕引きには本当に全身ゾクゾクさせられましたね。

そしてここまでやっといて、なおそのアガりっぷりを収束させないアンコール以後の展開も最高!
 ・"Billion Dollar Babies"にて、アリス札バラ撒きパフォーマンス炸裂。
 ・それをモッシュさながら必死に奪いあう妙齢の観客達。
 ・そしていよいよかの名曲"Poison"が… 
 ・このスケールの大きさを感じさせるリフを聞いただけでもう胸がジーンと…!
 ・サビは当然のごとくシンガロング、周囲をふと見渡したらほぼ全員が満面の笑顔でした。
 ・最終曲は"Elected"、あまり好きな曲じゃないので蛇足かと思いきや、これがどうしてどうして。
 ・曲途中で「アリスを大統領に!」というプラカードを持ったスタッフ達が乱入。
 ・それをきっかけに、ステージ上もその下も凄まじいお祭り騒ぎへと突入。
 ・曲ラスト間際、ヒラリーとブッシュのお面かぶった二人が出てきて大暴れ。
と、一瞬たりとも目を離せないほどの怒涛フィナーレによる、この素晴らしいショーの締めくくりは、
「俺は聴いてもらって当たり前だとか考えたことないし、自分はすごいとか思ったこともない。
 とにかく俺の頭にあるのはさ、オーディエンスには俺の持ってる力のすべてを与えるべきだってことなんだよ。
 俺がステージに立つ夜は、一夜として例外なしに、俺の最高の2時間を味わってもらうんだ」
という自身の言葉をあますことなく証明しきっていたんじゃないかなと。

後日ネットで見た「正直、興味半分で行ったが、こんなに楽しめるとは思わなかった」という一言に心の底
から同意したい一晩、そしてやっぱりホンモノは時代を越えてなおホンモノだったということを如実に実感
させてくれた一晩だったと思います。


<今日の一枚>

 「Trash」 / Alice Cooper

1989年リリースの19枚目(08年現時点で27枚もリリース!)。
70年代初期のブレイクから中頃の黄金期を経て、その破竹の勢いが遂に失速し始めた80年代、
そんなアリス受難の時期に周囲を覆っていたスランプという名の濃霧を丸ごと払拭する起爆剤となった、
起死回生の一枚。
ともすれば作風の個性が消えてしまいがちな外部ソングライターの積極的起用というリスクをとり、
よくもまあここまでというぐらい豪華なゲスト陣を呼んで、これ以上ないというぐらいベッタベタな
アメリカンロックに仕立てたその味付けは、食物に例えるならまんまビッグマック。
ちょっとチープで若干下卑てるけど、でも最高にゴージャスでダイナミックで聴きやすいロックが
楽しめちゃうその内容は、本来の毒毛が抜けてる分の聴きやすさプラスでアリス入門編には最適かと。


<今日の無駄T>



#あまりにドベタすぎて逆にアリなんじゃないかと勘違いしちゃうような直球デザイン。
 本国と比べてここ日本じゃあまりに低すぎる知名度が「なにそれ」感をより強くしているような。



<セット・リスト>

01:It's Hot Tonight
02:No More Mr Nice Guy
03:Under My Wheels
04:I'm Eighteen
05:Is It My Body?
06:Woman Of Mass Distraction
07:Lost In America
08:Feed My Frankenstein
09:Be My Lover
10:Dirty Diamonds
11:Muscle Of Love
12:Desperado
13:Halo Of Flies(Include Jam & Ds Solo)
14:Welcome To My Nightmare
15:Cold Ethyl
16:Only Women Bleed
17:Steven
18:Dead Babies
19:Ballad Of Dwight Fry
20:Medley: Devils Food 〜 Killer 〜 I Love The Dead
21:School's Out

22:Billion Dollar Babies
23:Poison
24:Elected


[ MenuNext ]