IAN BROWN.


2008年3月6日: 渋谷O−EAST>

80年後期の英国にマッドチェスターと呼ばれる一大ムーブメントを巻き起こした「New Oreder」や「Happy
Mondays」等と並んで、後のブリットポップ・シーンの基盤を作ったとされる伝説的バンド「Stone Roses」。
そのVoをつとめていた「キングモンキー」ことイアン・ブラウン。

作り出す楽曲の曲調が優しげなことで知られているわりに、その口を開けば、

 「ああ、あのクルミみたいな顔したヴォーカルがいるバンドね」〜対ポリス〜
 「マッチョイズムが耐えられないね」〜対ZEP〜
 「奴は世界一のレイシストだ」〜対アクセルローズ〜
 「ナルシストで薬中の、典型的な駄目なミュージシャンだね」〜対ジム・モリスン〜
 「とっくに終わってる爺さん」〜対ルー・リード〜
 「20年前なら考えてやってもよかったけどさァ」〜ボウイの前座を断った理由〜
 「あんなジジイ達を見に来る様な客の前で一体何をやれって言うんだ」〜ストーンズの前座を断った理由〜
 「名前を口にするのも汚らしい」〜対イアン・カーティス〜
 「自分さえ良かったらいい自己中男、歌詞もユーモアセンスなし」〜対モリッシー〜
 「俺はノイズバンドって呼んでる。まともな演奏が出来ないからな」〜対グリーンデイ〜
 「奴のブルジョワ趣味は耐えられないね」〜対ブラー〜
 「巨額を稼いでおいて何が人生の苦悩の歌だよ、アホらしい」〜対レディオヘッド〜
 「俺に会いに楽屋に入ってきたが追い出した。ダサい革のブーツ履いてやがったからな」〜対ボビーギレスピー〜
 「U2みたいなクソを消し去るためさ」〜バンド結成の理由を聞かれて〜
 「今までで最低のホテルだったぜ」〜出所直後〜

などなど、その曲調と相反しまくりなお騒がせ発言が多いことや、やたらと短気なことでも有名な彼が、
サマソニ05以来の単独公演を行うと聞き及び、その時「Nine Inch Neils」とのカブりで見に行けずに、
後日セトリをみて、悔しい思いをした時のリベンジとばかり、渋谷は(またまた)O−EASTまで行って
まいりました。ちなみに以下がその時のセットリスト。

 01:I Wanna Be Adored
 02:Made of Stone
 03:Waterfall
 04:Golden Gaze
 05:The Sweet Fantastic
 06:Time is My Everything
 07:Forever and a Day
 08:All Ablaze
 09:Longsight M13
 10:Keep What Ya Got
 11:She Bangs The Drums
 12:F.E.A.R
 13:Submission(Sex Pistols)

ローゼズから4曲もやって、その上ピストルズのカバーまで…!って、こりゃ豪華すぎるでしょ。


しかしまあ、今回もどこかしらでローゼズナンバーを演ってくれるだろうとは思ってましたけど、よもや
出だしからもってくるとは思ってもみませんでした。でもって曲終了後、「お前ら、ローゼズ好きか?」、
「ローゼズをもう1曲、聞きたいか?」のMCとともに続けてプレイしだしたのが"Made of Stone"という
まさかの神展開。気だるげかつ物憂げでありながら確かな意思をも感じさせるこの歌声、そして音に
ゆっくりと侵食されていくかのようなこの感覚… これぞイアン・ブラウン!的な世界をいきなり全開で
披露され、場内の熱気の方は早々と最高潮に。

その後のソロナンバーにおいてもローゼズ時代に通じるシャボン玉が弾けるような優しげサウンドを、パント
マイム調の身振り手振りや誰かを抱き寄せるような仕草とともに次から次へと披露していくイアン。
リアムに音痴呼ばわりされたというその音程のハズしっぷりも健在なようで、時折やらかしちゃってましたが、
そういったシンガーとしての致命的ミスをも愛嬌レベルに収めてしまうほどの圧倒的オーラは「貫禄」の一言。
フロアのどの位置にいる客にもその存在をアピールすることを意識してなのか、その奇抜な動作アクションの
全てが大きくて見映えする上、常にステージ全体を移動しながら歌っている辺りは流石にライブ巧者だなと。

そして優しげかつ淡々とした曲調の中に、妙に情熱的なグルーヴを感じさせるところも彼の持つ魅力の一つ。
その一端を大きく担っているドラムはもちろん、その右側にもう一つ設置されたコンガ、マラカス、タンバリン
等の民族系打楽器や、それら様々な楽器を操るターバンなお兄さんのファンクでソウルフルな挙動もいちいち
面白くて魅惑的でしたね。そのせいもあってか終始「横」かと思っていた客ノリの方も実は思ったより「縦」。
だけど前方にいた小僧のほぼヘドバンばりな仰角180度幅のヘッド前後振りにゃかなり辟易させられました。
ここをご覧になられた諸兄諸君等においては、そもそも良きヘドバンとは前後へ「振る」のではなくその魂を
こめて前へと「落とす」べきものなのだということをマナーとして覚えておいてほしいと思う次第です。

そんな空気の読めてない小僧の後頭部にチョーパン叩きこんで撃退したのちの中盤以降におけるハイライトは、
Dear Prudence(ビートルズ)の一節を含んだ名曲"My Star"と、おそらく新譜の中じゃ一番「らしい」雰囲気が
出ていた"Street Children"にてホール一体のヴァイブをイアン一色に染め上げた後の"Keep What Ya Got"が
頂点だったかなと。ちなみにこの曲はオアシスのノエル提供だそうですが、この妙にダンサンブルでありながら
どこか掴みどころのないあやふやさが実によくイアンのカラーを掴んでいるなとも思いましたね。やっぱし奇人は
奇人を知るのだなと。
またその本編にて物理的のみならず精神的にも存分に高められた空間密度を優しさと美しさの波動にて更に
凝縮してくれた"Waterfall"と、それを一気に開放しきってくれた次曲"I am the Resurrection"後半ジャム
パートのローゼズ2連発は圧倒的という他ないほどのエネルギーに満ち満ちていましたね。
特に後者、打楽器コーナーにてインド人もどきとともにパーカッション叩きまくるイアンの大ハッスルっぷりは
普段のスカした言動とのギャップも相成って、もう見ているだけで微笑ましくなるほど。

もちろん締めの1曲は満を持しての"F.E.A.R"。
その説得力溢れるメロディとともに「F!E!A!R!」のシンガロングでもって場の一体感をも演出してくれた
一幕もあわせて、過去の栄光のみならず今の成長をも見せつけてくれた充実のライブ内容だったと思います。


<今日の一枚>

 「Music Of The Spheres」 / Ian Brown

2001年リリース、ソロ作としては3枚目。
ソロ転向後たびたび聞かれてきたメロディ面への充実不足から、ローゼズ音作りの土台を担ってきた
レニとジョンを欠いたままはたして今後もイアン1人でやっていけるのかといったそれまでの雑音を
一掃するに足る楽曲面の充実度合やとらえどころのないシャボン玉サウンドは、彼がローゼスの呪縛から
ようやく解き放たれたことを明確に示す一つの証明かと。
雨の日などに聴いてみたいと思わせる、アンニュイ感漂う一枚。


<今日の無駄T>



#御大自らのツラを前面に思いっきりプリントしたデザインは、悪くないっちゃそうだけど、
 肝心のツラそのものにエフェクトがかかりすぎてて、よっぽどのファンじゃない限り、これが
 イアンだとは分からないんじゃないかと。
 


<セット・リスト>

01:I Wanna Be Adored
02:Made of Stone
03:Dolphins Were Monkeys
04:Destiny or Circumstance
05:Time is My Everything
06:The Sweet Fantastic
07:Lovebug
08:My Star
09:On Track
10:Street Children
11:Goodbye to the Broken
12:Keep What Ya Got
13:Longsight M13
14:Sister Rose
15:Golden Gaze

16:Waterfall
17:I am the Resurrection
18:F.E.A.R


[ MenuNext ]