ASH.


2008年3月4日: 渋谷O−EAST>

米ではグランジ・オルタナ、英ではブリットポップ、後のシーンに影響を与えた2大ムーブメントが
吹き荒れていた1992年という変革期に北アイルランドでデビュー、それぞれのシーンの長所をうまく
取りこんで独自アレンジしたポップな音作りが人気を呼び、まだ高校生だった当時にして世界中にその
名を知らしめたロックバンド「ASH」が昨年のフジロック07に続いて再来日すると聞き及び、その時イギー
との時間カブりでスルーせざるをえなかったリベンジ観戦とばかり、渋谷は最早お馴染みとなりすぎた
O−EASTまで行ってまいりました(今年に入って既に4回目)。

開幕前のSEにてグリーンデイを始めとする90年代ロックに混じってシン・リジィが流れたのを聞いて、
アイルランド出身というお国柄が感じられるそのシブいチョイスに思わずニヤニヤしていたところへ
いよいよメンバー登場。初曲の"Meltdown"からメタル的なアレンジが施されたギターソロに目を…じゃ
ないや、すかさず耳を奪われていきなりおおっ?と思わされることに。まあね、UK的な色合いの強い
イメージばかりが先行していたところへ強烈にガツンとくらったもんでかなり意表を突かれた感は否め
ませんでしたが、よくよく考えたらその音楽的バックボーンにゃオールドスクールから近代までのポップや
パンクのみならず、メタル成分も多分に含まれているんでしたっけね。その証拠にVo兼Guのティムが
使っているモデル、メタルに慣れ親しんでなければまず選ばない筈のフライングVですもん。
バンドの看板娘シャーロットが抜けてステージングが弱くなったと言われて久しい昨今の「Ash」ですが、
ポップ指向に傾倒していたといわれる彼女の呪縛が消えて、その分、メタメタしくなってくれるのなら、
普段はメタル界隈を主戦場としているミー的にゃ大歓迎ってもんですよ。

しかしまあその後に繰り出される楽曲のどれもがいいってのには、今度こそ完全に脱帽しましたね。
楽な気分でユルく踊るにゃもってこいの軽くて良質なメロがもう次から次へと… そのノリの臨界点にて
満を持して繰りだされたこのイントロは…!遂に"Kung-Fu"キター!途端にフロアはそれまでのダンス
エリアからモッシュゾーンへと早変わり。こりゃ今日は当たりだわー!と思ったその途端、いきなりの
ベーストラブル発生で、それまでのいい流れはすっかり停滞してしまうことに。
と、ここで気を吐いたのがリーダーのティム。急遽アドリブ含みの独奏会を開始し、同郷のパワーポップ
バンド「Undertones」からの"Teenage Kicks"に、弾き語り可能ということで急遽セトリをチェンジして
ここに持ってきたっぽい"Oh Yeah"の2曲でもって、機材修復の間の繋ぎ役を見事に果たしたそのフォロー
っぷりは見事の一言。そのバンドの真価はトラブルの時こそ問われるとよく言いますがそういう観点から
見るならバックの二人も含め一切のキョドりなくしてやるべきことを自然に行っていた今日の「Ash」は
やっぱりホンモノだなと。特に今日のティムにはサマソニ07にて隣のベーストラブルをまるで意に介さず
マイペースで弾きまくっていた「DINOSAUR Jr.」のJと同じくらいの貫禄を感じてしまいましたね。

中盤から後半にかけてのハイライトは幽玄かつ空間的な広がりを感じさせるメロディーが魅力的な2曲、
"Polaris"・"Ritual"の間に、それとはかなり毛色の違うパワーポップ系の"Jack Name The Planet"や、
メタルとグランジの中間的な歪み系ソロでふんだんに「きかせて」くれた"Vampire Love"を挟んで、
その音楽的背景の多彩さ・雄弁さを言葉でなくしてメロディで物語ってくれた流れかなと。
この流れに象徴されるように「Ash」の作る曲って大きく分けて、キッズやパンクス向けのキャッチーかつ
ガレージ臭を強く匂わせる曲とアリーナでプレイするのが似合うようなスケールの大きい曲との2タイプが
あって、その曲調コントラストによる対比の妙を楽しめるってところも彼等のライブの魅力だと思っている
のですが、その辺の「味」が特に強く出たのが軽快ポップチューンの真骨頂、"Girl From Mars"でもって
場をお祭りモードに巻き込んだかと思いきや、次曲"Twillight Of The Innocents"にて今度は一転、その
熱気を柔らかく包み込み、ゆっくりと静かに昇華させていった展開ですね。特に曲の終わり際、ホール中空へ
向かって瑞々しくほとばしる熱唱エナジーから放たれたヴァイブは、これをこんな小さい会場で味わうにゃ
勿体なさすぎると本気で思わせてくれたほどでした。フジロックのグリーン辺りでこれを体感したら絶対
感動しちゃうだろうなあ的な。

その後のアンコールにおいても、お待ちかねの"Goldfinger"に満を持しての"Burn Baby Burn"と、
その期待を微塵も裏切ることのないキラーチューン連発の流れから、ラストはシンガロングもばっちり
決まって言うことなしな秀逸フィナーレ。特に前者のニルヴァーナ的なグランジ臭から濁りと泥身をとった
ような、ちょっと陰含みの瑞々しさは「これぞAsh!」をマックスで感じさせてくれるに相応しい時間帯だった
んじゃないかなと。曲作りの多彩さやまとまった演奏力なども含め、改めてこのバンドが持つパフォーマンスの
高さというものを痛快に再認識させられた良質のライブだったと思います。
しかしこのバンド、正直もっとメジャーになってもおかしかないといつも思っているんですが、何故か地味な
イメージがいつまで経っても拭えないんですよね、不思議だなあ。


<今日の一枚>

 「MELTDOWN」 / Ash

ライトで良質なメロディという長所を残したまま、そこにメタル的リフというスパイスが
加わったことにより、楽曲にいい意味でのけれん味やメリハリがついた、2004年リリースの4th。
まず「1977」から入って、気に入ったらコレを聴くというのが正しき「Ash」道かと。


<今日の無駄T>



#これまたオーガニック感漂うデザイン。
 普段のメタTよりは着れなくもないと思うけど、それでもフェスやライブ専用かなー



<セット・リスト>

01:Meltdown
02:A Life Less Ordinary
03:You Can't Have It All
04:Orpheus
05:Walking Barefoot
06:Shining Light
07:Kung-Fu
08:Ranegade Cavalcade
09:Teenage Kicks(Undertones)
10:Oh Yeah
11:Wild Surf
12:Polaris
13:Jack Name The Planet
14:Vampire Love
15:Ritual
16:Evil Eye
17:Blacklisted
18:Girl From Mars
19:Twillight Of The Innocents

20:End Of The World
21:Pacific Parisades
22:Goldfinger
23:Burn Baby Burn


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