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Rave Racer (Arcade 1995 ナムコ)



会社からの帰り道、いつも必ず通る道の脇にその小さなゲーセンはありました。
そのゲーセンの入り口の近くには、ず〜っと
Rave Racerの筐体が置いてありました。
たぶん新品で入荷したその時からずーっと置いてあるのだと思います。

いつの頃からでしょう。
帰り道にそのハンドルを必ず握るようになったのは。

そのせまい店内の中で唯一のレーシングマシン筐体は妙に目立って見えました。
それが始めのきっかけだったと記憶しています。

 特にそのゲームをやりたかったわけじゃなく
 いつも通る帰り道に たまたまそのゲームがあっただけ

でもふと気付くと、そのゲーセンの前を通る度にシートに腰をおろし、ハンドルを
握って臨戦体勢に入っている自分がいました。

初級コースはなんなく1位をとる事ができました。
中級コースも、かなり苦労はしましたが、2月もするうちに1位をとる事が
できるようになりました。
でも山岳地帯が舞台の上級コースだけはなかなかTopをGetできませンでした。

半年くらい経過して
Rave Racerをプレイする事が習慣化してきた頃には、
プレイの調子によってその日のバイオリズムを占うようになりました。
走るコースは必ず上級。
どこのコーナーがノーブレーキで抜けられるか、
どのストレートがオーバーテイク・ポイントか、
Topを捕らえる事ができるタイムはどれくらいか、
これらの要素が、体で考えられる様になってもまだTopはとれませんでした。
いつも惜しいところまではいくのですが、どうしても逃げ切られてしまう、
それでも「明日こそは、明日こそはきっと」そう思いプレイし続ける毎日でした。


Rave Racerのプレイが日常生活の一部としてて完全に溶け込んだ頃だと思います、
僕に気になる女の子ができました。
いけそうかな?駄目そうかな?彼氏いるくさいよな…右往左往。
そこそこ仲はいいんだけどいまいち踏み込めない、そんなモヤモヤした毎日。
そンな気持ちが煮詰まってきたある日、いつも通りシートに腰をおろしハンドルを握りました、
その時、脳裏に浮かんだ一つの試み。

 もし、もし上級コースでTopがとれたならその時は、その時は…!

ゲームスタート。
1周目:順調だ。いつもよりオーバーテイクがスムーズにいく。動きも滑らかに見える。
2周目:3位まで上がってきた。問題はここからだ。まずはTopの尻に張り付かなくては。
2周目:トンネルを抜けたところのカーブで勝負。焦るな、はやるな、いけー!

………………! 遂に、遂に!

僕はやった!やりとげたンだッ!
遂に、上級コースでTopを取る事ができたんだ。
今のボクはウイナーだ、バイオリズムも最高調だ、よし、この勢いにのって!




帰宅。

電話機の前で数秒ためらい、意を決してダイヤルを押そうと思ったその時です。
プルルルルルルル、ガチャ


 もしもし***ですけど
 
(わ、彼女の方から電話かかってきた!)

 あ、はい、サカイですけど。

 
(しばらく世間話を続け、さりげなくそっちの方向へもって行こうとする僕)

 
実はね、最近気になってる人がいてね…

 
(お?おお? も…もしかして…)

 昨日ついにコンタクトとったらね、なンかイイ感じになりそうなのキャ〜

 (コナゴナになりながら、それでも声のトーンは変えずに)
 へぇ〜〜そうなンだ。今まで全然そンな話しなかったじゃん。


 私そのへん凄く臆病なのよ、でね、このことを誰かに伝えたくてしょうがなかったの


この時点で密かに僕が好いている事に気付き、先手を打ってきた彼女の意図は
あまりにも明白であり、今の僕にできる事は彼女のその作戦を無事に完遂させてやる
事のみであり、そンな気づかいを彼女にさせてしまう僕は虫?むしろ虫?そして虫?
頼むよそンな優しい声でボクに話し掛けないでくれよ罵ってくれよ罵倒してくれよう、
なンか頭の奥で鐘がゴ〜ンゴ〜ンって、動揺を悟られてはいけない悟られてはいけない、
なンかこめかみの辺りがジ〜ンジ〜ンって、動揺を悟られてはいけない悟られてはいけない、
尊厳だけは見苦しい真似だけは、指先が足の先がつめたイ駄目だむしろ駄目だいつも駄目だ
動揺を…


会話終了後、ふと横をみると鏡。
そこには菩薩のような表情を顔面に貼りつかせてる虫男が1人うつっていました。

ああ、どっかでこの顔見た事がある・・そうだ
競馬で30万スッた時のツラだ…
ついでにその場でマワって、さらに自分の惨めさに拍車をかけてみます、ワオすっげ楽しい!

その後布団をかぶって寝ました。
丸まって全身を抱え込んで、外界から身をマモラナクテハ外界から身をマモラナクテハ
ソトカラミヲマモラナクテハソトカラミヲ…………



会社からの帰り道、いつも必ず通る道の脇にその小さなゲーセンはあります。
そのゲーセンの入り口の近くには、ずいぶん長い間
Rave Racerの筐体が置いてあります。

そして僕がそのハンドルを握る事は
二度とありません
誰がやるかようこンなクソゲー!こうしてやるコイツっ
ぺぺぺぺぺっ!


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