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#8:ドカコック 

古くは「ザ・シェフ」「食キング」「喧嘩ラーメン」等を、
また今においては「喰いしん坊!」「酒のほそ道」「江戸前の旬」などなど、
まさにザ・大人の為の料理漫画といってもいい名作の数々を排出してきたあの
「漫画ゴラク」さんが、またここに新たなる金字塔を打ち立ててくれました。

その名も「ドカコック」 BY 渡辺保裕先生

とある建築現場の近くにある食堂内が、その舞台です。



全ての土木作業員にとって至福の時、ランチタイム。

だというのに、ドカにとっての命とも言えるその飯をおろそかにして、ギャンブルに
興じる無法ドカ達数人。しかもそれを咎めた店主にまでいちゃもんをつけ始める始末。

このアクシデントに店内騒然とする中、席も立たずに、ただもくもくと飯を食う男が1人。




そして食べ終わるや、ラーメンのどんぶりをかぶったままの店主に、礼儀正しくお礼。
更にはほぼ1ページぶちぬきで、この爽やかな笑顔。



この男こそ、この「ドカコック」の主人公、京橋建策その人です。
で、その後、おもむろに立ち上がったかと思ったら。




「さあて」
「厨房を拝借するよ」

なんなんスかね、その「飯も喰ったし、さあて、ウンコしてくっか」的「さあて」の使い方。
前後のつながりを文章にしてみたら「飯が旨かったので厨房を拝借するよ」とこうなります。
つまりまるで脈絡なし。これまた随分とサドンリーな人だなあ。




が、この男、厨房に立つや否や、今までの爽やかテイストがものすごい勢いで豹変。




次頁にゃ早々とこんなんなってましたドカー

このペ−ジだけ見て、料理マンガだと言い当てることが出来る奴は、間違いなく天才です。
そんぐらいものすごい原哲夫っぷり。どこをどこからみてもジャギと相対してるケンシロウ。
一体彼に何が起こったと言うのでしょうか?




そんなこちらの驚愕を他所に、男は猛烈な勢いで包丁をふるいはじめます。

ドドドドドドドドド…!




しかも更に強く!そして激しく!一心不乱にドドドドド!
「ドドド」の第一人者、かの荒木飛呂彦御大もぶっちぎらんばかりに

ドドドドドドドドドドドドドド…!

このビート、そしてこのリズム…!
ヘヴィネスとダイナミズムに満ち溢れた主旋律をバックに、日本が世界に誇るプロレタリアート、
ドカ野郎達、魂の咆哮が、今、炸裂するー! 

なんだ、一体、なにが出てくるんだ!?




「ランマーだーーー」.
「ドカのソウルミュージックじゃー」.


ひっくり返りました。

まず「ランマー」という土木関係者じゃなきゃほぼ誰も分からないような特殊機器を
センターに持ってきたそのセンスも凄いですが、それを力いっぱい無駄な方向へ引き立てている
このソウルフル最強に極まった画力も凄い。




そして一斉に沸き起こるシュプレヒコール、「腹減った!」「腹減った!
こんなにも単純かつこれほどまでに明快なリビドー表現が、果たして他に存在したでしょうか?
そーれ「腹減った!」「腹減った!




皆さんすっかりお待ちかねてたところへ、またもや2Pぶち抜きで、

 「揚げたてドカコロ丼、竣工!


先ほどの「ランマー」に続いて、今度は「竣工」ときたもんだ。
うむ、ここまでドカ専門用語の使い方が巧みな漫画は、あの「ドトウの笹口組」以来じゃないでしょうか?

これまた出来上がった料理が実に旨そうなんですよね。
あ、そこ、よくよく見れば飯とキャベツの上にコロッケのっけただけ?とか断じて言うなかれ。

だってほら、皆さん、大絶賛ですよ。

 「こんなドンブリみたことないぜ!」 飯がずっしり詰まってるぜ!

 「何ちゅうボリュームや!」 きっと喰い応えあるぜ!

 「男の夢…ドカ盛りや!」 あんたの夢、小っちゃいなー




更には優れた料理漫画には決して欠かせない役回り、ミスター味っ子の「ブラボー男」、
将太の寿司の「柏手の安」、美味しんぼの「富井部長」、男塾の「雷電」などに例えられる、
個性溢れる味利きどころもしっかりと存在。その言わんとするところを、あくまでも控えめに、
けれどもキラリと分かりやすく読者に伝えてくれます。

「これはまさに世界遺産級…」 そこまで〜? いやいやいや




そして今度はドカコロ丼という名の渾身ストレートをしっかり受け止めたドカ達から、
主人公たるピッチャー側へと投げ返される賞賛スローイングの雨あられ。

ド」「ド」「ド」「ドド」「ドドドド…!」




「ドカうまーーッ!」.

何故かバックにはピラミッドやアンコールワットが。 
そんなところまで「まさに世界遺産級…」アッピール? どんだけ〜?


 

そして、とってつけたように次から次へと改心し始める無法ドカ達。

 「目が覚めたぜ 俺は…俺は…」
 「俺はドカなんだ…」
 「ホンマにすまんかったのう…」


はい料理一発!問題解決!実にイッツ・ソー・イージ〜♪イージ〜♪イージ〜♪




というわけで「ドカコック」、
優れた料理漫画の条件、「サドンリー」「ソウルフル」、そして「イッツ・ソー・イージー」
の全てを兼ね備えたこの漢専用一大スペクタクル絵巻、皆さん、いかがだったでしょうか。

料理漫画界隈におけるトンデモ・デフォルメの第一人者といえばまず「スーパー食いしん坊」
「一本包丁満太郎」で名を馳せたビッグ錠先生、その驚愕テイストを少年誌向けにアレンジ
して作品そのものの普遍性を高めた「ミスター味っ子」「将太の寿司」等の寺沢大介先生。
それら要素に「ヤクザ」「喧嘩」等の漢エッセンスをふんだんに盛り込んで男による男の為
の料理漫画を今もなお求道し続けている「喧嘩ラーメン」「喰いしん坊!」の土山しげる先生
辺りが挙げられると思いますが、それら御大に勝るとも劣らぬ、この唐突で過剰かつ更に大仰
極まりない展開力には手放しで感動いたしました。
これだけ優れた漫画が読みきりってなあまりにもったいないと思うので、まずは不定期でいいから
是非とも連載してほしいと思いますね。

もちろんこの漫画を掲載したゴラク編集部の針の穴を射抜くようなオモシロ…、じゃないや、
洗練された眼力も見逃せないところです。よくよく見たら他の連載陣も凄く豪華なんですよね。
その一部をパラっと紹介。

 ・天牌 麻雀飛竜伝説(嶺岸信明先生)
 ・銀牙伝説WEED(高橋よしひろ先生)
 ・ミナミの帝王(郷力也先生)
 ・クマトラ(六田登先生)
 ・SとM(村生ミオ先生)
 ・ポリ公(立原あゆみ先生)
 ・サンキュウ辰(さだやす圭先生)
 ・ANGEL(遊人先生)

ね、凄いでしょ? どの先生もそれぞれのジャンルで一時代を築いた巨匠達ばっかりですよ。
加えて出てくる女は全部ビッチか殺し屋がおプロミスと言われる漫画界のリーサルウェポンこと、
あの平松伸二先生も「外道坊」というタイトルの、主に前世がけしからんという理由だけで
坊主が悪党どもをブチ殺しまくるド外道漫画
を不定期連載中!

他にも、893浪漫譚の筆頭格「鳳」、前作は水商売漫画の草分け的存在な「女帝花舞」、
更に、ちょっとトボけたリーマンが殺し屋となって奮闘する「今日からヒットマン」などなど、
これまた読みどころ満載ですよ。

まあちょっと絵柄にアクがありすぎたり、内容そのものが濃すぎたり、ウィキペディアに
作者と編集部、読者の意識がズレてしまった等の理由で活躍の場が無くなった作家、
作品を積極的に引き受けている
」と書かれてしまっていたりする辺りがたまに傷なところ
ではありますが、それにさえ目をつぶれば、今、ありとあらゆる青年誌の中でもっとも充実
している漫画雑誌と言えるのではないでしょうドカー さあ、みんなも読もう「漫画ゴラク」!



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