混沌の廃墟にて -247-

この歌なんだっけ

1996-03-11 (最終更新: 1996-03-12)

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NIFTY-Serveでは歌詞が引用できないという伝説が、かつてあった。

表では何もアナウンスがなかったので知らない人も多いと思うが、実は最近、 ニフティが歌詞の引用に対する態度を変えたのである。というか、私がかなり前 にニフティに問い合わせた時には「ニフティは歌詞の引用を禁止しているのでは ない」という回答をいただいたので、その時点で既に伝説は伝説になってしまっ ていたのだが。

最近というのは、今まではGO FORUMの「フォーラムの楽しみ方」のメニューの 下の「【Jump】音楽に関する著作権」で、次のように掲示されていたのである。

引用は法的に認められた行為ですが、引用の考え方やその取扱いについては、 現在行われている「音楽著作物の利用に関する実験」の結果を見て、JASRAC と協議してまいります。したがって、現時点で歌詞等を引用する場合は、や はり上記の実験参加フォーラムの該当コーナーをお使いいただけますよう、 お願いいたします。
「お願いいたします」というのが、単にお願いしているだけで指導ではない、 従ってフォーラムが従う義務はない、という解釈もあれば、これは表現が丁寧な だけであって、その内容は命令と考えるべきである、という解釈もあり、実に曖 昧だったが、これに関してはニフティに問い合わせたら、その時は「禁止してい るわけではない」という回答だったのである。よけい曖昧である。

なお、私はSYSOPという立場でもあるから、ニフティに問い合わせることは割と ある。全く別の件で「お願いという表現だが、これは従わなくてもいいのか」と いう質問をしたことがあった。その時は「会員規約と同様に従う義務があると解 釈するように」という回答だったのだ。だから、さらに分からないわけである。 要するに、当たり外れというのがあって、回答者によって答えが違うのだが、こ んなのはソフトウェアのユーザーサポートに電話した経験がある人なら日常茶飯 事だから言うべきもあらず、である。

さて、この表示が最近このようになったのだ。

(注意:引用について)
歌詞を引用する場合は、音楽以外の著作物から引用する時と同じような注意 が必要です。詳しくは、このコーナーの「17【Jump】転載と引用について」 をご覧ください。
(NIFTY-Serve, GO FORUM, 「フォーラム/ステーションの楽しみ方」、 18 【Jump】音楽に関する著作権 より)
これに関しては、FNETなどを見ていただければ分かるように、ニフティとして は歌詞は著作物だから著作権法に違反しないでくれ、というごく当然の態度を取 ることにした、という解釈をするのが妥当かと思われる。

歌詞を引用するなという圧力は、JASRACとの「音楽著作物の実験」の結果への 影響を考えて、という建前だったのである。何度も指摘したように、この実験と いうのがザルもザル、大ザルの実験で、会議室には一切歌詞を書いてはいけない 状況にしたわけである。これでどうやって歌詞の利用状況を調査しろというのだ。 下らない話だ。で、いつまでたってもこの実験が終わらない。ごく一部の実験参 加フォーラムは、歌詞どころか曲まで完全にコピーしたデータを自由に掲示でき る。これは実験の目的としてどの程度の参照数があるかということを調べるとい うことなので、まあ当然なのだが、とばっちりを受けたのが実験非参加のフォー ラムで、本来法律で認められているはずの引用すら一切できない状態を数年間強 いられたわけである。

私が「歌詞を引用していいのか」とニフティに質問したのは、NIFTY-Serveから インターネットのnewsgroupが読めるようになる直前のことだった。fjやその他の newsgroupでは、歌詞の引用どころか、転載としか思えないような投稿をいくつも 見かけていたからだ。もしそのような投稿がfjにあったら、ニフティはそれを監 視して掲示しないのか、というようなことを質問したのである。そうしたら、 ニフティは投稿の内容には関知しない、投稿は投稿者の責任においてやってもら いたい、というような返事が来たのだ。そこで「NIFTY-Serve内では歌詞の引用は 禁止されているが、fjに投稿する時には引用してもよいのか」と突っ込みを入れ たら、「ニフティは歌詞を引用するという行為を禁止しているわけではない」と いう返事だったのである。何か誘導尋問しているみたいだが。

引用かどうか微妙だと思うのは、例えばsignatureの一部に歌詞の一部を流用す るようなケースである。これがその人のスタイルにはまっていると、すごく印象 がよいものだが、外してしまうとまさにみっともないsignatureになってしまうよ うに思う。ま、これは個人的な感想であるが。

    *
さて、著作物の引用は著作権法の第三十二条により「できる」と保証されてい るが、そのためには次の条件を満たさなければならない。

引用する著作物が公表されていること

公表されていない著作物は引用できない。引用するという行為は、公表すると いうことにもなるから、著作権法第第十八条の公表権が効いてくる。

従って、NIFTY-Serveの場合は、原則として私信として扱われる電子メールやホー ムパーティの内容は「まだ公表されていないもの」に該当するはずだから、勝手 に電子会議などで公開するとまずいのだ。もちろん、勝手にするから話がややこ しいのであって、著作者の承諾があれば何の問題もない。

公正な慣行に合致すること

公正な慣行に合致する、というのはどういうことだろう。特に、ネットにおけ る歌詞の引用については未知数だが、ネットにおける他の著作物の引用、例えば 他の発言や書籍からの引用と比較してはどうだろうか。この点は自信がない。

引用の目的上正当な範囲内で行なわれること

引用の目的上正当な範囲、というのは、要するに必要最低限の引用でないとい けないという話だ、例えば歌詞をまるごと掲示して「1995年のヒット曲集」とい うような会議室を作るのは、もはや引用としての範囲を越えているということで ある。俗に「引用が従でなければならない」というアレである。

    *
さて、引用については、実はもう一つ条件がある。引用する場合には出所を明 示する義務があるのだ。これは第四十八条に定められている。広く知られている 歌の場合は、何という曲であるとか、誰が歌っているか、などを示せばまず十分 だと思う。

ところで、出所の明示には原則として著作者名を表示することになっている。 著作者名というのは、簡単にいえば、著作者が決めた名前のことである。どのよ うな名前を表示するかを選択する権利は、著作者にあるのだ。これは第十九条に 定められている。

さて、ということは、歌詞を引用する場合は、出所とともに、著作者名、すな わち作詞者名を表示しなければならないことになるが、一般に、ヒット曲の歌手 や曲名は覚えていても、作曲者とか作詞者は、よほど名の売れた人でなければ記 憶にないことの方が多いと思う。このような場合には、歌詞は引用できないのだ ろうか?

これは意見が分かれると思う。

まず、著作者名の表示は、既に述べたように著作者の権利であるが、実は著作 者名の表示を省略できる場合があるのだ。省略によって、著作者が「私が作者だ」 と主張する利益を害するおそれがなく、かつ公正な慣行に反しない場合である。 この「公正な慣行」という表現がよく出てくるが、プログラマー的感覚としては 未定義語のようでどうも落ち着かない。誰かBNFか何かで明確に定義してくれない だろうか。

例えば、NIFTY-Serveの電子会議で、他の発言を引用することがよくある。しか し、引用とともに、元の発言者のハンドルが書かれていないことがある。私も以 前はそうだったのだが、別の理由もあって、最近は引用時に、元発言に付記され ているハンドルを併記することにしている。

では、発言を引用する時に元発言者のハンドルを書かないとこれは著作権法に 違反するかというと、そうでもない。電子会議の引用というものは、殆どの場合、 すぐそばの発言を見れば引用された元の文章があるものだ。このように元発言が すぐに参照できる位置にあり、かつ誰がそれを書いたかが明白な場合は、発言者 名の表示を略しても実害はないと考えて構わないだろう。

私が最近引用にハンドルを付けているのは、一つは引用の引用が発生した時の 混乱を避けたいからであり、もう一つは、検索する時に便利だからである。特に 大量の発言がある会議室では「フィンローダ」と「Phinloda」で検索して、何か ヒットしたら読む、ということがある。

    *
ところで、出所の明示は「その慣行があるとき」にするということになってい る。歌詞ではなくネットの発言を引用する場合に関しては、慣行がないと強引に 主張する手もあるかもしれないが、もっと合理的な説明も可能である。電子会議 の引用の場合、一見、出所も何もないようでも、実はリンクがあるという場合が 多い。リンクが張られているという状態は、引用に対して出所を示していると解 釈するのである。それによって、元の発言を知ることができるという機能は、ま さに出所を示すことに他ならないからだ。

さて、第四十八条の2に注目していただきたい。これによれば、出所を明示する ことによって著作者名が明らかになる場合を「除き」、著作者名を示さなければ ならない、とある。すなわち、出所を示すだけで著作者名が特定できる場合には、 著作者名を示さなくても構わないということになる。

歌詞の引用の時には、この条文が効いてくると思うのだが、どうだろう。つま り、ヒット曲のような超有名著作物なら、その曲名や歌手が指定された時点で作 詞者名も明白だろうと考えるのである。

ただ、そんなに明らかなのなら、書くなという法律はないのだから、とりあえ ず無難に書いておけばいいじゃないか、という考え方もあるわけで、そりゃそう である。

ただ、現実問題としては、有名な曲でも、作詞者がぱっと出てこない、という ケースは多いはずだ。このような曲の歌詞が引用できないのも困る。また、全然 知らないならまだよいのかもしれない。以前、「なごり雪」の作詞作曲はイルカ だと書いた人がいたので伊勢正三のはずですけどと突っ込みを入れたことがあっ たが、中途半端に知っているのが一番困るものである。

    *
さて、もし歌詞の引用には作詞者の明示が必須だとすれば、「この歌詞の作詞 者は誰か」と質問することが出来ない。
ひな「えーと、なんだっけ、ほら恋人が死んでしまって、どっかいく約束したじ
      ゃんって歌あったよね、あれなんて曲だっけ?、歌詞は分かるんだけど、引
      用できないから困ったなあ」
ぼく「チョコパフェを食べにいくって話じゃないの?」
ひな「あ〜ん、ちがう!」
で、作詞者が分かったら、歌詞が引用できるから、この歌詞の作詞者は誰だっ け、と質問できる、ってか? なんだそれ。
    *
(参考: 著作権法)

(氏名表示権)

第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若 しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作 者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次 的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示につい ても、同様とする。

著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作 物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示すること ができる。

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者で あることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣 行に反しない限り、省略することができる。

(引用)

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合に おいて、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、 研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

(出所の明示)

第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、 その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示 しなければならない。

(略)

第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は (略)により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行がある とき。

前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及 び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されてい る著作者名を示さなければならない。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -247-
    1996-03-11, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-135
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1996