混沌の廃墟にて -244-

謎のアンケート(1)

1996-02-23 (最終更新: 1996-03-16)

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fj newsgroupにアンケートが掲示されていた。これ自体はfjではよくあること で、特に何の問題もない。NIFTY-Serveだとクロスポストの読み飛ばし処理をして くれないので、何度も読む羽目になったが、これはNIFTY-Serveが悪い。

その内容に何となく興味を感じたので、とりあえず回答してみようかと思った。 内容は「通信ネットワーク内でのコミュニケーション意識と問題」である。とこ ろが、いざ答えようとすると、意外と難解なのだ。どうもアンケートの主催者と の間のコミュニケーションに問題が発生しそうな雰囲気なのである。そこで、ど この回答につまづいたのか、書いてみることにした。

NIFTY-Serveからアンケート本文を見たい人は、例えば、fj.net.miscの発言01144 を参照のこと。

引用の要件を満たすために出所を明記する。以下、引用は全てこのメッセージ からである。

 >  Subject: ANKERT
 >  From: 30lm1113@keyaki.cc.u-tokai.ac.jp (KEITA KOYAMA)
 >  Message-ID: <4gcufu$4fr@keyaki.cc.u-tokai.ac.jp>

    *
まず、ANKERTというのが分からないのである。多分アンケートを意味するのだ と思うのだが、これは何語だろう? 私はフランス語は全くといってよい程分から ないが、いわゆる「アンケート」の語源はフランス語で、enquateとつづることは 知っている。以前FPROGアンケートを実施した時に、GO FPROGENQというGOコマン ドを考えたのだ。ただし、ENQという言葉がアンケートを意味するということは、 日本語の「アンケート」を考えた場合は難しいのではないか、と思ったのだ。

和英辞典を見ると、アンケートに対する英語はquestionnaireと書いてあった。 これだと余計分からない。ローマ字て書いたらankeetoかな。長音のあたりが怪し い。

ところが、このアンケートなのだが、考えはじめると、なぜか質問の意図も内 容もよく分からなくなってくるのだ。目的は先ほど引用した通りなのだが、まず、 通信ネットワークというのは一体何を指しているのだろうか。通信ネットワーク と言われると、どうもTCP/IPのようなプロトコルをイメージしてしまうのだが、 多分「ネット」のことだと想像できるのである。コミュニケーション意識という のも難しい概念だ。こちらは「コミュニケーション」という概念に対して現に抱 いている意識、程度に解釈したいのだが。

回答は複数選択可である。ちなみに、1行が80バイトの行が多数あり、例のNIFTY- Serveの欠陥によって改行コードが消滅するため、処理がこの上なく面倒である。 とはいえ「NIFTY-Serveの欠陥も考慮して行の長さを調整してくれ」と頼むのも変 だ。NIFTY-Serve以外からアンケートを入手できるなら、他にあたった方が無難で ある。とにかく、回答しようと試みた経過を紹介しよう。

    *
Q1、Q2は別に問題なかった。困ったのはQ3である。
Q3:PCやマルチメディア等の情報はどこから入手するか
1.新聞 2.TV 3.雑誌(一般誌) 4.雑誌(専門誌)5.ラジオ
6.口コミ
実は、私の場合、この種の情報はネットから入手することが最も多い。続いて 雑誌である。しかし、選択肢に「ネット」がないのだ。他ならともかく、「通信 ネットワーク内でのコミュニケーション意識と問題」に関するアンケートの選択 肢に「ネットから」がないのはどうも不自然である。さらに困ったことに「その 他」という選択肢もないのである。これでは回答できない。

アンケートの項目を作るのは簡単な話ではない。手法は、情報収集の手段とし て、社会学、心理学、統計学などで学ぶことができる。私の場合は概論以前程度 の授業しか受けなかったので詳しく知っているわけではない。それでも、選択肢 がない状況が想定できる場合は「その他」とか「どちらともいえない」という項 目を設けること、という原則があるという程度は知っている。私が知っている位 だから、かなりの基本だと思うのだが、ここに「その他」がないことがどうも納 得できない。しかも、Q1、Q2には「その他」という選択肢があるのだ。つまり、 意図的に「その他」という選択肢が外されているのである。では、その意図とは 何なのだろうか。

とりあえず先に進む。ネットワーク関連の設問が続く。Q8の選択肢が面白い。

Q8:WWWの自分のページを作っていますか?
1:作っていない 2:日本語のページを持っている
3:英語のページを持っている 4:日本語と英語のページを持っている
FPROGの皆さんなら、仮に「日本語と英語とフランス語のページを持っている」 状況だと、どのように回答しますか? 複数選択可という前提である。多分「2/3 /4」あたりだろうか。日本語の解釈に左右されるが、4を選んだ人は2と3は必ず選 ぶのではないか。それとも、4は、日本語英語混在で両方が理解できないと分から ないページがある、という意味なのだろうか。

日本語と英語のみに注目しているというのは、現実的ではあるが、私なら次の ような選択肢にする。

  1. ページがない。
  2. 日本語のページがある。
  3. 英語のページがある。
  4. その他の言語を使ったページがある。
このような設問の作り方は、ユーザーインターフェースの設計時に問題となる ので、プログラマー、SEも知っておく必要がある。つまり、選択者が自然に選択 できるようなメニュー項目の設計技法である。

次の質問も面白い。

SQ8:自分のページに著作権、倫理的問題はないか?
1:問題のあるものにプロテクトをかけている  2:一般公開していない
3:問題のない資料しか使用していない     4:許可を持っている 
まず、現状が「他者に著作権があるものは許可を得て掲示している」だとしよ う。さて、どう回答すべきか。

プロテクトはかけてないから1はNo。一般公開しているから2もNo。許可を得た ものの掲示は問題ないのだから、3はYes。許可を得ているから4もYes。というこ とは「3/4」となる。ちょっと違和感を感じるのは3である。というのは、質問の 内容を調査をするには3番の選択肢だけで十分だからだ。つまり、3を選択した人 は問題がなく、選択しない人は問題があるわけだ。とすると、他の選択肢は一体 何のためにあるのか?

もしかすると3は「自分が著作権を持っていて、かつ倫理的問題もない資料しか 使っていない」という場合のみ選択させるつもりなのかもしれない。

よく考えてみれば、少し状況が複雑であることに気付いた。例えば、著作権の 問題や倫理的問題がなく、かつ一般公開していない場合には、どのように回答す べきか。私なら「2/3」とする。つまり、ページを公開していない人も3を選択す る可能性がある。ところが、ページを公開しない場合は、他人の著作物を勝手に 使っても何の問題もないし、かつ倫理的問題も発生し得ないのである。というこ とは、仮に公開したら著作権の問題や倫理的問題が発生する場合でも、2を選択し た人は必ず3も選択するはずである。つまり、3を選択した人の中には、「勝手に 他人のデータを使っているが、公開していないので問題ない」という人が含まれ るかもしれないのだ。しかし、回答者がこのように解釈したら、2と3を選択した という情報だけでは、公開した時にこの人の使っているデータに対して問題が発 生するかどうかは分からないのである。

結局、この設問はどう集計しても、データの内容に対して著作権の問題や倫理 的問題があるかどうかを求めることはできないことになる。それでは意味がない。 だから、おそらくこの設問の2というのは、「公開すると問題となるデータがある が、公開していないので問題ない」という意味なのだろうと推測できる。難解な 選択肢だ。

    *
続いて、情報発信者としての状況を問う設問である。ここからは、おそらく、 yesであると思うものを選択する形式となっている。
Q9:イメージ
1.ネットニュース上で円滑なコミュニケーションが行われていると思うか?
ネットニュースというのはものすごく広い世界である。この設問は「世界は平 和だと思うか」と同じ位の難問だ。私ならNoと回答する。設問としては、「完璧 である」「殆どそうだと思う」「まあまあである」「あまりよくない」「殆ど行 われていない」「完全に破綻している」のように段階を設けた選択肢にした方が 好ましいと思う。

私見としては、ネットニュースの多くのトラブルが、このような段階的な解釈 をすべき議論に対して二分法的発想で「Yes/No」で迫るという態度に影響されて いるのではないかと思っているのだが、どうだろう。

2.見る人が多くて発言する人が少ない状況は好ましいと思うか?
これは論理的に回答不能だ。なぜなら、私の経験では、重要なのはその時点の 発言量であって、発言者の比率ではないからである。

非常に小さなコミュニティでは、多くの人が発言しても全体量は少なくて済む ので、このような場合は発言者が多くてよい。ところが、NIFTY-Serveのフォーラ ムのように数万人のコミュニティになると、多くの発言があると、読めなくなっ てしまう。また、同様な発言が何度も繰り返されるという状況になる。

FCGAMEMのときめきメモリアルの会議室で「ときめき珈琲を飲んだ」という発言 をしたことがある。つい先日、他の人が「ときめき珈琲というのがありますね」 というような発言をした。一日数十〜百以上というペースの発言がある会議室で ある。私の発言は既に千以上前のものなので、同種の発言があることに気付かな かったのだろう。

状況によって明らかに逆の回答になるような設問は「どちらともいえない」と いう項目がなければ答えようがない。

3.倫理的や著作権的には発信者が配慮していると思うか?
勝手に問題のあるページが存在することは殆ど自明なので、「配慮していない ページがあるか」という設問なら明快である。が、「配慮していると思うか」と いう質問は難しい。他のページの主催者の考え方を推測しなければならないから だ。また、問題のあるページが多いかどうかを尋ねているのか、それとも問題の あるページが存在するという事実を承知しているかどうかを尋ねているのか、と いう点も分かりにくい。ちなみに、私の現状把握は、「配慮していないページも あるが、全体としては配慮しているものが多数だと思う」というものだ。そこで、 強いて回答するならyesという感じである。もし「どちらとも言えない」という選 択肢があれば、それを選びたい所だ。
4.多数の意見あることで収集がついていないと思うか?
「意見あること」は「意見があること」のtypoだろうか。それはとりあえずど うでもよいとして、「収集がついていない」というのはどういう意味だろう。 「収拾」の誤変換なのだろうか。「収集が追いつかない」ということを聞いてい るのだろうか。これはどう見ても日本語が少し変である。
5.利用者が増えてきて既存利用者の意識は変化していると思うか?
さて、「既存利用者」という集団に、増えてきた利用者も含むのだろうか。既 存というのは、既に存在する、すなわち「今居る」という意味だから、最近参加 した人も、ずっと前から参加している人も、双方含むと解釈すべきだと思う。と いうことは、利用者が増えた結果、全体の意識が変化したか、という問いだと解 釈すべきだろう。ならば、回答はyesとなる。ただ、この設問が「過去から存在し た利用者の意識が変化したか」だったら、回答はNoである。過去からの利用者の 意識の固定化が、新規参加者との摩擦の大きな原因となっているからだ。
6.初心者が本当に理解して活用しているか(できるか)?
なにに対して理解していると想定すればよいか分からないのである。ネットの 意義とかAUPとか、そのようなものに対する理解を尋ねているのだろうか、それと もUser Interfaceという視点で実用的に使っているか、使い方を理解しているか、 ということなのだろうか? その両方なのか。

(続く)


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -244-
    1996-02-23, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-131
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1996