混沌の廃墟にて -239-

ときめきメモリアル forever with you (2)

1995-10-26 (最終更新: 1996-02-06)

[↑一覧] [新着] [ホームページ]


 プログラマー的感覚でゲームを見てしまうと、ここがいいと褒めるよりも、ま ず何か欠陥はないか探してしまう習性がある。あらを捜すというのではなく、む しろ、デバッグ感覚なのだ。で、一つだけ、明らかにどうしようもない、とんで もない失敗だと思うのが、バイオリズムの表示色である。

 このゲームを極めるためには、バイオリズムのグラフを読むのが重要なポイン トになるのだが、それが白地に赤、緑、黄色で表示されるのである。赤と緑はい いのだが、白に黄色というのは、私の環境では読めない。青にすれば見やすくな ると思うが、緑と間違えてしまうかもしれない。少し色相をずらして、オレンジ、 緑、紫あたりにしておけばよいと思う。それにしても、白地に黄色というセンス はどこから出てきたのだろうか。

 ゲームの場合、わざと最適なUIを選択しなくても許されることがある。あえて 少しミスを誘うような仕様にしておいて、プレイヤーの技能を求めたり、うっか りミスを期待するというものだ。例えば、ときめきメモリアルの場合は、アルバ ムモード(*)というのがある。実は、最初、これにひっかかってしまったのだ。と 書けば何のことか分かる人は分かると思うが、こういうのは必然性がなくても、 ま、許される設計だと思う。しかし、バイオリズムを黄色で表示した理由は、ど うもそんな感じではないようだ。

 ネットで「見えますか?」と質問した人が他に何人もいたようだから、やはり見 えないのである。色の変更というのは、プログラム修正としては簡単な部類に属 すると思うのだが、テストプレイした人達は、なぜこれを放置してしまったのだ ろうか。多分、想像だが、このゲームをテストした人は、画面にかなり近い所で プレイしたのではないか、と思う。私の環境でも、テレビに1m程度まで近づけば、 これを難なく判別することはできるのだ。普段は、テレビから2mちょっと離れて いて、それだと殆ど見えなくなる。家庭のテレビを見るようなセッティングでテ ストすることを忘れたのかもしれない。だとしたら、利用者の環境を想定したテ ストも重要だという教訓になる。

 なお、一般論としては、色弱、色盲のプレイヤーのことまで考えれば、赤と緑、 青と黄の識別が必須であるような色デザインは避けることが望ましい。色だけで なく点線、破線などを見分けて区別できるようになっていればよい。

    *
 ゲームの話に戻ると、画面デザインは、ぱっと見た所、はっきり言っていまい ちのような気がした。既存の育てゲームの二番煎じだと言ってしまっても構わな い。とはいっても、基本的なコンセプトが似ているのだから、これはデザイン上 仕方無いのである。いわゆる落ちゲーがテトリスの真似に見えたり、A列車がシ ムシティに似ていたり、というのは避けようがなくて、ある限られた制限の中で 個性を出すしかないのだ。

 だんだん個人的趣味の問題になってくるが、まずとても気に入らないことがあ る。クラブ活動の選択に放送部がない。それがどうしたと言われそうだが、異論 はともかく、クラブといえば放送部である(^^;)。次回作ということがあれば、放 送部を追加してくれ。というのは私見だしどうでもよいかもしれないが、入部す るのが休日でないと駄目というのは変ではないか。私の出身高では平日にも入部 できたものだが、最近は違うのかな。蛇足だが、放送部の活動としては、ラジオ ドラマというのがある。ときめきメモリアルはラジオ放送もやっていて、CDでラ ジオドラマも出ている位なのだから、放送部がないのは洒落になっていないよう な気がする。

 細かいことを言えば、まだまだいくらでもある。例えば私の場合、誕生日が春 休みに含まれてしまうので損しているような気がするとか。「気を使う」という 表現は止めてくれと思ったり(気を遣う、が正しい)、定期テストの時に表示され る「第一日目」という表現は最近はプロでも平気で使うそうだが、やはり「第一 日」か「一日目」が正統派だろう、と思ったりとか(放送部員なら、うっかり第一 日目なんて言ったら先輩にすごく怒られるはずだ)。よく見ると語学のパラメータ (*)が低いので、そのせいか(^^)と思ったりして、この程度は愛嬌で済む話ではあ る。逆に感心したのは、科白の表示に閉じ括弧が付いていないことである。

 その他にも、プログラマーの目で見てしまうため、いろんな先入観が入ってプ レイに影響するのである。例えば“べた惚れマーク”(*)は最後にOKがもらえる条 件が満たされた時に付くのかな、ということをまず勝手に想像するわけである。 というのは、このマークを出す処理をどういうアルゴリズムで実現しているか、 という疑問から出てくるのである。私がプログラムを作るのだったら、どう作る か、という観点がまずあるのだ。この種の想像は、あまり当たらないのだが、考 えることが面白いのである。

    *
 このゲームはいろいろ楽しみかたがあるようだが、私見としては、最終目標達 成はもちろんとして、それまでの経過の方がずっと重要である。その意味では本 来の意味でのロールプレイングゲームなのだ。

 中には、わざと女の子に目もくれずにひたすらパラメータ向上、という人もい るそうだし、何となく最初から最後まで一気にやる人もいるが、割と時間がかか るため、途中でセーブすることがしばしばある。また、初期のPlayStationには有 名な本体の欠陥(*)があって、ストールする危険があるから、一応そのためにもセー ブは必要だ。一所懸命にプレイして最後でストールというのは悲しいというレベ ルで済むものではない。

 ロード、セーブの画面は、先程ほめたアイコンの仕様に比べれば、デザインは かなり劣る。工夫の余地はおおいにあるどころか、未完成のように見える。簡単 に言えば、パソコンのキャラクタ画面でメニューを表示しているようなデザイン なのだ。

 また、細かい話だが、一旦ロードした項目を再度選択する時にメモリカードを 再度アクセスしに行くようだが、この処理は本来必要ないような気がする。途中 でカード交換した時のための処理なのだろうか。

 ただ、一つ素晴らしいと思ったのは、ロードとセーブで選択肢の出る位置が違 うということである。ロードの場合は画面の右側に、セーブの場合は左側に出る。 これは、ロードとセーブを選択するボタンが、ロードのボタンが画面右側、セー ブが画面左側に表示されるので、その次に選択する時のポインタの移動量を減ら すという効果を狙ったのかもしれない。そして、見過ごしがちだが、非常に重要 なのは、位置が違うということが、ロードとセーブを間違う確率を極めて低いも のにしているという事実だ。

 ついうっかりロードとセーブを間違ってしまう、という失敗は日常的に経験し たことが何回かあるが、ロードとセーブの画面が全く同じで、そこを一瞬見ただ けでは判別できない場合、無意識にコマンドを入れてしまうことが一つの原因に なっている。繰り返す操作は、そのうち反射的な行動になるのである。ときめき メモリアルの場合、そのレベルの行動になっても、ロードとセーブの区別は、一 瞬でできるのだ。

 ロードとセーブという処理は、ファイル選択の時点では、必要な操作はほぼ同 じと考えてよい。すると、画面の異なる位置に選択肢を出すことにより、操作が 面倒になるのではないか、という考え方もあり得る。しかし、実際にやってみれ ば、これは全く面倒にならないのだ。なぜなら、選択肢相互の位置関係が全く同 じだからである。つまり、ウィンドウが画面の左に出るか右に出るか、の違いだ けであって、その中身は同じなのだ。だから、感覚的には、ロードとセーブの操 作は片方だけ覚えればもう片方も難なく行えて、かつ表示位置が左右という違い があるために、間違わないのである。

    *
 プレイしてみてしばらくして「やばいな」と思ったことがある。音楽がすごく よいのだ。一般論としてではなく、私個人のフィーリングになぜかものすごく合 う。ド素人の私がこういうと担当したプロの方に失礼かもしれないが、もし私が 作るのならこう作るだろう、というような曲なのである。抽象的に言うなら、フ ォーク、ニューミュージックから入ってプログレに走ったという人が作りそうな コード進行、メロディだ(違うかもしれない)。コード進行から楽器の使い方から ミキシング、パン(*)の使い方、リズムのフィルイン(*)から、エフェクトの付け 方まで全てよい。

 また、その場その場でのBGMが、シーンとイメージを重ねやすいのもよい。誕生 日のBGMが"happy birthday"のアレンジなのは誰でも分かるが、クリスマスの曲は 何だっけ、となってくれば、もはやサブリミナルの世界で、どこかで聞いたよう な気がするが実は初めて聞くメロディでかつ何となくクリスマスだという不思議 な印象が残る。

 あえて難をいえば、曲が切り替わる所で音がうまく切れないことが割とある。 特に、クリスマスパーティから詩織(*)を送って帰るシーンに切り替わる時に前の 音が出たままエフェクトがかかる時があって、すごく気になった。音楽を聴く時 というのは、音の内容にすごく集中しているので、些細なことが増幅されて頭に 入ってきてしまうから、細かいミスも目立つのである。ただ、個人的に、この種 のバグは結構取り辛いことを経験しているので、どうも甘い評価を付けてしまう。

 多分、音色によっては音をoffにした後も残音が鳴ったままのことがあり、その 状態で次の効果音変更コマンドを入れたりすると、残音に対して予期しない効果 がかかって目立ってしまう、という程度の話なのだが。

 ま、曲の好き嫌いに関しては個人的な趣向に対する感想だから、他の人もそう というわけではなかろう。

 また、ゲームのヘルプにも書いてあるが、音色が変になってしまうことがある。 音関係のデバッグが少し足りなかったのかもしれない。プレイ終了後、アルバム モードをセーブした後でプレイをセーブしなかった時に、一度だけこのような状 態になったことがあった。この後の曲が流れると、ものすごくシュールというか、 不気味な雰囲気になってしまう。(^^;) 思わずエンディングで「サウンドドライ バの担当は誰だっけ」と注目してしまうのである。

    *
 初回のプレイが終わってみると「現実わ、きびしい…」といいますか、プレイ ヤーの性格を反映したのかバッドエンド(*)になって、館林さん(*)すら出てこな い。折角の虚構の世界なのに現実を模倣してしまうとは一体何事だ。

 これで完全にキレた。

 その後はマジである。しかも、暗黒面に走る。異論はあるかもしれないが、実 は、真のゲーマーならこれだけは絶対にしてはいけない、という技がある。リセ ット技だ。つまり、気に入らない結果になったら、セーブしてある少し前のシー ンからやり直すのだ。これはRPGの神髄を踏みにじるという意味で、最も忌み嫌わ れている邪道技で、爆弾モノ(*)である。私も、常々これが邪道だと主張している のである。昔、ゲームセンターに毎日入り浸り、寝ないでRPGをやっていた頃の私 なら、こういうことは決してしなかったと思うが、もはや夢や希望の世界から遠 ざかってしまった証拠なのかもしれない。邪道だろうが卑怯だろうが勝てば勝者 と開き直る。ただし、これはこれで、やろうとすると結構大変ではある。思い通 りの結果になるまで何十回もloadしてやり直すのだから。1週間の平日が珍しく 全てうまく行った後に、珍しくデートを断られたりして、なかなかスリルもある。

 ところで、そういえば、fjとかを見ていると信じられないような能力値が出て いて、どうやったらそんなパラメータに出来るのだ、と謎のように思ったのだが、 これが確かにプレイしているうちにコツが分かってくるのだ。このあたり、リッ ジレーサーと同じで、最初、一体どうすればそんなスコアが出るのだろうと、思 うわけだが、そのうち、ふと気が付くと自分も出来るようになっている、という うまいゲームバランスになっている。作業に対する向上感がないと飽きやすいも のだが、その点もときめきメモリアルは極めてよく出来ている。しかも、リッジ レーサーに比べると最初に入り込む時のしきい値がすごく低いと思う。

 かつて、マリオやドラクエのためにファミコンを買い、最近だと、バーチャフ ァイターをプレイするためにサターンを買う人がいたし、ときめきメモリアルの ためにPCエンジンを買った人もいたそうである。ネットを見ていると、ときめき メモリアル体験版を買ったがプレイステーションがまだない、という人が結構い る。つまり、ゲームをするためにハードウェアを後から買う人がいるということ だ。もし、これで話が終わるのなら、このゲームがプレイステーションとサター ンの激烈なシェア争いの決着を付けることになっても何の不思議とも思わないの だが、サターン版が来年でるという話なので、その時にときめきメモリアルをす るためにサターンを買う人が出てくることも間違いなさそうだ。

 そういえば、バイトでゲームを作っていた頃、仕事場にファミコンを持ってき た人がいた。ファミコンが流行する前の昔の話である。その時に初めてプレイし たのが、スーパーマリオというゲームだった。あの時、これは間違いなく大ヒッ トする、すごいことになるぞ、という予感を感じたものだ。ただ、実際は、思っ たよりはるかにヒットして社会現象にまでなり、後のファミコンを支える基盤を 作ってしまうのだが、当時は、まさかそこまで凄いとは思わなかったのである。

 このゲームをもし敬遠する人がいるとしたら、例えばアニメ絵は嫌だとか、ラ ブコメは好きじゃない、ということはあるのかもしれない。

 しかし、ときめきメモリアルの中には、確かに、あの時と同じ予感が光ってい る。

ps. もしかすると、これを読んで「じゃあ買おう」という人がいるかもしれな いので一言だけ忠告しておく。壊れても(*)私は責任は取れないから、そのつもり で。

 用語
・プリンセスメーカー
元祖“育てゲーム”。毎週のスケジュールを立てて生活をシミュレーション しながら目標を達成する。ときめきメモリアルは、プリメの女性版だという 人もいるようだが、個人的には「育てゲームではない」という説を支持した い。

“ときめきメモリアル”を論じるならば、“卒業”“同級生”と比較すべき であるという主張があるが、私がそれらをプレイしたことがないため、その 点は偏った印象であることを前提にしていただきたい。

・リッジレーサー
ナムコの開発したレーシングゲームソフト。3Dのポリゴン描画の中、車をか っ飛ばす。業務機ならともかく、家庭用ゲーム機でこの描画能力は、ハード 技術おそるべし、というところか。PlayStation発表と同時に発売された影響 もあって、PS mailing listでは、保持率が最も高いゲームだそうだ。 パッドで3分を切るというのは、速い車を選択してフルアクセルでノークラッ シュで回ればよい。と書くのは簡単だが…
・アルバムモード
告白されてゲーム終了すると、そのプレイのメモリアルシーンが再生される。 メモリカードにこれをセーブすることができる。「ひっかかった」って何か って? くやしいから教えない(^^;)。
・語学のパラメータ
プレイヤーは学園生活の状況を、いくつかのパラメータによって知ることが できる。例えば勉強に関するパラメータを上げないと、一流大学には合格で きない。
・詩織
ゲームに出てくる幼なじみの女の子。ホイチョイとは意見が合わないが、や はりこのゲームは詩織しかないでしょう。
・べた惚れマーク
女の子の評価を調べるコマンドで表示される最上級のマーク。本文に書いた 想像は、根拠も何もない空想に過ぎないのだが、もし本当だったら、結果的 にネタばれになってしまって申し訳ない。
・PlayStationの欠陥
初期ロットに、CDの音が飛ぶという欠陥があった。これは無料で回収、修理 してくれる筈。また、熱暴走と言われているが、途中でデータが読めないら しく、ストールすることが割とある。
・パン
Panpot。定位。ステレオの音を左右のどこに割りふるか。詩織のBGMでアルペ ジオが左から右に動く所があるが、このような手法はプログレの曲によく使 われた。もっとも、最近ならジャンルと無関係にありふれた手法のようだが。
・フィルイン
曲の小節の大きな区切りの所で、ドラムなどのリズム楽器が入れるトタタタ のような感じの印象的な突っ込み。
・バッドエンド
卒業時に誰からも告白されないこと。
・館林さん
卒業時にクリア条件が完成できなかった場合でも、運がよかったらこの娘に 告白してもらえるという噂が。
・爆弾
このゲームでは悪い状態を意味する。
・壊れる
マシンのことではない。ゲームする人の方が壊れるのだ。

    COMPUTING AT CHAOS RUINS -239-
    1995-10-26, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-113
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1995, 1996