混沌の廃墟にて -237-

TP220苦労話

1995-08-20 (最終更新: 1996-02-06)

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 携帯用のパソコンに使っていたDynaBookの電源が、ここ一ヵ月ほどoffのままに なっている。代わりに使うようになったのはThinkPAD 220(TP220)という、ちょっ と昔に話題になったマシンである。1.0Kgと軽いというメリットが、実際に持ち運 んで使う場合にはありがたい。ただ、電池で駆動するので、どこでも電源を確保 できる反面、すぐにバッテリー切れになってしまうのはいまいちである。

 DynaBookは確かにスタートで一歩先に出たのだが、現在のシェアは落ち込んで いるようだ。「価格も性能のうち」とアピールしていた最初の頃はよかった。し かし、安かったのは最初のモデルだけで、どんどん価格は高くなった。もし期待 した程のシェアを獲得できなかったのなら、その最も大きな原因は高い価格設定 だと思う。メインのモデルを198,000円、128,000円、98,000円…と低価格化する 方向に進めれば、日本中をDynaBookで溢れさせるのも夢ではなかったのか、とい う夢を見てしまうのである。結局、今となっては、その他大勢のノートパソコン、 サブノートパソコンが氾濫し、DynaBookに固執する理由は何もない。

 ThinkPADもそうだ。ジャスト1kgとアピールしたのは最初だけで、どんどん重量 化路線を突き進んだ。1kg、800g、500g…と軽量化路線を進めば、今と違ったユー ザ層を開拓できたような気もする。しかも、カラー液晶を搭載することにより高 価格にしがみついているのはDynaBookと同じである。

 結局、ノート型パソコンは「高い、重い、遅い」の三拍子がそろってしまって、 「力持ちなら持ち運べる」というメリットを除けばデスクトップに大きく遅れを 取っているのが現状である。確かに、メーカーとしては高利薄売の方が楽だろう。 しかし、今は外国製品の方が安くて高性能となり、日本の誇る技術は液晶パネル だけになりつつあり、生き残り策として、国外で生産したOEMマシンを輸入すると いうのが流行のようだ。

 ノート型パソコンのメリットを強いて言うならば、省電力であること。場所を 取らないこと。ただし、WindowsかWarpを走らせて高解像度、フルカラー、という 使い方のできるデスクトップに比べると、やはり低解像度のノート型パソコンは いまいち魅力に欠ける。しかし、私のように、実際に持ち運んで使う場合には選 択の余地はないのだ。

    *
TP220は、最初、DynaBookが故障したために、代替のマシンとして購入したのだ った。当時の実売価格が98,000円。もし今買えるチャンスがあれば、もっと安い はずだが、最近はあまり店頭で見掛けない。最初、標準メモリだけで使っていた ため、コンパイラを動かすと、かなり厳しい状況になっていた。導入済みのPC-DOS 5.0を使って、BC++ 3.1も順調に動いた。当然、1.6MBのメモリでWindowsの環境な ど動くわけがないから、DOSベースで、WX2++とVZ Editorと通信ソフトが動けばい い、という使い方になる。ただし、WX2++を組み込むと、コンパイラが動かなくな ってしまうので、コンパイルする時にはWX2++を切り離す、という不便な使い方を していた。従って、この頃書いたプログラムのコメントは英語である。

 一つ余談がある。私はキーボードの配列をDvorak+TRON仮名という極めて特殊な 並びにしている。作業環境を変更すると、毎度これで困る。もっとも、Dvorak配 列は案外使っている人がいるようで、フリーソフトで公開されているキー配置変 更ツールを使うことができる。

 問題は仮名である。pc98の時はkbddというプログラムのお世話になった。 DynaBookは、起動後にメモリ上にパッチを当てるという強引な方法で対応した。 ところが、DOS/V 5.0だが、いくら探してもパッチを当てるべき箇所が見つからな いのである。いったいこのDOSはどこでキーコードと文字コードの変換をおこなっ ているのだろうか。CPUがメモリ上のどこかの情報を読み取って動作を決めるとい うのがプログラムの基本原理だから、メモリ上のデータを順ぐりに調査すれば絶 対に分かるはずだ、とは思ったが、現実的な話、ソースが公開されているキー配 置変更ツールに手を入れた方が早いだろう、という結論に達した。

 というわけで、いくつかのソースを参考にして、結局キー配置変更ツールを作 ることになったのだが、これがまた結構難しかった。シフト状態の切り替えが複 雑に絡んでくると、訳が分からなくなってしまうのだ。ところが、シフトの処理 が実にでたらめな状態で試しに動かしてみたら、WX2+が問題なく動作してしまっ たのだ。とりあえず動けば目的を達成できるので、現在もその通りで使っている。 試しに会社にあるDOS6.2にインストールするとうまく動作しなかった。私の使っ ているのはDOS6.1とDOS6.3だから、マイクロソフトとIBMで何か微妙な差があるの かもしれないし、FEPが違うのが原因かもしれない。よくわからない。

    *
 これで一応環境は整ったのだが、せっかく軽いマシンにモデムを一緒に持ち運 ぶというのはお洒落ではない。ということで、カードモデムを買ってしまう。こ れがいけなかった。ポケットモデムで我慢しておけばよかったのだ。

 まず、モデムを突っ込んだ。これだけで動けば誰でもパソコンを使えるのだが、 世間はそう甘くないのだ。DOS/V 5.0の場合、PCMCIAカードを使うには、専用のド ライバをインストールする必要がある。マニュアルを見ると、付属のユーティリ ティディスクに入っているから、追加インストールしてくれ、と書いてある。こ のディスクが見つからないのだ。

 聖書には「探しなさい、そうすれば見つかります」と書かれている。信仰する ことが大事である。という訳で、とりあえず信じて探せば見つかった。信じるも のである。早速、ドライバをインストールしたのだ。再起動する。カードは認識 されている。デフォルトではカードの電源がオフになっているから、オンに設定 しなおす。

 しかし、カードがモデムとして認識されないのだ。

 これは何が悪いのか全然分からなかった。分からなかったが、もしかして、こ のドライバはこのカードに対応していないため、モデムであると認識できないの ではないか、と考えたのである。これは勘である。自分の設定ミスの可能性もあ るが、ソフトのせいにするのも的外れではないことは経験的に分かっている。し かし、仮にドライバをバージョンアップすればよいとしても、どうすればそれを 実行することができるのだろうか。

 ここで思い付いたのは、ドライバだけというのは何だから、DOSごとバージョン をあげてしまえ、というものである。発想としては無茶苦茶だが。幸い、DOS/V 6.1Jというのが手元にあったので、これでバージョンアップすることを考えた。 え、コピーして使うのは違法じゃないかって? もちろん、その点は真っ先に考 慮したのである。つまりは、これはライセンスの問題である。どういう契約かと いうと、IBM DOS/V 6.1の場合、同時に一台のマシンで実行できるという契約にな っている。じゃあ、同時に使わなければいいのか。現在、私の部屋にはTP220の他 にVintageというJCSのマシンがある。JCSって何だ、という人はGO SJCSすれば分 かる。

 さて、両方にインストールしても同時に使わなければいいか、というと、多分 それは通らないだろう。私の解釈としては、同時に一台のマシンで実行するとい うのは、一組のフロッピーにインストールして複数のマシンで使い回すか、一台 のハードディスクにインストールすることを意味する。

 で、OSを使う権利がどうなっているか考えてみた。手元にあるDOSは何か。まず、 DOS/V 5.0がある。これは、実はDynaBookで使おうと思って買ったのである。しか し、DynaBookにはハードディスクが入っていないので、DOS/Vをインストールして しまうと、ラムディスクがかなり使われてしまって面白くない。というわけで、 現在は東芝の付属DOSを使っているのだ。さて、DOS/V 5.0はもう一つある。TP220 に付いてきたものである。プリインストールされているので、実際にディスクが 読めるかどうか知らないのであるが。そして、DOS/V 6.1がある。これだが、いつ 買ったのかよく覚えていなかったりするのだが、手元に箱ごとあるので買ったの だろう。しかし拡張キットを買ったのは覚えていたりするのだ。最後にDOS/V 6. 3である。これはアップグレードキットとかいうパッケージで、定価10,000円程度 の方だ。市販されているアップグレードキットには、もう一種類、確か二千円か 三千円程度のものがある。それは6.1からバージョンアップするための構成だと思 われる。

 さて、ここでクイズである。この構成で、私はいったいいくつのDOSを同時に使 う権利があるのだろうか。

 アップグレードキットなどというややこしいものがあるので、よく分からない のだが、つまり、例えば、DOS/V 5.0を一つだけ持っているとする。そして、マシ ンが2つあるとする。それぞれに6.1と6.3をインストールして、同時に使ってもよ いのだろうか。6.1と6.3は、5.0が入っていないとインストールできなかったと思 う。ここがポイントになりそうだ。さらに、5.0を同時に使ってもいいのだろうか。

 という感じでややこしいが、とりあえず5.0が二つあって6.1と6.3を別マシンに 入れるのだから文句なかろう、という感じで使っているのだが、よく考えてみれ ば、何か買いすぎている気がしないでもない。

 さて、結局、6.1にバージョンアップしたら、根拠のなかった予想通り、カード モデムが使えるようになったのだ。やってみるものである。

    *
 これで万事解決するほど世間は甘くない。TP220をバリバリ使えるぞ、と思った のは束の間である。BC++のコンパイル時間が異様に長くなってしまったのだ。し かも、makeをかけると途中でout of memoryという悲惨なメッセージが出るように なってしまったのだ。どうもカードドライバを追加したため、コンベンショナル メモリの空きが減ったのが原因らしいのである。

PC DOS/6.1にはconfig.sysの中に複数の設定を書いておいて、メニューで選択 してブートする機能がある。pc98版のDOS6にはこの機能がカットされているそう だ。なぜカットするのだと批判した記事をfjで見たことがある。とりあえず、こ れを使って、コンパイル時にはカードドライバを組み込まないとか、カードを使 う時にはFEPを使わないとか、起動時にそれらを選択するという対策は可能だし、 実際そうした。

 ただ、TP220は、maoという通信ソフトの開発とテストにも使っているのである。 コンパイルして走らせようと思ったらカードモデムが使えない、というのは洒落 になっていない。しかしカードモデムを生かしておくと、コンパイルができない というわけ。実に不便だ。これがメモリ増設で完全に解決することが自明なだけ に全く面白くない。なお、一般のアプリケーションの場合、コンベンショナルメ モリを空けることにより状況は改善されるが、BC++は拡張メモリを直接アクセス していることにも注意が必要である。ところが、DOS/Vマガジンの広告を見ている と、TP220が広告からどんどん消えてゆき、これはやばいと思っているうちに、220 用増設メモリが広告から消えてしまった。

 そんなに急にメモリが消滅するとは思えないので、在庫があるが、宣伝効果が 期待できないから広告から削ったのではなかろうか、と自分勝手な想像をしつつ、 秋葉原にでかけてみた。久しぶりに見たマハポーシャの宣伝男は以前に比べて元 気がない。それを横目に見つつ、T-ZoneのDOS/Vフロアに行く。ほとんどのメモリ は220以外の機種用であり、やはり220用のものはないような感じだが、単に表に 出していないだけかもしれないので、店員に尋ねてみると、やはりあった。値段 は4万円弱ということで、とっても高い。相場に比べてどうというのではなく、私 の経済状況を基準にした話である。しかし、コンパイル時のイライラと秤にかけ ると薬代だと思って買った方がよかろう、と思った。東京はとても物騒である。 いつ何が起きるか分からない。後で「あの時メモリを買っておけば、もっと作業 が進んだのに」と思っても後の祭りである。などと考えている時に、ここで店員 がうまかったのは、実は8MBのメモリもあるのだが、というのである。こちらの値 段は5万円弱。1万円の差で容量が倍になる、そのココロはというと、サードパー ティー製品だからだ。値段の格差が若干納得できないが、後からあと4MB追加する ということは不可能だから、ここはギャンブルということで、8MBの方に手を出し てしまう。結果として、より貧乏化することになる。

 さて、8MBのメモリの箱を開けたら、単にメモリが入っているだけで、説明書も 何もない。コスト節約のためにここまでするか。あっぱれである。もっとも、必 要な作業は本体の裏のふたを開けて、そこに突っ込むだけだから、説明書があっ ても意味がない。梅雨入りして湿気も多かろうということで、アースも何もしな いで平然とメモリを突っ込む。ちゃんと起動した。

 コンパイルしてみる。予想は的中し、コンパイル時間は大幅に短縮された。メ モリは8MB増えたということで、コンパイル中の表示を見ると、available memory が約4MBと表示されている。ということは、BCC 3.1は、もしメモリがあれば、4MB 程度を使い、そんなにメモリが余ってなければ、何等かの方法で、ディスクを使 いながらコンパイルするのではないか、と思われる。その差が処理時間に影響し ているのだろう。

まだメモリに余裕があるので、RAMディスクを設定して、辞書をコピーする。こ れで変換時にディスクがガラガラ言わなくなって快調だ。結局、パソコンにはお 金がかかってしまうようだ。TP220が10万円、メモリ5万円。モデムに3万円。投資 した程度には酷使している自信はあるが。つい最近の話だが、本体を特別限定販 売で39,800円で売っていたというのは驚きである。

 TP220で使っているソフトで、もう一つ重要なのは、通信ソフトである。一時は Wterm、そしてULTminiを使っていた。最近は完全に「魔王」だけを使っている。 通信ソフト会議室で紹介した、例のトラブルを除けば、おおむね快適である。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -237-
    1995-08-20, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-094
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1995, 1996