混沌の廃墟にて -236-

マナーの問題

1995-08-12 (最終更新: 1996-03-15)

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 マクドナルドやケンタッキーで注文すると、あと残りいくつか、ということを 製造担当者に知らせる時がある。

 ところが、あえて何処かは伏せておくが、あるケンタッキーでフライドチキン を買った時の話だ。「チキン*個出ます」と言うのであるが、割と大きい声なの である。声が大きいのは構わないが、この人は、チキンを実際に箱に入れながら それを言うのである。チキンを詰めながらその上で大きな声を出せば、つばがか かることになる。この娘が割と可愛いかったりするので、つい毎週通うというこ とに、

  いや、まて。

 何か話が変だが、要するに、食べ物を包みながら大きな声を出すというのは変 じゃないかと言いたかったわけだ。これが男だったら一発殴っても不自然ではな いところである。

 今週あたりはこの手の当たりの週らしく、他のコンビニで買い物をしたら、す ぐ前に並んでいた人への応対が変だった。新入りのアルバイトらしく、猛烈にも たもたしている。ま、これは仕方ない。

 問題は次である。前の人は、プリンだかヨーグルトを買ったらしいのである。 ということは、プラスチックのスプーンを付けなければならない。場合によって は「お付けしますか」と尋ねて、いらないという返事なら入れない、というのが マニュアル通りである。この場合、デフォルトは「入れる」であることが重要で、 後で「いらないと言ったのに入っていた」と文句を言ってくる人はまずいないが、 逆だとややこしい話になるかもしれない。

 さて、このアルバイト君、スプーンを入れ損ねて床に落としたのである。それ をどうするかと見ていたら、拾ってそのまま入れようとしたのだ。

 しかも、このアルバイト君、よほど不器用か緊張しているのか知らないが、入 れようとした所で、ご丁寧なことにもう一度スプーンを床に落としてしまったの である。で、もちろんこれをもう一度拾って、そのまま袋に入れてしまった。さ あどうなるかと思って見ていたら、前に並んでいる人が温和なのか、あきれたの か、それとも「それがふつー」と思っているのか知らないが、何も言わずにその まま帰ってしまったのには、私の方があきれた。これも、客によっては「店長を 出せ」で大変な騒ぎになる所である。

 落としたスプーンをそのまま客に出すという神経がどうも分からない。言うま でもなく、この場合、失礼しましたと詫びながら新しいスプーンを袋に入れ、落 としたスプーンは誰も見ていない時に元に戻しておくものだ。

    *
 フランスの核実験反対のchain mailの議論が炸裂している。chain mailとは、 いわゆる「不幸の手紙」「幸福の手紙」の類のものをいう。特徴は「これを受け 取った人は、同じ文面の手紙を十人(人数はケースバイケース)に送らなければな らない」という条件があることで、その通りに実行されたら爆発的なトラフィッ クが発生することになる。

 このchain mailは、東大物理学科の人が始めたもので、新聞でも報道されたか らご存じの方が多いだろう。報道は好意的なものが多かったらしい。ところが、 インターネットでは全く反対である。痛烈な批判が圧倒的だった。というのは、 内容や趣旨はともかくとして、chain mailを始めるとは何事か、というのである。 また、すぐに発起人はchain mailを止めるように呼び掛け(それをchain mailで行 ったため、さらなるflameの火種になった)、現在はwwwで署名を集める方式に変更 している。

 さて、一般論としてchain mailが良くないという“常識”があるようだ。その 最大の根拠が、指数関数的なトラフィックの増大である。例えば、3人に一人が複 製したら100番目は40億を超えると指摘した人がいた。もっと詳しく数字を仮定し て、どう計算すればとの程度のトラフィックになるか示した記事もあった。

 しかし、私見としては、このような主張には疑問ばかり感じる。この意見には 反論の余地が大きすぎると思う。なぜなら、100番目は40億というのは全くの詭弁 だからだ。これは「今のペースが続けば2020年にはインターネットの人口が地球 人の十倍になる」というギャグと何も変わらないのではないか。

 つまり、実際に40億通などというトラフィックを発生させたchain mailなど、 この世に存在しないのである。インターネットの人口が現時点で全世界で数千万 人のオーダーだから、全員が100通ずつメールを出さなければこのようなトラフィ ックは発生しない。そのようなことが起きるかどうか考えてみて欲しい。もちろ ん、もし、今回の核実験の反対のchain mailで、40億通の署名が集まったという のであれば、完全に私の敗北を認める。そうだというなら、ぜひそのような事実 を指摘して欲しい。私の聞いた噂では、集まった署名の数は数万通である。

 実際に起きないような事例を勝手にでっちあげて「40億通になるぞ」と脅すの は「ハルマゲドンが来るぞ」と主張して信者を集めるどこかの宗教団体と同じこ とではないか。念のため。別にそれが悪いとは私は思わない。こんなレベルの話 は、ひっかかる方が悪いに決まっているからだ。

Internetで、今までに何度もchain mailが回覧されてきたし、その中には、ま さに「これを10人に送らないと不幸になる」というものも含まれている。しかし、 私の知る範囲というのはInternetの広さに比べて針の先程のものだし、そのせい に違いないので大変恐縮なのだが、なぜか、今までにchain mailが原因でネット ワークがパンクしたという事例を聞いたことがないのだ。もしご存じの方は、ぜ ひ教えて欲しい。VOPに一言紹介していただけないか。あるいは、fj.news.usage のような所で公表するのも有意義だと思う。

 あるchain mailについて、
 ・いつ始まったか。
 ・どのような発端だったのか。
 ・最終的に、どの程度のトラフィックを発生させたか。
 ・その結果、どのような障害が発生したか。
 ・どのように解決したのか。
 2^32はいくつになるという絵空事ではなく、実際にどんなことが起きたか、と いう話に関心があるのである。なお、chain mailを始めた人のサイトの管理者に 苦情のメールが殺到してスプールがパンクしたとか、想定していたスプールが急 にあふれた、という程度の事例なら既に知っているので、ご一報いただかなくて も結構である。chain mailのせいなのか、スプールが小さすぎるのか、問題がど こにあるかは慎重に検討すべきである。

 NIFTY-Serveのメールボックスが一杯になって受け取り損ねた、というのならあ るかもしれないが、これはNIFTY-Serveが悪いに決まっているので除外する。最近 も「ある本に掲載したい」という承諾依頼メールがやってきたが、送り側はNIFTY- Serveから出していて、返事は別のアドレスへ、というのだ。NIFTY-Serveへ返事 したらメールボックスがあふれて受け取れないからである。いかに使えないネッ トか良く分かるというものだ。

 理論に反してchain mailがネットワークを破綻させない理由は単純である。受 け取っても送らない人がいるからだ。特に、一度chain mailに乗ってしまった人 であっても、同じものがもう一度戻ってきたら、少し考えるものである。また、 今回の核実験chain mailは、「この文面のメールを10人に送ってくれ、そうしな いと災いが起こるぞ」と書かれているのではない。

 >  If you agree with us, please add your name to the list above,
 >  and send copies to your friends.
 もし同意するのなら、署名して、友達にコピーを回してください、というので ある。これにより、一度署名した人に同じ文面が回ってくることは避けられるだ ろうし、仮に同じメールがまた送られて来たとしても、それを前と同じ人に送り 直すようなことはする必然性がない。「10人に送らないと不幸になるぞ」という chain mailは、そんなことはおかまいなく何度でも送らないと不幸になるのであ る。この点は、今回の事例と今までのchain mailとは根本的に異なる。

 今回のchain mailは、署名を直接発起人に送らずに、100番目の人、200番目の 人…が送り返すことになっていた。なぜ直接送り返させないのか、という疑問を 提示した人がいた。この回答には私も興味がある。ただ、直接の回答は見ていな い。勝手に想像させていただければ、受け取る側の手間の軽減と、前述のような 近隣間のトラフィックの輻輳を避ける効果を狙ったのではないかと思える。リス トに既に署名している人には送らずに済む。

    *
 今回の一連の議論で、最も興味深かったのは、内容に関らずchain mailは悪い のだ、という主張である。一見、これは筋が通っているように見えるし、また、 内容によって判断するのは主観が混ざるので嫌われるという、Internetのコミュ ニケーションの持つ特徴を表わしているようでもある。つまり、善悪の絶対的な 判断は極めて困難だから、善意であれ、悪意であれ、chain mailはいけないのだ、 と一括して判断するのが唯一の合理的解決になる方法だとするわけだ。

 それは実にInternet的ではあるが、しかし、一つ疑問がある。それがchain mail であることを、内容を見ずにどうやって判断すればよいのだろうか。

 例えば「こんな面白い記事があったぜ、転載自由だから友達に転載してやって もいいぞ」というメールは、chain mailになるからInternetでは送ってはいけな いのかどうか。「なお、このメールは転載自由です」だけならどうなのか。残念 ながら、この点を掘り下げた議論は見当たらなかった。

 なお、今回問題になった事例は、その本文に

 >  This is a chain letter to urge the french government to stop nuclear
 >  tests.
 と書かれているので、これがchain mailであることについては異論がないと考 えてよさそうである。

 なお、個人的には、chain mailという手段には賛成しかねる。公開の掲示板は いっぱいあるのだから、そこに掲示する方が効率的だろう。公的な署名集めを、 いきなり指摘なメールでやってしまう、というのはマナーという点でもちょっと どうかと思うのだ。それに、Internetで行うなら、WWWを使った署名の方が、ずっ と効率的に思える。もっとも、WWWが使えない人がメールなら使えるという人がま だ多いということは留意する必要があると思う。例えばNIFTY-Serveの会員の多く はそうだろう。

 それに、chain mailは何はともあれ悪だ、と考える人は多いと思われるから、 現実的な話としては、その意味でもchain mailを避けることには意味がある。

 そろそろ、ネットを使った署名運動のあり方を、本格的に考える必要がある時 代になってきたのではないか。


補足

本文中「fj.news.usageのような所で公表するのも有意義だと思う」と書いたが、 このnewsgroupはchain mailについて議論するには不適当かもしれない。このよう に書いた理由は、現にこの話題がfj.news.usageで議論されていたからである。
    COMPUTING AT CHAOS RUINS -236-
    1995-08-12, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-093
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1995, 1996