混沌の廃墟にて -232-

変人存在法則

1995-05-12 (最終更新: 1996-07-03)

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 統計学という学問があるが、これは大学初年級のレベルの学問だから、おそら く中高校の教育で本格的に出てくることはない。ところで、私の経験では、確率 や偏差値については、中学、高校である程度出て来たようである。今では確率と いう言葉は誰でも知っているが、意味を正しく理解している人は少ないのではな いか、と思わせる出来事が最近あった。

 一言。「確率」と「確立」を混同する人は後を絶たないようなので、皆さんも ご注意を。

 fjのNGに面白い問題が出ていた。確か、「桃を5個買ったら、そのうち2個だ けが虫食いだった。もう一個買ったら虫食いである確率は?」という感じの内容で、 これは大学の試験問題だそうである。統計学の手法を使って推定し、その根拠を 問うものと思われる。おそらく、大学初年級の知識が必要である。簡単に解ける じゃん、という人は、次の問題も解いていただきたい。「桃を5個買ったら、一 つも虫食いのものがなかった。もう一個買ったら虫食いである確率は?」(*1)

    *
 ところで、最近はどうも学校で確率を教えていないのだろうか、と思えるよう な内容の投稿がfj.jokes.dにあった。このNGの"Our Town is OK. (Re: What is jokes moral?)"というスレッドの中で、kurodaさんという方が次のように指摘さ れたのである。
 >1万人に1人が不愉快と思うようなものがあるとき、100人のコミュニティでは
 >不愉快だと思う人が *いる* 確率が0.01であるのに対して、100万人のコミュ
 >ニティでは不愉快だと思う人が *いる* 確率がほぼ1である、ということが、

    Message-ID: <KURODA.95Mar6121008@sysipa.sys.titech.ac.jp>
    (NIFTY-Serve go INETNEWS, fj.jokes.d-01111)
 私はこの主張を実に明解だと思うが、この意味が全く理解できていないと思わ れる投稿が、少なくとも二つあった。いずれもアドレスが大学からの投稿になっ ている。上に引用した文章は、確率の知識がある人なら誰でも理解できるはずの、 極めて初歩的なことが書かれているに過ぎない。大学生がこれを理解できないと いうのは、どうしても信じられないのである。もちろん、投稿者は大学生とは限 らない、大学院生かもしれないし、教官かもしれない(とすれば余計おかしいの だが)。

 具体的にどんな質問だったかというと、「確率が1というのは絶対という意味か」 だとか(もちろん、誤差を無視すればそれ以外の解釈はない)、「1は確率ではな く期待値でしょう」(これは全く意味不明)といった、確率とは何なのか基本的 なことだけでも理解していればあり得ないような頓珍漢な反応だったのである。

    *
 蛇足させていただくが、ある人が発言Xを不愉快だと思う確率が0.0001である場 合、不愉快だと思わない確率は0.9999である。「不愉快だと思うが、不愉快だと 思わない」という禅問答的状況は、とりあえず無視することにする。

 この条件下で、あるコミュニティの100人全員が「不愉快だと思わない」という 確率は、0.9999を100回掛け算した値である。これは約0.99 (0.99005)である。従 って、一人以上が不愉快だと思う確率は、1からこれを引いた値、0.01、すなわち 1%となる。

 100万人の場合は、0.9999を、100回ではなく100万回掛けるとよい。結果は概算 で0.00000000000000000000000000000000000000037という値になる。1からこれを 引いたら殆ど1、だから一人以上が不愉快だと思う確率は殆ど1である。

 単純に考えても、1万人に一人の割合で、そのように思う人がいるのだから、100 万人の中には100人程度そのような人がいそうだ、という考え方にはあまり不自然 さがないと思う。一人もいないと、逆に不自然だろう。どれ位不自然かというの が、先程計算した数字である。

 このことからも、確率が極めて低いケースも、コミュニティが大規模になれば、 一人もそれに該当しないという場合が滅多にないことが分かる。下手な鉄砲も数 打てば当たるのである。ただし、一人もいないということと、ある程度いる、と いうこととの差は大きい。どの程度いるかを求める方法は推定といって、統計学 では一つの手法として確立している。

    *
 この春、fj.kermitが熱かった。発端が何だか、よく分からない。このNGはkermit というプロトコルに関して議論するNGなのだが、ここにuiuc.eduとaol.comから奇 妙な人達が闖入したのだ。この人達は意味不明な戯れ言や卑猥な言葉を乱発し、 見る者全員の度肝を抜いた。これらの情報から分析すると、どうもこの人達はfj .kermitはFrogJelly.Kermitということだ、というのである(セサミストリートに 出て来る蛙の名前だそうだ)。こうなると、fjの目的通りに使っていた人も切れ たとみえて、というか、見るに見かねたのか、
 >  Are you insane ?
 なんて質問を書いたら、すぐに返事が返ってきた。
 >  yes
 こうである。第一ラウンドは闖入者の圧勝という感じである。だって、後の続 けようがないというか、とにかく、どう反論すればいいのだ? 調子に乗った闖入 者はFAQを作って公開しているが、これがまた爆笑ものだった。
    Message-ID: <Pine.Sola.3.91.950330014239.24326C-100000@ux5.cso.uiuc.edu>
    karpiak@ux5.cso.uiuc.edu (Lemonhead)  writes:

 >  13. How many people actually read this group?
 >  If you rae reading this, one.  I can't read.
 万事この調子である。fj.kermitを真面目に使っている方々には申し訳ないのだ か、どうしても面白い。日本語に訳してくれる方まで出て来るというのがfjのボ ランティア精神を伺わせる。一つ残念なのは、これがNIFTY-Serveから読めないと いうことである。NIFTY-ServeのNGの選択基準がさっぱりわからない。仕方がない から私はPeopleから読んでいた。

 こういう場合は滅多にないのだが、流石インターネット、二千万人の利用者と いう話もあるが、変な人もいるようだ。なお、蛙さんたちは、結局冬眠(春眠?) に入ったようで、最近は全く出て来なくなった。

    *
 fj.news.policyで、匿名の是非が議論されている。Why `real name'? というス レッドなどである。このNGを読むのはgo inetnewsでもPeopleからでも可能だが、 残念なことに、NIFTY-Serveから投稿すると、必ず実名が表示されるので、私は投 稿できない。(*2)

 内容は、特に目新しいものは見当たらなかった。基本的に、数年前に銀河通信 で見掛けた議論の繰り返しである。要するに、大雑把にいえば、実名で書いて何 の不都合もない人達が「実名で書いても何も問題ないじゃないか」と議論してい るように見える。ただ、今回は、数名の方が、実名は必要ないという主張を展開 している点が興味深い。投稿者が特定できるアドレスがあれば十分だとか、実名 があったら何なの? というような感じの意見も目立った。これは、銀河通信が完 全実名制のネットであるのに対し、fjという場にはそのような規定がないことが 影響しているためだろう。

 インターネットの参加者が何千万人とか囁かれている中、fj.news.policyを読 んでいると、本当にそんなにいるの? という疑問が沸くかもしれない。発言者 はごく僅かなのである。NIFTY-Serveの会議室で発言している人の方が、ずっと多 いようにも見える。こうなってしまう一つの理由は、やはり、インターネットに アクセスできる環境が、まだ一般に広まっていないことが考えられる。つまり、 ごく限られた環境に属する人、具体的には学校や企業の研究室の人だけがfjに投 稿できるという環境が、長い間続いてきたのだ。しかし、最近は商用ネットから も投稿できるようになったし、個人でインターネットにアクセスする手段も徐々 に整い始めた。fjも過渡期にあるかもしれないのだ。

 NIFTY-Serveからも投稿は可能だが、実際に投稿する人は極めて少ない。一つの 原因として、NIFTY-Serveのフォーラムと比較して、fjを活動の場とするだけの魅 力が感じられないという点を指摘したい。もう一つの理由として、私のように、 実名が出せないので場を移せないという人もいると思われる。fj.news.policyで 「NIFTY-Serveから投稿すると実名が付くが、何も問題が発生していないではない か」という意見が出る位だから、ここで議論している人達は、そこに参加できな い人もいるという弊害は気付いていないようである。

 この意見自体も、本来fj.news.policyで反論として書きたい所だが、残念なが ら書くことができないわけで。白状すると、実はあまり残念とは思っていないの だが。また、私ごときの反論があった所で、別に議論の流れが変わるとも思えな いし。(*3)

 もう一つ何かあるとしたら、やはり、恐怖というか、危険を感じるということ だろうか。最初に何かする時には誰でもしりごみするものだが、某ネットが怖い なんて噂も前からあったが、実際にそこに入会してから「ここは怖いという噂で したが…」なんて書いたらいきなり叩かれて、すごく怖かったんじゃないか、な んて話もある。

    *
 fjの投稿を見れば分かるが、実名だけでなく、signatureの中に、所属先、連絡 先の電話番号、FAX番号まで書いて有るものが多い。これは責任という点では見習 うべき態度だと思う。ところで、先程の確率の話を応用すると、次の法則が言え る。

  −変人存在法則−

1万人に1人の割合で変な人がいるとき、100人のコミュニティ中に変な人が いる確率は0.01であるのに対して、100万人のコミュニティ中に変な人がい る確率はほぼ1である。

(系)
インターネットには変な人が必ず存在する。

 変な人とはどんな人のことか。例えば、気に入らない人に似ていたから刃物で 刺したという人がいる。振られた恋人と間違って、よく似た別人を殺したという 事件もあった。昨年は、ネットのやりとりが元で、相手の家に放火するという事 件があった。確かに、こういう人は、社会では超少数派である。存在確率は極め て小さい。しかし、大規模なコミュニティ中には、このような人が確実に潜在す ることも、確率を根拠として推定できるのである。

 私は実際にいたずら電話の被害にあった経験があるので、電話帳には番号を公 開していない。真夜中に電話が掛かって来て、取った途端に切られるという、よ くある手口のものである。また、白紙FAXも嫌なので、FAX番号も非公開である。 あるネットで売買のボードにFAX番号を書いたら、白紙FAXが送られてきたので、 あわてて番号を伏せたそうである。自宅の電話番号をsignatureに書いている人は、 このような経験があって、かつ書いているのなら、なかなか豪胆だと思う。

 実名というのは、個人を特定する用途であるにもかかわらず、その機能は極め て中途半端だ。インターネット上に、同姓同名の人が存在する確率は、その規模 が大きくなるにつれて1に近づく。「だから、実名を書けという人は、確実に特定 できるように書いてくれ、具体的な住所や電話番号を、必ず書いてくれ、そうす れば人違いで刺されたり放火されずに済むから」という内容のことは、以前にも 書いた通りだ。自分の判断で他人を刺殺するような人は殆どいないかもしれない が、実際に、今までに何人かいたわけだし、コミュニティが大規模になれば「間 違いなく存在する」に限りなく近づくのだ。後は、自分が遭遇するかどうかとい う運の問題となる。

 しかし、よく考えてみると、相手は「変な人」なのである。もしかすると、あ る人と議論して論破されたので頭にきて、たまたま見つけた同姓同名の人の家に 火を付けた、なんてことも、おおいにあり得るのではないか。

 fjにしろ、その他のインターネットのNGにしろ、このような極端なケースに対 する危機感に欠けているような気がする。fjがきっかけで何人か実際に殺された り放火されたら、少しはfjの風習が変わるかもしれないから、それまで待とうと 思っている。インターネット特有の話のように書いたが、「同じ名前なのが気に 入らないので放火した」という無茶苦茶な事件は、NIFTY-Serveでも起こり得る話 であることを忘れてはならない。

 ps.
 これを読んでいる変な人へ

 別に、誰か殺せとか、放火しろと頼んでいる訳ではない。後で「フィンローダ がそそのかした」などという言い訳は通らない。責任は自分で取ってくれ。


補足

(*1) いやまあ、本当に統計学の理論を使って簡単に解いた方には申し訳ありませんが、この問題を見せると2/5だと即答する人がいるもので。

(*2) 最近もやっていた。今度は本当に匿名で議論に入った人がいたので見応えがあったが、私の感想としては、匿名派の方が納得力があった。

(*3) 匿名投稿サーバーで投稿すればいいという案もあろうが、実際、こうやって意見が書いているわけだし、そんな手間かける意味がない。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -232-
    1995-05-12, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-080
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1995, 1996