混沌の廃墟にて -216-

親指シフトはタッチタイプできないという妙な結論(3)

1994-03-08 (最終更新: 1996-04-15)

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 残った2つの回答も考察してみた。
 >  2. 英文タイプライタでは、8本の指で3行10列の30個のキーボードを打つよ
 >     うになっています。
 これは何だろうか? 謎は深まる。質問には次のように書いたのである。
 >  (3)
 >    英文のタイプは数字と一部の記号キーが4段目にあります。電子式キーボ
 >  ードが爆発的に普及したここ数十年のさらに以前から、英文タイピストは、
 >  数字と記号を「見ないで」タイプしてきました。「4段目は見ないと打てな
 >  いから見ながらタイプしてよい」と書かれたタイプ教本は見たことがありま
 >  せん。
 これを読んだ上で、「英文タイプライタは8本の指で3行10列の30個のキーボー ドを打つ」と断言なさるのである。これは、どう解釈しても、聞く耳持たないと しか解釈のしようがない。私としては、実はこのあたりで、この件に関してはも う議論しても無駄ではないかと思い始めていたのだ。

 とりあえず重要な所を引用させていただく。

 >  JISキーボードでは、カナのキーの数が多いために、このような分担では打
 >  てないということで、英文タイプのようにタッチタインピングができないと
 >  いっています。
 私は、JISカナ配列がタッチタイプできないと主張している文章を2つ指摘した。 既に紹介したように、1つ目にはなるほど「英文タイプライタのようには」と書か れていた。しかし、もう一つの例には、どこにも「英文タイプのように」とは書 かれていなかった。この回答は、そのことを全く無視しているかのように思える。 確認のため、もう一度引用させていただく。次の文章を読んだ人がどうやって 「英文タイプのように」という条件を前提にできるというのか。
 >  しかし、カナを4列に配置せざるをえなかったので、ブラインドタッチがで
 >  きないという大きな欠点がある。
  (FKBOARD MES(15)-011、「【親指】日本語ワープロの技術を考える(2)」より)
 これはうっかり書き忘れたでは済む話ではないが、仮にうっかり書き忘れたの だとすれば、相当うっかりしている。むしろ、意図的に事実をねじまげていると 考えた方がストーリーが明確になる。すなわち、親指シフトを広めるために、そ の他の入力方式に対して、ありもしない欠点をでっち上げるという戦略なのでは ないか。しかし、あえて言うが、私としては、それならばそれで構わないと思う。 これだけ明白な間違いを主張しなければ広まらないキーボードに対して、むしろ 哀れを感じる。中にはJISカナ配列はタッチタイピング不可能だと洗脳されてしま う人がいるかもしれないが、私のように実際タッチタイピングしてきたタイピス トに対しては全く効果がないばかりか、むしろ説得力を著しく失うという逆効果 を与えるのに。

 一番上の段のキーがタイプしにくいことは事実である。指を動かす距離から推 察することもできるし、実際測定してみれば、一番上の段は時間がかかる結果に なるかもしれない。一般に、タイピストはリズムに乗せてタイプする習慣がある。 一番上の段だけゆっくりタイプすることがあり得るだろうか。むしろ、一番上の 段の速度に合わせて全体をややゆっくりタイプする可能性が考えられる。従って、 一番上のキーだけが必ずしも時間をかけてタイプするとは断定せず、保留してお く。

    *
 さて、結論としては、あえてこの理論を受け入れることにした。つまり、親指 シフトを支援するデータ中で現にやっているように、「英文タイプのようにはタ ッチタイピングできない」という事実があれば、「英文タイプのように」という 言葉は省略して「タッチタイピングできない」と表現してよいと考えることにす る。

 だとすれば、親指と他の指を使って同時に打鍵するという、英文タイプには全 くない操作を強いられるところの「親指シフト」も、当然「英文タイプのように タッチタイピングができない」わけである。これが私が今回得た最大の結論だ。 つまり、JIS仮名配列と同様、親指シフトもタッチタイプできないのである。それ は知らなかった。

    *
 3番目は、神田氏が実際に見た経験が書かれている。ワープロコンテストでJIS カナの人が、英文タイプライタのようではなく、手前に指を待機しておき、指を 上の方に出して打っていた、というのだ。

 もうここまで来ると宇宙辺境の地も極めたような気がするのだ。

 もちろん、私の主張するJISカナキーボードのタッチタイピングは、英文タイプ ライタと全く同じように、ホームポジションに指を待機しておき、英文タイプラ イタのようにキーを打つのである。神田氏に一度見ていただきたかったものだ。

 それにしても、手前に指を待機しておいて指を上の方に出しながら打鍵するよ うな方法だと、配置がJISカナであろうとなかろうと、速度が落ちることは間違 いないと思われる。従って、もしこのワープロコンテストでJISカナの入力者の成 績が悪かったとしても、それはJISカナキーボードを選択したからではなく、むし ろ、その入力者の打ち方が悪いと判断すべきであろう。親指シフトキーボードを 見ながら、人指し指と親指だけでタイプしても、速度が出ないと思われるのと同 じことだ。これが真相だとすると、ワープロコンテストの上位入賞者が親指シフ トを使っていたというのも、わざとタイプ速度の遅いJISカナ入力者と競わせたの ではないかと疑惑を感じざるを得なくなってくる。

 ところで、一般的に、JISカナを入力する場合に、そのような入力方法が主流な のだろうか。調査したわけではないから断言はしかねるが、少なくとも私がそう でなかったことは明白である。自分のことだから間違いない。では他の人達はど うかというと、最近は日本語ワープロのタッチタイプ練習本が、何冊も出版され ているので、これが状況を推測するための興味深い材料となるはずだ。これらの 教科書は、JISキーボードをどのように使って入力するように教えているだろうか。 興味がある皆さんは調べてください。私は興味がない。英文タイプライタのよう に、ホームポジションに置いた位置を基準にしてタイプするに決まっているから だ。「手前に指を待機しておき」なんていうのは、親指シフトキーボードをカニ 方式で打つようなものである。カニ方式? 説明しよう。

 英文タイプライターを両手の人指し指だけで超高速入力する人がいる。マシン ガン式というそうだが、映画なんかで見ることもある。なかなか迫力があるもの だ。なんと親指シフトでもこうする人がいるらしい。ただし、親指との同時打鍵 が必要だから、人指し指だけというわけにはいかず、両手の人指し指と親指を使 うことになる。私はこれをカニ方式と呼んでいる。

 一冊、印象に残っている教則本がある。この本ではカナ入力の時に、ホームポ ジションを変えよ、と指導しているのだ。一段上にホームポジションをずらすこ とによって、最上段はタイプしやすくなる。しかし、一番下の段はその結果タイ プしにくくなる。これらのキーを打つ時には、一時的に手全体を下にシフトして タイプし、その後戻すのだったと記憶している。これは成程合理的かもしれない。 ただし、手全体を動かすという運動が増えるため、疲労への影響があることは、 懸念材料となる。

 プログラマーなら言うまでもなく周知の事実なのだが、一部を見て全体を判断 すると、時として恐ろしい誤解を生むことがあるのだ。

    *
 さて、まとめてみると、神田氏からいただいたコメントは、以下のような趣旨 の内容だった。
  1. ローマ字の方がカナより速く入力できる。
  2. 英文タイプライタは3行10列の30個のキーボードを打つ
    (英文タイプで数字キーもタッチタイプするという私の主張は無視)
  3. ワープロコンテストで、JISカナの人がタッチタイプしていない所を見た

 私の質問は「JISキーボードは4段の配列なのでブラインドタッチできないとい うその科学的な根拠と、判断の元になったデータ又は資料」を要求するものであ った。上のコメントをどう解釈するかは読者の皆さんが自分自身で判断していた だきたいのだか、しかし、私がこのコメントに対して何と感じたか知りたい人も いるかもしれないので、最後に書かせていただく。それは、FKBOARDのMES(2)、055 に書いたことである。

 >055/055   SDI00344  フィンローダ      RE:Re: JISキーボードの検証データ求む
 >( 2)   93/11/24 00:55  054へのコメント

 > 神田 泰典さん、ご回答ありがとうございました。当方の疑問はすべて解決
 >  しました。なお、ご紹介いただきました文献は、機会があれば参考にさせて
 >  いただきます。
 余談だが、RE:Re:というのは、すごく変だと思う。NIFTY-Serveが勝手に付けた タイトルである。私が意図的に書いたのではない。元々、「話題A」というメッ セージに関連する一連の発言を行う時に、それが「話題A」に関連することを意 味した表現として「RE:話題A」と書くのではないのか。だとすれば、「RE:Re:話 題A」とあれば、これは「「話題Aに関連すること」に関連すること」という意 味になって、ネストの意味がわからない。というか、はっきり言えば無意味であ る。

 で、何が解決したか。書くまでもないと思ったので書かなかったが、FKBOARDで 書いたら大騒ぎになると思って口をつぐんだのだ。FPROGだから書いておく。

  1. JIS仮名配列は、親指シフト配列と同様に、タッチタイプできない。(*1)
  2. 親指シフトの優位性を示すデータは信頼できない。
 データが信頼できないのなら、疑問を持つまでもない。だから疑問は解決した のだ。現状としては、とりあえず、親指シフトという方式の根拠が砂上の楼閣で あったという事実を確認できたことで満足している。

 念のため書いておくが、私は「親指シフト方式が優れていない」とは一言もい っていない。データが信頼できないと言っているだけだ。たとえ科学的に綿密な 調査を行った結果であろうと、何の根拠もなく出鱈目に配置した結果であろうと、 結果的にそれが優れた配列のキーボードであれば、キーボードを使う人々への大 きな福音になるのだ。また、(旧)JIS配列と親指シフトを比較すれば、親指シフト の方がはるかに優れていると思っていることを付記して、この項を終える。

(未完)


補足

(*1) ここだけ読んで誤解するといけないので、蛇足を承知で補足しておくと、ここでいう「タッチタイプ」は、英文タイプと同じような方法で、英文タイプと同程度の速度で入力することを意味する。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -216-
    1994-03-08, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-216
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1994, 1996