混沌の廃墟にて -208-

廃盤入手騒動記

1993-12-19 (最終更新: 1996-04-01)

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CDといっても預金を下ろすのではなく、Compact Discのことである。話は 「KAGUYAHIME TODAY」というCDを買おうとした所から始まった。

 これは往年のフォークグループであるかぐや姫が解散した後、メンバーが再び 集まって作ったアルバムで、私が高校生の頃にリリースされたものである。既に 時代はフォークからニューミュージックに移行しており、ヒットした曲があるわ けではないが、そう悪くはない一枚だと思うし、個人的にはとりわけ気に入って いたのだが。

 最初は街のレコード屋、いや最近はCD屋というのだろうか、ともかく、で注文 したら「廃盤になっていて、入手できない」と言われた。CDが絶盤になると回収 するそうで、全国から一斉に姿を消すそうである。結局、店をしらみ潰しに当っ てこのCDを見つけることができたのだから、原則に従わない場合もあるようだが、 廃盤のCDを入手するのがこれ程大変だとは認識を改めたのであった。

 店で入手できないなら、他の手段に走るのは当然の選択だ。

 このCDは型番を変えて2回発売されている。確か、最初が3,200円、次が2,000円 である。注文して廃盤と言われたのは2,000円の方である。これは93年の夏の発売 だから、廃盤というのは理解が困難なのだが、おそらく限定販売とかであまり数 を出さなかったのではないかと思う。

 そこで、安易な発想ではあるが、別の型番の方を注文してみてはどうかと考え た。同じCD屋に注文してもよかったのだが、ここでふと思い付いたのがベルトラ ンというサービスである。これはNIFTY-ServeからオンラインでCDを注文するとい うものだ。

 ベルトランでCDを注文するには、型番をはっきりさせておく必要がある。これ もおあつらえ向きのサービスがNIFTY-Serveに用意されている。CDCTLGというもの である。これはとても恐ろしいサービスである。なにしろ1分あたり150円課金さ れるのである。うっかりするとCDを2、3枚買う金額がぶっ飛ぶ。しかし背に腹は かえられぬ。これを使ってみることにした。検索方法はいろいろあるが、今回は アーティストが決まっているので割と楽である。例えば、歌詞の一部だけ判って いるような場合には、このサービスでCDを調べることは、まず不可能なのではな いかと思う。さらに都合の悪いことに、NIFTY-Serveでは現在歌詞を発言内に引用 すらできないから(*1)、一部を示して「この歌の曲名は何でしょうか」と尋ねる ことなどさらに不可能である。不便な世界が続くものだ。

 さて、アーティストを「かぐや姫」で検索すると26件出て来た。そんなに多い わけがないと思ったのだが、結局、ベスト版とか「風」「南こうせつ」の曲と組 み合わせて作ったCDが予想外にあったのだ。

 目的のCDは10番目に出て来た。データベースの検索結果だから一応考えてみた が、これは大切な証拠であり、かつ今回の議論に不可欠な内容であるから、最低 限必要な範囲で引用させていただく。

 >  ◆000010   (109878ZL-121)
 >  かぐや姫/Kaguyahime Today
 >            89.01.21 ¥3,200 クラウン/クラウン  【CD番号】ZL-121
 あと、曲目、収録時間がデータとして出て来るのだが、それはよい。

 というわけで、今度はベルトランでCDを申し込むわけである。これが10/1のこ とだ。さてどうなるかと思ったら、次の日に、メールを受け取ったという確認の 返信がやってきた。それはよい。問題は、10/6に来た次のメールである。

 >  10/1付けにて受け付け致しました【ZL-121/KAGUYAHIME TODAY/かぐや姫】は
 >  、廃盤となり入荷見込がないことがわかりました。たいへん申し訳ありませ
 >  んが、キャンセル扱いとさせていただきますのでよろしくお願い致します。
 あらら。

 ここでうっかり納得する所だったが、落胆パワーを向ける所がまだ残っている。 結局CDCTLGの検索は何の役にも立たなかったわけだ。払った課金は一体何だった のだろうか。ちなみに、他のデータであるが、20番目のデータが非常に参考にな ると思った。というのは、CD番号の後に

> 生産中止

 と書いてあるからだ。もう一度、先程引用したヘッダーの所を見ていただきた い。証拠として引用した理由はここだ。どこにも「生産中止」などと書いてない。 だから注文を出したのである。これは道理である。筋が通らないのは、廃盤のCD をそうだと表示しないデータベースである。こんな役に立たないデータベースが あるものか。それとも、何か別に指示しなければ表示されないのだろうか。生産 中止と廃盤は違うのだろうか。考えれば考えるほど訳のわからないサービスだ。 もちろん当分使う気がしない。なまじ便利なように見えて結局役にたたず高い料 金を取られるデータベースより、CD屋のおやじの方がずっと役にたっている。

 しかし考えてみれば、仮にこの検索でKAGUYAHIME TODAYが「生産中止」と表示 されていたとしても、結局同じ料金が加算されるはずだから、これは納得せざる を得ないのかもしれない。実際に廃盤かどうかは、ベルトランに注文を出せばわ かるわけだし。

    *
 ベルトランでも駄目なことがわかったので、残るは、持っている人から直接購 入するという方法である。こういう所でネットが使えなくて何の情報化時代だ、 という先入観もあり、当然、「売ります・買います」のようなコーナーで掲示す ることになろう。

 しかし、残念ながらNIFTY-Serveの掲示板は実名が無条件に表示されるので、使 うわけにはいかない。さらに悪いことに、NIFTY-Serveの場合、電話番号の明記が 義務付けられているのだ。こんな目茶苦茶な義務はない。きっと、後のことを何 も考えていないのだろう。これを義務付けたニフティの担当者は、いたずらの無 言電話や白紙FAXの攻撃を受けたことがないのだろうか。(*2)

 ネット人口が述べ200万人の時代になったそうだが、こんな大勢が見ている(も ちろん、その99.99%の人が見ていないことはわかっている!)中で、プライバシー 情報を公開するという神経が、そもそもどうかしている。別に売る相手に名前を 教えたくないと言っているのではない。個人的にも、取引する相手には住所氏名 電話番号、職業、趣味血液型、好きな食べ物愛読書好きなタレント、位は通知し たってよろしい。教えろといえば喜んで教えましょう。一応取引相手なら信用す るのが礼儀だが、そうではなくて200万人の人がいつでも読むことが出来る所に掲 示する気がしれないと言っているのだ。電話番号などという重要なプライバシー をである。

 ただ、くどいが、200万人のうち99.99%の人は、こんな所は読んでないようであ るが。掲示板は参照数が表示されるのでばれるのだ。

 実際の取引の問題を回避したいなら、電子メールのような、一対一のコミュニ ケーションで徹底すればよいのである。もちろん、匿名の電子メールでも受取り たいと考える人もいるだろうから、選択は受信者に任せるのが理想的だし、技術 的には簡単に実現できることである。もちろん、NIFTY-Serveには、残念ながら、 送信者の氏名を隠したままでメールを受取ったり、特定の相手のメールを自動的 に受取拒否する機能はない。「受信者指定」のようなオプションを用意しておき、 「1.無制限 2.氏名公開者のみ」のように選択できるネットはないものか。

 たかが氏名・電話番号と思われるかもしれないが、50万人も人が集まれば、 「こいつは気に入らないことを言うので家を探して火を付けてやれ」と考える人 が少なくとも一人は必ずいることを忘れてはならない。(*3) 単なる想像だが、一人な んてものではなく、16人位はいるような気がする。それにしても、わざわざ手の 内を見せてから勝負する必要はないのだ。わざわざ不利な状況に自らを配置して 天に運をまかせるというのは正常な判断のできる人のすることではない。

 実際に他ネットであった話。この人は電話番号を掲示したのだが、いたずらFAX が送られてくるので、結局掲示板でのやりとりは諦めてしまった。私なら、FAX番 号を公開するのであれば、白紙FAXを送る人がいる程度の覚悟は当然する、という か、そんな目にあってはたまらないので、FAX番号など絶対に不特定多数に対して 公開しない。

 いたずら電話は、最近全くかかってこなくなった。かけても話中ばかりなので、 面白くないのだろう。これは経験者はよく分かると思うが、深夜に無言電話とい うのがお決まりのパターンである。受話器を取るとすぐに切られてしまうのだ。 もちろん、掲示板に電話番号を書いている人は、その程度は受ける覚悟あっての ことに決まっているが、それをわざわざ義務にするニフティの神経も賞賛すべき だと思う。

 というわけで、仕方がないから、掲示はNIFTY-Serveが使えないので、他で行っ たのである。しかしネット経由では売り手が見つからなかった。こちらの希望価 格は10,000円を提示した。多分プレミアムを付けてこんな程度だろうと思ったわ けである。

 結局、このCDは、あるCD売り場で2,000円で買うことができたのだから、もしこ の掲示を見た人が先にここで2,000円のCDを買って連絡すれば、差引8,000円の儲 けになったのだが、捜索費用としても、8,000円というのは妥当な感じがした。

 さて、KAGUYAHIME TODAYであるが、改めて聴いてみると実によいものである。 LPで聴いていた頃とは音質の差があるというのもあるが、それより自分自身の内 面的な変化が音を変えて聴かせるような気がしてならない。廃盤でなければ、ぜ ひ一度聴いてみてくれと推薦したい1枚だが、残念なものである。


補足

(*1) 引用はしないように“お願い”という建前の禁止事項があった。第247回「この歌なんだっけ」参照。

(*2) ちなみに、ニフティの社員が「売ります」に掲示しているのを見たこともない。

(*3) この時は推測によって断言したのだが、その後、ネットで性別を偽った相手の家に放火するという事件が報道されたため、事例ができてしまった。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -208-
    1993-12-19, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-032
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1993, 1996