混沌の廃墟にて -204-

さらばSS001

1993-06-07 (最終更新: 1996-04-03)

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もう祭りの後になってしまったが、1993年5月の「ROM墓場からの声」はまさに お祭り騒ぎというか、私自身も昨年の発言数に匹敵する数の発言を1ヶ月で行っ てしまった。この過酷な耐久レースに大いに役だったのは、最近新たに購入した DynaBookである。これがなければあの発言ペースに追い付くのは不可能だった。

    *
 初代DynaBook、J3100SS-001を買ってから、かなり経過した。通信・文章作成と いう用途に関しては、基本的に8086のパワーでなお十分なことに驚く。最近増え てきた9600bps以上の速度の回線でアクセスすると、表示が多少追い付かないかも しれないという程度である。この速度でさえ、表示さえ何とかすれば、8086が追 い付けないほどではない。

 ところで、486を使ったパソコンでさえも、Windowsを起動すると、RS232Cのア クセスで追い付かないという奇妙な現象が発生するらしい。これは割り込み処理 の設計如何によって大きく左右される問題だ。割り込み処理が杜撰だとたとえ 486DX2/66MHzのパソコンを使っても、9600bpsのデータ転送に失敗するのである。 単にCPUが速ければよいというものでもないのだ。(*1)

 話を戻せば、NIFTY-Serveにアクセスしたり、コメントの文章を作成するという 用途には、SS001でもさほど難はなかった。実際、リアルタイム会議に参加してい る時に、この人は486DX/66でアクセスしているなとか、この人はPower PCだな、 と感じることは、まずない。ただし、何も難がなかった訳でもない。

 一つの大きな壁がWXPの変換速度だった。

 候補によっては、ちょっと変換速度が遅すぎる。1〜2秒かかるのである。これ は、時間差多段パイプライン処理によるマルチタスク機能を実装した私の大脳を 使ってなお思考の妨げになる程度にいらいらする[1]。元から付属しているatok7 を使うと、このイライラはないが、作文中にハングアップするので論外。ところ で、SS001は、ちゃんとユーザー登録はしてあるはずなのに、atok7について何か 改善したという報告があった記憶がない。東芝からダイレクトメールは来るから、 実はユーザー登録がされていない、ということは絶対ないはずだ。このような致 命的な問題をほったらかしで、今も同じマシンを販売しているとしたら…まてま て、SS001は、もはや販売していないか。

[1] 他の人はどうかしらないが、私の場合、経験的に[仮名漢字変換の候補 選択]と[文章作成の思考]は独立して同時に実行できるようだ。これ は、おそらく、文章を原稿用紙に書く人が、[漢字を思いだしながら書 くという作業]と[文章を作成するという作業]を全く同時に実行でき るのと同じメカニズムである。

 私の使っていたSS001には、もう一つ致命的な欠点があったのだ。バックライト が暗くなりすぎて、昼間は使えないのである。だから、昼間にDynaBookを持ち歩 き、休み時間に喫茶店で文章を作る、というパターンが失われて久しかった。も ちろん、これは1万円程度支払ってバックライトだけ交換すれば済むことだ。

 昼間に使うという話はさておき、目にも悪いと脅されて、ようやくバックライ トを交換する気になった。しかし、よく考えてみると、最近はパソコン本体がと ても安い。もちろん1万円という訳にはいかないが(相当古いマシンだとそうで もないことがあるようだ)、少し古いタイプで386モデルのDynaBookなら、展示品、 中古、在庫放出品を狙えば、割合安く買える可能性を知っている。一年以上前に、 この種のマシンを10万円程度で売っているのを見たことがあったのだ。DynaBook も結構頻繁にモデルチェンジしたせいか、古いタイプのものは結構値崩れしてい るのである。(*2)

 ちなみに、今メインで使っているマシンはPC-386Mで、これも現役としてはそこ そこ昔の機種になってきたのだが、とりあえず不満はないし、故障もなく一日中 稼動している。これは「一日中」というところがミソなのかもしれない。止めた り動かしたりすると、瞬間的な負荷が特定の箇所にかかるのが心配だ。

 というわけで、秋葉原まで行って、放出品でもあれば買おうかと思ったが、と りあえず渋谷でカレーでも食べて、そのあたりの店を見ることにしたら、J&Pに都 合よく中古品があった。DynaBook V386/20と書いてあるから、型番から想像して、 386SX/20MHzのマシンである(なにを当り前のことを)。税別で84,800円。ただし、 保証書はない。しかし、店員の話では、動作確認済だし、故障した時には持ち込 んでくれれば修理するというので、ここは運にまかせて、思い切って買ってみる ことにした。

 笑い話。これを買った時に、V386/20というのがVGA対応だということに全然気 付かなかったのだから、買う方も相当いい加減である。店員はこのマシンは640× 400だと言ったので、あ、そうか、と思ったのだ。後で使ってみてびっくりである。 機種名で気付かない方もどうかしているが。

*

 まず電源を入れて、バックライトの明るさに驚いた。というよりは、SS001が暗 すぎたのである。CPUとバックライトを8万円で交換したと思えば、割とお買い得 のような気もする。とにかく、これで最大の目的であるバックライトの改善は達 成できた。

 これからが大変である。まず、環境を整備しなければならない。メモリはSS001 の2MBカードが使えるだろうと思ったので、買わなかった。SS001で使っていたカー ドが何の問題もなく動作した。ちなみに、8MBのカードを新規購入するには6万円 位が必要である。

 次はソフトウェアだ。動作させなければならないソフトウェアは、とりあえず WXPと、Vz Editorと、ULTminiである。というより、これで殆ど全てだったりする。

 マシンリプレース時にソフトウェアを流用できるかという問題は、使用承諾条 件の合法性や実効性を議論するとややこしくなる問題である。文面通りに解釈す れば、「指定したマシンでのみ使用する」という使用承諾条件に合意したなら、 新しい機種に乗り換える時に今まで使っていたソフトウェアを使うことができな い。たとえ古いマシンを捨てるのであってもである。もう一度ソフトウェアを買 わなければならないのだ。「同一CPUで」という契約条件だったら、ODPを追加し て高速化した時に、やはりソフトウェアを買い替えなければならないのだ。とい うのは半分冗談だが。

 が、今回は問題になるのはVz Editorだけだ。他は、本体に付属しているDOSに 入っているものか、フリーソフトウェアか、あるいは自作ソフトなのである。 SS001を買う時に「全てフリーソフトウェアで何とかする」という誓いをしたこ とが、が(結局部分的に挫折したが)今になって威力を発揮しているようだ。

 市販ソフトで環境を固めている人は、マシンリプレース時に、使用承諾条件に 注意する必要がある。最近は「単一のマシンで利用すること」という条件も増え ていると聞く。この条件ならリプレースで古いマシンを捨てるのなら特に問題は ない。

 Vz Editorの使用条件は「同時に1台のマシン」なので、今回のようにマシンご と乗り換える時には何等問題なかった。

 WXPは何の問題もなく動作した。Vz Editorも、ULTminiも。これで一件落着かと 思ったが、一つ忘れていた。SS001は、MSDOSにパッチを当てて、キー配列を変更 していたのである。

 付属MSDOSの中身がSS001のものと全然違うため、同じパッチが使えない。そこ で、まずdebugを起動し、勘を便りに探索を始めた。キーテーブルらしき所が見つ かったら、SS001で使っている情報を便りに、内容を修正する。SS001とテーブル の内容が異なる箇所があったため、ちょっと手間取った。SS001のテーブルは、フ ラグ、ノーマル状態の文字、シフト状態の文字、コントロール文字、の4バイト から構成されている。このうち、ノーマルの文字とシフトの文字は、同じものが 書いてあった。例えばaのテーブルなら、どちらも'a'が書いてあったのである。 ところが、SX001VWの場合は、'a'と'A'のように書き分けてあった。

 配置はとにかく変更して、最後に DynaBook シリーズの癌と言われている、右 下のシフトキーが仮名モードで「ろ」になる処理を無効にするアドレスを捜すの に苦労した。これはSS001の時も苦労したので、なぜか、持ち歩いているシステム 手帳にメモが書いてある。ある文字の並びを検索すれば、シフト+仮名モードら しい所を捜すことができるのだ。殆ど行き当たりばったりの作業である。理屈も 何もわかっていないのだが、適当なアドレスにEBと書き込み、シフトキーが「ろ」 にならなかったら成功、となるまで繰り返した。結局 594A 番地が目的の箇所だ ったようである。

    e 0000:594A EB
 のような内容のファイルを作成しておき、バッチファイルで
    debug < keymap.dat
 のようにメモリを直接置き換える。一旦システムを起動したらずっと走りっぱ なしというDynaBookならではの技だ(*3)。レジューム機能があるので、プログラ ムが暴走しなければ、何ヶ月もリブートしないということもあるのだ。もちろん、 上の小手先の技はautoexec.batにも書いておけば、起動時にもその都度オンメモ リのパッチが当てられるので手間はかからない。
    *
 さて、文章を書いてみた。当り前だが、変換速度が速い。8086/8MHzから386SX /20MHzに一気にパワーアップすると流石に違う。変換に待たされるということが 全くなくなった。感触としては、これ以上CPUが速くなっても無意味だろう。

 しかし、これで終わりかと思ったら、どうも変である。Vz Editorを使っている 時に、カーソルの移動が遅い。frollが正しく起動していないようである。困った。 まず「もしFIBMの会議室に同種の質問への回答があるかもしれない」と考えた。 しかし、多分、旬をあまりにも過ぎてしまっているので、今から過去の発言を検 索するのも大変だ。どうしようか悩んでいるうちに、ふと気付いたのが、Vz Editor のバージョンである。1.55なのだ。PC-386Mで使っているのは、1.57である。とい うことは、J3100版をバージョンアップし忘れているということだ。

 ところがV1.57のFDが見つからない。もう一度、V1.55からバージョンアップす ればいいのだが…これが結構大変な作業だ。

 ここで一般的には途方にくれる所なのだが、なんとなくVz 1.57aへの差分ファ イルというのを見ていると、froll.comがそのまま入っていることに気付いた。こ れを見ると、日付が新しい。試しに使ってみると、カーソルの移動が速くなった。 ラッキーである。結果オーライといった所か。

    *
 まだ一つ問題が残っている。モデムである。先代のDynaBookは、内蔵モデムを 装着していた。これは移動先からの通信を想定した用途においては、非常に合理 的である。モデムを別に運ぶのは、それなりに面倒だ。もっと面倒なのは、電源 を本体とは別に考慮しなければならないということである。

 しかし、内蔵モデムの定価が6万円程度である。これは少し考えるべきである。 本体内蔵の2400bps、MNP5のモデムを買う値段で、外付モデムなら14.4KbpsのFAX モデムが買えるのだ。落差が大きすぎる。また、幸いというか、2400bpsの携帯モ デムを持っているのである。これを使えば、当面の急場はしのげる。そのうち、 ポータブルの高速モデムが安い価格で出てくるに違いない。それから買っても遅 くないだろう。何しろ、セカンドマシンなのである。

 これでまたアウトドアの文章作成というライフスタイルを復活させることがで きて、その結果が先月の「ROM墓場からの声」のなだれ現象になったのだ。


補足

(*1) シリアルコントローラーに受信バッファがないタイプだと、1バイトの受信毎に割り込みが発生する。これを処理できないと、データを取りこぼすことになる。9600bpsの場合、約1msに一度の処理となる。たとえ8086でも余裕で処理できる時間だが、問題は他の割り込みの処理が長く、かつその間、他の割り込みが禁止されているようなケースである。

(*2) 1995年には、10万円持って秋葉原に行けば新品の少し古い型番のパソコンが買える状況となっていた。

(*3) レジューム機能は他のマシンにもあるって? あることはあるのだが、他機種の場合は、あっという間にバッテリーがなくなってしまうタイプのものがある。つまり、レジュームではなくて、単なる節電機能なのだ。2、3日放置しておいたら放電していた、というのでは私の場合は使い物にならない。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -204-
    1993-06-07, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-238
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1993, 1996