混沌の廃墟にて -203-

The Silent Service

1993-02-03 (最終更新: 1996-03-15)

[↑一覧] [新着] [ホームページ]


かなり以前、具体的には -155- の「敵は全国!」で、Q2を使ったオンラインゲー ムを紹介した。「ギャラクティック・フリートレーダーズ」(GFT)である。

実は、1992年12月16日のメンテナンスをもって、このゲームは終了したのである。 終了した? その話は最後まで読んでもらえばわかるしくみになっている。なお、 私はこのゲームを殆ど最初から最後までプレイした数少ない、もしかすると唯一 のプレーヤーとなった。なぜ多くのプレーヤーが途中で去って行ったかを考える のは実に興味ある問題だ。

プレーヤーが毎日一度だけ発行できるコラム、といっても1行しか書けないの だが、「フリートレーダーズジャーナル」の発言権は、ゲームが盛んだった頃は 激烈を極めた時刻との戦いで奪い取ったものだったが、プレイ最後の日、もう対 抗する相手も殆どいなかったのである。


 >  --- ギルド発行 フリートレーダーズ ジャーナル  ----- 12/16 01:00 ---
 >  船長 Uの言葉
 >  何もかもが、懐かしい…

 >  --- リーダーズコラム ---
 >  船長 Uはゲームの最終目的地に到着しました。

オンラインゲームのオンラインたる由縁はオンラインであることではなく実は マルチプレーヤーであることだ。このゲームの本質的な面白さは相手の駆け引き にあり、その他は全く面白くも何ともないと断言してよい。
    *
しかし、このゲームはすぐに飽きられたし、酷評も多かった。実際そういった 内容だったのである。まず最も悪かったのは、前回書いた時に紹介したように、 回線接続する段階で既にトラブルがあったこと。Q2の回線に繋がった状態で無反 応、これには誰でもやる気をなくす。これがゲームが最も盛り上がるべき時期に 頻発した。これで興ざめして去って行ったプレーヤーは多いのではないかと想像 する。

そして、次なる問題は、このゲームのシナリオ自体にある。宇宙貿易というア イデアは別に悪くはない。簡単に言えば、ある星の産物を、他の星に持って行っ て売るのである。それだけのゲームである。基本的なルールは、次のようになる。 売った直後は供給過剰になるから、次に売る人は安い値段でしか売れない。また、 産物を買ったら、暫く待たないと生産されないし、数が少ないと当然仕入れ価格 も高くなる。

ここまではいい。 ところが、実際にいくらで売れるかが、その星に行って売ってみるまで分から ないのだ。いや、プレー開始当初は、ちゃんと売れる値段が表示されたのである。 ところが、途中でこれが最高値の固定値の表示に変更されたのだ。例えば売り場 が2箇所ある時に、どちらで売れば高く売れるか、売り手は分からないのである。 戦略ゲームがギャンブル化したのだ。これは改悪だったと思う。

このような細かい問題がたくさんあるのだ。プレーヤー同士で交信する宇宙間 メールは、バグがあって、最初の1行しか表示されないことがあった。徴税船と いう情け無用の徴税システムが、有無を言わさず高額の税金を巻き上げる。これ で何ヶ月もかけて集めた利益が飛んでしまうのだ。しかも、これは事故みたいな 遭遇の仕方をするので、殆ど避けようがない。これはこれで面白いと個人的には 思ったのだが、これでやる気を失った人もいるようである。

最大の問題は、やはりマルチプレーヤーゲームなのに、プレーヤー間の交流が 殆どないシナリオであったことだ。実は私はどうしたかというと、他のネットを 使って情報交換をしていたのである。これは結構盛り上がった。お互いの情報を やりとりするだけでも、やはり面白いのである。そうでなければパソコンで市販 ゲームをしていた方がなんぼかマシというものだ。

    *
さて、12/16のメンテナンス終了後、宇宙マップが変更され、新たなるステージ が始まる。はずだった。実際はどうだったのか。

12/17。メニューの「ゲーム起動」を選択しても何も起きない。つまり、ゲーム 起動のメニューにただちに戻ってしまうのである。NIFTY-Serveで、トップメニュー からGO FPROGを実行したのに、なぜかトップメニューに出てしまう、というのを 想像していただきたい。

これでQ2の課金をされては情けないので、とにかく回線を切ってから考えてみ ることにする。

12/18。やはり状況は変わらない。とにかく回線を切ってから考えてみることに する。

12/19。ここでようやくゲームが起動したのである。12/18からマップとデータ が変更された、というメッセージが表示された。データ入れ替えに時間がかかっ たのだろうか。保守が時間通りに終わらないというのは信用問題である。NIFTY- Serveには、くれぐれも真似して欲しくないことであると思う。

まずは、船長の名前と宇宙に飛び出す船の名前を入力する。登録完了したら、 一旦メニューに戻るので、再度ゲームを起動する。よし、ゲームの処理に入った。 現状を確認する。位置を確かめる。宇宙貿易の情報を確かめる。

確かめる。

確かめ…? 応答がない。

全然何も戻って来ない。ハングアップしたのである。呆然としている場合では ない。これでQ2の課金をされては情けないので、とにかく回線を切ってから考え てみることにする。

回線を切って、もう一度ログインし直してみてはどうかと考えた。してみる。 ところが、現在プレイ中なので、しばらくしてからもう一度アクセスしろ、とい うメッセージが出るのだ。さっきのプロセスが残っているのだろうか。

仕方がないからしばらくして、再度アクセスする。同じメッセージが出てプレ イできない。このゲームでは、システムへのフィードバックというコマンドを使 って、システム担当者にメールすることができる。このコマンドは最初なかった のだが、要望が多かったのか、途中で追加されたのだ。そこで、状況の詳細をフ ィードバックコマンドを使って報告することにした。しかし個人的には、Q2で課 金しつつ要望を聞こうとする態度がどうも納得できないのである。さて、この時 出したメール。

 >  ふざけるなよ!

 >  苦情−−あなたたちは、こんなので金を取って恥ずかしくないのですか?
 >  今まで耐えに耐えてきたが、ここまで恥知らずだとは思わなかった。
 >  利用者にテストさせるなら0120でやれよ!
完全に切れている。蛇足だが、切れたというのは回線ではなく頭に来たという 意味だ。FPROGではおとなしくても、宇宙に出ればこんなもんである。こっちは客 だから遠慮することはない。なにしろプレイ中と同じ金額の情報料を払っている のだ。楽しむ権利があるのだから行使するべきだ。

もちろん、障害の詳細も同時に報告している。上は切れた所だけ引用したのだ。

んで、このメールを運営側に送信すると、自動的に「ご意見ありがとうござい ました」と表示されたりするのである。うんうん、そりゃありがたいだろう、と 思う。「苦情法」という本があったと思うが、苦情が来るうちが華なんですよ。

    *
暫く待ってみたが、全然変化がない。これでQ2の課金をされては情けないので、 とにかく回線を切ってから考えてみることにする。

12/19。やった。例のメッセージが出なくなった。しかしデータはクリアされて しまったようだ。面倒だが、もう一度だ、船長の名前と宇宙に飛び出す船の名前 を入力する。登録完了したら、一旦メニューに戻るので、再度ゲームを起動する。

あれ?

また船長の名前を入れろというメッセージが出るのだ。今登録したような気が するのだが…。何か間違ったのかもしれないと思って、船長の名前と宇宙に飛び 出す船の名前を入力する。登録完了したら、一旦メニューに戻るので、再度ゲー ムを起動する。また船長名の入力に戻ってしまう。

うーむ。

ここで慌ててはいけない。冷静を装いつつ船長の名前と宇宙に飛び出す船の名 前を入力する。登録完了したら、一旦メニューに戻るので、再度ゲームを起動す る。また船長名の入力に戻ってしまう。

また切れた。メールを出す。

 >  あの〜
 >    もしかして、プログラミングの能力がある人がいないんですか?  ソース
 >  を見せてくれればアドバイスできるかもしれませんが…。
まあ疑問のように書いたのが、お情けである。能力がある人がいるわけがない のは承知しているのだ。んで、「ご意見ありがとうございました」か。よしよし。

12/20。何か改善されたかと思ってアクセスする。ところが、現在プレイ中なの で、しばらくしてからもう一度アクセスしろ、というメッセージが出るのだ。

「ここはどこ、私は誰?…」と思う。

とにかくこれでQ2の課金をされては情けないので、回線を切ってから考えてみ ることにする。

ところで、この時点で12/16から4日は経っているのだが、相変わらずオープニ ングメッセージには、「12/16にマップを変更させていただきます」というのが掲 示されているのだ。これも実はこのネットの得意とする技で、予定日が過ぎても メッセージを全然変えないのである。昨年のプレイ中でもしばしばあったことだ。 この程度の処理ならコンピュータを使って処理できるはずなのだが、そういった 工夫は思い付きもしないのだろう。例えば私なら、その日になれば自動的にメッ セージを消す程度のことは、最低でもやる。もちろん、ちゃんと予定の処理をし てのことだが。

12/21。現在プレイ中なので、しばらくしてからもう一度アクセスしろ、という メッセージが出る。また切れる。メールを出す。

 >  なんとかしろ
さて、それがなんとかしたらしい。例のメッセージが出なくなったのである。 しかし、またしてもデータはクリアされてしまったようだ。仕方ないから、船長 の名前と宇宙に飛び出す船の名前を入力する。登録完了したら、一旦メニューに 戻るので、再度ゲームを起動する。

あれ?

また船長の名前を入れろというメッセージが出るのだ。極限状態になりつつ、 船長の名前と宇宙に飛び出す船の名前を入力する。登録完了したら、一旦メニュー に戻るので、再度ゲームを起動する。また船長名の入力に戻ってしまう。

今度は相当切れた。メールを出す。

 >  ふざけるな、責任者は即刻謝罪の上辞表を出せ!
好き放題書く。また「ご意見ありがとうございました」と表示される。
    *
12/22。今度は何とゲームが起動できたのだ。やっとまともになったかと思った。 オープニング画面が終わると、まずリターンを押すように指示が出る。こうやっ て、必要な情報が1画面ごとに区切られて表示されるのだ。さて、リターンを押 すと…ゲーム起動のメニューに戻ったじゃないか。

ほぉ、このパターンは初めてか…(ふっ)。

情けなくなりつつも、再度「ゲーム起動」を実行する。オープニングメッセー ジが出る。ゲーム起動のメニューに戻る。

えーと…。メール出すんだっけ。

 >  ほう、進歩しましたねえ…
 >  もうネット止めた方がいいと思いますが。

 >  紹介できるトラブルの事例がどんどん増えて楽しみです。
「ご意見ありがとうございました」…あー、わーったわーった。それはいいか ら、次いこう、次。

12/23。状況は変わらない。

12/24。状況は変わらない。

年が明けた。1/10になっても状況は変わらない。

しかし、1/11に事態が本当に変化したのだ。しかもオープニングメッセージで は、「深くお詫び申し上げます」という謝罪まで掲示されたのである。起動に関 する障害は1/11に解消されたと書かれている。12/16からこの間、結局プレイでき なかったのである。こういう事態をネットの現状と考えるのはあまりにも惨いの だが…。

さて、プレイするぞ。「ゲーム起動」を実行する。オープニングメッセージが 出る。リターンを押す。すると、フリートレーダーズジャーナルが掲示されたの だ。ふむ、みんなプレイしているじゃないか。で、次はプレーヤーのランクが表 示される。される…はずなのだが…。

ゲーム起動のメニューに戻ったじゃないか。

もう一度「ゲーム起動」を実行する。オープニングメッセージが出る。リター ンを押す。フリートレーダーズジャーナルが掲示される。ゲーム起動のメニュー に戻る。

さてと。もうこの頃になると、切れるという次元を超越している。余裕である。

 >  あのね…
「ご意見ありがとうございました」。だから、それは見飽きたって。

1/12。1/13。1/14…。

    *
2/2。この原稿を書いている。全く状況は変化していない。ジャーナルの日付は 1/11のままだ。これは他のプレーヤーもプレイしていないことを意味するのだろ う。宇宙は死んだのだ。私はもう二度とこのQ2ゲームに電話をかけることはない と思う。情報交換に乗ってくださったプレーヤーの皆さん、本当にありがとう。 またどこかの星で会えることを祈りつつ…。
                        (BGM: イゴール・ストラヴィンスキー  春の祭典)

補足

bitにGFTの開発者が書いたらしい記事が掲載されたことがある。いろいろ書いてあったが、要するに奇麗事の羅列だった。実際は、ここに書いたような汚いことが山ほどあったのである。あれではいけない。しかし、おじさんはバラしてしまうのだ。:-) このゲームはその後、アスキーネット等から追加料金なしでプレイできるゲームとして蘇ったが、既に飽きられ状態。全然進歩がない上に、肝心のアスキーネットがボロボロだから仕方がない。

題名は、なんとアメリカでまで話題になった漫画「沈黙の艦隊」(連載終了)の英語名から拝借した。意味は言うまでもなかろう。BGMは戦闘中に海江田艦長が聴いていた曲。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -203-
    1993-02-03, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-458
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1993, 1996