混沌の廃墟にて -196-

話の話

1992-12-22 (最終更新: 1996-03-17)

[↑一覧] [新着] [ホームページ]


以前このコラムでも「以外」と「意外」の変換ミスの話題を書いた記憶がある。 ん、いつからコラムになったのだ? 雑記と訂正しておこう。

先日の「…の廃墟にて」では月刊と月間が入れ替わっていたそうで、何もなけ ればこれを「仮名漢字変換が悪い」と言い切ってしまえばいい所だが、コンピュー タのせいにするのはよくないと書いたことがあるので、非常にまずい。

とにかくお詫びの上訂正させていただきます。

誤)月アスキー
正)月アスキー
    *
変換ミスの関わっている誤記は2つに分類することができる。
  1. 変換間違いで、かつ気付かないもの
    以外―意外、特殊―特種、月間―月刊

  2. 変換間違いで、かつ間違っていることに気付かないもの
    的を射る―的を得る、未だに―今だに、言葉遣い―言葉使い

「以外」と「意外」の間にあるのはダッシュ(全角)である。わざわざ全角と 断わったのではない、JISの規格を見ると「ダッシュ(全角)」と書いてあったの で、その通り書いたまでだ。しかし、あまり見た覚えのない記号である。意外と マイナーなのかもしれない。(*1)

1は気が付けば修正するはずのものである。2の誤りとは違って、意味は熟知 しているのに変換に失敗してしまうケースだ。また、意外と目に付かないので、 間違う人は結構よく間違う。ただ、以外―意外のような変換ミスは、あまりにも 有名なので、最近は、よほどうっかりしている人か、自分の書いた文章を見直さ ない人以外は、このような間違いは少なくなったようだ。

これに対して、2は本人が正しく変換されたと思っているため、修正すること ができない。本人が「的を得る」で正しいと思っているのだからしょうがない。 過去、希に私は「的を得る」という表現を使うことがあった。

「あの人の発言は、いつも的をているので、全くコメントしようがない。」

これは、的を持って行ってしまうので、後から射ようとしても的がないので射 ることができないと言っているのである。べつに発言が的確だと言っているわけ ではない。他にもおそらく同じ使い方をしていた発言を1度だけ見たことがある。

「的を射る」のつもりで「的を得る」と書くような変換ミスは、AI変換とや ら言う機能を使えば正しく変換されるのかもしれないが、WX2+程度のパワー なら、「いまだに」「ことばづかい」で変換すれば、「今だに」「言葉使い」の ような変換はされないので、ある程度は予防可能である。

        *
ところで、最近特に目に付く表記は、「話し」である。(*2)書いている人は、どう やら「はなし」のつもりらしいのだが…。これはケースバイケースで解釈が難し いのだが、「はなしし」と読まざるを得ない場合がある。私はこの間違いが発生 する根本的な原因を不幸にして知らない。おそらく仮名漢字変換の影響が非常に 大きいような気がする、といった直感的な感想しか述べられない。

例1)そのような話しはしていませんが。

これはどう読んでも「はなしし」としか読みようがないので、首をかしげてし まうのだ。「そのような」は連体形だから、後に体言が来なければならない。従 って、明らかに「話」は名詞である。「話し」という名詞があるという話は聞い たことがないし、辞書にも載っていない。名詞の「話」は「はなし」と読むので あり「はな」ではないはずである。

ただ問題は動詞の場合である。「話」という名詞の他に、「話す」というサ行 の五段活用をする動詞がある。これを活用させた結果の「話しません」という表 記はよい。「話ません」でも現実的には読めなくはないかもしれないが、「はな ません」に見えるので気持ち悪い。感覚的には「話しません」の方がすっきりす る。また、「話し上手」の「話し」はよい(慣用的に、「話上手」と書かれるこ ともある)。「話し上手は聞き上手」と言うように、これは「話すのが上手」と いう意味であって、話が上手ではないと解釈するのである。これに対して、「話 半分」の場合は、「話」が名詞だから、「話し半分」とは書かない。

私の使っているWX2で変換を行なうと、「はなしはしていません」は「話は していません」となり、「はなしません」は「話しません」と変換される。この ように入力していれば間違いようがない。間違いが起きる場合を無理に想定する なら、「はなし」の第一候補が「話し」となっていて、かつ妙な所で変換操作を 始めてしまうと、そのようなことがあるかもしれない。セオリーとしては、単文 節の変換であっても動詞を入力する場合には付属語まで入れるのがコツである。 少なくともWX2+の場合は、そうした方が誤変換の確率が格段に低くなる。

例2)そのように話しはしましたが。

これは誤記ではなく、「はなし」と読む。なぜなら、「そのように」は連用形 である。従って、それに続くのは用言であるから、「話し」は動詞と解釈しなけ ればならない。すなわち「話す」という動詞が変化したことになる。だから「は なし」と読んでいい。あえて区切るとしたら、「そのように、話した」という意 味であり、「そのような話、はした」ではないのである。

例)ちょっとお話してよろしいですか?

実はこれがよくわからない。「おはなして」だろうか? お+動詞の複合動詞 である。分かりやすい別の例を考えてみると、「おたずねして」は「お尋ねして」 である。お+尋ねる+する、という形式がパターンである。ここで問題は、お話 +する、なのか、お+話す+する? なのかということだが、こうなると私には 訳がわからない。「話する」で「はなしする」というのもあるだろうか。一般的 かどうか疑問も感じるのだが、決定的な感じでもない。「お話しして」はなんと なく変なようでもあり、変でないようでもある。こうなってくると、気分的には、 もはや好みの問題で片付けたいものである。

        *
もう一つよく見かけるのがあった。「しずらい」である。もっとも、これは変 換しないのだから、変換ミスではない。単なる間違いである。全然関係ないが、 しずと言えば思い出すのは、
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
しづこころなく はなのちるらむ
「しずこころ」ではなく、「しづこころ」だったと思う(自信はない)。しづ こころは静心である。静かは現代語では「しずか」であって「しづか」とは書か ない。

んなことどうでもいいのだが、「しずらい」は「し辛い」のつもりらしい。他 にも「やりずらい」「書きずらい」など変化形がうじゃうじゃある。「し」は 「する」の変化であり、「する」のが「つらい」から「し+つらい」で「しづら い」なのであって、「する」のが「すらい」では訳がわからん。/E?

# それはすらいーだ。

# 「し辛い」を「しがらい」と読む人がいたが…。

と書くと、じゃあ地震は「ち」+「しん」だから「ぢしん」かという人がいる ので、なかなか大変なものだ。

考えてみれば、この程度の誤記なら、単に検索するだけでも見つかるのではな いか。AI変換などに期待せずに、そのようなフリーソフトウェアが既にあるの かもしれない。私のように、書いてから何度も見直すタイプなら、始めのうちは 適当に書いておいて、後からおかしい表記を一括して修正した方が簡単のような 気がするのである。

ただ、フリーソフトウェアの世界は、言い出した者が作らなければならない、 という恐ろしい法則があるので、あまり余計なことを言ってしまうと後が怖い。

        *
ハンドルを誤記するな、というのもセオリーである。特に議論が激烈化してい る時には、ハンドルを間違えるとすかさず攻撃される。人の名前を間違えるのは 失礼である→それに、不注意である→そんな不注意な人の意見が信用できる訳が ない、という論理構成でその他大勢のギャラリーに印象付けることができれば、 議論を有利に進めることができるのだ。だからハンドルの間違いは怖い。

ところで、ハンドルではないが、よく見かける表記で個人的には不自然に思う ものがある。NIFという表記である。現ニフティ株式会社は、以前NIFとい うロゴを使っていたので、その名残りであろう。しかし、社名変更の後は、ニフ ティからの掲示の中には一貫してNIFという表記は消えたはずだ。にもかかわ らず、今現在なおNIFという表記を使う人はものすごく多い。殆ど、CIに失 敗したのではないかという印象すらある。

無理に解釈すればNIFTY-Serveという長い文字列は面倒だから先頭だけ取ってN IFとしたのだ、と言えなくもない。NIFTYという表記なら私も使う。以前、「サー ビス名称はNIFTY-Serveであり、会社名はニフティ株式会社である、このような固 有名詞を省略するのは失礼ではないか?」と書いたことがあった。会社名をラフ に表記する場合には、「株式会社」は慣例として表記を省略することがあるが、 NIFTY-ServeをNIFTYと書いて失礼ではないか、という点には疑問があったのであ る。しかし、経験的に、ニフティの社員からの直接のメールや掲示等でNIFTYとい う表記を頻繁に見てしまっているので、自称する位だからいいのかな、と最近は 考えている。

しかし、現在ニフティの社員がNIFと自称することは、当然ない。その意味 ではNIFという表記はどうも失礼な感じがする。

ちなみに、NIFTY-Serveは英語表記だが、サービス名称の日本語表記は「ニフテ ィサーブ」である。ごく希だが、これを、ニフティーサーブとか、ニフティサー ヴと書く人がいる。サービス名称というのも固有名詞に該当するから、細かいか もしれないが、間違えては失礼である。少なくともニフティがサービス名称はこ うだとアナウンスしているのだから、そう書くべきである。

プログラマーズフォーラムは、あまりアナウンスしていないが、自分で何か書 く時には、英語表記では programmers' forum と書いている。アポストロフィー をここに付けるあたりがセンチメンタルだと思っている。


補足

(*1) 「意外と」という表現はアンフォーマルだという人もいる。私の場合はわざと使っている。理由は下らないのだが、どこかに書いたと思う。新井素子さんの真似なのだ。

(*2) 「話」と「話し」の話は、この後すごい論争になった。話すという行為を名詞化した場合は「話し」でもいいじゃないか、という意見が印象に残った。つまり、「話」は内容そのものであり、「話し」は、話すという行為だというのである。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -196-
    1992-12-22, NIFTY-Serve FPROG mes(6)-310
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1992, 1996