混沌の廃墟にて -171-

RCM-PC98購入顛末記(1)

1992-04-14 (最終更新: 1996-06-12)

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土曜・日曜はふらっとパソコンショップに立ち寄ることがある。最近はデータ を整理する時間を確保することを既に諦めている。片っ端からフロッピーに入れ てそのままで、ログも

    FPROG.304
といった日付入りのものがどんどんできる。時間があれば、これを会議室ごと に分類するのだ。会議室ごとのファイルを作るのは、主に手作業であるか、jgawk を使うかどちらかである。

わざわざ手間をかけて手作業でファイルを分ける理由は、この作業にメッセー ジを読む時間が含まれているからである。すなわち、すぐに読まなくてもよいも のは jgawk で切り分けて、プリントしたものを後で読むが、すぐ読んでおく必要 のあるものは、手作業で切り分けながら、その場で読む。だから、実際は FPROG.304 のようなファイルは、すぐに切り分けておくので溜まらない。

さて最近溜まるのは FMIDIDAT.XXX というファイルである。これに関してはそ のまま放置してあるものが多い。読んでいられる量ではないからだ。昨年末に買 う予定の光磁気ディスクを買う予算が付いた時点でまとめて処理するつもりだか ら、今はフロッピーが山積みである。毎週末にフロッピーを買って適当にデータ を入れてしまうから、余計混乱の元だ。という訳ですぐフロッピーが足りなくな るので、買いに行ったら、店頭でソフトの説明をしていた。

    *
説明員はそのソフトメーカーの営業の人で、ソフトの名前は RCM-PC98 という。 こんな名前を付けられたら売れるものも売れなくなりそうな気もする。(*1) 素人に「RCM-PC98」と「バラード」のどちらを買うか名前だけで判断させたら圧 倒的に「バラード」を選ぶ人が多いだろう。RCM-PC98 という名前はいかにもプロ グラムっぽい感じがするが、そのぶん訳がわからん。これは何のソフトかという と、ミュージック…えーと何だっけ。忘れた。要するに、俗にいう「パソコンで コンピュータミュージックを」という人が使うソフトだ。

ただ、MIDI の世界はマニアックである。だから「印象的な名前の方が売れる」 という常識が成立するとは限らない。でも最近は全くの素人が MIDI でコンピュー タ音楽を始めるというケースも多いようだ。パソコンショップでデモンストレー ションしている音楽を聞いて音がリアルなのに驚き(楽器をサンプリングした音 を音源に使えばリアルなのは当り前だ)、興味を持ってしまい、衝動買い…とい うパターンがあるかもしれない。もう少しネーミングも検討しておくべきだった ような気がする。

FMIDI に入会したのは随分前である。現在はデータ中心の FMIDIDAT と、MIDI そのものの議論、エレクトーン、作曲法などのそれ以外の話題を扱っている FMIDIUSR の2つに分かれている。このうち、FMIDIDAT には当然 MIDI の音楽デー タが多数登録されている。毎日数件のデータが新規登録され続けるというペース である。特に、現在音楽著作権に関してテスト期間中ということで、著作権管理 されている音楽データに関しても公開してよいことになっている。このため、ポ ピュラー、歌謡曲などをコピーしたデータが結構多く、人気もあるようだ。

以前にも書いたと思うが、音楽の世界では、コピーというのは音楽を聞いた通 りに演奏したり、またはそのためのデータを作ることをいう。例えばCDを聞きな がら、それと同じように聞こえるようなデータを自力で作成したり、楽譜を買っ てきて、そのデータを MIDI として処理できるように変換するのである。決して、 市販されている MIDI の音楽データをまるごとそのまま登録するのではない。多 分そういうのはコピーとは言わないのだ。聞いた通りに演奏するといっても、厳 密に一致しないのが趣を深くしている。つまり、コピーする人の感性が入り込む 余地があるのだ。

コピー、オリジナルに限らず、MIDI データを作ることを俗に「打ち込む」とい う。打ち込むには、音、または楽譜の情報をどうにかして MIDI に変換する必要 がある。そのためのソフトウェアの一つが RCM-PC98 である。

今やフリーソフトウェアという強い味方があるのだが、まだ強力な打ち込み機 能を持ったソフトは知らない。しかし、演奏するだけでよければ、MIMPI という、 この世界では超有名なフリーソフトウェアがある。これはダウンロード料金で手 に入るし、最近は雑誌の付録に付いていたりするから、後は音源を買えば、とり あえず FMIDIDAT にある音楽データを聞くことができる。

では音源はいくらするのかというと、私が持っているのはローランドの CM-64 というもので、129,000 円。今だと多分おすすめなのは SC-155 という音源で、 これは 79,000 円。なぜおすすめかというと、この音源に対応したデータが最近 多いからだ。(*2) ソフトがないと駄目という点は MIDI でもパソコンの世界でも 同じことである。だから、聞き比べた訳でも何でもない。実際に買うつもりがあ るのなら、FMIDIUSR に入会して会議室を読んだ方が絶対参考になる。ちなみに、 FMIDIUSR でも、SC-155 はおすすめの機種という評が多いみたいだ。

さて、実は SC-155 があるかどうか、モノだけでも見ようと思って出掛けたの だが、このソフトの説明に捕まってしまったのである。捕まったというのは事実 ではなく、実は他の人が既に捕まっていて、その説明を後から見ていただけなの だが。この説明員は、RCM-PC98 の営業の人なので、あたりまえだが、詳しいので ある。

流石プロだから、説明すべきポイントをちゃんと押えていて、勉強になる。と はいえ、こちらも同じ穴のムジナのようなものだから、説明員としてのノウハウ は多少は知っている。だから、どこに穴があるのか、真剣に見ていれば、なんと なく分かったりするので面白い。「自分から不利になることは言わない」「有利 な点だけを強調する」「雰囲気で強引に押しまくる」。それだけ聞いていると、 充実し完成されたものに思わせること。

例えば、このソフトを使うと18トラックのデータを扱えます、ミュージ郎の付 属のソフトだと、同時には9トラックしか使えないから、楽器の選択の幅が狭く なってしまうが、RCM-PC98を買ったらより豊かな表現が可能になるぞ、といった ことを説明するのである。実際にそう説明していた。この説明は完璧にもっとも であるし、反論の必要はない。

この説明のどこが穴か。一つは、トラックが増えれば必然的にメモリを食うは ずなのだが、メモリがどの位あれば何ステップのデータまで作れるだとか、日本 語FEPと併用してメモリが足りなくなると大きなデータは扱えなくなるかもしれな い、といったことは、尋ねられなかったから言わなかっただけのことだ。(*3)こ の話は次回にも書く予定だ。もう一つは、9トラックあろうが18トラックあろう が、音楽的表現力のない人が豊かな表現をできる訳がないのだ。しかし、そうい う事は買ってみないとわからないのも確かだ。

私より先に捕まっていた人は、結局30分位話をしていたが、その日は買わずに 帰った。後で買ったかどうかは知らないが、かなり買う気になっていたように見 えた。

    *
さて、私はこの手のソフトを買おうと思い始めて長いし、いくつか購入寸前ま で検討している。結局買っていなかった理由はただ1つ、カタログに、EPSON 対 応とは書いてないからである。既に RCM-PC98 がどういうソフトか、おおむね理 解しているのである。こういう相手に説明を始めると説明員もまさか相手がこう いう相手だとは思わないだろうから大変なことになるが、最初に書いたように、 そういう事をしている暇がないということで、ここで質問することもたった一つ しかない。

EPSON 対応と書いていない製品を、EPSONの機種で使って何かトラブルがあった 時、サポートに応じてもらえるのだろうか?。 サポートする側には「対応機種 外なので、サポートいたしかねます」と逃げる究極の技があるのだ。

そもそもミュージ郎からして、EPSON 対応とは書いてないのだ。ただし現実に EPSON のパソコンでこれを使っている人は結構いるのである。だから、これは動 く/動かないの問題というよりは、単に政治的な問題なのだろう。この話題はあ まり書くと後が怖いので、さりげなく他の話題に移る。

折角営業の人がいるのだから、EPSON でもサポートしてくれるのか聞いてみる のだが、…。

ふ「動作対応機種の欄に、EPSON のパソコンが書いてないが、PC-386M で動くの
    か。(動くに決まっているのだ、既に使っている人がいることは知っている)」

営「EPSON でしたら大丈夫。ユーザー登録すれば、サポートも受けられる。」
多少ぶっきらぼうに見えるが実際は、お客相手だから、ちゃんと営業語で話し ているし、こっちも変に丁寧に質問しているのだが、敬語でその通り書くのがか ったるいので、ラフに書いている。
ふ「でも、ソフトのトラブルがあった時に、EPSON は対応していないのでサポー
    トしかねる、と拒否されることはないのか?」
そういうソフトもあるのだ。
営「登録すれば大丈夫。」

ふ「本当に大丈夫か?」

営「本当に大丈夫。」

ふ「本当に本当?」
相当くどい客である。

これで、なるほど分かりました、ではさらば、などと帰ってしまったりすると、 石を投げられたかもしれないが、どういうわけか、じゃあいいかと思って買って しまったので話がややこしくなってしまった。クレジットカードを持っていると、 これが怖い。結局音源がソフトに化けてしまった。忘れずフロッピーも買ったの だが。随分な出費だ。もっとも、一見衝動買いのようだが、このソフトの購入は 相当前から検討していたのである。

    *
さて、早速これを使おうとした。インストールはなんとか無事終了した。この ソフト、キーディスクによるプロテクトがかかっていて、これは癌である。まあ それはいいとして、なんとか起動まではしたのだが、さて。

使い方が全然わからん。

マニュアルを見る。見たが、これは…。ちょっと評に困る。葉書のアンケート にマニュアルの出来について評価する欄があったが、この手のアンケートでため らいなく最低点を付けたのは多分初めての経験だ。一体何があったのか。次のよ うな感じである。

とりあえず動かしてみるか。なるほど、こういう画面か。あ、そうだ、FMIDIDAT から拾ってきたデータがあるはずだな、試しにそれを読み込んでみよう。一旦終 了してデータを捜すか。あれ? これどうやったら終わるんだ? ここでとりあ えずマニュアルを読む。マニュアルを読まずに起動してしまうというのも無謀だ が。

(10分経過)

どうすれば終わるのか分からない。しかし、絶対どこかに書いてあるはずだ、 ということで実際書いてあったのだが、それを発見するまでに10分以上かかっ たのだ。こういうのは結構悲しいものがある。

ところで、これはマニュアルの問題だけではないのである。少なくとも、ミュー ジ郎の付属のソフトを使った時には、このようなトラブルはなかった。やっと本 論になりました。そう、これはユーザーインターフェースの設計上の問題なのだ。

と書いているうちに予想以上に長くなったので、以下は次回に続く。


補足

(*1) その後、レコンポーザという名前になった。

(*2) 今ならSC-88の後継の音源がメジャーらしい。登録音楽データを数えるとわかる。

(*3) このソフトがEMSに対応したのは、さらに後の話である。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -171-
    1992-04-14, NIFTY-Serve FPROG mes(3)-067
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1992, 1996