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ということである。なお、わざわざ引用したのは含みがあって、最後まで読め ばわかる仕組みになっている。もうわかった人は、なかなか鋭い。6 92/02/27 送信したメールの削除が可能になりました
出したメールの取り消しに関して昔話がある。誰かが「出したメールを取り消 す機能が欲しい」ということをニフティに提案したら、「通常、ポストに投函し た手紙が取り消せないのと同じで、一度出したメールは取り消せません」という 回答があったのだ。あまり知られていないようだが、ポストに投函した郵便物は、 相手に届けられるまでなら手数料を払って取り消すことができるのである。この 連載に書いたのだっけ? なぜそれを思い出したかというと、さっき吉本ばなな の「TUGUMI」を読み終わったからに違いない。最後につぐみが出した手紙。 NIFTY-Serve で出していたら、取り消せたかも。
とにかく、念願の機能も実現されてしまった。だから文句はない。実現された ことに関しては。ただ、センスがやはり問題である。すごく文句がある。最初に 引用した文章には「削除」と表現されていることに注目してください。私は、わ ざとここまでの文章で「取り消し」と表現した。この差を考えて欲しい。全然違 わないって? そう解釈する人もいるでしょう。この掲示の本文は、いきなり次 の文章で始まっている。
3月1日より、電子メールの機能に一度送信したメールを取り消す 機能が追加されます。つまり、タイトルは「削除」で本文が「取り消し」なのである。もちろん「削 除」と「取り消し」は同じ意味ではない。しかし意味としては連続しているので、 かえってややこしい。正確に表現すれば、送信者が取り消した結果として、受信 者のメールボックスから削除される、ということになる。
だいたい、メールのメニューが次のようになっているのだ。(*2)
いま、誰か慌て者が、うっかりメールの相手を間違えたことに気付いたとする。 CANCELなんてコマンド名までしっかり覚えているような人は、あまりそういう間 違いはしないものだ。慌て者は、こういう時にはどうするか。もちろん慌てるの だ。わーっ、しまった、どうしよう。そうだ、出したメールを削除するコマンド があったはずだ(削除?)。ん、メニューにないぞ、0:その他か、あ、これだな。電子メール(1:受信 2:送信 3:送信簿 0:その他 E:終了) >0 4:******** 5:******** 6:削除 7:********* 8:受信簿 9:*********(EO)
その後は想像したくない。
それにしても、これに続く文章が、こうだ。
今まで、メールは一度送信すると、削除することはできませんでした。今回 の機能追加により送信済のメールを相手が読んでいない場合は、削除が可能 となります。ここまでくると、もう使い分けているというよりは、全く同じ意味だと思って いるとしか思えない。どんどん話を進める。
一度送ったメールを削除するには、メールの初期メニューのプロンプト(>) のところでコマンド"CANcel"(小文字部分省略可)を入力して下さい。cancel という英語に「削除する」という意味はあるのだろうか? いや、皮肉 じゃないです、私は日常生活ではあまり英語を使わないので、あやふやな知識し かないのだ。ただ、cancel は「取り消す」で、例えば delete とか erase が 「削除する」のような気がしただけだ。ここで軽いジャブだ、揚げ足を取ってお こう。
「題名」のところに「削除メッセージ」と表示され、「と表示され」は、明らかに「が表示され」の誤りである。これだけ明らかな ら訂正しなくても読んだ人がちょっと考えればすぐわかる。だって、題名の所に、 「削除メッセージ」と表示されて、どう解釈しろというのだ。そろそろとどめの 一撃を。この誤記の少し上にある、次の箇所が一番わからない。
削除後、送信簿を表示させると、受信日付のところに "DELETED" と表示さ れ、削除処理が実行されたことが示されます。ところで、あなたがこのシステムの設計担当者だと仮定しよう。どのようなメ ッセージを表示させますか? 私ならこう書く。
"(取消)" あるいは、"(送信取消)"()も含めて表示するのである。間違っても英語にはしない。NIFTY-Serve の 利用者の中には、DELETED なんて英語は知らない、という人がいるかもしれない からだ。しかしだ、256歩譲って、間違って英語で書いてしまったと仮定しま しょう。 どうして CANCEL した時の表示を、"CANCELED" としないのですか?
NIFTY-Serve の設計者は、DELETED と表示したら、もしコマンドをど忘れした とき、DELETE かな? と間違った連想をしてしまう危険を、想像しなかったのだ ろうか? このような細かい使い勝手の悪さは、個々が些細なだけになかなか指 摘されない。しかし確実にシステム全体を使いにくくしてしまうのだ。例えば、 BUL を見る時に BBS> と表示されているのも、そうだ。 BUL> と表示すればいいのにと、いつも思うのである。(*1)
さて、cancel という指示に対する実際の処理としては、delete だろう。だか ら DELETED と表示された。一応理屈には合っている。悪い選択ではあるが。しか し、悪いと責めるだけではいけない。悪いなら悪いなりに、そうした理由がある はずだ。なぜ NIFTY-Serve のシステム担当者、またはその仕様を考えた人は、日 本語ではなく英語でメッセージを表示することに決めたのだろうか? 勝手に想 像してみる。あくまで想像しただけだ。真相を知りたい方はセンター宛にメール で問い合わせてみてください。まず思い付いたのはこれだ。
・日本語を入力できる環境で作業させてもらえなかった。
笑ってはいけない。本当かもしれないぞ。これは悲しいことなのだが、ありが ちなことである。
・NIFTY-Serve を使う人なら DELETED という英語の意味は分かるはずだ。
これは名言かもしれない。分からないなら使わなければよいのである。それは 長生きする秘訣だ。
・システムの都合上、この箇所に日本語を表示することができない。
これもありそうだな…。本当だとすると、これが最も問題である。問題が大き すぎるので、ここでは取り上げたくない。とりあえず逃げるが勝ちのような気が する。
とどめの一撃まで出したので大丈夫だと思うが、念のためぐさぐさと死体をひ っかきまわしておこう。驚いてください。受信者側では次のように表示されるの だ。
なんで DELETED って表示しないんですか? どんどんいってみよう。> 02/27 HHH00567 送信者削除 スイマセン間違えました。
・英語を入力できる環境で作業させてもらえなかった。
もちろんギャグだから本気にしてはいけない。
・実は担当者が異なっていて、担当者間のコミュニケーションが不完全だった。
これは真面目な話、よくあるし、あらゆるソフトウェア開発の現場で解決しな ければならない項目である。ギャグではない。しかし、それよりは、どうもシス テムの都合っぽい気がしてしょうがない…いやな予感がする。
・担当者が英語を知らなかった。
冗談はこのあたりでそろそろ止めておかないと、後のニフティの反撃が怖い。 もちろん、「削除の機能を追加するように」と指示された担当者が「送信者削除」 と表示させたのは、極めてマトモなセンスで、文句の付けようがありません。つ まり、
・担当者がまともなセンスの持ち主だった。
が正解だと思う。つまり問題は「削除の機能」と考えた誰かにあるのだ。内部 処理としては削除だが、あくまでこの機能は「取消」と見せなければならないの である。
*
いろいろ書いたが、もう一つだけ想像しておこう。最初から、この機能は DELETE
というつもりで作成していたのかもしれない。ただ、DELETE というコマンドは、
既にあったのである。だから使えなかった。やむなく CANCEL にした。でも意味
としては DELETE のつもりだった。それで説明や表示には、つい「削除」と書い
てしまった。こんな所ではないだろうか。
*
そそくさとまとめてしまう。次のようにするのがいいと思います。こんな所で
提案しても仕方ないが、これを読んでいる他の方が、別のメールシステムのユー
ザーインターフェースを設計する参考になるかもしれないと、秘かに期待したい。
※以下は、先週までのお知らせ (GO OANN) からの引用した文章の一部を修正し たものです。引用は実際のメッセージではありませんのでご注意ください。 (実際は「取消」の所が「削除」と表示されます)
> 20 92/02/27 送信したメールの取り消しが可能になりました
(途中省略)
> −以下具体例−
>
> A.取消例
>
> =================================
> 電子メール(1:受信 2:送信 3:送信簿 0:その他 E:終了)
> >CANCEL <------取消コマンドを入力
> 取消対象者IDの入力(改行で終了)
> :ABC12345 <------取り消したいメールの送信先IDを入力
> 取消対象メール数:3
> 番号 送信日 題名
> 1 02/27 お久しぶりです。
> 2 02/27 業務連絡です。
> 3 02/26 お元気ですか?
> >1
> 1 02/27 お久しぶりです。
> 取消メッセージの入力(漢字で20文字まで 改行のみ省略)
> :スイマセン間違えました。 <------取消メッセージを入力
> 取消(1:する 2:しない)
> :1
> −取消完了−
> =================================
>
> B.取消した側の取消後の送信簿
>
> =================================
> 電子メール(1:受信 2:送信 3:送信簿 0:その他 E:終了)
> >3
> 送信日 受信日時 宛先ID 名前
> 02/27 (取消) ABC12345 梶原 晶子 <------(1)
> お久しぶりです。
> 02/26 1/27 10:43 BBB01234 梶原 徹
> 参考です!
> 01/26 01/23 20:48 CCC01234 宮沢 寛
> 今晩は!!
>
> ※ (1) 受信日時の欄に"(取消)"と表示され、取消処理が実行されたこと
> が示されます。
>
> =================================
>
> C.受信者側の取消後の受信簿
>
> =================================
> 電子メール(1:受信 2:送信 3:送信簿 0:その他 E:終了)
> >0
> 4:******** 5:******** 6:削除 7:********* 8:受信簿 9:*********(EO)
> >8
> 受信日 送信者ID 名前 題名
> 02/27 HHH00567 (取消) スイマセン間違えました。<------(1)
> 02/26 ABC00123 田村 正一 出張報告
> 02/22 ABC00111 榊 信之 神戸オフのご案内
>
> ※ (1) 「名前」が「送信者取消」に、「題名」が 取消メッセージに
> 置き変わります。
>
> =================================
でも、もう、後の祭り。
(*2) NIFTY-Serveは、いわゆるシフトJISの文字コードを送信するモードにしておくと、1バイトかな文字を使って画面に表示を行う。実際には、****の所には、次の意味の内容が表示されている。
4:******** 5:******** 6:削除 7:********* 8:受信簿 9:*********(EO) 4:アップロード 5:ダウンロード 7:アドレスブック 9:メールオプション(EO)
COMPUTING AT CHAOS RUINS -169-
1992-03-14, NIFTY-Serve FPROG mes(12)-465
FPROG SYSOP / SDI00344 フィンローダ
(C) Phinloda 1992, 1996