混沌の廃墟にて -162-

訴訟2題

1991-12-19 (最終更新: 1996-03-26)

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ASAhIパソコンの記事によると、PC-9801EX の内蔵フロッピーディスクドライブ に不具合があったため損害を受けた、として日本電気を相手に訴えを行ったとの ことである。同記事によると、1988/9〜1989/8 の間に生産された PC-9801 EX,ES, UV11 の 3.5 インチフロッピーディスクの故障発生率が、通常のものと比べて 1.5〜2 倍高いという。そういえば、会社にある EX の FDD の片方が、ディスク を挿入しても「ドライブが空です」と言われることがあるのだが、まさにこれか もしれない。

日本電気はこれに該当するマシンの FDD 故障に対して、保証期間を過ぎても無 償で修理しているそうである。

この事件で興味深いのは、故障がどうしたという点ではなく、話題がまずオン ライン・コミュニケーションを通じて展開してきた所にある。これについては、 FNEC の該当会議室を見た方が手っ取り早いそうだ(実は、私自身は FNEC から転 載されたという、転載用文章を、別の所で見て事件を知ったのだが)。PC-9801EX などの FDD に不具合が頻発していることは、PC-VAN でも話題になっていて、被 告(日本電気)はそれを知り得る状態にありながら、それをユーザーに告知しな かった、という点が訴訟上責任を追求されているのである。

ASAhI パソコンの記事を見ても、ふむ、そうか…程度にしか感じない、言っちゃ 悪いが、まったくありふれた記事である。これに対して、FNEC の方が、訴えた側 の言い分が生で聞けるからおもしろい。例えば、話し合いの席上、わざとタバコ の煙を吹きかけられるなど、対応が極めて悪かった、というように、一般報道に は出てこないようなことまで全部わかってしまう。こういう文面が、人口数十万 人といわれているネット上で、誰でも読める状態にあるという所が凄い。

これを読めば、いかに日本電気の対応が悪いか、という強烈なイメージが一方 的に伝わってくるのだが、日本電気側から、ネットを通じて誠意ある対応を見せ るなどしないと、いくらでもイメージは悪くなるような気がする。私は昔NEC のパソコンを持っていて、故障修理でひどい経験を何度かつまされたから、今は NECの製品を買うつもりは全然ないのだが、何といっても日本No.1のシェ アを持つパソコンのメーカーである。これから買おうとしている人のためにも、 いい印象を与えることが大事だと思うのだが。

ひどい経験と書いたが、実際は、偶然担当者との相性が悪かった、という可能 性もあるわけだ。何度も続いたのは、非常に珍しかったのだ、と割り切る方がい いのかもしれない。そこで私は EPSON のマシンにリプレースしたわけだが、人に よっては、金輪際 EPSON は買わないという人もいる。かなりひどい対応をされた らしい。規模の大きい会社だと、トップがいかに気を使っても、目の届かない所 で何が起こっているかわからないと思う。そのような場合、オンライン・コミュ ニケーションから、生の声を直接聞くというのは、単純で効果的な方法だと思う。 言われなくても、既にやっているのかもしれないが。

こういう事件になると、逆に買ってみようかという気にもなるのが不思議であ る。

    *
日本電気ばかり責めるのも何なので、EPSON も一言いいたい。というわけで、 今使っているマシンは PC-386M である。これに内蔵メモリを増設したいのである。 しかし、あまり在庫はないらしく、取り寄せになるそうだ。しかも高い。どれだ け高いかというと、最近の PC-386 シリーズの4MB増設メモリが買える金額より も、PC-386M に増設する2MBのメモリの方が高い。こういう信じられないことを するからユーザーがシラケるのである。

なぜこうなるかというと、PC-386M だけ、拡張用の内部スロットが特別なのだ そうだ。市場が狭いから高くなるのは経済の法則である。そんなマシンを買うか ら悪いのだ? その通り。反論の余地はない。そこで、批判をそんなマシンを作 ったメーカーに向けるしかない。すなわち、なぜ後継機種と拡張メモリの互換性 を保たなかったのか、ということである。全く釈然としないことが、最近多すぎ る。

    *
共同通信ニュース速報によると、イギリスの有力経済紙、フィナンシャル・タ イムズのジャーナリスト組合が、ストライキ権確立のための投票を行い賛成多数 で可決したそうだ。同社がコンピューターのキーボードを使ってストレス症にか かった職員に退職を命じたことが、ストライキの理由になっており、組合側は措 置の撤回を求めているとのことである。

キーボードの使いすぎで腕や手首に痛みを訴えるという症状は、何も今に始まっ たことではないが、特に最近英国で重大問題になっているようだ。日本ではあま り聞かないようだが、キーボードが原因の職業病というのはVDT障害と同様、 かなりの数潜在していると思われる。

私も、キー配置を DVORAK にする前は、一気にプログラムを作る時など、かな り左肩が痛くなることがあった。最近あまり痛まないのは、キー配列を変えたの でも、痛みになれたからでもなく、単にプログラムをあまり書いていないせいか もしれない。もう一つは、日本語入力であるが、これも TRON 仮名配列にするま では、右手がかなりひきつったものだが、今は逆に左手の方が疲れるようである。 シフトキー・コントロールキーが小指のままであるのに、よく使うことが原因だ と思う。

これから、この手の問題は、さらにエスカレートするだろうと想像する。同じ キーボードにしても、タイプの仕方によって、かなり疲労度は異なる。しかし、 このような所まで練習してから実務に臨む人はあまりいないのではないか。これ も職業病の一因になっていると思われる。昔のメカニカルなタイプライターの場 合は、ピアノのようにキーボードを叩くように指導された。しかし、これと同じ 方法で電子式のキーボードを扱うと、特にキーストロークの浅い場合には、余計 な負担が指にかかることになり、非常に健康に悪い。軽く撫でるような感じでタ イプしていいのである。このようなスタイルからきちんと練習した上で実務に入 らないと、悲惨な結果が待っているのである。

もう一つのアプローチ、キーボード自体を健康的にしようという試みは、現実 に出まわっているキーボードを見ても、スカルプチャータイプのキーボードのよ うに、ややキーを乗せる面の段差を付けるという工夫程度で、それ以上は全く実 現されていない、といって過言ではない。何もキーを磁石にして血行をよくしろ と言っているのではない。例えば、キーストロークの深さや、キータッチの重さ が、どのように健康に影響しているか、もう少し真面目に研究してもよさそうな ものである。

ちなみに、PC-386M のキーボードだが、カバーを付けているせいもあって、私 には我慢できないほど重い。この文章を入力していても、ひどく疲れるので、休 み休みになってしまう。ここで無理をすると結果は見えている。

残念ながら、FT社のように、現実の労働問題となるケースが今後頻発してく れないと、この種の研究はなかなか実現に向けて進まないような気がする。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -162-
    1991-12-19, NIFTY-Serve FPROG mes(12)-330
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1991, 1996