混沌の廃墟にて -159-

主人公

1991-12-08 (最終更新: 1996-05-21)

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ASCII '91 12月号の記事、「高千穂遙の大混戦」が面白い。

 >  パソコン通信をはじめて驚いたのは、へんな人がたくさんいたということで
 >  す。※
「あるあるある」などと言っている場合ではない。私の場合、あまり違和感が なかったのは、自分自身がその「へんな人」だったからかもしれない。
    *
情報民主主義という言葉は、日本で BBS が始まりつつある時代によく見かけた ものだが、最近はあまり見なくなってしまった。そもそも日本において、民主主 義という言葉が極めて曖昧な上、一人一人は非力だというしらけた雰囲気、自分 よければ全てよし、といったファクターが重なり、それなりに面白い環境が出来 あがってしまっているので、ネットが一般的になるにつれ、そのような環境が流 れこんでくるのである。

自分よければ、というのはオンラインでの会議を見ていれば特に感じることな のだが、「あなたの発言は見苦しい」という発言である。議論が加熱してきた時 に、よく見かける言葉だ。この発言自体は、大抵的を射ているのではあるが、実 はその発言自体も大抵見苦しいのである。これは言葉そのものが持つ力を軽視し た結果のような気がする。

例えば、「不愉快だ」という言葉を見ると、前後の文脈とは無関係に、読む人 はなんとなく不愉快になるのである。これは条件反射みたいなもので、笑顔で話 しかけられたら無意識に微笑んでしまったり、機嫌悪そうな顔で話しかけられた ら思わず身構えるようなものだ。何の本だか忘れたが、「不愉快だ」という表現 を禁句にしている、という人がいらっしゃったので、流石だと思った。というの は、きっと「不愉快だと言わないことにしている」という文章を書くときに、ち ょっとためらったのではないかと想像したからである。(*1)

だから、何かの発言に対して、「そのような表現を見ると気分が悪くなるから やめてくれ」と書くと、その発言自身を見た時に、もっと気分が悪くなるのであ る。言っていること自体は正論なのだから、一つは表現力の問題であり、もう一 つは自分の発言がどう読まれているのか、という検討不足だと思う。他の人の発 言が不愉快だと感じるのは簡単だが、自分の発言が他の人にとって不愉快かどう か考えてから発言するのは難しいのだ。

    *
SIGOP とは何だ、という議論が一旦始まると、これは常々盛り上がる。SIGOP とは何かという定義も漠然としているので無理もない。NIFTY-Serve ではそれほ どでもないかもしれないが、オンライン・コミュニケーションの参加者の中には、 自らネットの運営に参加していると考えている人が多いと思う。誰でも気軽に発 言できるという特徴は、何かを提案したり、意見に対して自分の意志を表明する 機会を確かに増やす。従って、参加者が SIG を運営しているのだと思うのは当然 なのだ。

NIFTY-Serve では SYSOP、SUBSYSOP という肩書きはあるが SIGOP というもの はない。NIFTY-Serve は、CompuServe と同様、FORUM を独立した BBS という解 釈をしていると理解している。従って、全く同じとも言えないが、NIFTY-Serve ではフォーラムが SIG、SYSOP が SIGOP に該当すると考えれば、全く外れでもな い。

では、ずばり SIGOP とは何か。これは難問である。また、その場その場によっ て、おそらく異なった意味を持ち、一概に定義できない。とりあえず、二つの方 向から考えることができる。SIGOP とは何をすべきか、どういう役割なのか、と いう概念的な方向からのアプローチがひとつ。もう一つは、SIGOP だけが使える 機能は何か、どのような特典があるか、といった機能的な方向のアプローチであ る。

SIGOP にどのような特典があるのかは、しばしば秘密にされるため、なかなか 把握するのが難しい。例えば、SIGOPのみ使える専用の電話番号が用意されている ネットもあるらしいが、残念ながら NIFTY-Serve にはない。これは結構論議の発 端になるようだ。SIGOP が少し仕事をしていないように見えると、「何もしてい ないのに専用回線を使うとはけしからん」となるわけだ。仕事をしていないのに 専用回線を使う、というのは自己矛盾のようだが…。

    *
あまり秘密にされていない機能に、発言削除というものがある。発言者以外の 人は発言を削除できないのが普通である。ただし、SIGOP のみは特権があり、こ れを削除できるのである。実は、これが SIGOP に対して最も期待されていること を暗示しているような気がする。
 >  私はある物書きのプロがSIGOPをしているボードを見て、これは遠から
 >  ず爆発するな、と思っていたのですが、案の定そのボードはひと月もたずに
 >  崩壊しました。※
ということになってしまうと、破綻の極みである。もっとも、上の場合は SIGOP 自身が変な人だったようだが。とりあえず、ここで問題になっているのは、へん な人を放置しておくとどうなるか、ということで、早い話が変になるのだが、そ れに付いて行けない人はたまったものではない。そこで、「へんな人への対策」 というのが重要だと思うのだが、これが SIGOP 不在で解決するようなら、なかな かすごい自治能力である。

ちなみに、私の経験では、何人か議論に参加した人がそこから離れることによ って消極的に解決することが多い。

変な人対策の伝家の宝刀が、発言削除機能、あるいは、会員資格抹消という最 終兵器である。(もしSIGOP が変な人の場合は、自分を抹消してもらうわけにい かないから、難しいのだが…)理想は、そのような穏やかでない武器を持ちださ ずに円満解決することで、これは並み大抵の難しさではない。それに、発言を削 除すればそれでいいということでもない。最終兵器を用いたことにより出来てし まった焼け野原は、とても見栄えが悪いのである。

    *
概念的なアプローチを考えてみる。大雑把に分類すると、SIGOP は SIG の代表 であるという考え方と、SIGOP は SIG の雑用係である、という考え方がある。雑 用係といっても SIG の中から特別な人が選ばれたという意味では代表なのだが。 さて実際はどちらと言えるものでもなく、両者を兼ね備えた役目であることが多 いと思う。私はあちこちで SIGOP を経験したわけではないので、あくまでギャラ リーからの観察に基づく想像である。

雑用を好き好んで引き受ける人もいるかもしれないが、SIGOP というのは結構 大変な仕事のようだから、それだけではないと考えた方が当たっていると思う。

さて、「SIGOP はボランティアだから、怠慢を責めるべきではない」といった 意見はよく見られる。が、この考え方には全く賛成できない。怠慢を責めること はどう考えても合理的である。ボランティアであろうがなかろうが、責めるべき である。「ボランティアなのだから文句を言うな」というのは筋違いだ。他の人 から「どうしてもいないと困りますから、お願いしますから」と頼み込まれてや るのなら、責めるなと言うのも道理であるが、自分が好きでボランティアしてい るのなら、嫌ならいつでも自主的に辞めてもらえばよいのである。

「嫌々やっている」という状況がもしあるとしても、その「嫌々」は本人が好 きでやっている場合が多い。特に SIGOP という立場には各種特典があることが多 いので、「わたしがやりましょう」という方は結構多いものである。いつでも補 充できるなら、別に辞められても困ることもなく、ありがたみがない。

献身は難しい。完全なる自己犠牲というのはまずあり得ない話だ。まず殆どの 場合は、自己犠牲と言えども少なからず自己満足のための一手段に過ぎないもの である。ボランティアにしても、「人のために働きたい」という自分自身の満足 感を満たすための行為なら結局自分自身のためでもある。無料の報酬と言っても 精神的な代価を受取っているのであれば何ら金銭的報酬に劣るものではない。

    *
10 月は、もしかするとプログラマーズフォーラムで一度も発言しなかった。さ ぞフォーラムが破綻しただろうというと(したのだが)、なぜか前月と全くアク セス状況は変わらなかった。こうなるとかえって無気味だ。(*2)

発言する暇がなかったのは、本業が突発的に忙しくなったのに私事が重なった からだ。あっという間に1ヶ月終わってしまった。忙しくなるのにも段階があっ て、「ここが正念場だから頑張ってください」が定常的にずっと続くと、正念場 とは一体何なのだろうかと余計なことも考えてしまうのだが、日々是好日という こともあるし、それなりに毎日が過ぎてゆく。(全然関係ないけど、某SE氏い わく「日々是口実」とのことで、確かにハッタリが最近多くなってきたような気 がする)。FPRG の目標は今年中に倍のアクセスを、ということでニフティの方と も話をしたことがあったが、このままでは笑えない笑い話で終わってしまいそう だ。

もっとも SYSOP が一ヶ月無発言でアクセスが倍になったりしたら、「ここは何 処、私は誰?」ということになってしまうが、プログラマーズフォーラムに限れ ば、昔から SYSOP 不在の時の方が盛り上がるようである。オンラインコミュニケー ションでは、参加者一人一人が主役であること顕著であるから、それもそれでよ いのかもしれない。SYSOP は裏役に徹せよという意見もある位だし。

    *
p.s. この文章を書くのに最も時間をかけた作業は、「遙」という文字を入力す ることである。WXP だと出てこなかったのだ。FEP のせいではなく、辞書の問題 なのかもしれないが。今は WX2 を使っているのだが、一発で変換できるので、脱 力感が強烈である。

※月刊アスキー 1991-12、p.433 左段3-4行、右段17-21行から引用


補足

(*1) 榎本勝起著、男の器量 女の器量、より。松内則三氏から教わったと書いてある。「イヤになる」「クサる」「不愉快になる」が禁句。

(*2) これは反省すべきだと考えて、できるだけFPROGで毎日発言することにしている。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -159-
    1991-12-08, NIFTY-Serve FPROG mes(12)-313
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1991, 1996