混沌の廃墟にて -118-

1990-05-12 (最終更新: 1996-05-24)

[↑一覧] [新着] [ホームページ]


最近、雑誌などの校正が入っているはずのメディア上でも、「的を得る」とい う表現を見ることが多くなってきた。

BBS 上では、「的を得る」という表現の方が、正しい表現よりも頻繁に使われ ていたと思う。しかし、これは明らかに誤用だと思ったので、FPRG の初期の頃は、 電子会議の発言に「的を得る」という表現があった場合、「的を射る」に修正し てからデータライブラリへ登録していた。

しかし、もはや「的を得る」という意味不明の言い回しの方が一般的になりつ つあるような気がするのである。そこで、今後はこの訂正は行わないようにする 予定である…ただし、考えは変わるかもしれない。「的を得る」派の方に質問し てみたいのは、一体この言葉はどういう意味なのか、ということである。

かなり前のことだが、VOP では久保さんという、非常にどっしりとした文体の 文章を書く方がいらっしゃった。私が FPRG の発言で、「的を射る」という表現 を最初に見たのは、久保さんの文章の中だったと思う。どっしりとした表現とい うのは、全体の雰囲気だけではなく、それぞれの表現が適切で、はじめて実現す る。もちろん、表現のみならず、文意も論理的でなければならない。

「的を射る」と同様の言い回しに、「正鵠を得る」というものがある。前者の 視点は的よりも動作を行う人にあるため、動的な印象を感じさせる。後者は結果 が正鵠(的の中心の黒丸のこと)にあるという、客観的かつスタティックな、切 れ味のよい印象を与える。ただ、「正鵠を得る」という表現を理解できる人は、 「的を射る」という言葉を使える人よりは、かなり少ないかもしれない。

というのは、普段は「正鵠を得る」という言葉はほとんどお目にかからないか らである。FPRG では、以前に1度だけ私はこの表現を使ったかもしれない。もし 私がこの表現を使うとしたら、知っている人には全く問題なく、知らない人には 「なんとなく雰囲気はわかる」程度に理解することの効果を期待したいような状 況の場合である。

前に書いたかもしれないが、私が「的を射る」という言葉を使っているのは新 井素子を読んだからだし(*1)、「正鵠を得る」という言葉を知っているのは「う る星やつら」ファンであることが原因だから、語彙が多いとか、よく勉強してい る、という訳では決してないのである。

「的を射る(得る?)」というやや技巧的な表現でなく、「的確である」とい う無味感想な言葉を好む人もいる。現実にはこの方が誤解は少ないかもしれない。 反対の意味では、「的外れ」という表現がある。これは頻繁に使われる。少し語 感が異なるが、「要領を得ない」という表現もある。「要領を得る」とは普通言 わないと思う。「キャッシュがヒットする」という表現は、わかる人には、わか る。

    *
EPSON の発想はよくわからないが、286BOOK という新製品が発表されている。 ノートとブックの違いを述べよ、という奇問はさておき、仕様上、特に 98N と比 較して差の大きい箇所を比較してみた。
            98Note              EPSON PC-286BOOK
    CPU     V30 10MHz           80C286 12MHz
    FD      1基内蔵            2基内蔵
    画面    EL + 液晶           白液晶
                                (アナログ RGB 端子あり)
    メモリ  640K + 1.2M         640K
    重量    2.7kg               4.3kg
    定価    248,000 円          258,000 円
この重量に対して、ブックパソコンという名前は全く似合わないと思う。4kg 以上の重さの本というのは極めて少ないと思うのだが。

もし、3.5 インチの FD が2台、または 3.5 インチの FD と HD が使えるパソ コンが別になければ、98Note の FD 1台のみという仕様は、かなり厳しい状況を 意味している。例えば、あるフロッピーの内容を全てバックアップするために、 どのような手順が必要となるか考えてみればよい。従って、特に1台目のパソコ ンを購入したい人にとっては、FD が 2 基内蔵というのは、決定的に大きいファ クターではないかと思う。もしPC-286BOOKの定価があと1万円低ければ…。

上のスペックで、絶対に 98N でなければならない理由があるとすれば、私のよ うに喫茶店や新幹線の中で使うことをまず想定した場合である。重量が 4.3kg と いうのは、気軽に運ぶには限界を越えた重さだ。手軽に移動して使うには、やは り 2kg という壁があるのではないか。となると、先日発表された、シャープのA Xパソコンあたりはどうだろうか。

    CPU     80C286 12MHz
    FD      なし(20M HDD 内蔵)
    画面    8階調液晶 640 480
    メモリ  1M
    重量    2kg
    定価    398,000 円
FD は内蔵されていない、という思い切った構成である。しかも、FD は別売で、 49,800 円。これを足せば、447,800 円、消費税まで入れて、461,234 円。ちょっ と個人で買うにはためらいがある価格だ。ただし、このマシンには標準で MSDOS、 MS-Windows、VJE がバンドルされている。マシンに OS をバンドルするという方 針には、なかなか興味がある。(*2)

これで価格さえ何とかなれば、使ってみたいマシンである。価格が気にならな いなら、東芝が出したラップトップ EWS はどうだろう。:-) 前から噂があったの で、「やっと出たか」という感があるが。(*3)

    CPU     SPARC 20MHz
    FD      1基内蔵(さらに、180M HDD 内蔵)
    画面    モノクロ液晶、1152×900ドット/12インチ
    メモリ  8M(40M まで増設可)
    重量    7.8kg
    定価    1,980,000 円
処理速度は公称 13.2 MIPS。SunOS が走る、UNIX マシンである。いかに東芝と いえども、流石にこのスペックでは DynaBook の大きさにはできなかったようだ。 定価が 198,000 円なら、買うのだが…。

極めつけは、日経パソコンによると、10 月あたりに松下からブックパソコンが 発売されるそうで、スペックが、… (*4)

    CPU     ? (32 ビット)
    FD      1基内蔵
    画面    ? バックライト付き液晶
    メモリ  ?
    重量    2kg を下回る
    定価    15 万円を切る
という感じで、ワープロ並に量産すれば、なんとか実現できるか、という印象 である。OS は MS-DOS だそうだから、CPU は 386SX あたりか? 定価が 15 万 円を切れば、ディスカウント価格が5桁になる可能性が出てくる。(*5) これには、 ワープロソフトを標準で付属させるという所に、別の興味がある。シャープのマ シンが OS 等をバンドルしたのと比較すれば、ターゲットを何となく想像できる ような気がする。
    *
 「PDS」というタイトルを堂々と使いながら、中身はほとんどがフリーソフト ウェアかシェアウェア、最初の方を読むと「厳密にはこれらのソフトは PDS と 言わず…」と言い訳をしている本が多い中、最近ぼちぼちと「フリーウェア」 「フリーソフト」という表現を使う雑誌記事が増えてきたようだ。

「フリーソフトウェアという言い方を広めよう」(ちょっと言い回しが違った かもしれない)運動は、どうなのだと言うと、最近は潜在意識に働きかけるよう な行動に専念している。例えば、どこかで「*** というソフトは何をする PDS で すか?」という質問でもあれば、「それは、これこれ、こういう事をするための、 フリーソフトウェアです」と回答するだけである。知らないうちに地道に言葉に 慣れさせるのがポイント。今までに、「フリーソフトウェアとは何か」と尋ねら れたことがない。おそらく、単純な想像によって「フリーなソフトウェアだな」 という感じに理解してしまうからではないか。

このように、私の場合、「フリーソフトウェアという…運動」のターゲットは、 あまり明確にフリーソフトウェアという概念を理解していない、ビギナーにしぼ っている。

私はフリーソフトウェアという言葉を使っているが、少し長くて煩わしく感じ るかもしれない。そのためか、雑誌等では「フリーウェア」という表記が使われ ることが多い。私が「フリーフェア」という言葉を使わないのは、Freeware (商 標)という名のシェアウェアがあると聞いたからであって、決して「廃墟にて」 の原稿の長さを水増しするためではないのである。


補足

(*1) これは今になっては記憶にない。ただ、新井素子さんの真似でよく使う他の 表現に「意外と」というものがある。「正しくは“意外に”だ」と言われた時に、 真似でそうしているのだ、と開き直るのだ。

(*2) 最近はWindowsまで入って当たり前、という感じになってしまったが、その 理由としては、初心者にとってインストールの作業は難しいということ、ハード ディスクが搭載されていること、OSを別売にしてまで割安感を出さなくてもよい 価格になったこと、などが考えられる。

(*3) Sparc Noteって出るかと思ったのですが、なかなか出ませんねえ。でも最近 はノートパソコンにLINUXとか入っていたりする人も多いとか。

(*4) これ、何というマシンでしたっけ?

(*5) 最近は10万円を切る価格でパソコンを買うことは珍しくも何ともない時代に なってしまった。定価は相変わらず高いようだが。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -118-
    1990-05-12, NIFTY-Serve FPROG mes(5)-327
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1990, 1996