混沌の廃墟にて -115-

人間は、マルチタスク

1990-04-29 (最終更新: 1996-04-07)

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NIFTY-Serve は先日から24時間営業になったそうだが、単に営業時間が延長 されたならともかく、ピークタイムにほとんどアクセスできなくなってしまった。 つながらないのである。FENICS に接続しても、71+ という表示が出るだけで、1 分で回線が切れてしまう。折角パジャマコール(*1)を活用しようとしても、これ では割高すぎて全く意味がない。

やはり、穴場は 3:00 - 6:00 の間である。流石にこの時間帯は利用者が少ない ので、接続してからの反応も早いし、パジャマコールの特典が生かせるなら、こ の間にオートパイロットを実行するような通信ソフトを使うと課金節約になるだ ろう。

課金情報が1億円(*2)、という記事が新聞で報道されたそうである。会員も10万 人を超えたそうだから、1億円ずつ課金すれば、10兆円、かなりおいしい収入であ る。残念ながら、課金が超高額になったのは、新聞報道によると3名だから、たっ たの3億円しかもうからない。:-)

よく考えてみると、電話代や電気代というのは、ちゃんと利用した分だけ請求 されているのか、確認したことは一度もない。利用者と企業との信頼関係があっ て成立しているのである。希に、電話代を異様に高く請求された、という被害者 のニュースがあるが、例えば毎月数百円程度上乗せされても、私の場合は全く気 づかないはずだ。

    *
雑誌記事などを見ていると、フォールトトレラントシステムの市場はまだ小さ いという見解のようだ。

しかし、必須ではないとしても、動作保証への要求度が高い市場がある。例え ば、個人経営の商店、学校の成績管理や、ホームセキュリティ、大企業であって も部署毎の情報管理などである。これらは、CPU や外部記憶の能力としては、既 存の 32 ビットパソコンのクラスで十分なのだが、ホビーではなく実務に使うた めに、確実に動作する必要があるものである。

パソコンを2台用意しておくという安易な方法もあるが、ホームセキュリティな どのフルタイム稼働が必要なものは、台数に余裕があればよいというものでもな い。余談だが、FPRG の SYSOP になってから、常にモデム・パソコンが2組ある状 態を確保している。機械が故障した、というのは SYSOP の弁明としては、かなり 情けないと思う。特に、機械が故障するかもしれない、と疑っている場合におい ては、である。「パソコンは壊れない」と思っている人は多いかもしれないが、 CRT や FD 周辺のハードウェアは、故障したケースをよく経験してきたので、あ まり信用していない。

実際は、SYSOP になってから2年間、PC-286U は一度も故障していない(*3)。 殆ど、電源は入れたままである。モデムも故障するぞと言われた割に、何事もな く現在に至っている。DynaBook の本体に限っては、例外であるが…これは、故障 を期待して購入したのだからしょうがない。

しかし、もしフォールトトレラントのパソコンがあるなら、SYSOP 程度の責任 者は、そのような機器の用意を検討するべきであろう。SUBSYSOP は複数名いて、 急な場合には対処のしようもあるが、SYSOP はフォーラム毎に 1 名しかいないの である。CO-SYSOP の制度をかなり以前から提案しているのであるが、結果的には 却下されている。SYSOP というウェットウエアもフォールトトレラントにしてお くべきだと、思うのだが…。

    *
パームトップは今後の主流になるのだろうか。まず一般論として考えてみると、 電子ペンで高解像度のディスプレイ上を直接ポイントする、という入力スタイル は、視覚的なフィードバックの点で極めて自然である。従って、このスタイルは 今後流行する可能性が高いかもしれない。いまいち断言できないのは、何となく 不安があるので。(*4)

パームトップに限れば、いくつか負の要因もあるだろう。最も大きいと思うの が、パームトップというコンセプトが、いかにもコンピュータらしくないことだ。 どちらかと言うと、電子手帳に近い雰囲気である。この感じ方は、もしかすると 間違っていないかもしれない。すると、まず問題となるのは価格設定だ。電子手 帳は、電子手帳の価格でないと売れない。およそ、5万円あたりが上限だろう。

もう一つの問題が、「コンピュータらしくない」ということ自身にある。つま り、もしパソコンのパの字も知らないような人が DynaBook を思い切って買った としたら、そこには「最新のパソコンを買った」という自己満足的な要素がかな りあるのではないか、と思う。極端な話だが、これは一種のファッションなのだ から、全然使うことができなくても、DynaBook を持ち歩いているだけでいいので ある。全く使わないのはあんまりだが、例えば麻雀ゲームか SimCity でも動いて いれば、それでいいわけだ。それでも、パソコンだと何となく格好がいい、とい うものだが、パームトップになってしまうと、あまりに未来へ進みすぎたせいで、 訳がわからなくなってしまう。

私などは、もはやキーボードなしには文章が書けないような生活になったが、 少し不思議なのは、手書きよりもキーボードの方が、すらすら文章が書けること である。「仮名漢字変換を実行しながら文章を作るのは、気が散ってしまうので 非能率的である」と豪語する人がいる。尋ねてみると、その人は全然ワープロが 使えなかったりするのだが (^_^)、実感として逆なので、何か変だと思っていた。

つまり、紙の上にペンで文章を書くというプロセスを考えてみると、文章を思 いついただけでは、やはり駄目で、それを紙の上に文字として書かないといけな いのである。では、紙の上に「文字」を書くには、どうすればよいか? 変な質 問だが、例えば漢字を書く場合に、頭の中で考えていることを紙の上に漢字記述 として実現するには、どのような操作が必要か。

もし、文章を紙の上に書くときに無意識に書いているのなら、問題はない。だ が、このような経験はないか、何か書こうとしているのだが、どうしても漢字が 思い出せない、仕方ないから別の言葉にするか、または国語辞典を引いて確かめ る。思いだした。続きを書こう…。

もし、これで続きが書けるのなら、ワープロで仮名漢字変換の候補文字列を選 択しながら作文した方がはるかに楽ではないか。しかも、現在のワープロ、パソ コンのレベルでは、かなり高い率で第一候補が期待した漢字になるようだ。その 場合には、かなり無意識に近いレベルで、「変換しながら書いている」というよ うな違和感はない。

ある程度慣れた漢字なら無意識に近くても、「あっ、この漢字、何だったかな 〜」と、ド忘れした漢字を思いだそうと必死になったり、辞書で確かめながら作 文するのなら、候補の熟語から選択しながら文章を書いた方が、ずっと能率がよ いのではないか。

では、完全に覚えている漢字を筆記する場合だとどうか。漢字は全く反射的に 書いているのではなく、やはりある程度大脳で思考しながら書くのではないか。 ならば、その間、思考が中断するから、文章が思うように書けないのではないか。 この結論はおかしい。ワープロが流通し始めたのはごく最近である。それ以前も、 文章を書いていた人は大勢いるのである。

そろそろ私の特論を出すと「文章を作成する行為は、基本的にマルチタスクで あり、ある程度までの余計な作業が途中に割り込んでも、全体を構築する作業の 妨害にはならない」という主張である。「余計な作業」とは、紙の上に漢字を思 い出しながら書いたり、仮名漢字変換で候補文字列を選択する程度の作業である。

これに限らず、人間というものは、基本的にマルチタスクで走るように設計さ れていると思う。一時的に候補選択のタスクの優先度が高くなったとしても、あ る程度の負荷の範囲内であるかぎり、それが終了すれば、元のタスクに完全に戻 ることが十分可能である。

しかし、同時に実行できるタスクの数は、その人に依存する。聖徳太子のよう に、かなり多くのタスクをきれいに負荷分散できる人もいるようだが、平均的な 人が、どの程度のタスクを同時に実行できるかを、調査してみると面白いかもし れない。


補足

(*1) 確か、NTTの深夜割り引きサービスだったと思う。

(*2) 何かのトラブルで、課金が1億円と表示されたらしい。流石にこれだけ高額 だとトラブル以外の何物でもないので分かりやすいのだが…10万円程度だったら どうだろうか。

(*3) PC-386Mも同様。

(*4) パームトップそのものはいまいちだが、コンセプトはザウルスや専用携帯端 末としてヒットしている。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -115-
    1990-04-29, NIFTY-Serve FPROG mes(5)-301
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1990, 1996