混沌の廃墟にて -101-

アコイン

1990-01-21 (最終更新: 1996-02-06)

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ウインドウシステムのユーザー・インターフェースを語る時、ポインティング ・デバイスによってアイコンを操作する手法は欠かすことができない。だが、日 本語化されたウインドウシステムを見てみると、デザインがどうも洋風になりが ちである。日本には漢字という独特の文化があるので、アイコンに漢字を上手に 生かすことができないか、というアイデアは、地味ではあるが以前からあった。

漢字は字そのものが意味を表現している。これは、英語に比べると大きなメリ ットである。例えば、次のようなアイコンがあれば、エディタかもしれない、と 想像できるはずだ。このための表示スペースは、最低で 16×16 ドットあれば何 とかなるのだ。

    +--+
    |編|
    +--+
さて、これではあまり面白くないので、若干くだらないが、私が思いついたア イデアを述べてみる。

漢字1文字で処理の内容を表現する場合、すぐに限界を感じることになる。 例えば、上のア イコンだと、図形を編集するためのプログラムが起動するのか、 文章を編集するのかわか らない。次のようにすればよいと考える人もいるだろう。

    +--+    +--+
    |図|    |文|
    +--+    +--+
これも確かにアイデアである。だが、今度は「図」が図形編集を意味するのか、 それとも図面表示が行われるのか混乱するかもしれない。もちろんウインドウシ ステムごとに一意に漢字を割り当てれば、そのシステム内では混乱しないと思う が、工夫としては、いまいちである。
    *
さて、日本語には4文字の漢字でかなりの意味を表現できるという特徴がある。 そこで、上のように単独の漢字ではなく、4文字熟語で意味を表現することであ る。既に「図形編集」「文章編集」「図面表示」などの言葉を使っている。「図 面表示」という熟語は辞書には載っていない。しかし、この言葉を誰が見ても 「図面を表示することだな」と連想することができる。「図面を表示すること」 という9文字を4文字まで圧縮できるのだから、日本語は圧縮率の高い言語だと 言ってもよいかもしれない。

なぜ4文字なのか、理論的にも考えてみよう。まず、2文字の漢字による単語 の数は非常に多い。 組み合わせの数が爆発的に増えるから1文字より2文字の単語が多くなるのは 当たり前のようだが、では3文字の単語は もっと多いかというと、2文字の方が多い。2文字でかなりの意味が表現し尽く されたような所があるのかもしれない。

そこで、4文字の漢字を使うことにより、2文字+2文字による組み合わせが 実現できる。一方が動作の対象で、他方が動作そのものを表現するような組み合 わせにすると、行動そのものが4文字に凝縮できる。例えば先手必勝という単語 は、先手が必勝する(必勝である)という意味に解釈できよう。この手のオブジ ェクト+アクションの表現は、非常に簡単に構築できる。例えば「一発変換」 「取消可能」「全文置換」「支払延期」「入荷未定」のように。

ここで、いきなり余談になるが、DynaBook のモデムを予約したのが 11 月の中 旬だった。これが災いして、昨年中にモデムが入荷しないことがわかった。実は、 予約した時には、12 月に入荷すると言われたので、時期をみて受け取りに行った のだが、まだ入荷していなかった。そこで「来週あたりに入る」と言われたから、 次の週に行ってみると、入荷した数が少ないので、予約順の関係でまだ駄目です と言われる。次は 12/25 日頃に入荷するので、多分その時には大丈夫と言われた。 近くの店でも入荷未定と言われたので、諦めて帰ったのだが、何と 12/25 にも駄 目と言われてしまった。

これでは正月にモデムを内蔵して帰省できないので、ここは BBS の強みという もの、前日にボードから仕入れた情報で、秋葉原に行けば即納の店がある、ただ し値引きは少ないというのを信じて、秋葉原まで久しぶりに出かけたのである。 これでモデムが手に入ったので、今年は SYSOP は 1/1、1/2 と、しっかり発言し ている。

こういう事なら、7/7 に本体を予約した時点でモデムも予約しておけばよかっ たのだ。ちなみに、1/5 頃にモデムを予約しておいた店から入荷の連絡があった が、ちょっと遅かったようだ。

こういうのを、先手必勝というわけだ。

    *
話を戻そう。4文字の漢字を使って画面に表示するには、安易な発想だが、次 のようにするのは自然である。
    +----+  +----+  +----+
    |文章|  |週間|  |怨霊|
    |作成|  |予定|  |退散|
    +----+  +----+  +----+
しかし、これでは全然面白くも何ともない。 そこで、私の発想とは何かということになるが、 何と歴史をさかのぼるのである。 西暦で言えば、708 年、和製コインが始まった所まで。古銭 というのは、確か、次のように4文字熟語を配置していたような気がしたのを、ふと思 いだしたのだ。
    /銭\
    次  平
    \形/
…ちょっと古銭でないような気もするが、それはさておき、2段目の並びは右 から左だっけ? とにかくこれを現代風にするならば、左から右に流した方がよ さそうだから、次のようにしてみよう。フォントの都合で丸く見えないが、実際 はちゃんと円形の枠にしたい。
    /文\    /週\    /怨\
    作  成    予  定    退  散
    \章/    \間/    \霊/
このようなマークをウインドウに表示する。この上をポインティング・デバイ スを用いて操作すればアプリケーションが起動する。アイコンというのは、通常 は画像イメージによるデザインなので、インスピレーションにうまく感じさせる ようにできればよいが、失敗すると機能が連想できない。その点、漢字4字の熟 語は、4字で表現できないような意味合いの アプリケーションでない限り、機能そのものを表現す るので勘違いが少なくなると思う。

このような、古銭にみたてたボタンのことを、1個のコイン(a coin)にちな んで、アコイン(acoin)と呼ぶことにした。

アコインの特徴的な機能は、アコインの領域が9つに分割できることに関連す る。

    +--+--+--+
    |A|B|A|
    +--+--+--+
    |B|C|B|
    +--+--+--+
    |A|B|A|
    +--+--+--+
いずれの部分をクリックしても、アプリケーションはただちに起動する。ドラ ッグの場合には、場所によって動作が異なる。Aの部分をドラッグすると、アコ インの大きさが変形し、ただちにその大きさのウインドウを用いてアプリケーシ ョンが起動する。BまたはCの部分をドラッグすると、ウインドウ上でアコイン の位置が移動する。

何か勘違いしているような気もするが、こういう渋い画面デザインも、たまに はよいだろう。アコインを使ったユーザーインターフェース設計は、古銭的イン ターフェースとでも呼ぼうか。残る問題は、これを誰がインプリメントするか、 なのだが…。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -101-
    1990-01-21, NIFTY-Serve FPROG mes(5)-065
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1990, 1996