混沌の廃墟にて -88-

コンピューターが隠されているメディア

1989-11-12 (最終更新: 1996-02-15)

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「メディアとしてのコンピューター」という表現は、NeXTとともに一層有 名になった。この表現の解釈については省略するが、このように、コンピューター 側からの視点としてメディアをとらえずに、従来の機器に注目してコンピューター が入り込んでゆく環境を考えれば、もっとエスカレートした発想も可能なので、 今回は妄想してみよう。

例えば、現在最も大きいと言われている CompuServe の会員数が 50 万人。こ れが 500 万人になるとどうなるか。もちろん、現状のシステムで 500 万人が可 能であるか見直す所から問題は始まるのだが、現在の NIFTY-Serve が会員 500 万人という姿は、ちょっと想像できない。規模が 500 万人のオンライン・コミュ ニケーションは不可能だと言う人もいるかもしれない。

そこで、発想を逆転してみよう。

現在、電話の台数がどの程度か、正確にわからないのだが、500 万台よりは多 いと思う。では、電話にコンピューターが入り込むと何が起こるだろうか。最近 は、テレビ電話のように先走りすぎた電話もあるが、もっと注目してみたいのは、 留守番機能のついた電話の普及である。この機能は、二人が同時に存在しないコ ミュニケーションを可能にしているという点で、とオンライン・コミュニケーシ ョンとの共通性がある。これは電子メールの使い方に似ている。では、留守番機 能を電子メールに置き換えることは可能か?

仮に、音声から文字への変換システムが完成したなら、留守番電話が受け取っ たメッセージを文字変換して、電子メール形式で記憶し、ディスプレイにタイト ル一覧のような表示を行うことも可能になるだろう。プリントすることも可能に なるだろう。この段階のコミュニケーションは、次のような経路になる。

  送信者 -> 電話機 -> 電話回線 -> 多機能電話機
受信者の所が、多機能電話機というインテリジェント端末に変化している。ど うせ電話機をこのように改造してインテリジェント化するのなら、FAX ではなく 電子メール機能を持たせて、直接文字データを送ってしまってよい。途中で音声 文字変換が入った後でモデムが一旦音に変換する所が妙だが、もしかすると数年 先にはデジタル回線が普及しているかもしれない。
  送信者 -> 多機能電話機 -> 電話回線 -> 多機能電話機
これは、電話機がキャリア等を判断するだけで切り替え部分は実現できると思 う。仕様上の問題があるだけだ。実際問題は、音声文字変換の箇所だ。これは難 しそうだ。だが、電話機にキーボードと CRT を付けて、ワープロ電話機にしてし まえばどうか。すると、多機能電話機とは名ばかりで、実は電話機すべてがオン ライン・コミュニケーションのホスト局に置き替わったような世界ができあがる。 いわば、超分散ネットワークである。モデム電話とどこが違うかって? あまり 違わない。モデム電話にやや高機能のパソコンが入っただけのものだ。

文字を表示するには、やはり CRT だと思う。あと 10 年もすれば、通常のテレ ビ放送もかなり解像度の高いものが普通になってくるだろう。すると、現在のパ ソコンの CRT 程度の文字表示は簡単だろうから、普通のテレビに上のような多機 能電話機を組み込んでしまえば、かなりすんなりと家庭に導入される可能性もあ る。

どうせなら、こういうのを「テレビ電話」と言ってほしいものである。このテ レビ電話が、いわゆる「静止画テレビ電話」と根本的に違う所は、これがいつの 間にか数千万人を結合したネットワークを作り上げてしまう所にある。

    *
メディアに関してもう一つ妄想してみよう。使えるメモリが多くなってくると、 かなり世界観が変わると思う。例えば、今のテレビには、デジタルプレイという 機能があったりして、数MB程度(だと思う)のメモリが中にあったりする。

パソコンのメモリも、今では数MB程度のオーダーである。私は、よく主張する ことがある。メモリを数百MBのオーダーにして欲しいというものである。だいた い、CDと同程度のオーダーである。何に使うのかと言うと、まともな作曲シス テムに使いたいのだ。だいたいCD程度のメモリがあれば、自由にリアルタイム で編曲できるのではないかという単純な発想だ。

例えば、フレーズAをフレーズBと入れ換えたりする時に、たとえ数十MBのデータ を別の数十MBのデータと交換する必要が 発生しても、メモリアクセス程度の時間でできなければ、そ う画期的な編曲ツールにはならないような気がするのだ(でも、おおむね画期的 かもしれない)。

さて、数百MBというのも暴論だとか無茶だという方もいらっしゃるだろうが、 折角妄想なのだから、もう少し派手に考えてみよう。数十GBから数百Gbのオーダー のメモリが数万円で実現できるようになってくると、デジタルプレイなどという ケチなことを言わないで、受信した画像をデジタル情報としてメモリ内に蓄える テレビが実現できる。ただし、メモリ容量は正確に評価したわけではないから、 実際どの程度あればどの程度の時間の画像が録画できるかは、暇があれば計算し て欲しい。

これを、メモリテレビと名付けておこう。(*1)

メモリテレビはテープがなくても番組が録画できるので画期的である。現在ボ イスメモのように数十秒の音声をメモリに蓄える道具があるが、これの大規模版 である。最近のビデオデッキは巻き戻し速度が何十倍とかいって宣伝しているが、 メモリビデオの巻き戻し速度は無視してよい程度だろう。ランダムアクセスでき るのだ。一旦録画したデータは、何度見返しても画質が悪化しない(メモリエラー さえ起きなければ!)。

さて、メモリテレビを前述の「テレビ電話」と合体させると、やはり「画像通 信」がかなり楽に実現できるわけで、ここでメディア革命が一段落しそうである。

このように、ハードウェアの技術がSF的に進歩すれば、テレビを通じて非常 に面白いコミュニケーションツールが実現できるかもしれない。今、テレビを使 えないと思っている人はそれほど多くないだろうから、テレビにパソコンを組み 込んで、知らないうちに使わせてしまおうという発想が基本になっている。パソ コンに機能を付加してテレビが見れるようになり、どんなに簡単な操作で扱える ようになっても、使えない人はやはり敬遠するような気がするのだ。


補足

(*1)今考えてみると、メモリテレビというのはWWWブラウザとしては最適のスペックなのかもしれない。
    COMPUTING AT CHAOS RUINS -88-
    1989-11-12, NIFTY-Serve FPROG mes(4)-338
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1989, 1996